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魔法のある青春  作者: ドル
9月 魔法がある対抗戦
86/103

第86話「焔」

(俺が知る天神煉ならば、これで勝敗は決まった)


 界人は自身の発芽させた無数の植物魔法の群れに、煉が飲み込まれるのを見てそう思った、いやそうならいことを祈った。なぜなら界人は誰よりも彼の成長に期待している者だからだ。


 そしてその期待に応えるかのように バーン!! 爆音と共にこの訓練ブースの天井にまで届くほどの巨大な火柱が上がり、魔法植物の大半を燃やし尽くした。


「あぶねー、いきなり終わったかと思った」


 そしてその火柱の真ん中で悠々とこちらに向かって歩いてくる人影が見えた。


「なるほどな、魔法植物は魔力を込めれば一瞬で発芽する。それさえあればどこでも少量の魔力で今みたいな大規模攻撃ができるってわけね。よく考えてあるじゃん」


「もっと規模が大きい魔法でそれを返したお前が言うな」


 界人の言う通り、一瞬にしてブース内の半分を燃え上がらせる炎魔法を行使した煉であったが、当の本人にはまるでその疲労が見えなかった。


 そしてそのからくりに界人は見当がついていた。先程まではなかった、煉の右手に握られている刀身の一部が燃えている魔刀。その刀から界人は煉自身の魔力とはまるで波長の違う別の魔力を確かに感じていた。


「それ精霊か?」



……

『なに!? もうバレてしまったぞ煉!』


 界人にズバリ言い当てられ、当の本人は激しく動揺していたが俺は至って冷静だった。


 こんだけ派手にお前の魔力使ったらそりゃバレるだろ。

 


 魔導精霊、それは魔法によって作られた人工生命。俺がいま会話している相手、アマテラスもその1人だ。精霊の分際でギャーギャーうるさい野郎だがそれと引き換えにこいつの力は本物、咄嗟に引き出した力でも界人を戦慄させるほどのでたらめな威力。


「そんじゃ今度はこっちから行くか」


 ガッ! そう言うが早いか俺は界人に一瞬で詰め寄り刀を振るう。


 スパッ! 界人は咄嗟に身を引いたため、あまり深くは切り込めなかったが、俺の斬撃は腹の部分を横なぎに切り裂いた。


 何の工夫もせずただ真っ直ぐ突っ込んだだけでこんな簡単に攻撃を当てられた理由は明白で、俺の一連の動きの速度が1学期とはまるで別次元のためだ。


 アマテラスと契約して手に入れた力は圧倒的な火力だけではない。俺は今まで自分の魔力だけで炎魔法と肉体強化のために身体に纏わす魔力を抽出していたが、今は炎魔法に関しては全てアマテラスから引き出す魔力で行使しているので、俺は肉体強化の方にのみ集中して魔力を割り当てられるようになった。


 その結果、界人を追い詰めた俺はとどめを刺すため刀を振り上げようとしたほんの刹那、彼の口から発せられた言葉を確かに聞いた。


「1つ、レベルを上げるか」


 パァー、俺が刀を振り下ろすよりも早く足元で魔法陣が輝き、その中から岩で形作られているごつい拳が飛び出て俺の胸を殴りつけた。


「ゲホッ!」


 ドスン! その衝撃で吹き飛ばされ俺は後方で尻もちをついた。


「『岩鐵人がんてつじん』」


 その一方で既に界人は次の魔法を唱え終わっていた。


 ガシッ! 先ほど魔法陣から突き出た巨大な拳が地面を掴んだかと思うと、そのまま魔法陣の中から全長3メートルはありそうな岩の巨人がはいでてくる。


「ゴーレムか」


 ゴーレム、地属性の魔法で出来た木偶の坊というイメージだったが今の目の前にあるこいつはそうじゃない。纏っている魔力が異質だ。


 そしてそれは界人も同じ。先程の攻防からまるで別人のように魔力の質が変わった。こんなことあり得るのか?


 俺がそんなことを疑問に思っていると、ゴーレムが俺に向けて鉄槌を振り下ろした。


 ドゴン!! 俺はそれをなんとか避けたため、鉄槌は床を叩き爆音が響く。


「アマテラス、合わせろ」


『仕方ない奴じゃ』



 俺の祖先、天神烈火が天神家に残したとされる魔導奥義『烈火漆式』。その基礎にあたる技、契約している精霊の魔力と己の魔力を合わせ本来の魔法の何倍もの破壊力を生む必殺の一撃。


「烈火漆式、壱ノ型……『ほむら』」 


 バコーン!! 焔が直撃し、ゴーレムを形成していた石の破片が上から隕石のように降ってくる。それを避けようとしたとき、背後から気配を感じて俺は咄嗟にその場にしゃがんだ。


 シュパッ、その瞬間先程まで俺の顔があった辺りで木刀が風を切った。俺はそのままの体制で後ろに体を向け、目の前にいる界人の足に向かって刀を振る。 


 ザッ! 界人は1歩後ろに身を引くことでこれを躱したが、ひとまず奴の奇襲はしのいだ。さらに剣術勝負ならこちらに分があると思った俺は距離を詰めて近距離戦に持ち込もうとするが


 パーン! 詰め寄った所をカウンターで左肩に突きを喰らった。続く左斜めからの斬撃は何とか防ぐが、そこから一気に界人に主導権を握られてしまう。


 そのまま攻撃を受けているうちにどうして自分が界人の突きをあんなあっさり喰らってしまったかがわかった。それは今の界人の魔力が全くと言っていいほど読めないからだ普通、魔法使い同士なら目を凝らせばなんとなく体を包む魔力が見えるものだが、今のこいつからはそれがない。正確には限りなく見えにくい。


 普通魔力はその練度が高いほど存在感が強くなるがこいつのそれはまた別次元、洗練されすぎて言われなければそこにあることさえ気づけない透明な魔力。


 こいつ強いのは知っていたがここまでやるのか、面白い。


『バカ、面白がっとる場合か』


 と、思ったらアマテラスに叱られた。まあ確かにこのまま面白半分にこいつの攻撃を受け続けても分が悪い、そろそろ反撃に出よう。


 アマテラス、次あの木刀に触れた瞬間最大火力で燃やせ。


『うむ、任せておけ』


 そう言った直後、界人が振るう木刀とそれを弾こうとした俺の刀が衝突する。すると前もって命令していた通りアマテラスは今俺が引き出せる最大火力を刀に纏わせてくれたため、そのまま界人の木刀を真っ二つに叩き切った。


 木刀という俺の斬撃から身を守る盾を失い、無防備な界人に止めの一撃をいれるため刀を振りぬく。だが界人は素早くポケットから何かを取り出しそれを投げつけてきた。


 目くらましか!


 投げられたものが魔法植物の種だとわかった瞬間に俺はその効果を予測して目をつむり、またそれと同時に効果が表れる前に刀で種を切って無力化させようとした。


 スパッ! 手から確かにそれを斬る感覚がしたところで、先ほどまで魔力で強化した腕で軽々と扱っていた刀が突然重くなり、手で持ち上げていられなくなる。驚いて思わず目を開けると、そこには刀の刀身を覆うように黒い樹木が巻き付いていた。


 なるほど、どうやら俺がいま切った魔法植物の種はつまりはそういうこと、恐らく最初に触れた物にこのようにがんじがらめに巻き付いて拘束する効果のようだ。


『アマテラス、燃やしてくれ』


 たった数秒で巻き付いていた植物は消し炭になったがそのうちに界人は俺の刀の刃が届かない安全な距離まで逃げ延びていた。


「やるね、1学期とは比べ物にならないくらい強くなった」


「お前これまで本気じゃなかったのか?」


「まあ彼も色々訳ありみたいでね」


 そう言いながら界人はポケットからまた魔法植物の種を取り出した。


 それをどうするつもりだ? またこちらに投げつけてくるのか、それとも持ったまま突っ込んでくるのか。


 俺は色々な可能を考え警戒していたが、あいつはそれを嘲笑うかのように持っていた複数の種を口の中に含みそのまま飲み込んだ。


「なっ!?」


 予想外の展開に俺は驚きの声を上げたが、さらに驚くことに飲み込んだ界人から大量の魔力が沸き上がりその身を包んだ。


「魔法植物は魔力を流して発芽させるだけじゃなくて、こうして逆にため込ませていた魔力を抽出することもできるんだ」


 戻ってる。


 ご丁寧に種を飲み込んで強くなった理由を解説してくれる界人を見て俺がまず思ったことがそれだった。今の界人からはさっきまで纏っていたあの異質な魔力は感じず、通常の魔力しか感じない。結局あれはなんだったんだ?


「お前なんか変わった奴だな」


「ああ、そうなんだ実は俺少し変わってるんだ。だがまあそれはそれとして、決着をつけようか」


 そう言う界人の背後に巨大な魔方陣が形成される。


「俺が耐えられるギリギリまで魔力を貸してくれアマテラス」


『わかっておる』


 それを見て俺も俺自身とアマテラスのありったけの魔力を刀に集中させる。そして互いに準備が終わったのを確認したところで、その魔法の名を唱える。


「烈火漆式、壱ノ型『ほむら』!」 


「『木竜きりゅう』」


 俺の刀から放たれた爆炎と、界人の魔方陣から現れた樹木で形成された一見蛇のようだが、それとは根本的に違う恐ろしい怪物の牙がぶつかり合いブース内に衝撃が走った。


続く

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