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魔法のある青春  作者: ドル
9月 魔法がある対抗戦
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第98話「首を洗って」

 大我が目を覚ますとそこは病棟だった、体を起こすと同時にだんだん意識を失う直前の記憶が戻る。


「そうか……俺は負けたのか」


「いやーまさか天神煉があそこまで強くなってるなんてね」


 その時ようやく大我は自分の寝るベットの脇に置かれた椅子に座っている桂木暮魔の存在に気が付いた。


「暮魔、なんでここにいる?」


「なんでって、そんなのぶっ倒れて意識を失った友達の心配をして、起きるまで傍らで見守ってたってに決まってるでしょ」


 心配という言葉とは裏腹に、にやけ顔の暮魔の顔を見て大我は彼が今ここにいる本当の理由を察した。


「噓だな、お前はただ大見得切って負けた俺がどんな苦悶の表情を浮かべるのか、それを観察しに来たんだろ?」


「いやいや、そんな悪趣味なこはしないよー、俺達友達だろ?」


 わざとらしく『ないない』と手を振る暮魔を1発殴ろうか大我は一瞬悩むが、そんなことをしても暮魔はより面白がるだけだと察してやめた。


「他の奴らは?」


「ついさっきまでここに雫も居たんだけど、お前より先に目を覚ました萌とイヅルと一緒に今日泊まる寮の部屋に移動した」


 大我達がこの神森学園に理由、対抗戦は終わってしまったが、本人たちが希望すれば残り2回ある上級生達の対抗戦を見学するという名目で神森学園の寮の空き部屋を借りて宿泊し、明日から始まる魔導祭に参加することができることになっていた。


「お前は確かさっさと帰るんだったよな?」


「うん、別に文化祭とか興味ないし。あとにここ留まってると負けず嫌いで面倒な義妹に絡まれそうだから。そういう大我はどうすんの?」


 ここに残って雫達と一緒に魔導祭を回るか、それともこのまま暮魔と一緒に学院に戻るか……不甲斐ない敗北を味わったばかりの彼としてはいち早く学院に戻りリベンジに向けての鍛錬を始めたいが、それを思いとどまらせる心残りが1つここには残っていた。


「少し風に当たってくる」


 そう言いベットから起き上がり保健室から出て行こうとする大我の後を『何だか面白そうだ』という顔で暮魔は追いかけようとするが、


 バタン! そのことに気が付いた大我が自身の後方に張った結界に弾かれ、その場に尻もちをついた。


「付いてくるな」


 不機嫌そうにそう言い残すと大我は廊下に1人出て行った。



…… 

 私、桂木魔昼は他のクラスメイトが食堂で今日の勝利を祝いささやかなパーティーを開いてる中で1人、対抗戦が行われた特設リングに戻り、そこで数時間前に行われた自身の戦いを振り返っていた。


「負けた……」


 その事実を思い出すだけであまりの悔しさで無意識に歯をグイッと食いしばってしまう。

 

 昔から負けるのは大嫌いだった。小学生の時に始めて負けた日、あまりの悔しさにその日は夜ろくに寝れず次の日の早朝、親に泣きせがんで煉の家に連れてってもらいすぐにリベンジした記憶がある。そんな性分のせいもあるが、今私が感じる歯がゆさの原因には負けた相手がよりによってあの義兄であるためだ。



 桂木暮魔、ある日いきなり桂木家に引き取られそのまま私の父で桂木家当主である桂木玄の養子となった男。なぜか父は1人娘である私ではなく暮魔に後々は家督を継がせると公言している。


 まあ私も別にそこまで家督を継ぐことに執着はないが、あの男にそれを渡してはいけない。


 それなりに長い付き合いの中で私が直感で感じた確かな予感、あの人にそういった権力とかそういった類のものを持たせてはいけない。


 しかし桂木家の人間で私の声に耳を傾けてくれる人間などいない……ならば残された手はただ1つ、私の方があの男より優れていると証明すればいい。そうすればお父さん達も考えを改めざるを得ない、そのための舞台としてまさにこの対抗戦は絶好のチャンスだったが、その結果は


 バンッ!! 自分の不甲斐なさに腹が立ち、地面を足で力いっぱい踏みつける。目が熱くなり、そのまま涙が込み上げてこようとしてくるが、それだけはするものかと顔に力を入れて何とかこらえていたその時


「負けず嫌いなのは相変わらずみたいだね、桂木さん」


 声に反応して振り返るとそこにいたのは


「大我くん?」


 なぜだろう、私が彼の名前を呼んだ瞬間に彼の表情が固まった気がした。だがそれは本当に一瞬のことでその表情はすぐにいつもの気さくな笑顔に戻る。


「お互い負けてしまいましたね」


 そうだ、彼もつい数時間前にここで煉の奴と雌雄を決する真剣勝負に臨み敗れたのだ。私はその戦いの最後に居合わせ、観客席から大声で彼を打ち倒した人物のことを応援してしまったため少し気まずい。


「俺、煉にだけ負けたくなかったんですよ。あいつとは少し因縁……とはまた少し違うけど、とにかく俺にとってあいつは絶対に超えなきゃいけない壁なんですよ」


 超えなきゃいけない壁……その単語を聞いた私の頭の中でまたあの男、桂木暮魔の顔がちらつく。


 そんな私の心情を見透かしたかのように大我くんはこちらを真っ直ぐ見つめて言う。


「それは桂木さんも同じですよね?」


「うん、私達って実は少し似てるのかもしれないね」


 私がそう言うとまたしても大我くんの表情が一瞬固まったような気がした。


「正直負けるなんて微塵も考えてませんでした。僕、あれから結構修行してかなり強くなった自信があったので」


 それも同じだ。私もあの男にいつか打ち勝つために来る日も鍛錬を重ね、ついにはこの学年で序列1位の座にすらついた。


「あいつにはブランクもあったっていうのにこの有様、もしかしたら僕は一生、煉には敵わないのかも」


 確かにあれだけ鍛えてたのに私はあの男にまるで歯が立たなかった……もしまた戦うことになっても。


「その様子なら次は勝てそうですね」


「え?」


「いま顔にはっきり書いてありましたよ。『次は負けない』って……すいません、実はちょっと桂木さんのことを試してました」


「どういうこと?」


「桂木さん、今の僕の話を自分に置き換えて考えてたでしょ?」


 図星としか言えないこの指摘に私は自分でも分かるくらい酷く動揺してしまい、それを見た大我くんはこちらの返事を待たずに話を続けた。


「魔法と心は繋がってます。だからもしもこの敗北で桂木さんの心がぽっきり折れてしまってたら、暮魔には一生勝てなかったでしょう。けどあなたの心はやはりそんなヤワではない。勝てますよそれだけ強い闘志があれば次は必ず、魔道は3回勝負ですしね」


 その時、私の心の中の霧が突然晴れた。


 3回勝負……そうだ私は何を悲観していたのだろう。確かに今回は負けてしまったがこれですべてが終わったわけではない、あの男が桂木家当主になるのはまだしばらく先の話、つまりまだチャンスはいくらでもある。


 それなら今私がしなければならないことは、ここで自分の不甲斐なさに腹を立てることではない。


「ありがとう大我くん、あなたのおかげで目が覚めたわ」


 道を示してくれた彼にお礼を伝えると私はその返事も待たず、この時間でも鍛錬に利用できる場所、学園の裏山を目指して全速力で駆けていく。



……

「……何をやってるんだろうな、僕は」


 一瞬にして闇の中に消えていった彼女のことを考えて僕は思わず呟いた。


 何となく立ち寄ったこの対抗戦が行われた特設リンクで居合わせ瞬間に彼女のおおよその心情はすぐに把握できた。なのでやろうと思えば適当な言葉で彼女を慰め、好感度を上げてそのまま明日の文化祭を回る約束を取り付けることができたかもしれない、少なくとも試す価値はあったはずだ。


 しかしそれは出来なかった。そんな現実逃避のような行為は彼女に似つかわしくないからだ。


『目が覚めた』


 最後に彼女自身も言っていた通り、その目には熱い闘志が確かに宿っていた。


 あれでよかったんだ。彼女にとってそれは紛れもない事実のはずだが、いまこの胸の中に1つの心残りがあるのもまた事実。


「一緒に文化祭回ってみたかったな……」


 ちょうどそのタイミングで背後から人の気配を感じた。


 まさか桂木さんが戻ってきた?


 思わずこぼれ落ちた自身の勝手な願望をよりによって本人に聞かれたのではないかと焦り、大慌てでその気配の方に振り返る。


「ゲッ、大我かよ。まあいいや、魔昼のこと見てないか?」


 最悪の事態は回避できていたようだが、そこにいたのは2番目に最悪な相手、天神煉だった。


「……いや、むしろ絶好のタイミングか」


「何が?」


 気の抜けた間抜け面でこちらに聞き返してくるこの男の顔面に今すぐ鉄拳をぶち込みたい衝動をなんとか抑えながらも、俺ははっきりと宣言する。



……

「あれー? 誰かと思ったら魔昼じゃない、こんな夜更けに何してるの?」


 裏山に向かって全力疾走してる最中、横から聞こえただけではらわたが煮えくり返りそうになるほど不快なあの男、桂木暮魔の声が耳に届いてしまった。


 いっそ無視してこのまま走り抜けてしまおうかとも一瞬考えたが、むしろこれはいい機会だと気づき足を止めた。


「ちょうど良かったです兄さん、あなたにどうしても伝えておきたいことがありまして」


「お、なんだい? 聞かしてくれよ」


 薄気味悪いそのニヤケ面に一発雷魔法をお見舞いできたならさぞ気分もよくなるんだろう、と考えながらも私はまだ冷めるどころかどんど熱が上がるばかりのこの想いの内をストレートにぶつける。



……


「次は俺が勝つ。だから今のうちにせいぜい首を洗ってい待っていろ」


……


「次は私が勝たせてもらうので、せいぜい首を洗ってい待っていてください」


……


「そいつはまた楽しみだ」


……


「それはまた面白そうだ」


……


 この2つの因縁が数年後、魔道会全体を揺るがす規模の戦いにまで発展することをこの時はまだ誰も知る由もなかった。



続く

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