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第156話 天海桔梗

 【仙石総合病院】


「さぁ、病院に着いたわよ。私は駐車場で待っているから二人で行ってちょうだい。竹中君、後は頼んだわよ?」


「あ、はい……そ、それじゃぁ、陽菜さん行きましょうか? 保険証、忘れないでくださいね?」」


「う、うん……」


 俺達は整形外科の受付を済ませ、待合室の椅子に腰をかけて陽菜さんの名前を呼ばれるのを待っている。


 陽菜さんは日頃とは違い少し元気が無いみたいだ。やはり足が痛いのだろうか?


「陽菜さん、大丈夫ですか? 足、痛みますか?」


「ううん、大丈夫よ……颯君、今日はゴメンね?」


「え? 何がですか?」


「私の怪我のせいで、颯君が女子の身体に日焼け止めクリームを塗るまたとない機会を無くなってしまったから……」


「えーっ!? お、俺は別に……モゴモゴ……」


「フフフ……冗談よ。今日は私の考えた企画で水泳対決を行って、颯君の意見も聞かずに優勝者の特典まで考えた挙句、言い出しっぺの私が怪我なんてしちゃって……せっかく盛り上がってきたところに水を差しちゃって……ほんと颯君達に迷惑をかけてゴメンなさいね?」


「い、いえ、そんな事は……それに特典は別として途中までとはいえ水泳対決は盛り上がりましたし、とても合同合宿らしい雰囲気があって俺は良かったと思いますよ。それに今回の合宿内容のほとんどを陽菜さんが考えてくれて皆、助かっていますし、ほんと陽菜さんは凄い人だなって思っています……」


 そう、優勝者の特典内容がアレでさえなければ最高の企画だったと思う。


「ありがとね……やっぱり颯君は優しいし、一人一人の事を良く見てくれているよねぇ……私、そういうところが好きになっちゃったのよねぇ……でも……」


「でも?」


「あっ、いえ、何でも無いわよぉ。ただ、私が足をつって溺れそうになっている時、颯君、助けて!!って思っていたら突然、俊哉が助けてくれたのに驚いちゃって……」


「すみません。俺、監視台にいたんで間に合わなかったんです。でも俊哉が助けてくれて良かったですよ。あいつは常に陽菜さんの事を見ていますから直ぐに異変に気付いて誰よりも早く助けに行けたんだと思います」


「そうだねぇ……あの俊哉が私を助けてくれるなんてねぇ……昔は私がいつも泣き虫俊哉を助けてあげていたのに……いつの間にか俊哉も成長していたんだなぁ……私を軽く持ち上げていたし……ポッ」


 俊哉の話をしている陽菜さんの顔が少し赤くなっているような……


 もしかして、さっきも感じたけど陽菜さんの中で俊哉の存在が少しずつ変化しているのでは?


 これは俊哉にとって良い傾向かもしれないぞ。


 どうする俺? ここで俊哉の事をもっとアピールするべきだろうか?


 うーん……悩みどころだなぁ……言い過ぎてもわざとらしく聞こえてしまうし、ここは慎重に進めるべきかなぁ……?


 ただ、高等部に進級した俺に対して……俺みたいな陰キャメガネの事を友達と言ってくれた俊哉の役に立ちたい、想いを叶えてやりたいという思いが強いのはたしかなんだけど……



『あまみ ききょうさん。あまみ ききょうさん。総合受付までお越しください』


「えっ? 天海桔梗!?」


「ん、どうかしたの颯君?」


「い、いえ……今、『天海桔梗』って呼ばれた様な……」


「そうだね。そうアナウンスされていたわね。もしかして颯君の知り合いの人なの?」


「珍しい名前なのでおそらく……」


 俺と陽菜さんは総合受付に向かって歩いて行く女性をジッと見つめた。


「あの人だね? うわぁ、とても綺麗な人だねぇ……颯君、あんな『大人の美人』と知り合いなんだぁ……?」


 『大人の美人』? あれ??


 総合受付にいる女性は三十代くらいで髪色は綺麗な銀髪でとても美人な人だが天海さんでは無い。


 どことなく顔は天海さんに似ているというか、天海さんが大人になったらあんな感じの女性になるんだろうなぁという雰囲気はあるけど……


 親戚? お母さん? いや、親戚や母娘で同じ名前を付けるはずもないし……


 同姓同名の赤の他人なんだろうか?


「どうも同姓同名なだけで、知り合いじゃなかったです……」


「ふーん、そうなんだぁ……ん? あ、もしかして颯君の知り合いの天海さんって『学年人気投票』前に急きょ毛利さんの代わりに『投票部副部長』に就任した一年生の天海さんのことだったのかな? そう言えば、あの女性と髪色は同じだね?」


「え? そ、そうですけど……陽菜さんは天海さんの事を知っているんですか?」


「まぁね。私は生徒会副会長だから……投票部副部長に就任して直ぐに生徒会室に挨拶に来てくれたのよ……まぁ、知っていると言っても名前を覚えている程度なんだけどねぇ……あっ、あの子も颯君と同じ様なメガネをしていたわねぇ……」


 そっか。陽菜さんは天海さんがメガネを外した姿は知らないんだな?

 もし知っていれば、受付にいる女性に顔が似ているって事も言うはずだろうし……



『羽柴陽菜さん。羽柴陽菜さん。総合受付までお越し下さい』


「あっ? 私、呼ばれたみたいだねぇ?」


「そうですね。それじゃ行きましょうか? あ、俺の肩に手をのせて、ゆっくり歩いてくださいね?」


「ありがとう、颯君……」 


(アレ? 天海さんの下の名前って桔梗だったかしら? ……ああ、なるほど、そういう事なのねぇ……)


「陽菜さん、何か言われました?」


「ううん、何でもないわよぉ……」



 俺達は総合受付を済ませた後、院内にある整形外科に行き、陽菜さんは診察と簡単な治療をしてもらった。お医者さんも痛みは直ぐに治まると言ってくれたので俺も陽菜さんもホッとした。


 会計を済ませ春日さんが待っている駐車場に行き、俺達は車に乗り込み、徳川邸に向かうのだった。


 そして俺達が徳川邸に戻ると伊緒奈達が出迎えてくれたけど……

 皆、とても困惑した表情をしている。


 けど俺は直ぐに伊緒奈達が何で困惑しているのか理解できた。


 徳川邸にまたしても新たな『お客達?』が来ていたのだ。


「み、皆さん……何で……」



「は、颯君、こんにちは……突然、来ちゃってゴメンね?」

「颯君、その作業着姿、とてもカッコイイし、凄く似合っているわ!!」

「颯く~ん!! 私、夏休みに入ってから全然、颯君に会えないから寂しかったわ~!!」

「お兄ちゃん、伊緒奈お姉さまのお家って私が想像していた以上に大きなお家だね!?」


 まさか、乃恵瑠さん、静香さん、茂香さん、そして詩音までが徳川邸に来るなんて……


 何て日だ!!??

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