第97話「さっさと勝ちなさい」
「烈火漆式、弐ノ型……『加具土』!!」
ガキン!!
違和感。俺の刀が大我の体に接触した瞬間に感じたのは、いつもの体をすり抜けその中にある体内魔力を切り裂く感覚ではなく、固い何かにそれを阻まれるというもの。
ドバーン!! しかし俺の斬撃が止められようがお構いなくアマテラスが刀に籠めた爆炎魔法が大我に炸裂した、その次の瞬間。
ボコッ!! 突然俺の腹から嫌な音がする、それと同時に腹部から衝撃と激痛が走り一瞬息が止まる。
ドタン! 俺は気づくと背中をリングの石畳みにぶつけ仰向きに倒れていた。
「ッはー、ッはー」
そのままの状態で数回息を大きく吸って吐いてを繰り返して息を整える。敵を目の前にして随分悠長なことをしている自覚はあるが、大我が追撃しようとすれば必ずアマテラスが警告してくれると信じたための行動だった。おかげで何とか一息付けた俺は体に力を入れ直し立ち上がる。
「やっぱり殴るなら大嫌いな奴が1番だな」
俺は大我の煽りを聞き流しながら奴を観察することで、どうして奴が俺の加具土の直撃を耐えきり、さらにそこから俺をぶっ飛ばすほど強烈なカウンターを放った一連の秘密のタネがわかった。
「お前結界を纏ってるのか?」
「ふん、さすがにそれくらいは分かるか……『鎧装結界』。本来は自身の周囲に展開することで相手の攻撃から身を守る結界をその名の通り鎧のように身に纏う神原家相伝の結界術。まあ相伝と言ってもこいつを扱えた人間は数えれる程度しかいないようだが」
そりゃそうだ。
口にするとこの男を認めているようなので心の中だけで呆れる。
普通の結界でさえ展開中は基本的にそちらに意識を割かれるので動きが鈍くなるのに、それを体に密着するように展開して尚且つ動き回ろうとするなんて普通できない、聞いたこともない超高難易度の結界術。そこまでいくともう鍛錬でどうこうできるものではなく生まれ持ったセンスに左右される世界。
だがその分、相対するこちらにとっては厄介なことこの上ない代物。なんせ従来の結界のように展開されていない死角からの不意打ち、展開されるよりも早く奇襲をかけるなどの対処法が使えないだけでなく、あの鉄壁の防御力がそのまま攻撃力に転換されるのだ。
先の焔と加具土は完全に試合を終わらせるつもりで放ったもののため、結構な魔力を持ってかれている。その結果得たのは今の手痛いカウンター、このまま真っ向から戦えばまず間違いなく俺が負ける。というか普通にこれは絶体絶命という状況ではないか?
思考がそこまで辿り着いた瞬間
「はっはははーーーー!!!」
俺は心の底から笑った。
「なんだ? 頭でも打っておかしくなったか?」
「俺がなんで最初、お前との大将戦を避けようとしたか分かるか?」
「俺様のことが嫌いだからだろう」
俺の質問に大我はどこかで聞いたような答えを返した。
「面白くなさそうだからだよ。天神家と神原家の戦いは攻め切るか守り切るか、なんて大層な表現はよくされるが、俺からすれば結界の中に縮こまっているお前を一方的に攻撃し続けるだけのつまらない戦になると思ってた。けどその評価は今改める、お前との戦いは楽しい! だから俺は勝つ!」
「お前のその目、久しぶりに見たよ。相変わらずキモいな」
さて『俺は勝つ!』なんて威勢よく啖呵は切ったものの、俺が現状仕える烈火漆式はたった今防がれた弐の型、加具土まで、これ以上の新技はない。技を変えれないなら一か八か魔力の方を上げるしかないか、面白い。
『アマテラス、リミッター外せ』
『よいのか? 下手すれば自滅することになるぞ』
この夏にアマテラスとの契約を交わした俺は彼女から魔力を引き出して戦っている。だがそれは彼女の持つ強大な魔力のほんの一部、あんまり多くを引き出しすぎるとそれを魔法に変換する前に俺の中でパンクしちまうからだ。
『けどこのまま普通にやっても負けるだろこれ』
アマテラスはいつも俺が問題なく使える分だけの魔力を調整して使わせてくれているが、それをやめるよう俺は命令した。
『なら4割だ。普段お前には私の全体魔力中の2割を渡してやってたが、その倍の魔力をくれてやる。それなら3分程度はお前の体も持つはずだ』
たった3分か。
「……まあやっぱり戦いってのは長さじゃなくて質で楽しむものだよな」
……
煉の猛攻に耐えきり見事にカウンターを決め、一気に優勢となった大我だったが彼はまだその勝利を確信してはいなかった。
(一撃で仕留められなかったのは失敗だったな。追い詰められたこいつが何をしでかすかは予測不能だからな)
その時ちょうど煉はアマテラスとの交渉が終わり、莫大な量の魔力が一気に彼の中に流れ込み、そのことに当然大我も気がつく。
(今まで煉の中で均衡していた精霊とあいつ自身の魔力、その調和が崩れて精霊の魔力に奴自身の魔力が飲み込まれかけてる。このまま放っておけばその強大すぎる魔力の力で自滅しそうだが……)
ガンッ! 刹那、煉は跳んだ。
圧倒的なアマテラスの魔力によって身体能力を急上昇した煉の動きを大我は辛うじて目で追いかけ、彼が右側面から回り込もうとする動きに反応し、
「させるか!」
その進路を塞ぐように結界を展開し、煉の脚を止めようとしたが、
「引っ掛かったな」
それがフェイントであることは見抜けなかった。
バゴーン!!
大我がギリギリ反応できる速度で動くことでその注意を引き付けた煉は、彼が自分を捉えたと確信したタイミングで、その注意を振り切るように全速力で駆けて彼の後ろを取り、その背中に爆炎をぶつけた。
バタン! 爆炎の衝撃によって大我の体は数メートル先まで吹き飛ばされたが、彼はすぐに立ち上がり態勢を立て直す。
『全然ダメじゃ、まるでなっとらん』
アマテラスは先の煉の一撃をかなり辛口で評価した。
『今のは貸してやってる私の魔力をただ炎に変換してそのままぶつけただけ。ちゃんと魔力を制御して効果範囲を絞り込んで技として成立させるのだ、それが出来れば今ので勝負はついとったぞ』
煉はアマテラスの口うるさい説教に対して反論も反省の言葉も返さなかった。ただ行動で答えを示すため、彼はもう一撃分の魔力を錬り上げながら大我との距離を詰めようとする。
(まるで魔力を制御出来ていないあの状態でもこの威力か……)
一方で大我は今の攻防で完全に優劣が逆転し、自分が今煉に追い詰められていることを不本意ながら認めていた。
(このまま行くと煉が自滅するよりも先に俺の鎧装結界が壊されるな。仕方ない、出し惜しみはなしでいくか)
ピカッ! その時、煉の視界の端で何かが光った。横目でそれを確認するとそこには護封石が置かれていた。
(あらかじめあそこに置いてたのを今起動させたのか、けどなぜこのタイミングで? 暴発か? それとも何か目的が?)
刹那、煉は思い出す。数ヶ月前に魔法原理基礎学の授業の一端で桐八が話していた封印魔法の原理。
『封印魔法は基本的に大人数で魔法陣を展開させ、その中心に捉えた対象を捕縛するのが主な使用法だ。ただ中には自身の魔力を宿した魔法道具を動力点とすることで単独での展開を可能とする手法もある』
煉が周りに目を配らせると予想通り、序盤で大我が投擲したものと今起動したものの合計5個の護封石が自身を囲うように配置されていた。
「やべっ」
「封魔結界『双柏』」
煉が大我の狙いを悟った瞬間にそれは発動した。配置された5つの護封石と術者である大我自身からそれぞれを結ぶように魔力を帯びた線が引かれ、煉を中心とした巨大な六芒星を描かれる。
ガンッ!! 煉は突然何かに押しつぶされるかのようにその場にへばりつく体勢になった。
(これが封印術か、思ったよりヤバいな! 魔力がめちゃくちゃ錬りにくい)
『ほらさっさとここから抜け出さんと封印されてしまうぞ』
どうにかこの空間から脱しようともがく煉を煽り立てるアマテラス。
『うるせーな! 俺だって破ろうとしてるけどびくともしないんだよ!』
そう答えた通り煉はだんだん狭まっていく結界に対抗して自分の体から燃え盛る炎を噴射したが、今のところそれらは全て結界に弾かれていた。
『さっき教えてやったじゃろ、範囲を絞れと。私の魔力をきちんと制御すればこんな結界、屁でもないわ』
『そう言うのは簡単だけどよ、ただでさえこんな魔力を錬りにくい状態でお前の魔力を制御するなんて』
『無理か? ならもう負けるしかないぞ。さあどうする? このまま大人しく封印されて敗北するか、それとも今ここで限界を超えるか?』
そう言われた煉は目を閉じた。先程は失敗したが今度こそアマテラスの問いに言葉ではなく行動で答えるため。
パリパリパリ!! 何かが軋む嫌な音がした。当事者であり、誰よりも早く状況を理解した大我は驚愕し、思わず顔を上げる。
「バカな!?」
パリーン!! 彼が驚嘆の声を上げる同時に、さながら火山の噴火を彷彿させるほどの勢いで、火柱が立ち上り大我の『双柏』を打ち破った。
その火柱の源泉にただ1人立つ男は自身に満ち溢れた顔で呟く。
「どうだクソ精霊。言われた通り超えてやったぜ、限界ってヤツを」
『ふん、やればできるじゃないか』
シュッ! 封印術から逃れ、自身の道を阻むものがなくなったことにより煉は大我に向かって正面から突撃をかけ、この状態でもアマテラスの魔力を制御できるようになったため使用可能になった今日二度目の必殺の太刀を放つ。
「烈火漆式、弐ノ型……『加具土』!!」
続く




