神話
初めての小説です。
ぎぃ、と音を立てて、その女性は椅子から立ち上がった。
その顔には微笑みが浮かべられていた。悲しく、切なく、安心したような微笑み。
「そろそろね。」
女性は塔の最上階へ向かう。
そこには大きなベッドがあり、その上に双子の少女の人形が横たわっていた。姿も、大きさも、人間そっくりな2人の人形。
女性はその人形に、最後の仕上げを行う。
繊細に、美しく紡がれてゆく魔法が、すうっと少女達の中に溶けてゆく。
「あなた達の使命は、後継者を見つけること。もうすぐ死んでしまう私の代わりに、魔法の力を受け継ぐのにふさわしい後継者を見つけること。」
女性はふっと窓の外を見る。そこには宝石を散りばめたような美しい星空が広がっていた。
「あなた達のどちらかが、その者に出会った時、物語は動き出すでしょうね。」
そして魔女は、目を閉じた。
●○●○●○
この世界には、ある神話がある。それは、北の塔に住むという、魔女についての神話だ。
「みんな、今日は何のお話が聞きたい?」
「んー、私、魔女サマのお話がいい!」
「あ、僕もそれがいい!」
「みんな、ほんとに魔女様のお話好きよねぇ。」
呆れた顔で返すのは、この孤児院のお母さんである、マリー。
「うん!好きだよ!だから僕もそれでいい!」
僕もそう返す。このお話、というか神話は、もう定番の読み聞かせの対象だった。
「やっぱりバルトもそう思うよね?」
そう言って、僕ににっこり笑うのは、同じ孤児院で暮らしているアズサ。綺麗な銀色の髪がサラリとゆれる。
花にたとえると、ユリみたいな女の子。元気で、頭が良くて、孤児院の中ではいつも僕と一緒にいる。過去の記憶がなく、1人でさまよっていた所をこの孤児院で保護したらしい。
「それじゃあ、はじめるよ。」
マリーがゆっくり話し始める。
北にある、ある森林の奥地には、ひとつの塔が立っている。そこに住んでいるのがそう、魔女。
私たちの先祖は、魔女の魔法から生み出された。その血には、少しばかりの魔女の血が混じっていて、それは今を生きる私たちも同じ。
魔女は老いず、永遠の命をもっていて、彼女が死を望んだ時、彼女の死は訪れることになっている。
だが、それでは魔女の力が途絶えてしまうため、魔女は死ぬ時、最後の魔法で双子の人形をつくる。
その人形が、私たちの中から特に魔女の血の濃い者を探し、魔法の力を魔女の代わりに受け渡すことで、新たな魔女が、生まれてゆく。
「はい、おわり。」
すごく短い神話である。
この神話を聞くたびに、僕は魔法を使ってみたいと思う。それは神話で、本当かどうかなんて誰にも分からないけれど、きっと本当の事だと僕は思っていた。
読んでくれた人、ありがとうございます!
更新速度は遅い(と思う)ので、温かい目で見ていただけると嬉しいです。