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魔法のある青春  作者: ドル
6月、7月 魔法がある試験
77/103

第77話「それぞれの夏」

 7月23日金曜日。神森学園ではこの日から夏休みが始まり、多くの生徒は学園を離れた。


 その1人である神森学園特別クラス1年の神崎刃、ソウシの両名は神崎家現当主である神崎剣かんざきつるぎの自室に呼ばれこの入学してから約4ヶ月間の報告をしていた。


「そう、刃は序列2位、ソウシは序列4位でユミが10位か」


 この場にはいない神崎ユミを含めた最終的な3人の成績を聞いた剣は顎を右手で撫でた後、実子である刃ではなく養子であるソウシの方に笑いかけた。


「ソウシ、手を抜いたね」


「いいえ、そんなことはありません」


 剣に真っ直ぐ視線を合わせられながらもソウシは悪びれもなく、『何のことやら』といった態度で言葉を返す。


「いや生真面目な君のことだ、主である刃よりも目立つのは良くない、かといってあんまり呆気なく負けると今度は神崎家の地位が下がると考えた結果がこれなんじゃないか?」


「根拠のない妄想ですね。当主は昔から俺のことを持ち上げすぎです」


「まあ君がそれで満足してるならいいけど、手を抜く癖が着けすぎるとといざって時に本気を出せなくなっちゃうから気をつけなさい」


「まあ、一応肝に銘じておきます」


 ソウシの一挙手一投足を楽しむように観察していた剣だが、彼との話はここで切り上げて最後に『ついで』といった感じで刃に目を向けて言った。


「刃、まあ君の今の実力ならここら辺が妥当な結果だね。2学期からもこの調子で励みなさい」


「はい、そうします」


 そう言って刃が頭を下げた時、床についた手に酷く力がこもり震えていたことに剣は気づいていたが、特に興味もない様子でそのことに触れることはなかった。



……

 ザァァァー! 上から流れ落ちる水音だけが響き続ける滝壺の中、霞一花は1人淡々とその水に打たれながらも瞑想を続けていた。


「随分気合が入ってるな、一花」


 そんな一花に声をかけた男の名は霞紫苑かすみしおん、彼は霞家に2人しかいないS級魔導士の1人で一花が物心ついた頃から魔道の手ほどきをしている師匠である。


「紫苑さん」


 紫苑が来たことに気が付いた一花は一度滝の中から出て彼に近寄る。


「一学期は満足できる結果を残せませんでしたから、来学期に備えて1秒も無駄にはできません」


 それを聞いて紫苑はここで少し一花を試すことにした。


「期末考査の結果は2回戦敗退、そして序列順位は6位。これは同じく2回戦敗退だった加賀斗暁の1つ下に当たる順位付けとなるが、そのことについてはどう分析している?」


 その質問に対し一花は特別迷うような仕草も見せず即答した。


「2回戦で負けたのは単純に私の実力不足です。今の私では例え何度やってもあの男、神崎ソウシにはかなわないでしょう。順位についてはそうですね……悔しいですが妥当な評価ですね、加賀斗暁は2回戦で敗退した4人の中では明らかに頭1つ抜けた実力であると思います。恐らくクラスの中で最も相性の悪い魔昼さんが相手でなければ彼は3回戦まで進んでいてもおかしくなかったでしょう」


 この答えに紫苑は面を食らってしまう。なぜなら一花の発言が恐ろしく正しかったからだ。


 紫苑がよく知っている神森学園に入学する前の霞一花という人間は、心の奥底では事実が分かっていても、プライドや負けず嫌いであまり他者を認めない難義な性格が邪魔をして、自分を下げるような評価は絶対に認めることはなかった。しかし今、彼女はありのままの現状をしっかりと受け止めている。


「成長したな一花。お前を界人と一緒に神森学園に入学させたのは正しかったようだ」


「何を言ってるんですか? これから成長するんですよ。さあ早く修行を始めましょう! 言ったはずですよ、1秒だって無駄にできないって」


……

 ガラッ、扉を開け椎名明日香は道場に1人、足を踏み入れた。いつもなら先に煉や加賀斗が自分よりも早くきて鍛練に励んでいるところだが、昨日から煉は祖父である烈心と地下の修練場で修行中、加賀斗は学園に残ったままであるため、いまそこには誰もいなかった。


 がらーんとした道場内を実際に目にすることで、明日香は今日からはしばらくこの静かな空間に身をおくことになると改めて認識し、その事実に少し寂しさを覚えたが、一度目を伏せそんな必要のない想いは一切捨てる。


 変わりに思い出すのは数日前の戦いの記憶、期末考査で神崎刃と1回戦であたり敗北を喫した時のことを鮮明に頭の中で再現する。


 周囲の人間は誰も負けたことを別に責めたりはしなかった。自分に気を使って『しょうがない』、『相手が悪かった』と言って励ましてくれたが、彼女にとってそれは『自分が御三家の実子である刃に負けるのは当たり前』と言われているようで逆にそれを腹立たしく感じていた。


 その時の悔しさで胸がいっぱいになったところで明日香は閉じた目を見開き呟いた。


「うるさい奴らがいなくてちょうどいいし、私もこの夏でちょっと強くなっちゃいますか」


…… 

 多くのクラスメートが早くも2学期にむけて修行に励む中、新城マナはただ1人自宅の居間で大の字になって寝ながらその時を待っていた。


「マナ、あんた夏休みだってのにずっと家でスマホいじるかゴロゴロするばっかで、鍛錬とか宿題はしなくていいの?」


 それを見た母は思わず説教をしたが、マナはそれに逆上することもなく体を起こして淡々と語りだした。


「お母さん、私あんまり夏休み好きじゃなかったんだ」


「え?」


「うちって貧乏だから旅行とかに連れてってくれないし、私が家にずっといることを利用してお母さんは自分の内職手伝わせるし」


「そんなこともあったかしらね~?」


「けど今年からは違うわ。なぜなら……」


「なぜなら?」


 ブー、ブー。


 その時ちゃぶ台にのせていたスマホが鳴った。それに気づいたマナは目の色を変えて話を中断し、それを手に取り電話に出た。


 

「もしもしー。……はい、そうです新城マナです。……明日の15時ですねわかりました、失礼します」


「マナちゃん今の電話は?」


 電話を切ったマナは毅然とした態度で話を再開する。


「話の途中だったわね。お母さん、高校生になった私の夏休みはこれまでの夏休みとは違う……なぜなら私はバイトができます!! そして今のはさっき申し込んだバイト先から面接の日時の連絡!」


「バイト!? バイトなんて大丈夫なのマナちゃん? あなたはどちらかといえば少し人格に難がある人間よ! まだ社会に出るのは早いんじゃない?」


「それは多分育ててる人の人格にも難があるせいだと私は思うぞ、母よ」


 心配して思わず自分の肩を掴んだ母の手をマナは振り払い、そのまま居間を後にする。


「とにかく! 私はこの夏バイトをする! そしてこの毎月たった2000円のお小遣い生活から脱却する!!」 



……


 一方で、夏休みになっても変わらず神守学園に残る生徒も数人いた。


……

「夏休みだってのにまさか誰も家に帰らないとはな」


 特に前もって決めてたわけでもないのに関わらずガラガラの学生食堂で陣、アロスの2人と顔を合わせた迅雷は思わず苦笑した。


「僕はこうなると思ってたよ」


「白々しい、お前だって俺達が帰らないってことはわかってたろ」


 そう、言葉に出していないだけで本当は迅雷も薄々こうなることは分かっていた。なぜなら3人はとある共通の目的をもってこの学園に残っているのだ。


「じゃあお前らもやっぱりお目当ては桐八の夏期講習か」


「そう、桐八先生がこの夏休みをフルに使って参加者を基礎の基礎から鍛えてくれるっていうんだ。期末考査で満足いく結果が残せなかった俺らがそんなチャンスをみすみす逃すわけがない」


「家に帰っても強くなれないしね」


 2人が自分と全く同じことを思っていまこの場にいることを再確認して迅雷は素直にそれを喜んだ。


「おっし! こうなったら俺ら3人で強くなって次の期末考査こそトップ3を独占しようぜ!!」



……

 その頃、同じく神森学園の校門で神森学園特別クラス1年の臼井桃子がクラスメートの片桐夏樹、黒森蓮見の2人に見送られる形でこの学園を後にしようとしていた。


「それじゃあ私は夏休みの間は村に帰るのでここで一旦さようならですが、新学期には必ず朝一番で帰ってきますし、2人宛てにお手紙も毎日書きますからね! 私のこと忘れないでくださいよ!!」


「せめてメールにして」


「お前はいちいち大袈裟すぎだ!」


 まるで今生の別れのように泣きわめく桃子だが、彼女のそういう部分に既に慣れつつある2人はいつも通りの態度でそれを見送る。


「さようならー! また必ず会いましょーう!」


 太陽をバックに大手を振って駅へと向かう桃子が見えなくなるまで片桐と蓮見は手を振り替えしていた。


「……蓮見は帰らないんだっけ?」


「ええ、私は夏期講習に参加するつもりだから」


「なんか以外だな、お前がそこまで向上心高いとは思わなかった」


「私だって負けたら普通に悔しいと思うわよ。それに、この夏期講習は多分私のために開いてるんだろうから、参加しなかったらなんか悪いじゃない」


「いやそんなわけあるかー! どんだけ自意識過剰やねん!」

 

 黒森の自己中心的な考えをいつものボケだと判断した片桐はもはや反射の領域で彼女に突っ込みを入れる。

 

「そういうあなたは家に帰らないの? 夏期講習には参加しないでしょ?」


「うん? まあ……」


 そう聞かれた片桐はばつが悪そうに頬を指で少しかきながら言った。


「なんというかちょっと踏ん切りがつかなくてな……まあ2、3日以内には多分私も帰ると思うよ」


 意味ありげな発言をした片桐だが、蓮見はそのことに興味がないのか、気を遣ったのか、とにかくそれ以上特に追及することはなかった。


「それならちょっと今日はこの後映画でも観に行かない?」


「お、いいね。ただ、またホラー映画は嫌だぞ」


「……楽しみね、今日の映画も」


「誤魔化すなよ! 絶対またホラー映画見せる気だろ!」



……

「おや?」


 神守学園特別クラス3年生の担任を勤める八神夜彦は廊下を歩いてる所をある生徒に呼び止められ驚いた。


「君はてっきりもう家に帰ったと思ってたけど、私に何か用かい? 加賀斗暁くん」


 3年生の教員である彼と1年生の加賀斗は本来接点は少ないはずだが、加賀斗は彼と同じ闇の属性魔法の適正持ちであるため何度か弥彦から個人指導を受けていた。


「いや俺も本当は家に帰ろうと思ってたんですけど、オヤジが加賀斗家として教えることはもうだいたい教えてやったからこの夏は夜彦先生に揉まれてこいって」


「啓生の奴、余計なことを……」


「あ、すいません! 迷惑なようだったら俺やっぱり家に帰りますけど」


 オヤジの名に続いてでてきた『余計』という言葉に反応して加賀斗は両手を振ってこの話をなかったことにしようとするが。


「あー、いやそういう意味じゃないんだ、勘違いさせてすまないね。うん、私でよければこの夏の間君の面倒を見させてもらうよ」


「じゃあよろしくお願いします!」


 その時、なぜか夜彦の目が赤くなり見方によって今にも泣きそうな顔にも見えたが、加賀斗はなんとなくそのことには触れられなかった。



……


 若人達がそれぞれの夏にむけて歩み出す中、その裏で暗躍する者たちもいた。


……

 ドタ! ドタ! ドタ! 


 薄暗い廊下を騒がしく移動している男の名は夜神火月。約2ヵ月前に突如神守学園を襲撃した謎のテロリストの1人。


 ドンッ! 彼はかなり苛立った様子で廊下の先にあった扉を蹴り開け、中に入るなり室内にいた女性に対して吠える。


「咲夜! まだお前の石遊びは終わらねーのか!? せっかく魔導協会に喧嘩を売ったのにいつまでこんな穴蔵に引きこもらせるつもりだ!」


 椅子に腰掛け、何かの資料を閲覧していた昨夜と呼ばれた女性は手に取っていたバインダーをパタンと閉じ、面倒くさそうに火月の方を見た。


「仕方ないでしょー、神森学園から盗んできた『コレ』が想像以上にミステリアスでまだ解析が10パーセントも進んでないんだから」


「しるか! いいからさっさとそれを使って『あのお方』を復活させろ!」


「そんな無茶言わないでよねー、これが失敗した時点で私達の計画は丸ごとおじゃんなのよ。だいたいそんなに戦いたいなら琉生の方の手伝いに行けばいいじゃない」


「俺は夜人と違って人形遊びに興味はない」


「いやそうじゃなくて、聞いてないの? 琉生の奴が例の協力者を通じて情報を流して近々ちょっと前に捨てた施設に極天魔導士をおびき寄せるんだって」


「何!? それは面白そうだな、俺も一口嚙ませてもらうか」


 一瞬で上機嫌になった火月は口笛を吹きながら足早にその場を後にするのを見て、昨夜はそのあまりの単純さに呆れてため息をひとつつき、それからまた作業に戻ろうとしたところで、パタン、背後で再び扉が開く音がした。


「なーに火月? まだなんか用が、っておお! これはこれは当主殿でしたか失礼いたしました」


 扉から新たに入ってきた男、夜神心月を見て昨夜はわざとらしくそういってから椅子から立ち上り心月をからかうように会釈をした。 


「どうですか解析の方は?」


「今さっき火月にも聞かれましたが全然ですね。これだと計画が本格的に始まるのにあと10年はかかるかもです」


「まあ実際今の我々に『アレ』の全貌を解明するには例え10年あっても足りないかもしれません。ただ用は運用さえできれば私達の計画は始められます」


「お、とういうことは見つかったんですね、実験体が」


「ええ、あなたも聞いたことはあるでしょう? 私と同じ八厄災の一角である『魔女』の悪名については」


続く

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