*Notation 1* 片桐 朋也(かたぎり ともや)
prologue
藤波 晴は目を疑った。
いつもの通勤ルートを変えたのがまずかったと、考え込む。
気分を変えたくて選んだ交差点。
その横断歩道の真ん中に、黒い塊の何かが落ちている。
晴は“それ”を見た途端、足を止めて立ち尽くしてしまった。
彼女は視力が良い方だった。
だから、多少遠目でもそれが何か把握できた。
しかし、だ。
“それ”が、横断歩道の真ん中に落ちている事態がおかしい。
いや、“それ”が落ちていて、誰も気にしないのも。
彼女以外、“それ”に目を留めることなく
横断歩道を渡っている。
“それ”は、踏まれている様にも見えた。
立ち尽くす彼女を、訝しげに見ながら歩いていく者もいる。
信号が点滅し、もうすぐ赤になりそうだった。
彼女は大いに迷った。
もし、拾わなければ・・・・・・
“それ”は車に轢かれて粉々になるかもしれない。
彼女はそれよりも、
落ちている黒い塊の“それ”に気づかない
通行人たちが、不思議で仕方がなかった。
―・・・なに、これ、もしかしてイタズラ?
某テレビ番組で、こういったイタズラが
放映されていたのを思い出す。
―・・・東京だから、こういうのって
珍しくないのかもしれないけど・・・・・・
晴の地元は福岡だった。
東京の中小企業に事務員として就職が内定し、
大学を卒業した後実家を出て上京。
東京で一人暮らしをしている。
その生活が、一年続いていた。
彼女がこの交差点を通るのは、今日が初めてである。
―・・・あっ。
横断歩道の信号が赤になり、待機していた車が発進する。
彼女は一歩も動けなかった。
“それ”は、奇跡的に轢かれることなくその場にある。
―・・・何で・・・・・・
彼女は“それ”から、目を離すことが出来なかった。
―・・・何で、“拳銃”が落ちているの?
横断歩道の信号が、再び青になる。
信号待ちしていた人の群れが、一斉に渡り出す。
彼女は覚悟を決め、その黒い塊の所へ歩き出した。
“それ”を、拾う為に。
確かめたかった。
玩具なのか、本物なのかを。
晴は、“それ”の目の前で立ち止まる。
それだけでも勇気がいる事だったが、
拾うのにしゃがみ込むのは、
もっと奮い立たせないと難しかった。
思い切って、その場にしゃがみ込む。
彼女のすぐ後ろにいた
サラリーマンは、すぐ反応して避けて歩いていく。
“拳銃”に手を伸ばした。
手に持った瞬間、
それが本物だと自覚する。
勿論、彼女は今まで“拳銃”を触った事がない。
この日本に住む一般人には、無縁の物である。
だが。
重厚感と、冷たい手触り。
それを感じた時、玩具ではないと脳から伝達されたのだ。
なぜ、拾う気になったのか。
拾って、どうするのか。
そう考えるよりも、
彼女は“それ”をショルダーバッグに入れる方が早かった。
「おはよ。」
晴は会社に到着し、所属するオフィスに入った。
すると、同僚の曽根木 莉香が
声を掛けてくる。
「おはよう・・・・・・」
「・・・どうしたの?顔色悪いよ?」
晴の暗い表情を見て、莉香は心配そうに様子を窺う。
「・・・大丈夫。」
「・・・本当に?」
「・・・うん・・・・・・」
莉香は晴よりも二年先輩で、
晴が入社した時、会社の事情や仕事のノウハウなど
親身になって教えてくれた女性である。
歳も二つしか違わず独身同士なので、
話も合い、今では友人のように接している。
彼女がいなければ、
晴は既に会社を辞めていたかもしれない。
都会に出て、自立して生活をしたら
何か得られるのではと・・・
思いを抱きながら、一年。
“やりがい”というものが徐々に削られて、
毎日ただ無難に過ごしている現実。
自分という個性は、埋もれていく感覚。
最近はその焦りも薄れて、
危機感だけが先走っている。
晴はふと、莉香に相談しようかと思った。
―・・・信じてもらえるかな・・・・・・
“交差点の、ど真ん中で拳銃を拾いました。”
・・・なんて。
「・・・ねぇ、莉香。」
「ん?」
言い掛けて、口をつぐむ。
―・・・待って。
やっぱりやめよう。
一度、落ち着いてから・・・相談しよう。
・・・私、何で拾っちゃったんだろう・・・・・・
交番に届けようと思ったけど、
よく考えたら、おかしいよね・・・・・・
今の私・・・銃刀法違反じゃない?
私が疑われるのでは?
・・・やだ。
それは嫌だ。
そうよ。
みんな気づかないふりしていたのは、
厄介事に巻き込まれたくなかったからだ。
ああ・・・・・・
何で拾っちゃったんだろう・・・・・・
「・・・晴?」
莉香が真面目な表情で見据えている。
それに晴は、はっとして気づき、取り繕う。
「あ、いや、その・・・・・・ごめん。何でもない。」
「・・・え?本当に大丈夫?
顔色も悪いし、ちょっと変だよ?」
「ほんと、大丈夫よ。」
「・・・・・・まさか・・・
朝起きたら、見知らぬ男と一緒に寝ていたとか?」
その詮索が意外過ぎて、晴は思わず噴き出す。
「そんなわけないでしょ。」
「だって・・・そのくらいの事が起きてない限り、
そんなに顔色悪くならないでしょ?」
「あのね・・・」
「出会いがないからって、羽目を外しちゃ駄目よ。
身体を大事にしないとね。」
「・・・・・・」
同僚の妄想が豊富過ぎて、晴は何も言えなかった。
莉香は一笑した後、真顔に戻り、じっと晴を見つめて言う。
「冗談は置いといて・・・・・・
晴。いつでも相談に乗るよ。
話す気になったら教えてね。いつでもいいから。」
莉香はそう言った後、
自分のデスクで開いているPCのディスプレイに向き合う。
晴は莉香の心遣いに感謝しながら、
彼女と向かい側にあるデスクに歩いていく。
―・・・とりあえず仕事を
無事にやり過ごして・・・・・・
どうするか、考えよう。
気が気でない時間を過ごし、
晴は仕事を無事に終えて
ようやく帰路に就いた。
自分のショルダーバッグに入っている、黒い塊。
その重さを・・・肩で感じながら。
晴が住んでいる所は、
二階建ての築3年を重ねたワンルームである。
最寄りの駅から徒歩8分と、
アクセスと立地条件に恵まれた穴場だった。
周りの騒音にも悩まされる事無く、
夜ともなれば尚更静けさが増す。
早歩きをした為
少し息切れをしながら、
バッグから家の鍵を取り出し、玄関のドアを開ける。
部屋に入るとドアを閉じ、それに背を預けて息をついた。
まぶたを閉じ、深呼吸をする。
しばらくその状態で気持ちを落ち着かせた後、
藤色のパンプスを脱いで部屋に上がった。
部屋内は淡い中間色を基調としたインテリアで、
中に入ってすぐ目につく所にあるのは、
初給料で衝動買いしたピアノのおもちゃ。
彼女が幼い頃から慣れ親しんだ
アップライトのピアノには遠く及ばないが、
小さい鍵盤はしっかりと音を奏でてくれる。
フローリングに敷かれた
白とサーモンピンクのシャギーラグマットの上には、
角型の木製ローテーブルが置かれている。
壁際にはシングルサイズのローベッド。
そこには三毛猫のぬいぐるみと
すみれ色の丸型クッション。
そのローベッドと向かい合うように、
32型の液晶テレビが設置されていた。
晴はショルダーバッグをテーブルに置き、
洗面台で手を洗ってうがいをする。
心の準備を整えて、
それと向かい合うように正座した。
しばらく見据えた後、
手を伸ばしたその時。
『・・・開けてくれないか。』
突如、玄関ドアの向こう側から響く声。
晴はこの上なく驚いて、びくっと身体を震わせる。
―・・・えっ・・・・・・
宅配かな・・・・・・?
でも、通販頼んでないし・・・・・・
・・・お母さんから、
いつものお米は届いたばかりだから・・・
・・・・・・
妙な動悸を感じながら、
晴は玄関の覗き穴から外の様子を窺う。
外には、誰もいない。
宅配以外で訪問してくる人間は、今までにいなかった。
急に怖くなり、晴はテーブルに置いていた
ショルダーバッグに手を掛ける。
スマホを取り出そうと、
バッグの中を開けようとした時。
『・・・ドアを、開けてくれないか。』
再び響く、男の声。
晴は身を強張らせ、玄関のドアに目を向ける。
覗き穴を確認する余裕が、もう彼女には残されていなかった。
―・・・返事、するべきかな・・・?
いや、したら女だってバレる。
葛藤していると、さらに言葉が耳に届く。
『・・・心当たりがあるなら、開けてほしい。』
―・・・!
もしかして・・・
拳銃の持ち主?
『話がしたい。』
晴は動揺する。
拳銃の持ち主かもしれない。
しかも、男。
警戒心を最大限に引き出す。
『君が拾った銃の事だ。』
明確な返答だった。
彼女は緊張と恐怖で震え上がる。
助けを求めるように、
ショルダーバッグの中にあるスマホを
取り出そうと、しゃがみ込む。
―けっ・・・警察って110だったよね・・・?!
『・・・やむを得ないか。
君の目で見て、確かめてもらおう。』
“人らしくと・・・・・・思っていたのだが。”
その呟きの後、
彼女の目の前で信じ難い現象が起こった。
玄関のドアから、手が出てくる。
その後、足、身体、そして頭が現れた。
晴は言葉を失い、凝視する。
玄関のドアを、文字通り
すり抜けてきた一人の男。
身長は、晴よりも頭一つ分高い。
癖のついた黒髪と、切れ長の目。
深草色のトレンチコート。
初夏という今の季節で、
その出で立ちは穏やかな雰囲気ではない。
咄嗟に晴はショルダーバッグを開け、拳銃を取り出す。
震える手を必死で抑えながら、両手で支えて構えた。
その男に向けた銃口は、小刻みに震えている。
「・・・こ、来ないでください・・・・・・
それ以上来たら、撃ちますからっ・・・」
撃てるかなんて、どうでもいい。
相手が怯めばいいと思って、晴は男を見据える。
彼はそんな彼女を見て、ふっと笑った。
『・・・君単独で、それは撃てない。』
「・・・え?」
『・・・困ったな。
何て言えば納得してもらえるのか・・・・・・』
「どんなマジックを使ったか分かりませんが・・・・・・
不法侵入ですよ!」
『マジック?・・・・・・ふはは。』
「わ、笑い事じゃありません!」
晴は真剣に訴えた。
男を見据え、恐怖で震えるのを必死で耐えながら
拳銃を構え続ける。
その様子を、男は冷静に受け取り、静かに言い放った。
『・・・俺は君たちの世界で言う、“幽霊”というものだ。』
その一言で、晴は青ざめる。
そして、どうして皆が
この拳銃を気にしなかったのか、理解した。
この拳銃は、この男の持ち物。
幽霊の、持ち物。
見えなくて、当たり前。
「う・・・うそでしょ・・・・・・」
晴の身体は、がくがく震えて
拳銃を持つ手も、尋常じゃないくらい震え出す。
立ち向かう心が、
男の一言で一気にかき消される。
彼は、やんわりと告げた。
『だが・・・君たちの知っている常識は、
俺たちの世界じゃ非常識だ。そこを理解してもらおう。』
男は晴のいる方向に踏み出す。
彼女はそれにすぐ反応して、後ずさりをする。
「こ、来ないで・・・ください・・・・・・」
『申し訳ないが、その銃を拾った時点で
君の人生は、俺が存在する世界の解釈によって変わっていく。』
「な・・・なにを・・・言っているのか、
分かりません・・・・・・」
『少し落ち着いてくれ。』
晴は涙目になって、腰を抜かしている。
男は戦闘不能に陥った晴を眺め、ふぅ、とため息をつく。
『・・・まぁ、そうなるよな・・・・・・』
晴は、逃げ場のない空間と
あり得ない状況に、錯乱状態だった。
―私・・・
あの世に連れていかれるのかな・・・・・・
ああ・・・こんな事なら、
お経覚えておくべきだった。
ええっと・・・なんだっけ・・・・・・
なむあみだぶつ・・・?
『良からぬ事を考えているな。』
「・・・出来れば、消えてください・・・・・・」
『それは難しい。』
「・・・お願い、します・・・・・・」
『・・・今さっきも言ったが、
俺は君たちが考える“幽霊”とは違う。』
「・・・・・・」
『“意念”を持つ“幽霊”と、持たない“幽霊”。
最初はそれから知ってもらおう。
少しずつ・・・知っていけばいいさ。』
「“意念”・・・・・・?」
『とりあえず、俺は君に危害を加える存在じゃない。
そして、その銃。
それは、俺の“意念”の源。
それを見つけて拾ってくれる人間を探していた。
人が沢山行き交うあの交差点に置いておけば、
誰か見つけて拾うだろうと思って。
やっと、その人間に会えた。
俺はその銃で、
“意念”を持たない“幽霊”が
君たちの世界に残す未練を絶つ使命がある。』
彼女はこの時点で、もうすでにさっぱりだった。
この男が、
何を言おうとしているのか。
自分に何を訴えているのか。
何一つ、理解できない。
「・・・あ、あの・・・・・・」
『ん?』
「あ、あなたのお名前は?」
どうしようか困り果てた挙句、晴はそう尋ねてしまった。
―私のバカ・・・!
幽霊に名前聞いてどうするのよ!
心の中でツッコミを入れる。
男はその質問に、茶化すことなく答えた。
『・・・ああ、名前ね。
俺にも勿論、名前がある。
いや、あったと言う方が正しいが。
君たちの世界で生きていた頃の、ね。
・・・俺は、“片桐 朋也”だ。』
“幽霊”と断言するこの男が、
自分と普通に話をしている不思議な状況に、
晴の頭は混乱するばかりだった。
1
晴は腰を抜かしたまま、
混乱する頭と気持ちを
何とか落ち着かせようと、朋也に申し出る。
「・・・片桐さん。
お願いです・・・成仏してください。
話を聞きますから・・・・・・」
―・・・こんな事なら・・・・・・
もっとオカルトの事
勉強しとけば良かったなぁ・・・・・・
『・・・うーん、そうくるか。』
男―片桐 朋也は晴の様子を窺い、
その申し出を受け入れるように頷いた。
『・・・じゃあ、話を聞いてもらえるか?』
「はい・・・それで
あなたが成仏してくれるなら・・・・・・」
『・・・・・・』
「座布団、用意しますから・・・・・・
そこにお座りください。
立ち話も何ですから・・・・・・
・・・あ・・・・・・出来れば
靴は脱いでもらいたいのですが・・・・・・」
朋也が土足で部屋にいる事に気づき、
晴は勇気をふり絞って言う。
それに対して、彼はのんびりと言葉を返した。
『君が見ている俺の姿は、“意念”に目覚める直前の姿だ。
物質として捉えなくていい。』
「はぁ・・・」
―よく分からないけど・・・・・・
脱げないってことよね・・・・・・
晴は諦めて、這いつくばるようにクローゼットに向かう。
その際、彼女は拳銃を手に持ったままだった。
手に感じる重さが、
現実の物だという認識があったからかもしれない。
奪われたら最後。
そう思い込んでいた。
腰が抜けた情けない状態のまま、
晴はクローゼットの奥に眠っていた
向日葵が描かれた丸型座布団を引っ張り出す。
それは、
来客用にと購入していた座布団。
今まで誰も訪問する事がなかったので、
初めてそれを使う事になる。
―東京に来て、初めてのお客さまが・・・・・・
幽霊だなんて。
泣きたい気持ちが、込み上げてくる。
「・・・どうぞ・・・・・・」
テーブルの傍に、その座布団を滑らせるように置く。
晴は出来るだけ離れて、
置いた座布団と向かい合うように縮こまって座る。
朋也は促されるまま、
その座布団に胡坐をかいて座った。
「・・・お茶、入れましょうか?」
『・・・その機能は、ありません。』
「・・・ですよね・・・・・・」
―・・・つい、尋ねてしまった。
「・・・で、あの。
この銃で、片桐さんは何をするって言いました?」
単刀直入な質問に、彼は微笑む。
『話が早いな。』
―成仏の為なら。
晴はそう思ったが、口にはしなかった。
朋也は穏やかに語り出す。
『俺が“幽霊”だと言ったのは、
君が理解しやすいと思って選んだ言葉だ。
実際のところ、
言葉で俺たちの世界の事を
完璧に説明するのは・・・難しい。
“意念”も同じだ。
だから、今から俺が話す事を全部理解しろとは言わない。
・・・参考までに聞いてくれ。
さっき話した、
“意念”を持つ“幽霊”と、持たない“幽霊”。
これには大きな違いがある。
“意念”は、人間として亡くなってから覚醒するもので、
実を言うと詳しくは俺にも分からない。
教えられた訳でもなく、
自然に知識として持ち合わせている。
・・・・・・“意念”を持たない“幽霊”は、
君たちの世界に未練を残して
さまよう事になるらしい。』
「・・・要するに・・・・・・地縛霊とか、悪霊とかですか?」
『・・・少し違うな。
君たちの知識のほとんどは、好奇と幻想で歪められて
真実が埋もれている。
・・・今俺が君に言葉で説明すると、
それも誤解を与えてしまうだろう。
だから、ここでは言わない。
・・・君が持っているその拳銃は、
“意念”を持たない“幽霊”たちの未練を絶つ
“きっかけ”になる。
俺はその銃で、それを実行する。
それが、俺の“意念”だ。』
「未練を絶つって・・・・・・
いわゆる・・・成仏って事ですか?」
『その言葉が近い。
未練を絶った“幽霊”は、
新しい命に姿を変えて生まれ変わる。』
話を聞いているうちに、
晴は落ち着きを取り戻していた。
普通にこの、“幽霊”と名乗る男と会話をする程。
気づかないうちに、
彼女は彼が語る話を聞き入っていた。
今自分が置かれている状況を、忘れる程に。
それ故に、ある疑問が彼女の中に浮かぶ。
「・・・えっと、じゃあ・・・・・・
片桐さんは、成仏せずに
この世に縛られて生きるって事ですか?」
しばらく、朋也はその疑問に答える事なく
晴を見つめ返すだけだった。
少し間を置いて、彼は答える。
『君が俺の“意念”の源であるその銃に触れた事で、
俺はこの姿と思考を保つことが出来ている。
・・・今、何をするべきか
分かっているのは、未練を絶つ使命だけ。
同時に、君と“共同体”になっているという事だけだ。』
紡がれた、心に引っかかる言葉。
「“共同体”・・・・・・?」
『“共鳴し合う者”、という事。』
晴はその言葉に、首を傾げる。
―・・・言葉が難しくて、ぴんとこない。
とり憑いているって事?
「・・・私は、あなたと心中しろと?」
『・・・ふははっ』
“心中”の言葉に、
朋也は可笑しくて堪らない様子で言葉を返す。
『上手い言葉だ。
・・・近いかもしれないな。
君の死は、俺の死でもある。その意味では合っているだろう。
・・・だが、それをするなら
こうして俺が君に長々と語る必要はないと思わないか?』
「・・・・・・」
『その銃には勿論、実弾は入っていない。
銃弾として威力を籠めるには、
生きている人間の“生命力”がいる。
・・・君の“生命力”を、籠める。』
その内容に困惑する。
―・・・“生命力”?
「それをしたら、私はどうなりますか?」
『どうにもならないさ。
君が生きている限り、その力は湧き出る。』
「・・・それなら、霊能力者とか
そういう類い専門の人に
頼った方がいいと思いますが・・・・・・」
『そう断言する人間たちが、
その銃を見つけて拾い上げられなかった。』
「・・・多分ですけど、
見つけたけど拾わなかったとか・・・・・・
巻き込まれたくないと思って。」
『もしそうなら、縁がない。
“意念”を持つ“俺たち”とね。』
「・・・・・・」
今もなお手でしっかりと握りしめる拳銃を、
晴は見つめる。
―・・・私が、頭おかしくなったわけじゃないよ、ね?
・・・・・・そうだと、信じたい。
『これから先、君が常識と認識していた決まり事が
覆っていく時間が増える。
今まで重ねてきた知識と、
ぶつかり合うことになるだろうな。
・・・だから、この言葉を
今後いつも頭に置いておいてくれ。
“常識は、非常識だ”、と。』
晴は黙り込む。
頭の中を整理したかった。
朋也の話した内容を理解するには、時間が必要だった。
「・・・片桐さん。
何となく話は分かりました。少し考える時間をください。」
素直な気持ちを告げる彼女に、
朋也は笑顔を向ける。
『言葉で理解するのは難しいだろう。
・・・話を聞いてくれてありがとう。
適応するには・・・・・・君の同意が必要だからな。』
彼は立ち上がる。
晴は、びくっとして彼に目を向けた。
思わず、尋ねる。
「・・・どうしました?」
ふっ、と小さく笑って朋也は言う。
『君が、時間が欲しいと言ったので。
席を外します。』
「・・・?」
その言葉の後、彼の姿は
忽然と晴の視界から消滅する。
えっ、と声を上げたが、姿を見失うと
安堵の波が一気に押し寄せた。
―・・・消えてくれた・・・・・・
でも、“席を外す”って事は・・・・・・
成仏してないって事よね。
朋也の姿は消えたが、彼の残した言葉と
未だに手にしている拳銃は、
消えずに残っている。
晴は、深いため息をついた。
―・・・とりあえず・・・・・・
お風呂入ろう。
・・・でも、これって大丈夫?
“席を外す”ってどうやっているか
分からないけど・・・・・・
今、ここにいないってことよね?
・・・・・・普通に、過ごしていいのかな?
それから晴は躊躇いながらも、
いつもと変わらない日常生活の一環を過ごす。
風呂に入ってさっぱりした後、
ドライアーで濡れた髪を乾かして
全身にボディミルクを塗る。
スキンケアは、彼女にとって
一日頑張った身体を労る大事な時間である。
いつもの時間を過ごしているにつれて、
さっき起きた不思議な出来事が
夢だったのではと思い始める。
だが、例の拳銃がテーブルの上にあるのを見て、
現実に引き戻された。
―・・・片桐さんって、何歳だろう?
私よりも年上っぽいけど・・・・・・
・・・生きている頃って、
どんな職業だったのかな・・・・・・
・・・・・・ちょっと。
脱線してる。
話を整理しなきゃ。
・・・でも、正直意味が分からなかった。
私に何ができるの?
『適応するには・・・君の同意が必要だからな。』
・・・・・・適応って、どういう事だろう?
好きなファッションメーカーのロゴ入りTシャツと
紺色のショートパンツ姿で、
晴は台所スペースに行く。
そこには、背丈が彼女の肩くらいまでの
2ドア小型冷蔵庫が置かれていた。
下の扉を開くと、紙パックのグレープジュースが目に入る。
それを風呂上がりに一杯、飲むのが好きだった。
木製の小さな食器棚からグラスを手に取り、
グレープジュースを注ぐ。
そのグラスを冷蔵庫の上に置いて、
紙パックを戻す際に冷蔵庫内を眺める。
―・・・買い物、
出来なかったなぁ・・・・・・
拳銃の事があって、
買い物をする余裕がなかった。
冷蔵庫の小ささもあるが、買い置きする事がない。
必要最小限の調味料と飲料、乳製品と卵。
そして生うどん麺の袋が二つ。
彼女は、無類のうどん好きだった。
毎日食べても飽きない程好物なので、
冷蔵庫に入っていないと落ち着かない。
―・・・食欲ないかも・・・・・
晴は小さく息をついて、扉を閉じる。
グラスに注がれたグレープジュースを一気に飲み干し、
ローベッドへ歩いていった。
ベッドに上がると、
すみれ色のクッションを胸元に抱え、壁に背を預けて座る。
―・・・妙に、
落ち着いているんだけど・・・・・
さっきは本当に怖くて、
どうしようかと思ったけど・・・・・・
麻痺しちゃってるのかな・・・・・・
『少しずつ・・・知っていけばいいさ。』
・・・・・・相手は、幽霊なのに。
テーブルの上に置かれた、黒い塊。
拳銃の姿は、消えずに残っている。
「・・・・・・片桐さん。」
晴は、その名前を呼んでみる。
すると、彼はその姿を現した。
何の前触れもなくすぐだったので、
彼女は、びくっとして身を強張らせる。
『整理はついたか?』
彼は、さっき晴が用意した向日葵の座布団の上に
胡坐をかいていた。
テーブルに片肘を乗せ、切れ長の目は晴に向いている。
―・・・しまった。
銃をテーブルに置いたままだった。
・・・・・・取りに行けない。
動揺する晴の様子を、朋也は感じ取る。
彼は、それを一瞥して言う。
『さっきも言ったが、これは
君が単独でトリガーを引いても、何も起こらない。
・・・逆もまた同じだが。』
「・・・・・・」
―・・・・・・そうよね。
手にしたところで、
どうしようもない。
拳銃に向けていた目を朋也に移し、
晴は一呼吸して気持ちを落ち着かせる。
「・・・・・・えっと・・・・・・」
『・・・・・・』
「・・・整理はつきました。」
『そうか。』
「私の“生命力”とか、
何とかが役に立つのなら・・・・・・どうぞ使ってください。
あなたの話を、信じてみます。
これから、少しずつ。」
―私は、どうかしていると思う。
でも・・・・・・
この人、怖くないし。
話し相手になってくれそう。
それが、今の正直な気持ちよね。
彼女の出した答えに、彼は満足そうに頷いた。
『・・・・・・ありがとう。
出来る限り、君が納得できるように努めるよ。』
「・・・・・・それで、私はこれから
何をしたらいいんですか?」
『今のところ、特に何もない。』
「え?」
『君は普通に、日常生活を過ごせばいいだけだ。
ただ・・・・・・今までとは、
景色が違って見えるだろうな。』
「・・・・・・?」
『とにかく、その時になってみなければ分からない。』
―・・・どういう事・・・・・・?
「・・・何か、起こるのですか?」
『この銃を使う事態に、遭遇する時だ。
君と俺がやろうとしている事は、
その事態を迎え入れる時。
実際感じてもらった方が、話は早い。』
「・・・・・・」
―何それ。怖い。
ホラー映画みたいなのが起こったら・・・・・・
無理なんだけど・・・・・・
『とりあえず、今まで通りでいい。
俺も、未知の領域になる。
“共鳴し合う者”とともに過ごすのは。』
「・・・・・・」
晴は、じっと朋也の様子を窺う。
その視線に、彼は首を傾げた。
『・・・ん?どうした?』
彼女は、聞いてみようと思った。
彼が、どんな人生を送ってきたのか。
受け入れる第一歩として。
「・・・・・・あの。良ければ・・・・・・
片桐さんの生きていた頃の話を、
聞かせてもらってもいいですか?」
そう問い掛けられた事に、朋也は目を見開いた。
『俺が生きていた頃の話?・・・知ってどうする?』
その反応に彼女は、しまった、と思った。
「・・・いや、その・・・・・・
話したくないなら、いいです。」
朋也は晴の思惑を読んで、微笑む。
『別に問題ないが・・・・・・
それを聞いて、信じるに値する奴か見極めるのか?』
そう言われて、ちく、と胸が痛んだ。
彼の言う通りだった。
まだ彼に対する疑惑が残っている為に、
彼女は質問したのだ。
「・・・・・・ごめんなさい。」
晴が謝る理由を、朋也は悟る。
『知って、受け入れようとしたのだろう?
それは仕方がない事だ。
君たちの世界ではね。
初対面の人間を信じられるかなんて・・・
皆無に等しい。
ましては“幽霊”を、な。』
「・・・・・・」
『でも俺たちの世界では、全てが浮き彫りになる。
それを、君は知る事になる。
それから・・・・・・俺の事を信じればいい。』
ふと、朋也の表情に浮かぶ陰。
晴は、その帯びた陰を見逃さなかった。
しかし、その陰はすぐに消えて
彼は微笑する。
『・・・別に隠す事もないから簡単に言うが、
俺はジャーナリストの端くれだった。
世間を楽しませたいと思って
目指した職業だったが・・・・・・
食べていくには不本意な仕事も
せざるを得なくて、な。
まぁ、それなりに・・・・・・生きていたよ。』
彼女は、先程彼の表情に浮かんだ陰が
忘れられなかった。
それを踏まえて、尋ねる。
「・・・・・・片桐さんって、
何歳で亡くなったのですか?」
『31歳。死んでからこの姿のまま時間が過ぎて・・・・・・
君たちの世界で言うと、30年経つかな。』
「30年?!」
晴は思わず、身を乗り出す。
「えっ・・・・・・?うそ・・・・・・
もしかして・・・・・・30年も、
あの場所で拾ってくれる人を待っていたのですか?!」
『ああ。』
―・・・・・・うそでしょ・・・・・・
彼女にとって、それは途方もない時間だった。
自分がまだ、この世に生まれて
刻んだ時間よりも長く。
彼はずっと変わらず存在していたという事実。
驚きを隠せない晴に、
朋也はさらりと告げる。
『“俺たち”にとっては30年なんて、あっという間だ。
時間の概念は存在しない。
心は、変わらず在り続ける。』
「・・・・・・」
木製のチェストの上に置かれた
手のひらサイズのデジタル時計を見て、
朋也は放心状態の晴に言葉を掛ける。
『・・・寝なくて大丈夫なのか?』
時刻は、深夜になろうとしていた。
その心遣いに、晴は素直な気持ちを言葉で返す。
「・・・これで眠れる人がいたら、すごいと思います。」
眠れる気がしなかった。
彼の口から語られる話が、どれもこれも衝撃だった。
時間の経過が、とても濃く感じた。
彼女はふと、思い出す。
小学生の頃、
クラシックピアノ曲をジャズにアレンジして、
ピアノ発表会で披露する事になった、前日の夜。
あの時も、こんな感じだった。
あの頃は、全ての時間がとても濃かった。
それを、思い出した。
朋也は、ふっと笑う。
『子守歌が必要か?』
そう言われて晴は、むっとした。
「・・・要りません。」
『じゃあ、おやすみなさい。』
完璧に子ども扱いされているのを感じ、
彼女は言葉を返す。
「・・・私が寝る時は必ず、
さっきみたいに“席を外して”くださいね。」
―じゃないと、眠れない。
・・・幽霊とはいえ、男の人だし。
朋也はその考えを読み取り、ふんわりと微笑んだ。
その微笑みは、
淑女を優しく包み込む
紳士の色を帯びる。
『これから先、俺が君の事を
どんなに愛おしくなっても・・・・・・
君に触れる事は難しい。安心してくれ。』
温かく、
優しく、
穏やかに告げられた言葉。
それに晴は、どきっとした。
同時に、
深くえぐられるような胸の痛みが生じる。
彼は何気なく言っただけかもしれない。
だが、彼女には
それが痛みとして響いた。
俯く晴を見て、朋也は首を傾げる。
『・・・?どうした?』
―なに、これ。
ずきずきする。痛い。苦しい。
これは・・・・・・何だろう?
胸を突き破りそうなくらい、鼓動が激しく鳴る。
この痛みが持つ、意味。
感情。
渇望。
絶望。
深い想いが、籠められている。
「・・・・・・ちょっと、聞きますけど・・・・・・」
問わずにはいられなかった。
その痛みは、深く彼女を支配する。
晴は胸の痛みに耐えながら、朋也を見据える。
「・・・・・・片桐さんが亡くなる前・・・・・・
いえ、亡くなる前からずっと、
好きな人がいましたよね?
しかも、結婚を約束する人が。」
その問いに、彼は目を見開いた。
彼女の小さな、小さな最初の変化。
その始まりを感じ、彼はまぶたを閉じて静かに答える。
『・・・ああ。いたよ。
今は他の男性と結ばれて、家庭を築き、幸せに暮らしている。』
その答えに、大きな衝撃を受けた。
今耐えている痛みと、共鳴する。
―この痛みは、彼が抱えているもの。
もう見守る事しか出来ず、
愛している人に触れる事が、
もう二度と叶わないなんて。
温かさも、想いも・・・・・・
もう二度と、伝わらないなんて。
絶望しかない。
とても悲しかったはず。
すごくつらかったはず。
そして、ずっと強く想ったはず。
大好きだ。愛しているって。
伝わらないのに、ずっと。
想い続けて。
この人は、ずっと・・・・・・
晴の頬に涙が伝う。
信じられなかった。
こんなに胸が痛くて、
彼の心を壁もなく感じられる事が。
デジタル時計の傍に置かれているボックスティッシュから、
ティッシュペーパーを二、三枚取り、
流れる涙を拭き取る。
そんな晴の様子を、朋也は見守り続けている。
「・・・・・・ぐすっ。
その女の人の事って・・・・・・
片桐さんの未練だったりしますか?」
拭き取っても、込み上げてくる涙。
胸の苦しさと比例するのを感じながら、彼女は尋ねる。
彼は首を横に振った。
『・・・いや。それはもう、ない。
俺は彼女に何もしてやれない。
むしろ他の男性と幸せに生きている事は、
とても有難くて幸せなことだと思う。
・・・俺に縛られる事で、未来を閉ざしてほしくない。』
晴は朋也を見つめる。
そう告げる彼の表情は、とても穏やかだった。
本心から言っていると、感じた。
彼女は泣きじゃくりながら、言葉を漏らす。
「・・・・・・彼女さんは、片桐さんのこと、
ずっと忘れていないと、思いますよ・・・・・・ぐすっ。」
それは、女心から出た言葉。
「彼女さんも・・・・・・苦しい想いをして・・・・・・
前に進んだのだと、思います・・・・・・
きっと・・・・・・そうだと、思います・・・・・・」
その言葉で、朋也は晴から視線を外す。
想い人の事を、考えるかのように。
しばらくの間、部屋の中では晴の嗚咽だけが響く。
彼女の心に刺さった、彼の痛み。
それは波紋となって広がり、身体中に染み渡っていった。
それによって彼女に芽生えた、小さな芽。
晴は、意を固めて言葉を紡ぐ。
「・・・30年も、誰にも気づかれず・・・・・・
あの場所で待っていたのですよね?
その銃を見つけて、拾ってくれる人。
・・・・・・もう、大丈夫です。
これからは、私がいますから。」
『・・・・・・』
「私が、います。」
上手い言葉が見つからなかったが、
晴は真剣に告げた。
そして茶化さずに、真っ直ぐ彼を見つめる。
―・・・・・・これも、縁よね。
幽霊との縁なんて、聞いたこともないけど。
この人のお願いを、叶えてやりたい。
特別な才能とか、私にはないけれど。
この人は、私を必要としてくれている。
朋也はその眼差しに応えるように、晴を見据える。
その時間。その空間。
二人の間に刻まれる、最初の傷だった。
『・・・それは、プロポーズに近いな。』
思わぬ言葉が、ぽつりと零れる。
晴はその零れた言葉に、大きく動揺した。
「プ、プロポーズ?!」
『そんなふうに聞こえたが。』
「・・・あー・・・・・・」
赤面する晴を、朋也は面白そうに見守る。
弁解するように、彼女は紡いだ。
「・・・・・・初対面で、しかも幽霊相手に
こんな事言うなんて、
自分でもどうかしていると思いますけど・・・・・・
協力します。
片桐さんの使命というものに。」
彼女の、何気ない言い訳。
始まり。
繋がってしまったら、後は彩るのみである。
彼はそれに応えて、微笑む。
とても柔らく、浮かぶ。
晴は気づいた。
―・・・・・・この人の笑顔。
そうだ。
この笑顔は・・・・・・
人と話せて嬉しい時のものだ。
自分という存在を、認めてくれた時の。
『・・・それじゃあ・・・・・・
まず始めに、君の名前を教えてもらおうかな。』
そう訊かれて、彼女は目を丸くする。
「えっ?教えていませんでしたか?」
『ああ。』
「・・・・・・教えた気になっていました。
ごめんなさい。・・・藤波 晴です。」
『いい名前だ。』
「・・・名前負けしていますけど。」
『そんな事はない。・・・よろしく。晴。』
―・・・・・・よ、呼び捨て?
いきなり過ぎて、
彼女は心の準備が出来ていなかった。
妙な鼓動の跳ね上がりを自覚する。
「・・・い、いきなり呼び捨てですか?
しかも下の名前で・・・・・・」
『君も気軽に、俺を“朋也”と呼んでくれ。
敬語はいらない。
君と俺は“共同体”だ。
真に近い名前で呼び合う方が、共鳴しやすい。』
「・・・・・・」
―・・・・・・いきなり、ハードル高くない?
晴は大いに躊躇ったが、腹を決めて言葉を紡ぐ。
「・・・・・・分かった。
・・・・・・よろしく。朋也・・・さん。」
―ああ。駄目だ。まだ無理って~。
『・・・それと・・・・・・』
朋也は、テーブルに置かれていた拳銃を手に取る。
『これは、必ず傍に置く事。
どんな時も、だ。
何が起こるか分からないからな・・・・・・
君と俺を繋ぐ、扉の鍵だ。』
その拳銃を持った彼の手が、
彼女の目の前に差し出される。
晴は頷いて、それに手を伸ばした。
この世のものではない、彼。
その彼を受け入れる、彼女。
ちょっと不思議で
あり得ない時間が、
これから刻まれようとしていた。