第84話「圧勝」
「初日からいきなり挑戦を受けることになるなんてね……」
9月2日。2学期初日の放課後に、私は訓練ブース内でこれから対抗戦への出場権を巡って雌雄を決する相手、新城マナちゃんを一瞥しながら思わず呟いた。
「夏休みの間バイトしたの、おかげで今それなりに懐があったかいからさっさと決めてしまおうと思って」
今の発言、何も知らず聞けば前半と後半の文がちゃんと繋がっていなくて、違和感を覚えるところだが彼女の使う、魔法……いえ呪術を知る私は思わず冷汗が出そうになる。
『銭投げ』、彼女が使う呪術は自らの所持金を力に変える。かつて同じチームとして戦った私はそのとてつもない破壊力を知っている。あれを相手に受けに回るのは不味い、開始と同時に全速力で詰めて一撃で終わらせる。
私はそう心に決めると、彼女に対して頷き準備ができたことを知らせる。
「じゃあ、試合開始」
彼女がそれを宣言すると同時に ダンッ! 私は床を思いっきり蹴り出し、事前に決めていたように一撃で終わらせるため全力疾走するが。
ジャラジャラ!! 私が彼女のことを刀の間合いに捉える前に、右手に握っていた無数の何かをこちらに向けてばらまいた。宙を舞うそれをよく注視し、その正体に気が付いた瞬間に私は急ブレーキをかけてその場に立ち止まり自分の真上から降りかかるソレを刀で慎重に払いのけた。
彼女がばらまいたのは大量の1円玉だった。『銭投げ』の力により、彼女が投げるそれは大量の爆弾となんら変わりはない。
バンッ! バンッ! バンッ! 実際、私が振るう刀の刀身に触れた1円玉は全て小規模な爆発をした。
何とか自分に直接触れそうな1円玉を全て払いのけることには成功したが、同時に私はもう自身が詰んでいることに気づいた。
なぜなら自分を中心とした半径1メートル圏内の床に1円玉が足の踏み場をない程ぎっちり埋め尽くしていたからだ。
「『銭投げ』!」
そう言い彼女の手元でエネルギー弾になった千円札を私は避けることもかなわず、真正面から被弾した。
……
「……って感じで負けてた」
翌日9月3日の朝。私は昨日、まんんまと新城さんの術中にはまり、瞬殺された事実をよりによってこの学園で1番知られたくない男にバラされていた。
「へー、新城の圧勝じゃん。ていうか魔昼弱っ」
予想通りの煉の煽りに私はイラつき覚えながらもそれを抑える。
「完全にやられた、新城さんの能力をよく知っているからこそ逆に引っかかるいい手だった」
「あいつ、一撃の破壊力だけだったらこのクラスで1番かもしれないからな。けどそうなると今度、俺達には新城に挑戦するっていう選択肢も出てきたのか」
「いや、それはできないわ」
「なんで?」
「だってその後すぐ再戦して私が勝ったから。結局、出場権はいま私の所に帰ってきてる」
「なんだそれ」
昨日、なすすべもなく完敗した私は、あまりの悔しさにその場で新城さんにすぐに再戦を求め、恐ろしいほどあっさり勝った。彼女曰く、『自分の呪術じゃ挑戦者といちいち戦ってたら対抗戦本番の前に破産してしまう。2学期は他にもイベントがいくつかあるからそれも見据えてここは貯金しておきたい』とのことらしい。
「まあ、確かに対抗戦に出場しなくても、魔昼ちゃんに勝ったと事実だけで充分評価されるだろうからね」
「あいつも色々考えてんだなー」
確かに、彼女の能力は連戦向きではないのでその判断は懸命だと思うが、勝ち逃げされたこちらとしては納得できなかった。その後いくらせがんでも普通の模擬戦もしてくれなかったし。
「まあ、なんか一波乱あったみたいだけど、結局序列1~5位の誰かを倒さないといけないのは変わってないってことか」
……
9月3日の放課後。俺、炎寺豪火は教室で待機していた。いつもなら授業が一通り終わると真っ直ぐ訓練室に向い、そこで飽きるまで模擬戦に興ずる俺だが、この日は担任の八神夜彦先生から『放課後になったら話があるから待っていて欲しい』と直接言われてしまったため、大人しく席に座って待っていた。
「なんだろうな、話って」
同じく教室での待機を命じられた風果に、暇つぶしがてら話しかける。
「まあ時期的に考えてみればやっぱり対抗戦のことじゃないの?」
対抗戦、神原学院の生徒と直接対決してその実力を見せ合う場。だがそれに参加できるのはクラスでも実力上位の者のみ、悔しいことに去年、一昨年と俺はその参加権を得ることはできなかった。
だが今年は去年までといくつか違う点がある。例えばまず、長らくうちのクラスの序列1位に君臨していた王条当間がこのクラスを去ったという点。
そしてもう1つは現在の序列1位、成神雷飛の不在である。詳しくは知らないが極天大魔導士となった雷飛は現在極秘任務中で、しばらくはこの学園に帰ってこないとの話を聞いた。
この2人は去年の対抗戦に出場し、その圧倒的な力で神原学院の魔法使いをねじ伏せた。だがその2人が今年は出場できないとなれば当然、出場枠に2つ空きができる。そして今、話があるとこの場に待機させられているのも俺と風果でちょうど2人。状況的に考えれば俺たち2人に対抗戦に出場してくれという話だろうと、推測はたつが1つだけ引っかかることがあった。
「なんで工藤の奴はいないんだ?」
工藤凶谷、現在クラス序列4位の男。工藤はそれまで万年クラス序列最下位であったが、前学期の期末考査で1回戦、その前の序列4位だった精蓮慈信羅を倒しその地位に上り詰めた男。俺は序列6位で風果は序列7位であるため、それより上の工藤がこの場にいないのはやはり少し引っかかる。
「あいつクラスで協力して何かを成し遂げるとか嫌いそうじゃん」
「間違いなく嫌いだろうな」
ガラッ、俺達ががそんなこと憶測をとばしているうちに扉が開き、ようやく弥彦先生が現れた。
「ごめん、またせたね」
俺達に一言謝ったのち、弥彦先生は教壇に上がりすぐに本題に入った。
「今日2人に残ってもらったのは他でもない、来月に開かれる神原学院との対抗戦のことでだ。今のところ3年で出場が確定しているのは序列2位の真叶、3位の星羅、5位の信羅の3人。そして残りの2枠には君たち2人に埋めてもらいたい」
事前に予想通していた通りの提案が弥彦先生からされた。となれば、同じく事前の段階で出てきていた疑問についても聞いておかなければならない。
「工藤は出ないんですか?」
「工藤くんはちょうど魔導祭の開催日にたまたま長期任務の依頼を受けていてね。本人からもそっちの方を優先させたいと直接言われてるから、現時点で出場メンバーの候補からは除外している」
それを聞いて俺と風果は恐らく同じことを考えたはずだ。
『先生はたまたまって言ってたけどあいつ絶対わざと被らせたんだろうな』
別に特別仲がいいわけではないが、それでも3年間の付き合いだから工藤はそういう奴だと理解している。さっき風果も似たようなことを言ってたが、あいつはクラスのためにとかそういう青春っぽいことを死ぬほど嫌悪している。
そのことは当然、弥彦先生も知っているのだろう。だから望まない工藤ではなく、俺達にこうして話を持ち掛けている。
「そういうことなら出させてください!」
「俺も出たい!」
この2年間ずっと外から応援するしかできなかった、あの舞台で戦える。そんな夢のような提案を俺は迷わず了承した。その先にどのような結末が待ち構えてるかも知らず。
続く




