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魔法のある青春  作者: ドル
9月 魔法がある対抗戦
90/103

第90話「必殺の神楽」

9月30日月曜日。魔導祭開催前日の夕方、この日学園内にいる生徒は3種類に別れていた。


 明日から売店などの出し物があり、その準備に勤しむ者もいる者。


 グラウンドに建てられた特設リングをステージに見立てて前夜祭の出し物に参加、もしくはそれを見学する者。


 そして俺のように一足先に本番を迎え、この後の決戦に備える魔法使い。


「それでは前夜祭のトリにしてメイン! 対抗戦1年の部を始めたいと思う!」


 生徒会長としてこの前夜祭での出し物をまとめていた王条先輩がその開始を高らかに宣言した。


 それを聞いていた俺、魔昼、加賀斗、刃、ソウシの5人の選抜メンバーは人混みをかぎ分けてグラウンドに作られた特設リングに上がる。同じようにリングの反対側から神原学院側の選抜メンバーが姿を現したが、それを目にした俺はあることに気が付いた。


「おいまて、なんで中学生が紛れ込んでるんだ」


 相手側の5人の中にどう見ても中学1年生くらいにしか見えない少女が1人紛れていたので、俺がそのことを慌てて指摘するとその少女本人は目をカッと見開き、眉間にしわを寄せながら吠えた。


「私は高校生だ!」


「この間明日香が言ってた子じゃないか? ほら双魔家のちびっ子」


 そういえばこの間、俺と加賀斗が神原大我と遭遇した日に魔昼と明日香の2人も他の神原学院の生徒と人出会い、そのうちの1人が凄い童顔だとか何とか言ってた気がする。


「ちびって言うな!!」


 今度は加賀斗の発言に反応した少女は、『もう我慢できない』と言わんばかりの様子でこちらににじり寄ってくるが、背後からガシッとその右肩を掴まれ静止させられた。


「邪魔するな!」


 彼女はそう叫びながらも肩に置かれた手を強引に振り払おうとしたが、自分を掴んだその男と目が合った瞬間、驚いたように肩をビクッと震わせて大人しくなってしまう。そうして彼女が大人しくなったところでその男、神原大我は口を開いた。


「よしなさい萌さん、あなたの今の一連の行動は我々神原学院の品位を下げています」


「お前誰だ!?」


 この反応から察するに萌と言われた少女は知らないようだ。普段は非常識で品位の欠片も持ち合わせていない人間の皮を被ったクズのこの男が、ある条件を満たしたときのみ、このように豹変するということを。


「やあ、御機嫌よう神守学園の皆様」


 その彼を変えるたった1つの条件とは……


「久しぶりね大我くん、相変わらず紳士的ですね」


 桂木魔昼という存在だ。


「いえ、このくらい普通です。それにしても会うのは久しぶりですがあなたは相変わらずお美しいですね桂木さん」


「ありがとう、大我くんもその神原学院の制服似合ってるよ!」


 大我は魔昼に惚れてる。別に誰かが本人から直接聞いたわけじゃないが、このわかりやすすぎる態度の豹変からその真意がバレバレだ。しかしこの2人が直接顔を合わせる場を久しぶりに見たが……


「キショいな」


「アイツ誰だよ」


「目が澄んでる……」


 元のあいつをよく知る俺、ソウシ、加賀斗はこの偽りの大我に三者三様のコメントを残したところで、


 バシッ! 突然の打撃音と共に大我の体が前のめりに倒れる。


「なーに、鼻の下伸ばしてんのよバカ大我」


 どうやら大我の一連の態度に嫌気がさした雫に後ろから蹴られたようだ。普段この男にこんな事をすれば女だろうが関係なく本気の鉄拳でやり返されるところだが、紳士になりきっている今の彼はヘラヘラ笑っているだけだった。


「いきなりなにするんですか危ないなー(この女、後で殺す)」



「ダッサ」


「だからアイツ誰だよ」


「目が澄んでる……」



……

 数日前。既にお昼のピークは過ぎて人気のあまりない神守学園の食堂の一角に魔昼、刃、煉、ソウシ、加賀斗の5人は集り、何かを話し合っていた。


「それじゃあ今から話しあって今度の対抗戦で戦う順番を決めたいと思う」


「あ、その前に俺から1ついいか?」


 手を挙げて発言の許可を求める煉に刃はこくりと頷いて答えた。


「あっち側の大将戦には神原大我が出るらしい、本人が言ってた」


 先日、突如目の前に現れた神原大我は確かにそう言っていたが、煉の隣に座る魔昼はその発言に待ったをかけた。


「私もこの間、兄さん……じゃなくて桂木暮魔に直接あった時に大将戦には自分が出ると言われたわ」


 その発言を聞いてその場にいた全員の顔が『どういうことだ?』と言ったように曇る。だがただ1人その曇りがいち早く晴れた者、加賀斗暁は言った。


「まあ、そんな難しく考えることでもねーな。どっちかが噓をついている、それだけだ」


「……そうね、それなら答えは1つ」



……

「まずは先鋒戦! 両陣営の先鋒は前に」


 そう言われて神守学園側からは私、桂木魔昼が。


 そして神原学院側からは、桂木暮魔が出てきた。


「やっぱり噓つきは兄さんでしたか」


「あれ? 騙されなかったか。君と戦うことになった時に大我の奴がどうなるか見てみたかったんだけど」


 この発言から察するにやはりあちら側の大将は大我くんで間違いないようだ。


「けどこっちの嘘を見破ったまではいいけど、どうして僕が先鋒で出るって分かったんだい?」


「兄さんならきっと騙されて悔しそうな顔をしている私の顔を、いち早く拝みたいと思うはずと推理しただけです」


「おお、さすが義理とはいえ兄妹、よく理解してるね」


 『よくできました』と、まるで子供をあやすように手を叩いてこちらのことを褒める、彼のこういうところも私は嫌いだ。


「いつまでも自分の方が上だと思ってると足元をすくわれますよ、とういうかすくいます今ここで」


「いやー、今の君にはまだそれは早いかな」


 私はここで会話をやめた。なぜならこの兄さんの言葉の後すぐに


「対抗戦開始ー!!」


 戦いの始まりを宣言する、王条先輩の声が耳に届いたからだ。


「神鳴り神楽……壱の舞『神立』」


 私は高速で義兄さんとの間合いを詰め、この日のために磨き続けたと言っても過言ではない技を繰り出す。


「氷結神楽、壱の舞『氷雨ひさめ』」


 キン! キン! キン! キン!


 私の連撃に対して兄さんも同じくその手に召喚した魔剣による連撃技で応戦した。


 兄さんの魔法適正は氷属性。なので本来ならスピード勝負では雷魔法の適正持ちのこちらに分があるのだが、私と兄さんはこれまで何度も桂木家の道場で手合わせして、その中で幾度となく繰り出したこの技は既に見切られており、いとも容易く防ぎきられてしまう。


 バッ、あの癪に障るにやけヅラをかき消す意味でも、仕掛けた電光石火の先制攻撃だったが結果は不発に終わってしまった為、私は仕切り直そうと後ろに一度退こうとするが


「氷結神楽、弐の舞」

 

 それを狙って兄さんは次の技を出す。


 魔剣を握る左腕を大きく引いて突きの構えを取り、それに合わせて魔剣の刀身を包むように魔法陣が展開する。


「『氷槍ひょうそう』」


 次の瞬間それを掴む腕ごと魔剣が凍り付いて巨大な氷の槍が形成され、その矛先がこちらにむかってくる。


「神鳴り神楽、弐の舞『震霆』!」


 パキン! 命中率重視の先ほどの連撃とは違い、威力にのみに特化した渾身の1振りによって私は槍の切っ先を叩き割ってその攻撃をなんとか防いだ。



……

 試合開始から息もつかせぬ激しい攻防。それをリング脇から目にしていた煉はその中であることに気が付き、そのことを思わず口にする。


「あいつらの使う魔法ってなんか似てね? どっちも技出す度にいちいち壱の舞と弐の舞とかなんか言ってるし」


『お前も烈火七式何とかの型とかよく言っとるじゃろ』


 頭の中でアマテラスから鋭いツッコミをされ、思わず『あ、確かに』と煉は思ったがすぐ隣にいる加賀斗にはその声は聞こえていないので淡々とその質問に答えた。


「氷結神楽も神鳴り神楽も、桂木家お得意の儀式魔法だからだろ」


「儀式魔法ってあれだっけ、黒魔術をもう少しマシにしたやつ」


「そう、自身に縛りをかしたり、何かしらの代償を払うことで発動するのが黒魔術。それに対して儀式魔法は既存の魔法に何かしらの縛りをつけることによってその能力を強化させた魔法。例えば今あの2人が使ってる神楽は1の舞から2の舞とあらかじめ決められた番付に沿って技を放つことで徐々にその威力が上がっている」


 そこまで聞いた煉はすぐに今後の試合展開を理解した。


「つまりあいつらは今、お互い技を繋げながら準備してるのか、相手を確実に仕留められる必殺の神楽を」



……

「神鳴神楽、参の舞『閃雷(せんでん)』!」


 緩急をつけた独特の歩法により魔昼は暮魔の背後をとることに成功し、その背中にむけて刀を振り下ろそうとするが


「氷結神楽、参の舞『雪嵐(ゆきあらし)』」


 まるでそれを予測していたかのように、暮魔は体を回転させる。


 キーン! 暮魔の魔剣が魔昼の刀を弾き、さらにその回転に合わせて凍てつく冷気が彼の周囲に振り撒かれる。


「うっ!」

 

 至近距離でその冷気が直撃した魔昼の体はビクッ! と一瞬反応し、その動きも鈍ってしまう。


 その隙を狙って暮魔は次なる奥義を放つ。


「氷結神楽、肆の舞『氷月(ひょうげつ)』!」


 三日月形の氷の斬撃が魔剣から放たれる。


「神鳴り神楽、肆の舞『飛雷ひでん』」


 だが魔昼も凍える体を意地で動かして刀を振るい、その刀身からまばゆい雷を撃ち放つことで迎撃する。



「私の勝ちですね義兄さん」


 一連の攻防を経て魔昼は一度その攻撃の手を止めて暮魔に語りかける。


「あれ? なんでそう思うんだい?」


 不思議そうな表情で聞き返す暮魔。


「義兄さんの氷結神楽は氷雨、氷槍、雪嵐、氷月の4つの舞いからなり、たった今その全てを出し尽くしました。けど私の神鳴り神楽にはまだ1つ舞いが残ってます」  


「伍の舞『万雷ばんらい』、確かにあれは恐らろしい技だ。それまでの4つの舞のいいとこどりをした必殺技。そして僕の氷結神楽にはそんな強力な舞はない……まあけど君相手にならそれくらいがちょうどいいハンデかもね」


「そうですか」


 静かな怒りを込めて、魔昼は最後の舞を暮魔に対して繰り出そうとした。


「神鳴神楽伍の舞『万雷』」


 それはいま暮魔も口にしたようにこれまでの4つの舞全ての力を統合した総集奥義といっても過言ではない桂木魔昼の絶技だった。


 しかしその刃が暮魔の体を貫くよりも先に


「『天牢雪獄てんろうせつごく』」


 魔昼と暮魔を中心として黒い天蓋が突如としてリング上に降りた。


続く

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