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それいけ! ハケンダー!

作者: 灯宮義流

 世間では、百年に一度の大不況が訪れていた。

 それに付け込んで、街には世界の平和を脅かす悪の組織、「ビインボウ」が現れて、好き放題暴れる日々が続いた。

 だが、悪あるところに正義あり。

 街の平和を守るため、新たなる正義の味方が地上に降臨した。

 その名は、正義の使者、ハケンダー!


 ハケンダーは、普段はどこにでもいそうな派遣社員として働いている。

 毎日工場で部品作りをしていて、毎日労働時間が一時間二時間伸びることはザラだった。残業代も出ない。

 そうして仕事をしている時こそ敵はやってくる。

「ぬぅ、街でムセン男が問題を起こしているようだ。急がねば」

 と、準備を整えて街へ急行しに行こうとするハケンダー。

 だが、彼はあくまで派遣社員だ。仕事を放棄しようとすれば、当然上司がやってくる。

「コラ山田。また仕事を抜ける気か」

「あ、す、すいません足賀あしがさん。街中に怪人が現れたもので」

「なんやと? お前な、街でキ印が暴れたからなんやっちゅーねん。こちとら仕事多すぎてキチガイになりかけとるんやぞ!」

「それでも、市民の安全と平和には代えられません」

「わかった。その代わりお前の給料差し引くからな。働かざるもの食うべからずや」

「は、はい……」

 憂鬱になりながら、山田はハケンダーとして、街へと向かった。


 苦戦しつつも、ムセン男を必殺ハケン首絞めで勝負を決めて、山田は何とわずか五分で勝負を決めて、すぐに仕事へ復帰した。

 しかし、担当上司である足賀は、全然喜んだ顔をしていなかった。

 むしろ鬼の形相で待っていて、山田はため息をついた。何が悪かったのだろう?

「遅い! あんなん一分でケリつけろや!」

 そう言われても、山田は困ってしまう。

 何故なら彼は、最近タダで貰えるパンの耳とファーストフード店のゴミ箱から漁った残飯で毎日を生きているのだ。

 水は勿体無いから公園から汲んでいるのだが、家から遠いので毎日が辛い。

 家は便所も風呂もなくて家賃が七万もする。世知辛い世の中だ。

 それはさておき、そんな生活基準の山田にテキパキ動けと言っても、そりゃ無理な話というものだ。

 電池が切れかけた玩具に早く動けといっても、モーターが悲しい音をあげるだけなのと同じである。

「私も、あれでかなり頑張りました。相手は無銭飲食の常習犯で、パワーが漲っていたんです、でも私は……」

「口ごたえすな! もう、お前今日は残業決定や。勿論今日の分の給料はなし! くだらないことでサボった分、しっかり取り返せ!」

 山田は、もう何も言う気力がなかった。

「というか、お前ヒーローやろ。慈善事業やろ。そんなら、今度からうちでも慈善事業やってもらおか?」

「えっ、えー」

「文句あんのかボケ!」

「……ないです」

 その後、昼の休憩時間すら抜かれて、山田は一日コキ使われたが、最後まで涙を流すことなく頑張った。


 それから幾多の戦いを重ねながら、数ヶ月という月日が流れた。

 平和だったはずの街に、新型の強化怪人が出現した。

 アサリーノ・ジ・ハンキを名乗るその怪人は、町中の自販機の下から小銭をネコババして、みんなから白い目で見られている。

 そんな不健全な街ではいけないと、山田はハケンダーに変身し、足賀の嫌味に耐えながら街へとやってきた。

「待て、好き勝手は許さんぞ怪人」

「出たなハケンダー! フン、噂に聞いていたよりヒョロいではないか!」

 それもそのはず、彼は胃潰瘍になって入院していたのだ。

 だが、ヒーローということで保険も下りず、今は多大な借金とも戦っている。

 この数ヶ月で、山田は一五キロも痩せていた。

「いくぞ、ハケンパンチ……」

 弱り果てたハケンダーのパンチは、新型怪人にはまったく効かなかった。

「くらえ、毒ガス!」

「うわああああああ」

「グケケケケケ! これでハケンダーもオシマイだ。さあ、これで心置きなく自販機の下が漁れるぞ。グケケケケケ!」

 アサリーノ・ジ・ハンキは、高笑いをあげながら、街の奥へと消えていってしまった。

 意識が薄れゆく中、山田はこの件を上司に報告せねばと、携帯で電話をかけた。

 足賀は、負けたということを聞くと、狂ったように怒り始める。

「お前を雇ってたのは何のためやと思ってんねん。ヒーローだからや! 宣伝になるからお前みたいなイカレポンチのクズ雇ってたっちゅうに、負けよっただと? 生きる価値ないやんお前!」

「……」

「もうええわ。クズを雇ってる余裕もないし、不況でウチ危ないから、他の派遣とまとめてクビや」

「ガーン」

 ショックのあまり、山田の身体に一気に毒が回っていく。

「ウグワアアアアアアア」

 街の平和のために戦ったハケンダーは、毒によって大量吐血しながら、最期を迎えようとしていた。

 死の間際、ハケンダーの唯一の肉親である弟が間に合ったのは、奇跡だといえよう。

「兄さん、しっかりするんだ!」

「おお、タケオか。俺はもうダメだ」

「そんなこと言うな! ほら、救急車を呼ぶから」

「フッ。そんなことより、お前がこれからはこの街を救う番だ……これからは、お前がフリーターマンになって、この、私が愛した街を……ガクッ」

「兄さぁぁぁぁぁーん」


 ハケンダーは、新型怪人の前に倒れた。

 しかし、絶望してはいけない。

 彼の弟タケオが、新たな戦士フリーターマンになって、きっとアサリーノ・ジ・ハンキら新型怪人を打ち倒してくれることだろう。

 だが、油断してはいけない。

 タケオには、低賃金という魔の手が密かに迫っているのだから……。


これはフィクションです。

現実の問題とは、たぶんあんまりマッチングしてません。

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― 新着の感想 ―
[一言] はははは。こいつアホちゃうか。小説のことよくわかってないな。だって、心理描写一切ない実験作だってあるもんね。あるいは、風景描写だけで心理を表現してしまうとかね。そもそも、人間なんてそんなにモ…
[一言] 設定を書いた後、台詞を並べるのが好きなんですね。 登場人物がどんな心境なのかさっぱり分かりません。 貴方の読む小説ってそんなのばかりですか?
[一言] オレね介護だから大変とか全然思わないの。犯罪者も大変やと思ってる。もともと、みんなをびびらして社会に緊張感をもたらすのが彼らの仕事なのにね。みんな日々の生活が過酷すぎて、過労死や自殺に怯え十…
2009/03/09 15:49 米田飯太郎
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