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魔法のある青春  作者: ドル
6月、7月 魔法がある試験
74/103

第74話「勝ったのは俺」

 完全に想定外だ。


 正直これで勝負が決まるんじゃないかとさえ思った俺の秘策の奇襲攻撃は加賀斗にたいしたダメージは与えられず、逆にカウンターで足を斬られ俺にとって大きな武器だった機動力を失うことになった。


 なんだこれ超おもしれー。


 いつもの模擬戦とは一味も二味も違うヒリヒリとくる緊張感、ここまで勝ちたいと思ったのは1年前の『御前試合』以来だ。そんなこの戦いも結局大きな枠組みで見れば練習試合だ、これを越える実戦となった時俺はどうなってしまうのだろう。


 バーン!!


 2発目の炎弾を加賀斗はあっさり斬り捨て、俺との距離がさらに縮む。


 どうやらこれ以上余計なことを考えている暇はもうないようだ。


 さて、とりあえずまた炎弾を打って加賀斗の足を一瞬止めるのはいいが、それで稼げる時間はもうほんのわずか、この数十秒後に加賀斗は自身の間合いに俺を捉えるだろう。正直そうなったら俺に勝機は殆どない、だから考えなければならない、今から俺が大逆転勝利を納めるためにしなければならないことを……


 あれでいくか


 バーン!


 3度目の炎弾が不発に終わる。だがその間に俺は逆転の一手を思いついた。それはついこの間読んだ漫画のワンシーン。


「4本!」


 俺は4本の指を残った親指で抑えそれを加賀斗に向ける。すると加賀斗はほんの一瞬だが体を緊張させその場で足を止める。その刹那、俺は体を180度反転させて後ろに向かって炎弾を撃つ。


 バゴーン!


 爆発の衝撃で俺の体は後ろ向きで加速し、狙い通り加賀斗に向かって一直線に飛んだ。

 

「5本!」


 俺は空中でなんとか体を回転させ必殺の一撃を加賀斗に向かって放つ。


……

 バゴーン!


「まじかよ」


 爆発と共に煉が背中を向けたままこっちに突っ込んできた時、さすがに呆れて俺は呟いた。このままただで終わる相手とは思っていなかったがこのパターンは想定外だ。この至近距離、なおかつこの速度で迫ってくる相手に対して先に急所を的確に斬り裂き無力化する自信はさすがにない。


 そうなると一度、攻撃を受けきってからのカウンターで今度こそ仕留める、それがベスト。つまりやることはさっきと一緒だ。難易度はかなり跳ね上がっているが、ようはあいつの拳にさえ気を付ければ……


……

「ふーん、そういうこと」


 決着まであとほんの数十秒までに迫ったこの試合の展開を既に次の2回戦に駒を進めた桂木魔昼は観客席からつまらなそうに眺めていた。


「ならミライは決まったわ、加賀斗の勝ちね」


……

 数日前


「お前、昨日紅蓮にボコられたんだって?」


 いつも通り6限の時間を使って炎寺先輩の指導を受けている最中にそんなことを言われた煉はあからさまに不機嫌な顔をしてから答える。


「誰から聞いたんですかそれー?」


「紅蓮本人から、聞いたぞお前『烈火漆式』使えないんだって?」


 ズキッ! その単語を聞いた瞬間に頭痛が走り煉は顔をしかめる。


「前に使える魔法を聞いた時からおかしいなとは思ってたんだが、いいのか? 正直俺みたいな奴から教わるよりもそっちを習った方がよっぽど強くなれると思うぞ」


「なんで習わないか……いって!」


 それを考えようとするとより頭痛の鋭さがまし、煉は思わず右手で庇うように頭を押さえる。


「どうした? 大丈夫か?」


「大丈夫っす……えっと俺がどうして『烈火漆式』を習わないかでしたよね。別に、たいした意味はないですよ、ただ俺は俺でそんなものに頼らなくても強くなりたい、そう思ってるだけっすよ。さっき炎寺先輩はあんなこと言ってましたけど先輩の指導は充分俺の力になってるんで気にせずこれからも指導の方をよろしくお願いします」


「嬉しいこといってくれるねー、ならそろそろ必殺技でも教えてやるか」


「必殺技……覚えたいっす!!」


 その響きに感動して煉は目の色を変えて食いつく。


「どんな技ですか!?」


「こういう技だ」


 バッ! 炎寺はその場で身を翻しハイキックをした。


「まあ必殺技って言っても前に教えてやった炎拳の応用だよ、さすがに今から新しい技をいちから教えてる暇はないからな」


「拳じゃなくて蹴りで5本をやれってことですか?」


 正直自分が思い浮かべていたような必殺技のハードルのかなり下をくぐるような技の実態に煉はその落胆を隠せなかった。


「おいおい、脚は腕の4、5倍の力を持ってるんだからこれを完成させた時の威力はバカにできねーぞ。それにこういう隠し技が1つあればここぞという時に相手の不意をついて勝利をもぎ取れたりする」



……

 現在


(イマがその『ここぞ』だ!)


 俺は空中で体を反転させ終える。加賀斗との距離はほんの2メートル程度、本来ならここはもう既に加賀斗の刀の間合い。だがいま奴は刀を握っていなかった。あいつはいつも俺と一緒にバカやっておちゃらけているが本気のあいつは恐ろしく頭がきれて慎重だ。


 だから加速して突っ込んで来る俺に一か八か迎撃ではなく、一度攻撃を受けきってからのカウンターで仕留めた方が確実という結論に至ったのだろう。


 そんな加賀斗に対して、このままただバカみたい炎拳を放っていたら、いいとこ勝率は五分五分だっただろう。しかし俺の真の武器あしは加賀斗の想定よりも先に奴の体に届く。


「ぶっとべー!!!」


 ドガーン!!!

 

 俺のありったけの魔力がこもった左足の先は加賀斗の顔面に直撃し、爆発が起きる。炎拳の時の数倍はある衝撃を俺は左足を通じて感じた。


 ズサーッ!! その衝撃で加賀斗の体は両足で床を強くこすりながら後方に流され3メートルほど離れた場所で停止した。



 そう停止したのだ。俺の宣言通り加賀斗の体は確かに後方に吹き飛んだが、俺の想像通り加賀斗はそのまま力なく倒れることはなく、今もその2本の足は彼の体を支えしっかりとこのスタジアムの上で直立させている。


 噓だ、何かの間違い、最後の悪あがき、本当はもうああしているのがやっとで、もう戦うような力は残っていない。そんな俺にとって都合のいい予測を打ち砕くように。


 ドン!


 加賀斗はしっかりと床を踏みしめて1歩前に歩き出した。



……

 ギリギリだった。


『探知領域』


 魔力を自分の中心に薄く周囲に散布してそれに触れたあらゆるものの動作、状態を把握する力。それにより俺は煉が右手ではなく左足に魔力をこめていることが分かりなんとか受けきった。


 もしも煉がもっと魔力操作の腕に長けていて直前まで左足に魔力を集中させていなかったら、もしも先ほど不能にしていたのが逆で、利き足の右からもっと鋭い蹴りが飛んできていたら……反省点はたたあるがともかくこの戦い


「勝ったのは俺の方だったな」


 できる限り余裕があるような顔と声で煉にそう言い放ったのち、タタタタッ、俺は煉に向かって小走りで詰め寄りながら両手に刀を再召喚し握る。


 煉は動かない、顔を上に向けて天井を仰いでいる。


 諦めたか? ……いや諦めていようが諦めてなかろうが関係ない。警戒は絶対に最後まで緩めない。


 そんな俺の思考に答える様に煉は俺の刀の間合いに入る直前に顔を元に戻し、右手を前に出して叫ぶ。 


「4本!!」


 正真正銘、煉の最後の魔力をこめた炎弾が放たれる。


 バーン!!


 俺は右手に持つ刀で炎弾を落ち着いて斬り捨てながら、万策尽きた煉に1歩詰め寄り、左の刀で煉の胸を突き刺した。


 バタン!!


 力なく煉の体が仰向けに倒れ、俺も疲労感から同時にその場に膝をつきそうなのをなんとかこらえていると


「勝負あり! 勝者、加賀斗暁!!」 


 この試合の終わりを告げる声が会場に響いた。


続く

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