表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法のある青春  作者: ドル
9月 魔法がある対抗戦
79/103

第79話「似合って……」

 ドタ、ドタ、ドタ。


 煉の自室を飛び出した私は、そのまま玄関の方に向かっていた。 


 ガタン! その途中通りすぎた襖の1つが空いた音がしたかと思うと、私を呼び止める声がした。


「魔昼ちゃんどうしたの?」


 声の主は明日香ちゃんだった。


「私、今日はもう帰るね。また明日」


 短く別れの挨拶を済ませ、私はまた足を進めた。


「ちょ、ちょ、待ってよ魔昼ちゃん!」


 それに並走するように明日香ちゃんはついてきた。


「で? 今度はなんでまた煉と喧嘩になったの?」


「別に喧嘩なんてしてない」


「あーじゃあ、煉がなんか地雷踏んで魔昼ちゃんが一方的に怒っちゃったパターンか」


「怒ってもいません!」


「いやいや、さすがに長い付き合いだから分かるよ? 今の魔昼ちゃん明らかにいつものスイッチ入ってるし、何やってたか知らないけど2時間近く部屋で2人っきりかと思ったら突然飛び出して『もう帰る』なんて言い出すんだもん」


 こうして客観的に自分の今している行動を伝えられると、我ながらめちゃくちゃで呆れてくるが、正直いまは1人にしてほしい気分だったので私は彼女の追及を振り払うように玄関まで急いだ。


「わかった。その話は明日するから、とにかく今日は一旦帰るわ」


「いやー、それはちょっと難しいと思うよ~」


 『どういう意味?』と私が聞くよりも早く、玄関の扉を開くと共に答えは現れた。


 ザァー、ザァー、ザァー。


 玄関の扉を開けると、そこでは上から打ち付ける大粒の雨水のせいで、前方の風景すらちゃんと見えないほどの土砂降りが降っていた。


「なにこれ?」


「今日はところにより激しい夕立が一時的に襲うでしょうって、天気予報でも言ってたからね~。どうする? このどしゃ降りの中を風邪引く覚悟で帰る? それとも煉と何があったか私に話ながら雨がやむのをここで待つ?」



……

 大雨のおかげでしぶしぶ帰ることを諦めてくれた魔昼ちゃんをとりあえず客室に通して、そこで私、椎名明日香はことの顛末を聞かせてもらった。


「なるほどねー、それで今日はおしゃれしてきたんだ」


「そうなのよ! なのにあのバカ……!」


「うん、うん。それはどう考えても煉が悪い、魔昼ちゃんの言ってることは正しいわ」


 私は彼女の言葉に何度も深く頷きながら同意の意を示し、理解者の顔をしていたが、内心では……


 この人バカなのかな?


 と、衝撃を受けていた。

 

 前から思ってたけど魔昼ちゃんって煉に関することとなると著しく知力が下がるのよね。正直今からもう1回、煉の所に行って『このスカート似合ってる?』って一言聞けば全部解決すると思うんだけど、まあまず間違いなく却下されるんだろうな。


 仕方ない、ここはまた私が一肌脱ぐか。


「そういうことなら私に任せて魔昼ちゃん!」



……

 魔昼ちゃんにはそのまま客室で待ってもらい、私は1人で煉の部屋へ訪れた。


「煉いるー?」


「なんだ今度は明日香か」


 部屋に入るとそこには机に座って課題に打ち込む煉の姿があった。


「宿題終わりそうなの?」


「あー、多分あと1時間内ちょいあればな。意外となんとかなるもんだな」


「そう、ところで魔昼ちゃんのことなんだけど」


 課題の進行ペースを確認したところで私は本題を切り出す。


「魔昼? そういえばさっきわけのわからんこと言って出てったな」


「あんた、魔昼ちゃんがスカート履いてきたの気づいてた?」


「スカート? バカ言えあいつがそんな色気づいたものを着るわけ……」



……

「あ、着てるわ」


「だから言ったでしょうが」


 魔昼ちゃんがスカートを履いてることに気づいてもらわないことには話が進まないので、私は魔昼ちゃんが待機している客室を覗き見れる、廊下の曲がり角まで煉を連れて来てその事実を確認させていた。


「あいつも意外とああいうの着るんだな」


 いやさっき魔昼ちゃんから聞いた話だとあんたの目の前で買ったらしいですけどね。


 こういう時、恋愛漫画なんかだと最後のオチで実は彼女の変化に気づいていた主人公くんがサラッとそのことに触、いい感じの雰囲気になって終わるものだけど……まあこのバカにそんなことを求める方に無理があったか。


「あれどう思う?」


「どう思うって、まあ珍しいなーって」


 こいつぶん殴ってやろうかな。


「そうじゃなくて似合ってるか似合ってないかよ!」


「え? ああ、まあ……それなりにいい感じなんじゃないか?」


 恥ずかし気に、口ごもりながらも煉はそう言う。まあこんな表現でも、こいつにしては譲歩してくれたほうか。


「じゃあそれを直接言ってきなさい」


「え? なんで?」


「いいから! 早く行かないとさっきまで頑張ってやってた課題を全部燃やすわよ」


「行く! 行きます! 行かせていただきます!」


 謎の行くの三段活用をした煉はそのまま早足で魔昼ちゃんの待つ客室の中に消えていった。


 するとすぐに中から2人の賑やかな声が聞こえてきたので私はそちらの方に背を向け歩き始めようとしたところ。


「お疲れい」


「わっ!」


 いつの間にか背後にいた加賀斗に声をかけられて驚き、私は思わず声をあげてしまった。


「ほれ、頑張ったご褒美」


 そう言うと加賀斗は左手に持っていたアイスバーをこちらに向けてくる。


「いつも痴話喧嘩の仲裁ご苦労様です」


「どうも」


 おかしい。


 ありがたくアイスを受け取りながらも、私はこの加賀斗の優しさに違和感を感じていた。


 私がよく知っている彼なら、こんなことでいちいち労ってくれたりはしないはずだ。まさかとは思うけど……


「あんた気づいてるの?」


「何がー?」


 気づいてるな。


 長年の付き合いのおかげで私は加賀斗が今しらばっくれる演技をしているのだとすぐに見抜いた。


 その証拠に加賀斗はわざとらしく『暇だし道場で自主練するか~』なんて言ってそそくさとこの場を離れていく。


「ほんと、加賀斗家の人間はそういうところまで鋭くて困るわ」


 私は既に廊下の曲がり角に消えたその背中に向けて悪態をついた。



……

「うわー、機嫌悪そうだな」


 部屋に入って魔昼と目があった瞬間に俺は思わず悪態をついた。


「別に悪くないし、それよりあんたは私に構ってる暇なんてあるの?」


 ふくれっ面のまま魔昼はそう言う。まあ確かに、課題もまだ終わってないしさっさと用を済ませてしまおう、と思っていたが


「そのスカート」

「え!?」


 俺はこの時、本当なら素直に『そのスカート似合ってるな』と言おうと思っていたが、その途中でスカートという単語に反応して出た、魔昼の大声に遮られてしまった。


 魔昼はすぐに『しまった』といった感じで自身の口を両手で塞ぎながら、俺に目で『もう1回言って!』と訴えてきた。


 俺だって元からそうするつもりだったが、僅かだが口角があがり、目が喜びの感情で染まっている魔昼の顔を見た瞬間、急に自分が今からしようとしていることに恥ずかしさを感じてしまい、結果俺は発言の内容を変えた。


「そのスカート……この間、映画観たときに買ってたやつだよな?」


 俺がそう言うと魔昼は一瞬がっかりしたような顔になるが、すぐに意地悪そうな笑みに表情を変わった。


「そうよ、ところで私がこれを買おうとしたとき、あんたは『お前にこんな女の子っぽいスカートは似合わなそうだな』って言ってたけど、実際いま私が着てるのを見てどう思うのよ?」


 チェックメイト。


 頭の中で誰かがそう言った気がする。俺がさきほど寸前のところで回避したはずの剣を目の前にいる死神はにこやかに拾い上げ、いまもう一度俺の首筋にその剣先を向けてきた。ていうか、なんでこいつはあの時に俺が言った言葉を一言一句、違わず覚えてるんだよ。性格悪いな。


 ともかく、この質問をされたら俺はイエスかノー、つまり似合ってるか似合ってないかのどちらかを答えなければならない。


 もしもここで俺が似合ってないなんて答えれば、明日香と先ほどした約束を反故したことになり、俺が今日半日かけて殆ど終わらせた夏休みの宿題が燃やされる。あと別にこれっぽっちも気にはしないが多分、魔昼が傷つく。


 しかし、かと言ってここで似合ってると素直に答えると、さっき発言の内容を変えた意味がなくなり、なんか負けた気になるから嫌だった。


 そんなどちらも選べない極限状態に突如として追い詰められた俺は、脳内をフル回転させてなんと答えるか数秒かけて結論を出した。


「似合って……ないわけでもないな」


 そう言うと魔昼の目が一瞬、点になる。それから2秒ほど黙って考える素振りを見せた後で、こう反応した


「それってつまり似合ってるってこと?」


「似合って……ないわけでもない!」


 俺はただ同じ言葉を復唱した。


「だからそれは似合ってるってことでしょ!?」


 そのことに怒った魔昼は声を荒げながらも再び同じ質問をしてきた。そして俺は当然これに対しても


「似合ってないわけでもない!!」


 同じ言葉で返す。


 それを聞いた魔昼はしばらく俺のことを睨みつけた後、不意にその視線を切り、


「はぁ~」


 と大きなため息をついた。


「あんた何回聞いてもそうとしか答えないつもりね」


「似合ってないわけでもない!」


 俺がご希望通りの言葉を返してやると魔昼はめんどくさそうな顔をして、こちらに手の平を見せて静止するようハンドサインで伝えた。


「あー、はい、はい、わかった、わかった。まあ今日はこれで勘弁してあげるわ」


 魔昼はそう言ってから何かに気づいたのか、不意に顔を俺から見て左に向けた。


「あ、晴れてる」


 魔昼の視線を辿った先にあった部屋の窓からは、確かについさっきまで空を覆っていた雨雲の隙間から、日光が差しているのを確認できた。


「……じゃあ、私そろそろ帰るわ」


「おう、そうかまた明日」


「課題ちゃんと終わらせなさいよ」


「わかってるよ」


 俺がそう言うと魔昼は部屋から出て行こうとするが、襖を開けたところで一度足を止め、それから何か迷うような仕草を見せてからこちらに振り返ってきた。


「煉、今日はその……ありがとう!」


「……どういたしまして」


 そう言うあいつの笑顔を見たとき、俺は自分の気持ちに素直になれなかったことを少しだけ後悔した。



続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ