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魔法のある青春  作者: ドル
6月、7月 魔法がある試験
75/103

第75話「解放」

 7月21日水曜日。結局入学して始めての期末考査は決勝で刃を破った魔昼が優勝したらしい。


 らしいというのは、この結果は俺が直接目にしたわけではなく2回戦で魔昼に負けた加賀斗づてに聞かされたものだからだ。


 期末考査中は通常の授業は行われないので、基本的に途中で敗退した生徒は残りの試合を観戦するのだが、それはあくまでも生徒が自主的に行っているもので学校側が強制しているものではないため、実質休日と言っても差し支えない時間になる。


 そんな貴重な自由時間を俺は、加賀斗に負けて目を覚ました直後から襲う微熱と鈍い頭痛のせいで自室のベッドで寝たきりで過ごすはめになった。


「あーつまんねー!」


 この2日で死ぬほど見た天井のしみを見つめながら俺は嘆くが、いまルームメイトの加賀斗は部屋を出て食堂に行ってしまったので誰もその言葉に反応する者はいない。


「つまらん!」


 静寂に耐えかねて放った俺の声が部屋の中で虚しく響く。



……

「なんだ今日も煉はいないのか」


 食堂で珍しく1人の加賀斗に声をかけたのは刃、スグル、マリの3人だった。


「あいつは相変わらず体調不良」


「いいのかよ?」


「何が?」


 主語のないスグルの質問を加賀斗は質問で返した。


 ため息をひとつついてからスグルはあらためて聞き返す。


「あの天下の天神家の魔法使いが期末考査でなんの成果も残せなかったどころか、よりによって隷属している家の人間に負けるなんて普通に考えて大問題だろ」


「……やっぱりお前は煉本人じゃなくて家の心配の方をするよな」


「あ?」


「天神家と神崎家の教育方針は違うってことだよ」


(この2人って実は昔からこうなんだよね。馬が合わないというかなんというか)


「まあまあ、結局俺もスグルも魔昼さんに負けて優勝できてないんだからあんまり偉そうなことは言えないよ」


 スグルと加賀斗の間の空気が不穏になってきたところで刃は一度スグルをたしなめた。


「魔昼ちゃん強かったねー」


 同じくマリもこれ以上空気が悪くなる前にこの場の話題を変えようとする。


「よく考えたら、俺が2回戦でスグルが3回戦、刃が決勝で負けてるから、今ここにはちょうど魔昼被害者が集まってるわけか」


「そういえばスグルくん対戦が終わった後、魔昼ちゃんと何か話してなかった?」


「うん? ああ、別に大した話じゃないよ」



……

「流石にそろそろ休憩にしない?」


 しんどそうに膝に手をついた状態で、椎名明日香はもう随分前から思っていた言葉をついに我慢できず、目の前にいる魔昼に投げかけた。


「お腹も空いたし、一旦お昼ご飯でも食べてから続きにしよ?」


 2人はかれこれ4時間近くぶっ続けで体育館で鍛錬に励んでいたので、明日香が根を上げたのは至極当然、むしろここまでよくついてきたというべきだろう。


 しかし魔昼はその提案に対して。


「そうね、けど私はもう少し続けようと思うから、悪いけど明日香ちゃんだけ先に行って食べてて」


 そう言うと魔昼はまた鍛錬を再開しようとしたので、明日香は慌てて魔昼の手を掴みそれを止めた。


「待って魔昼ちゃん。休憩はしないとダメだよ、これ以上は続けたらさすがに体を壊すって!」

  

 明日香は魔昼のことを本気で心配して止めようとしている。そしてその彼女の想いに気がついていながらも、魔昼は素直にはそれを聞き入れず、歯切れの悪そうな顔をしていた。


 その顔を見た明日香は思わず、ここ数日ずっと気づいていながらも敢えて触れずにいたことを聞いた。


「魔昼ちゃん期末考査が終わってからなんか変だよ。せっかく優勝できたのに全然嬉しそうじゃないし、それどころか毎日鍛錬ばっかりで、なんだかこう……余裕がないみたいな。私、心配だよ」


 しっかりとした言葉にはできなかったが、明日香なりに精一杯ここ数日魔昼に感じていた違和感を伝えた。


 そしてそれをしっかりと聞き取った魔昼もここ数日における自身の心境を振り返り、答えた。


「……勝てなかったから」


「え?」


「私、スグルに勝てなかった」


「いや、けど魔昼ちゃんは3回戦で確かに神崎スグルに勝って……」


「試合という形式上ではね……けど、最後あいつにとどめの一撃を入れる時に目が合ったの、そしてその瞬間わかった『あ、この攻撃は避けられる』って。けどあいつは避けなかった、間違いなくわざと。もし避けたら負けてたのは私の方かもしれないのに」


「えっと、それは魔昼ちゃんの勘違いということではなくて?」


「ううん、それはない。それになんとなくスグルが私にわざと負けた理由はわかる。あの時2回戦が終わった時点で勝ち上がってたのは私とスグル、刃くんに、界人くんの4人。そしてもしあそこでスグルが勝ってたら決勝で刃くんと当たってた。スグルは神崎家の養子、仮にも神崎家当主の1人息子の刃くんに勝ってしまったら大問題になる」


「だからその前に魔昼ちゃんとの試合でわざと負けたってこと?」


「そう」


 魔昼にそう言われた明日香は何も言い返せなかった。なぜなら一連の魔昼の仮説を聞いた明日香は、その可能性は充分にあると思ってしまったからだ。


「だから私はもっと強くならなきゃいけないの、しっかりと胸を張って序列1位を名乗れるくらい強く」


 そう言いながら明日香の手を振り払い、鍛錬を再開する魔昼に対して掛ける言葉を明日香は思いつくことができなかった。



……

 俺はいつの間にかまた寝てしまったようだ。


 その証拠に俺はいま久しぶりに4年前のあの夢を見ていた。


 視界に写っているのはまだ12歳の頃の俺と魔昼。確かこの時俺は契約したばかりの精霊の力をうまく引き出せないことを魔昼に相談していたはずだ。


「ほら、私が持つの手伝ってあげるからやってみなさいよ煉」


 俺の契約した精霊は魔刀の中に宿っていた。精霊の力を引き出すのに集中しながらこいつを持ち上げているのは確かに苦労していた記憶がある。魔昼はそんな俺を見かねて一緒に刀の柄を握って刀を持ち上げてくれた。


「よっしゃ! 今度こそ成功させるぞ!」


 過去の俺は自信満々に言うが、この後何が起きるか知っているいまの俺としては今すぐ刀を奪ってでもそれをやめさせたかった。


 しかしこの世界で俺が出来ることはただ見ていることだげだ。そして過去の俺が集中して目を閉じて数分後ソレは起きた。


 バゴーン!!


 突然俺と魔昼が握っていた刀から爆炎が上がり、次の瞬間には俺と魔昼は地面に倒れてぐったりとしていた。


 精霊の暴走だ。


 俺はこの時、精霊を制御できず魔昼に重傷を負わせたことがトラウマになってしばらく魔道から距離を置くことになった。



……

 夢の場面が変わった。そこで俺は自宅の縁側に座っていた。ふと横を見ると綺麗な白髪の少女が同じように座っていた。


「そう、大変だったのね」


 この少女には見覚えがある。確か一時期クソ兄貴とよく一緒にいた子だが、名前が出てこない。


「なら私がおまじないをかけてあげるね」


 そう言うと彼女はスイッチを押すみたいに人差し指を突き出してきた。


『避けろ!』


 直感がそう告げたが、この世界で俺は指1本動かすことができなかった。そして彼女の綺麗な指が俺の額に触れた途端、またしても夢の場面が切り替わった。



……


「あれ?」


 俺の目の前にはまだ先程の少女がいた。しかし見た目が微妙に違う、さっきは中学生くらいの見た目だったが、今はそれより少し背や髪が伸びて高校生くらいに見える。


 しかしそう思った瞬間に


『有り得ない!』


 先ほどに続き俺の直感がまた叫んだ気がした。


 いやそもそもこれは夢なのだから、あり得ないなんてことがあり得ない状況なのかもしれないが、とにかく彼女がこの姿でいることに俺は強い違和感を覚えた。


 そんな俺の内情も露知らず彼女は俺に語りかける。


「なんで上手くいかなかったんだろう? 我が強すぎた? それともあの頃の私はまだ未熟だったから? それとも……君には何か生まれつき『特別な力』でもあるのかな? ……まあ、いいか。ここまで保てば充分だし、君はここで解放してあげるよ」


 彼女の言葉が切れた瞬間俺は悟った、もうすぐこの夢は終わると。


 そして夢が終わる瞬間、俺はようやく彼女の姿に違和感を覚える理由がわかった。


 彼女、久丈愛くじょうあいはもう3年も前に亡くなっているのだ。だから見た目が成長するはずがないんだ。



……

 ブー! ブー!


 スマホのバイブレーションの音で目を覚ます。一瞬だけ視界の端に見えた部屋の窓は真っ暗だったので、俺は随分長いこと寝ていたらしい。


 そういえば何か夢を見ていた気がするが、よく思い出せない。


「もしもし?」


「おー、起きてたか煉」


 電話をかけてきたのは加賀斗だったようだ。


「どうだ? いい加減体調は良くなったか?」


 そう言われた瞬間、俺はこの数日ずっと鬱陶しく纏わりついていた体のダルさが嘘みたいに無くなっていることに気がついた。


「ああ、なんか寝てたら治ったわ」


「おお、それなら食堂で一緒に飯でも食おうぜ」


「わかった、今からそっち行くわ」


「ああ、けどその前に訓練室寄ってくれ、魔昼の奴がまだそこにいるはずだ」


「なんで俺がそんなこと」


「いいから早く行け」


 ブツッ! そこで加賀斗は電話を切った。


「……ったく、雑に面倒事を押し付けやがって」


 俺は悪態をつきながらも部屋を出る支度を始めた。


続く

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