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魔法のある青春  作者: ドル
9月 魔法がある対抗戦
92/103

第92話「多重人格」

「アクセル」


 試合開始と共に相手のイヅルは呪文を唱え、魔法を発動させた。アクセルは一定時間、身体能力を向上させる魔法、てっきり適正は属性魔法のどれかと思ったが、そういうことなら俺も近距離戦を警戒して両手に魔刀を召喚する。


 ダッ! 読み通り、イヅルはこちらに突っ込んできた。さてこの突進の狙いとしては、


1、様子見。相手は俺の適正魔法もまだわからないのでこちらの情報取集目当ての攻撃を仕掛けようとしている。


 2、単純に俺を倒しにかかろうとしている。小細工や駆け引きを嫌うタイプならこの可能性も充分あり得る。


 3、接近戦と見せかけて俺が身構えたところに何かしらの属性魔法の攻撃をぶちこもうとしている。わりとあり得る、相手は双魔家の人間だから適性がアクセルと思わせて人格を切り替え全く別の魔法で攻めてくる可能性は充分ある。


 4、そもそも適性がアクセルマジックじゃなくて3狙い。これが1番面倒だ、3ならまだ人格の切り替えというラグが発生するので対応しやすいが、こっちの場合はそれすらないので、タイミング次第では大ダメージを受けるかもしれない。


 そうこう思考するうちに相手はどんどんこちらに迫っている、というかこいつ結構速いな。


「とりあえずどれが来てもいいように…… 」


 俺はイヅルが背後に回り込んでくる可能性も踏まえ、自分の周囲を囲うように魔力を薄く散布、探知領域を張る。


 ガキーン!!


 初撃、迷わず顔面に向かってきたイヅルのパンチを俺は右手で握る刀で弾く。俺の刀が本物ならこれでイヅルの拳は不能に陥っていただろうが、俺が使うのはあくまで魔刀。あの程度では拳にこめられていた魔力を多少削った程度だろう。


 だが正面から体術戦を仕掛けたことから3はひとまず無し、拳から『この一撃で仕留める』という気概をそこまで感じなかったので2もなさそうで4は保留、1が濃厚ってとこか。


 俺は淡々と頭の中で分析を進めながらも空いている左の刀を振り上げてイヅルへと振り下ろす。


 キーン! しかしイヅルは右足を軸に後方に体をよじることでこれを回避、俺の刀の切っ先は床の石畳に当たり金属音が虚しく響いた。


 イヅルはそのままさらに体を回転させて、俺の右側面から背後に回り込み背中に向けて回し蹴りを放とうとした。だがこの動きは当然、俺も探知領域で読んでいた。


 右手に握っていた刀を一度消し、フリーになった右手を背中に回したところで即座にまた刀を召喚する。


 カーン! この早業のおかげで俺はなんとかイヅルの蹴りをガードできた。


「手強いのう」


 ザッ! 回し蹴りも防がれたイヅルは一度身を引いて距離を取った。



……

「探知領域か」


 自身の攻撃を完璧に防がれたイヅルだが、既にその理由に感づいていた。


「あれ? なんだもうバレたか」


 バレたところで問題のない仕掛けなので加賀斗はあっさりそれを肯定した。


「闇魔法はその破壊力と防御力に関しては属性魔法でもピカイチやが、その分他に比べて動きが鈍くなるっちゅうデメリットを抱えとる。けど君は探知領域でこっちの動きを先読みし、最小限の動きでそれに対処することでその弱点を上手いこと補っとる」


「まあそういうこと。頭いいだろ?」


「そうやな、素直に感心したわ」


 イヅルはそこで言葉を切り、これまで得た情報から次はどう攻めるかを考え始める。


(遠距離から属性魔法でもぶちこんで揺さぶりでもかけれたらええんやけど、自分はそういうの苦手やし……しゃーない、2人がかりで行きますか)


「そろそろ起きぃや『イヅナ』」


 イヅルがそう言った途端、彼の体から放出されている魔力の波長が僅かに変化したのを加賀斗は確かに感じ取った。



……

「そういうことやから、ここからは選手交代や。イヅルの仇は自分がうたせてもらうわ……って別にあいつが死んだわけやないけども」


 イヅルの体から現れたもう1つの人格、イヅナはそう言いながら数歩前に進んだところで加賀斗は叫んだ。


「ちょっと待った!」


「うん? どうかしたんか?」


 イヅナの静止に成功した加賀斗は、戦闘を再開する前にどうしても確認しなければならないことを彼から問いただす。


「お前今はもう人格変わってんだよな?」


「そうや。さっきまで喋っとったのはイヅルで、今こうして喋っとる自分はイヅナっちゅう別の人格や」


「そうか……いやけどおかしいだろ!」


「何が?」


「だって……さっきと今でお前あんま性格とか雰囲気変わってない!!」


 全く同じこと加賀斗の後ろで思っていた神崎刃、ソウシ、その他この試合を観戦している神守学園の生徒の多くは心の中で頷き、彼の言葉に同意していた。


「……イヅルはこの体のいわゆる主人格や、あいつは関西弁で物腰が柔らかくて面倒見のいい男や。一方で自分は関西弁で物腰が柔らかくてよく冗談と言うタイプの人格や」


「やっぱだいたい同じじゃねーか!!」


……

「そう、あれが双魔イヅルと双魔イヅナ。彼らは全く同じ人格をその身に複数宿す双魔家でこれまで類をみないタイプの多重人格者!」


 観客席からそのことを熱弁する明日香だったが、それを横で聞いていた片桐は彼女とは対照的にその話を聞いて思わず苦笑いを浮かべていた。


「あの、それ多重人格って言うんですか?」


「性格が同じで見分けがつけにくいだけで意識はちゃんと別々に存在しているわ」


 いまいち納得しきれていない片桐の横でも残念そうに黒森は言った。


「だいたいこういうのだと、静かで落ち着いた主人格とは対極の短気で騒がしい人格が出るものだとばかり思ってたけど、違うのね」


……

「ほな第2ラウンド行くで、アクセル」


 イヅナの一言に俺は思わず不意をつかれた。なぜなら俺は人格が変わったことにより、当然使用してくる魔法も変わると踏んでいたのだが、イヅナは使ってきたのはイヅルと同じアクセルマジックだった。


 ただイヅナがこちらに向かってくるスピードはイヅルのそれと比べて数段落ちる。さてこの理由として考えられるのは……


 1、単純にイヅルの方が強い。


 2、本気を出してない。


 3、言ってみただけでこいつはそもそもアクセルマジック使いじゃない。


 3が一番あり得る気がする。とりあえず探知領域は引き続き張ったままで警戒しつつ、出方を見るか。


 しかしそんなことをする間でもなく、次の瞬間その理由は明白となった。


 キーン!! 


 俺はまた斬撃を当ててイヅナの初撃を弾こうとしたが、その拳は先ほどのイヅルのものより数段力強く俺は斬撃超しに伝わる衝撃で後方に思わずたじろいでしまう。


「すばしっこいのがイヅルで力持ちがイヅナって覚えとってくれよ」


 まだ先の一撃によって体制が崩れた状態の俺に容赦なくイヅナはアッパーを打ち込んでくる。今からこれに対処するため腕を振って刀を構えている余裕はないだろう。しかし、頭を振るくらいの動作はできる。


 カーン! 俺は見事に迫りくるアッパー前に頭突きをぶち当てて止めることに成功した。


「硬いのう」


「いてーな」


 追撃に失敗したイヅナは一度拳を下げる。俺もその隙に崩された体制を整える。


「しゃーない、やっぱり2人がかりやないと無理か」


 イヅナが何か意味ありげな独り言を呟いたかと思うと、すぐさま激しいラッシュを繰り出した。


 キン! キン! キン!


 しかし、先ほどこそ不意を突かれたが、重い一撃が来るとわかって足腰に力を入れて踏ん張りを効かせれれば、この程度の打撃で俺の防御は崩せない。イヅナの猛攻を俺は全て弾き返していく、むしろスピードが落ちた分先ほどよりもやりやすくなったまである……そう思った直後だった。


 バコッ! 


 鈍い嫌な音と共に腹部から激痛が走る。問題なく対処出来ていたはずのイヅナの拳が何故か腹部に直撃している。


 なんでだ? 


 俺は次の攻撃が届くまでのその刹那に思考する。


 今、確かに俺の刀は奴の拳を弾こうとしたが、あいつの腕は突如加速してまるですり抜けるようにパンチを当ててきた。……ではなぜ急に早くなった?


 その時俺は気づいた、目の前いるこの男の魔力の波長が僅かに変化していることに。


「こいつまさか……!」


ドガッ!! そこまで考えたところでイヅルの回し蹴りを受け俺は後方に倒れる。俺は刀を消してそのまま手をついて後転し、すぐさま立ち上がりまた両手に刀を召喚して構える。


「おお流石やな、リカバリーが早い」


「ついでに頭の回転も速いぞ。どうしてさっきの一発、俺が防げなかったかもう分かった」


「嫌、それは勝手にそっちがへましてくれただけでこっちはなんも」


「お前イヅルだろ」


 しらばっくれようとする目の前の男に俺はそのタネを当てて見せる。

 

「君はほんとに頭がいいのう」


 肯定、ととれる言葉が男からこぼれた。やはり俺の予想は当たっていたようだ。


 イヅナとイヅル、どちらの人格も共にアクセルマジックの適性持ちということは間違いないだろうが、だが両者は全く同じタイプではない。イヅナはパワー重視でイヅルはスピード重視だ。


 そして今の攻防の中でイヅナは一瞬で人格をスピードタイプのイヅナに変更したため攻撃速度が上昇、その緩急に咄嗟に対応出来ず俺はあいつの攻撃をまともに受けてしまった。


「けどそこまで頭いいならもうわかっとるんやないか? そのタネに気づいたところで、どうしようもないっちゅうことが」


 そう、この戦法は看破したところでどうにかなるものではない。勿論何もわからないよりは幾分マシだが、人格を切り替えるタイミングはあっち次第。つまり全くタイプの違う相手を2人同時にするようなものなのでさすがの俺もこれに対応しきるのは至難の業だ。


「仕方ない。こっちから攻めるか」


 俺は左手に持っていた刀を戻し、残った右の刀を両の手で握り構える。


 するとこちらの様子を伺っていたイヅルの目の色が変わった。


「チッ、流石に知ってるか」



……

「加賀斗の奴、勝負に出る気ね」


 加賀斗の構えを見た明日香も観客席から彼が覚悟を決めたことを察し、それを横で聞いた片桐も前にどこかで聞いた話を思い出した。


「そうか、加賀斗家の人間が一刀流に持ち替えたということは……」


「持ち替えたということは? なんなんですか?」


 片桐とは違い思い当たる節がない桃子はその答えを急かしたので、片桐に変わり加賀斗とは長い付き合いである明日香がそれに答えた。


「加賀斗家の人間で闇魔法の適性持ちの剣士はみんな最初は二刀流で戦うわ、理由はいくつかあるけどその1つは2本の方が相手の攻撃を捌きやすいから。そして捌いていくうちに相手の攻撃パターンとか動きの癖を捉え始めたら、今度は相手を仕留めるために刀を1本に持ち替えるの、そっちの方が魔力を一点に集中させやすいから」


「つまり加賀斗くんはもう相手の動きを見切ったということなんですね!」


「うーん、多分それは違うかな」


「いや違うんかい!」


 一瞬で矛盾した明日香の発言に思わず突っ込んでしまい、1人恥ずかしくなって赤面している片桐を明日香は一度置いて話を続けた。


「流石にこんな短時間で動きの特徴を全ては掴めない、今回は相手が多重人格者だから実質2人分観察しなきゃいけないんだから尚更ね。けどタネはわからないけど加賀斗は今押されていて、このままだと観察が終わる前に負ける。だから今一か八かでこっちから仕掛けようとしてる、多分そんなところだと思う」


 明日香の言う通り次の瞬間に加賀斗はこの試合始めて自分から攻撃を仕掛けた。


続く

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