第93話「円斬剣」
「円斬剣『黒』!」
俺の刀から弧の字状の斬撃が2対、合わさって円を形成した状態で飛び出す。当たっても別に真っ二つになったりはしないが、車に軽くはねられる程度のダメージを負う威力はある。けれどその分かなりスピードは鈍い、こんな正面から馬鹿正直に放ってはまず間違いなく避けられるだろう、正面からなら。
ダッ! 予想通りイヅルは右に跳んであっさり円斬剣をかわした。
「また右か」
回避したイヅルに向かって俺は駆け出し、そのまま1本に持ち替えた刀を振るう。
スカッ、しかしイヅルはこれもあっさり右に避けて反撃に出る。左ジャブ、右ストレートと高速のコンビネーションが俺を襲う。先程とは違い刀が1本しかないため探知領域を使っても俺はそれを捌くのがやっとで、攻めに転じられない。
その時、右ストレートの構えをイヅルがとった瞬間に、その身にまとう魔力の波長が変わった。
ドン!
派手な打撃音と共に相手の拳で俺はガードごと吹っ飛ばされる。
クソ! こいつ今度はイヅルのスピード攻めから、パワータイプのイヅナにチェンジして重い一撃かよ、エグいな。
「終いや」
確かにイヅナの言う通りこのままいけば終わりだ。この状態からではガードも回避も間に合わない、そう今からでは……
我ながら迫真の演技をしてたと思う。イヅルのイヅナの2人の攻撃にいいように翻弄されてなす術もなくやられる様子を、だが奴は土壇場で気づいた、本当に終わりそうになっているのは自分自身だと。
咄嗟の判断であいつはこちらに突きだそうとしていた右腕を顔の前でたたみ、自身を守った。
バキバキバキ!
旋回して戻ってきた円斬剣がその腕を容赦なく磨り潰す。そのまま右腕ごと本人を撥ね飛ばせば俺の勝ちだったがイヅナはボロボロの右腕をなんとか動かし、円斬剣を上手く流して軌道を変えてはねのけつつ、本人も後ろへ跳んで逃げた。
『円斬剣』、俺は探知領域を通じてこいつの動作を操作することができる。そのためイヅルにかわされた後も奴の周囲を旋回させ攻撃のタイミングを見計らっていた。
しかしそこまでは奴も気づいていたはずだ、実際俺と戦う中で円斬剣の位置を終始気にかける素振りを見せていた。だがイヅルは知るよしもないが俺は円斬剣の軌道だけでなくその速度も変えることができる。
だから奴が勝利を確信した一瞬の隙をついて、俺は円斬剣を加速させ奴の横っ面にぶつけてやった。結果倒すまでには至らなかったが奴の右腕を潰すことには成功した。
「もうひと頑張りといきますか」
俺は今度こそ決着をつけようと1歩踏み出そうとした瞬間、ガクッ! 下半身から力が抜け不意にその場でしゃがんでしまう。
「そういやここまでダメージを受けたのはわりと久しぶりだったな」
ダメージの蓄積でまともに動かなくなり始めている体に無理をさせて、俺は立ち上がる。
「お互い満身創痍みたいやな」
明らかな隙を見せたのに攻めてはこず、かわりに息をなんとか整え始めたイヅナは言った。
「ああ、けどこれで終わりだ」
「その意見には同感やな、まあお互いが想い描く結末は真逆やろうけど」
俺は特に言い返す言葉もなかったのでそこで口を閉じたため、互いの間で一瞬の静寂が訪れる。しかしそれは本当に一瞬のことで次の瞬間
ダンッ!!
互いに力強くその場を踏みしめて駆け出し、最後の攻防に身を投じた。
……
駆け出した瞬間に加賀斗は空いている左手にも刀を召喚し再び二刀流でイヅナに挑む。これは今必要なのは力を集中させた強力な1撃ではなく、手数を増やし多角的に攻めることと判断したためだった。
一方で相対するイヅナも加賀斗との距離が3メートルを切ったところでその人格をイヅルへと切り替える。
ガンッ!!
これにより急加速したイヅルであったが、ダメージにより本来のキレが無くなっていることに加え加賀斗自身が人格切り替えに適応しつつあるため、その不意打ちは難なくガードされる。
ガードに成功した加賀斗は先の攻防で不能になったイヅルの右腕の隙を狙い、彼の右側面に回り込もうとする。
イヅルは素早く後退することで加賀斗に右を取られないようにしながらも、視界の端ではしっかりと依然として自身の周りを旋回中の円斬剣を捉えていた。
(後ろからさっきやられたあの斬撃、このまま行くと数秒後に加賀斗とこの斬撃の挟み撃ちされてまう。ただそれはもう対策済みや)
瞬間、イヅルは体外に魔力を大量に散布させ探知領域を展開し、これに触れた円斬剣は突然軌道を変えイヅルから遠ざかっていく。
(やっぱり、あの斬撃の細かい操作は探知領域を介してやっとったみたいやな。ただそれなら自分も探知領域を貼れば油断しとる数秒程度はコントロールを奪える。後は軌道を修正して斬撃がこっちに帰ってくる前に勝負を決める)
そう意気込むイヅルであったが、次の一手を先に打ったのは加賀斗の方だった。
シュッ! 加賀斗は右手に握る刀をその場で上空に向けて放り投げた。そしてイヅルはすぐにその意図を理解した。
(なるほど、斬撃の変わりに落ちてくるあの刀と自分で上下で挟み撃ちってわけやな)
この時イヅルは確かに油断はしていなかった。その証拠に自身の予想通り、素早くその場で刀を振りかぶり攻撃態勢に入る加賀斗を確かに視界に収めていた。だが上空の刀を意識するあまりその下、足元に対する警戒が僅かに薄れてしまっていたのもまた確かだった。
ガンッ! そのいくら必殺の一撃を撃ち込むにしても力強すぎる加賀斗の踏み込みが、日に照らされ足元に映ったイヅルの影の腹の部分を捉えた瞬間、彼の現実の腹部に衝撃が走った。
(『影踏み』、影を介して本体にダメージを与える闇魔法。夏休み中、散々やられたおかげでいつの間にか出来るようになってた俺の新技)
加賀斗の影踏みはまだ不完全、本来なら大した致命打にはならない一撃だが度重なる攻防で消耗し、さらに完全に不意をつく形で決まったため、この一撃でイヅルの意識が切れる。
「もらった」
目の前でふらついているイヅルに加賀斗はとどめを刺そうとそのまま刀を振るうが ガシッ! 必ず入るはずだったその一撃を目の前の男は寸前の所で受け止めた。
「危ないところやったわ」
(魔力の波長が変わってる! こいつギリギリの所で意識を失ったイヅルに変わってイヅナの方の人格が出してきやがった)
バシッ! 加賀斗の一太刀を止めたイヅナはそのまま彼を蹴り飛ばし、
ダンッ! 上から迫ってくる刀を咄嗟に右に跳んで避けた。
しかし、その様子を後方に倒れつつも見届けた加賀斗は確信して言い放った。
「読んでたぜ」
(待て、なんで……)
一方でイヅナは驚愕した。
(なんでソレが今ここにあるんや!)
なぜなら自分が向かった先から円斬剣が迫り来ていたからだ。
バゴン!! まるで待ち構えていたかのように自分が向かった先にあった円斬剣、既にこれを避ける暇も余力もイヅナにはなく、正面から跳ね飛ばされるしかなかった。
……
最後の最後に油断して、イヅナの蹴りを思いっきり受けた俺だが何とか最後の力を振り絞り、魔刀を杖代わりにして身を支えながら立ち上がり、少し離れた所で大の字で倒れているイヅナに近寄る。
「ギリギリだったな」
俺がそう言ってから数秒、何とか息を整えてからイヅナは質問してきた。
「最後、何であそこに斬撃があったんや?」
どうしても納得できない様子のイヅナに、別にそこまで大したことでもないので俺はネタばらしをしてやる。
「咄嗟の時にお前は右方向に回避したがる癖がある。だから影打ちで判断力と周囲の注意力が鈍ったお前ならあそこに逃げて来ると思った」
「何手先まで読んどるねん……途中まではいけるんちゃうか思っとったが、これは完敗やな」
そう言い残すとイヅナは意識を失いその場でぐったりとした。そしてそれを見届けた俺は拳を高らかに真上に突き上げ、周りで観戦していた人間に自分の勝利を伝えた。
続く




