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魔法のある青春  作者: ドル
9月 魔法がある対抗戦
80/103

第80話「生転大砲」

 9月1日、日曜日。高校生活最後の夏休みの最終日、鳴神雷飛はとある山奥のいまはもう廃墟とかした教会に来ていた。


「ここがそうなんか?」


「情報通りならそのはずだ」


 雷飛の後ろからそう答えた男の名は鳴神達哉(なるかみたつや)。彼は鳴神家の中でも当主である雷飛に継ぐ実力を持つS級魔導師である。


 そんな2人がこんなところまでわざわざ来た目的は当然バイキングなどではなく


「あれから7年……ようやくアイツを殺せる日がきたわけやな」 


 復讐のためであった。


 ゴーン!!!


 雨雲1つない空の下で突然、雷鳴が響いた。この場に誰かいたなら驚いて真っ先に空を見上げたところだろうが、実際にその音を響かせたのはお天道様ではなく、鳴神雷飛の右腕1本だった。


「行くで、達哉」


 そう言うと雷飛は、たったいま自分が起こした落雷によって教会に空いた直径3メートル程度の風穴の中に落ちていった。


「先走るなよ」


 その後を追うように達哉もまた穴の中に消えていった。



……

 タンッ!


 穴の中に落ちた2人はコンクリートで出来た地面の上に着地した。それにより、ここが自分達の予想通り廃教会の下に作られたある男の秘密基地であることを確信する。


「雷飛、探知領域だ」


 探知領域、それは自身の魔力を体外に放出させ、それに触れたものを認識するといういわばレーダーのような役割を持つ魔法である。雷飛は返事をするよりも先にそれでこの一帯を囲った。


「3人おるな。前方に1人、右の方に2人や」


「なら正面は俺が行く」


 反応が複数ある可能性は打ち合わせの段階でも挙げられていたので、達哉はその時に取り決めた通りの行動を進言した。


「死ぬなよ」


 雷飛がそう言った時には既に達哉は電光石火でその場を去っていた。


(ひょっとしたら、これが達哉の今生の別れになるんか?)


 雷飛は一瞬そんなことを考えたが、すぐにその不吉な予感を振り払うように、彼もまた目標に向けて駆け出した。



……

 バンッ! 目の前にあった鋼鉄の扉を蹴破り、雷飛は部屋の中へと侵入した。室内を観察してまず目に入るのは部屋中に張り巡らされた、たくさんのケーブル。それらは全て部屋の中心にある、人が1人問題なく入れる程度の大きさのカプセルに繋がっていた。


 カプセルの中身は空であったが、その背後に誰かがいることに雷飛は気づいていた。


「手を上に挙げて姿を見せるんや」


 雷飛はそう言ってから3秒待っても相手が動く気配を見せなかったため、静かに右腕の拳を振り上げた。本来ならその1秒後に拳のスイングと合わせて雷撃を放ち、標的を攻撃するつもりだったが パリン!! それよりも一瞬早く相手の魔法が発動した。


 カプセルを貫通して、凶器のように先のとがった複数の電撃が四方から雷飛に襲い掛かる。だが次の瞬間に雷飛の姿はそこにはなく、カプセルの後ろに隠れていた人影、そのさらに背後にあった。


「女やんけ」


 そこに来て、ようやく雷飛は人影の実態を視認した。口にもした通り人影の正体は少女、見たところ歳は雷飛よりも少し若い程度というこの場には不釣り合いな外見であるが、それでも彼は


「警告はしたで」


 その言葉と共に容赦なく自身の前方に魔法陣を展開し、先ほど教会に風穴を開けた時よりも強力な雷撃をそこから放った。


 バゴーン! 回避も防御も間に合わず、少女が閃光の中に消えていったのを確認すると、雷飛はすぐにそちらに背を向け改めて部屋の中を見回す。


 なぜなら、前に自分の口からも語ったように、雷飛はこの部屋から2人分の気配を察知した。つまりいま無力化した少女を含め、あと1人この部屋には誰かいるはず。


 パチッ その時、これまで薄暗かった部屋に明かりがつく。突然の光によって雷飛の目は一時的に不能になるが、すぐにこの部屋全体に探知領域を広げることでその隙を補う。するとこの部屋の隅の壁に誰かがもたれて突っ立っていることを察知した。


 やがて目が慣れ、明瞭となった雷飛の視覚がとらえたのは今回の任務のメインターゲット。7年前、自身の目の前で兄を殺し、それ以来探し求めていた復讐対象。


「久しぶりだね、雷飛」


「ああ。そんでもってさいならや、琉生るい


 バゴーン!! 直後、赤い雷が男ののいたところを吹き飛ばした。


(手応えはあった……けどこいつはこの程度で死なんはずや)


 反撃を警戒しながらも、雷飛は自身の魔法によって舞った土埃が収まるのを待った。


「いない」


 雷飛が呟いた通り、琉生の姿はそこから消えていた。その変わり床には下へと続く穴が空いていた。


「今日はなんか落ちてばっかやな」


 雷飛は迷う素振りも見せずその穴に落ちていった。


……

 タッ 穴を落ちきった先にあったのは神森学園の対戦ブースを1周り小さくした程度の部屋、部屋の壁際に魔獣の死体が何体か見えることから誰かの狩り場だったようだ。


「動物虐待にでも目覚めたんか?」


 部屋の真ん中で自分を待ち構えていた琉生に雷飛は聞いた。


「こんな僕にも最近弟子ができてね、ここは彼女の鍛練所だったんだ」


「その女なら上で消し炭になっとるで」


 それは嘘だった。18歳でありながら魔法使いの頂点、極天大魔導師の1人に数えられる雷飛は、いざとなれば自身の手を汚す覚悟も当然持っていた。だが敵意を向けてきたとはいえ、出会い頭に未成年の少女を無慈悲に殺したりはしていなかった。


 恐らく先の一撃で少女は重症で動けこそしないだろうが、命に別状はない程度のダメージですんでいることは、これまで培った経験から理解していた。


 なのでこれは見え透いた安い挑発でしかなく、たいした効果は見込めないだろうと雷飛は予想していたが、この予感は外れた。


「鳴神の人間があまりふざけたことを言うなよ」


 これまでよりも低く、冷たくなった一言と共に琉生の左右に魔方陣が展開され、その中から緑色に光る光弾が放たれる。


 雷飛はこれを通常よりもかなり大きく距離を取って回避した。


 バゴーン!! 先ほどまで自分がいた場所は床がえぐられ、クレーターを形成していた。雷飛はこの空間に落ちてきた瞬間から察知していたが、琉生が先に語ったようにここは普段魔道の鍛錬に使われているため、主に床と壁にかなり強固な魔道防壁が張られていた。


 その床を易々と削り取った魔法の正体を雷飛は既に知っていた。


「『生転大砲』……自身の生命力を破壊力に変換して打ち出す。魔法というよりは呪術に類するものやな」


「よく調べたね。この呪術は文字通り僕自身の命を削る。代償を払った分だけ高威力になる呪術においてそれは最上位に当てはまる」


(これを数発まともに被弾すれば、いくら今の自分でも死んでまうな)


 改めて生転大砲の威力を目にした雷飛はそう確信していた。だからこそ琉生が次弾を放った瞬間に、彼はそれに向かって駆け出した。


 まともに被弾すれば敗北に直結するであろうその攻撃を紙一重でかわしていき、琉生の懐に潜り込む。


「死ねや」


 冷たい一言と共に紫に光る拳を琉生に向けて突き出す。それを受け止めようとした琉生の左手は、雷飛の拳に触れた瞬間に吹き飛んだ。


 だが残った手首からは血の一滴も流れなかった。変わりに白く光る触手が無数に現れ雷飛の拳をそのまま拘束した。


 雷飛は力づくでその触手を引きちぎるため、右手を自身の方に寄せようとしたが、不意に力が抜けてその場に膝をついてしまう。


「俺の魔力を……」


「そう、吸収してるんだ。心配しなくてもすぐに返すよ」


 琉生は空いている左手で魔法陣を展開し、雷飛が態勢を整える隙も与えず生転大砲を撃ち込んだ。


続く

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