第73話「嫌になる」
「……なら悪いが、今日勝つのは俺だ」
そう宣言した直後に俺、加賀斗暁は最後にもう一度だけ自分の頭の中でこの戦いにおける最終確認を始める。
今日まで散々模擬戦をやってきたから煉の攻めのパターンは把握している。まず初動、考えられるのは3つのパターン。
1、その場、もしくは下がりながら炎弾を撃つ。これはあらかじめ警戒していれば対応できる。
2、側面に回り込みながら炎弾を撃ってくる、これも充分対応はできるだろうが、問題はその後だ。あいつはそのまま俺の周りを動き回りながら炎弾を撃たれ続けるのはキツイ、俺の闇魔法の力で身体能力を強化しても煉ほどのスピードは出ないからな、そうなった時は恐らく一方的に撃たれ続けることになる。実際模擬戦ではこのパターンで何回も負けてる、だから本番の今日もこれで来る可能性が高いが……
3、これまで見せたことのない攻めのパターン、開始と同時に俺に接近してくる。今までの模擬戦で煉は序盤、安全圏から炎弾を撃つという攻め方を基本的にしてきた。だからこそあえてその逆をついていきなり接近戦を仕掛けてくる可能性、俺は充分ありえると思う。それは俺の不意をつくという策略であり、単純に驚いた俺の間抜け面が見てみたいという性格の悪い興味心からくるもの。
そんなことを思考してるうちに俺の体はいつの間にかリングの上に立ち、煉と向かい合っていた。
まあ神様じゃないんだからここらが限界だな。さーて煉は結局どれで来るかな。
確認はもうあらかた済んだのでそこで俺は考えるのはやめ、変わりに集中力を研ぎ澄まし戦いに備えた。
……
「では第2試合、開始!」
桐八の叫び耳に入った瞬間に加賀斗は両手に自身の刀を召喚して握り、煉は加賀斗に向かって一直線に走り出した。
(パターン3か!)
「5本!」
煉は2歩目の足を前に出した辺りで右手に魔力をこめて炎拳を放つ準備を済ませる。
「クソ!」
加賀斗はわざと煉に聞こえる様に悪態をつき慌ただしく身構えることで、この状況がまるで予想外なようなふりをする。
(俺の闇魔法はスピードはないが頑丈さはピカイチ、魔力を集中させてガードすれば恐らく煉の炎拳もたいしたダメージにはならない。問題はあいつがどこを狙うか、考えられるのは顔か胸か腹の三択、俺はあと2秒で決断してどれかを守らなきゃならない……とか思ってんだろう? そんなのもう読めてんだよ!!)
瞬間、加賀斗は自身の胸と顔を守るように両腕をクロスして前に出した。
(なら腹だ!)
それを見た煉は加賀斗の目の前まで詰め寄った所で腰を落とし
「ぶっとべー!!」
掛け声と共に渾身の一撃を加賀斗の腹にぶち込む。
ドガン!! 煉の炎拳が加賀斗の腹部に炸裂し小規模な爆発が起きる。
が、それだけだった、煉が叫んだように加賀斗はその衝撃で吹き飛ぶことはないどころかその場から微動だにしていなかった。そして煉も拳ごしに加賀斗の腹に触れた瞬間あることに気づいていた。
(か、硬った!! こいつ服の下に鉄の塊でも入れてんのか!?)
戸惑う隙をついて加賀斗は両の手に持つ刀を振るい煉に対して反撃に出る。慌てて煉は後ろに跳ぶが逃げ切れず。
スパッ! 左足の腿の部分が斬られてその部分に内包させられていた煉の体内魔力が消失する。
「腕のガードは囮かよ」
「こうすればお前は腹を狙うと思ったよ」
左足を切られながらもなんとか刀の間合いから脱出した煉に煽るように加賀斗は言う。
……
「なんか一瞬で色々起きたぞ」
「そうだな」
観客席から2人の攻防を眺める迅雷とアロスはいまの一連の出来事に圧倒されていた。
「けど煉のあの炎拳って一応あいつの必殺技だろ? なんで加賀斗はあれ受けてあんなピンピンしてんだ?」
「それは……頑張って耐えたんだろ」
「いやまあ、それはそうだろうけど」
「僕でよければ解説しようか?」
迅雷はいまの攻防の詳細な説明を求めているのはアロスも分かってはいたが、彼は残念ながら迅雷と同じくその答えを持ち合わせていなかった。そんな彼の変わりに答える声が後方から聞こえた。
振り返った先にいたのは同じく2人の試合を1つ空席を挟んで後ろの席に座る刃とユミだった。
「おお、頼むよ刃。アロスの奴は全然使えないから」
「よくわかってないのはお前だって一緒だろ!」
「なんだと!?」
「喧嘩はダメですよ」
ユミの仲裁が入って一息ついたところで刃は話始めた。
「さっき煉は開始と同時に加賀斗の距離を一気に詰めて接近戦に持ち込んだ。多分だけどあれはこれまで見せたことのない攻めの形だったんじゃないかな?」
「確かに煉の奴模擬戦の時はいつも距離を取って炎弾を撃ってきてたな」
「やっぱり。多分さっきの攻防、煉視点では突然まだ見せたことのない行動をすることで加賀斗の不意をついて近づき、咄嗟に出した両腕のガードをさけて無防備な腹部に必殺の拳を叩き込んだ」
「けど加賀斗はその後ピンピンしてたぞ」
迅雷はさっきからどうしてもそこが引っかかってるようで、刃に改めて説明を求めた。
「そうだね、だから多分あの腕は囮だね」
「囮?」
「あの状況で煉が炎拳で狙うのは恐らく顔か胸か腹部の三択、けど加賀斗ああやって魔力をこめた腕を前にだすことで顔と胸の二択を守った。そしてわざと残る1つの腹部をあえて無防備に見せかけることで煉の攻撃を誘導したんだ。それから煉が炎拳がヒットする直前に身を屈め、瞬間的に腕に集めていた魔力をお腹に移動させて受けた」
「あいつあの一瞬でそこまで考えて行動したのか」
「加賀斗くんは多分前もってこの状況を想定してたんだと思います」
「いやけどさっきも言った通り煉は今みたいな攻撃は今日初めて見せたんだ、予測なんかできないだろう」
「いや僕もユミの言う通り、どれくらいのレベルまでかは分からないけど、加賀斗はある程度この展開を予測していたと思うよ。加賀斗の使う闇魔法は強力な破壊力と鉄壁の防御力を誇る魔法だけど、その分スピードと遠距離攻撃に乏しい魔法だから、それを補るために加賀斗はとにかく頭を使って相手の動きを先読みする能力に長けているんだ。今みたいに先の行動さえ読めれば大抵の攻撃は闇魔法の防御力で耐えれるからね」
正直、普段煉と一緒にその場の勢いでバカなことをしている加賀斗が頭を使って戦っていると言われても、すんなりと受け入れられない迅雷とアロスであったが、実際にいま完璧な対応で煉の奇襲をさばくのを目にしたため、これ以上強く反論できずにもいた。
そんな苦悩の表情を浮かべる2人に刃は思わず苦笑いを浮かべながらも解説を続けた。
「とにかく、そういうわけで煉の一撃を完璧にしのいだ加賀斗は動揺する煉にカウンターを決めた」
「足斬られてたな。けどあれくらいならたいして魔力も減ってないからまだまだ勝負はこれからだな」
「いや、確かに魔刀による魔力の消耗自体はそれほど深刻ではないだろうけど斬られた場所が不味い、というか多分加賀斗は最初から足を狙って攻撃したね」
「ああ、そうか走れなくなるのか」
刃に言われてアロスも加賀斗の斬撃の意図に気づいた。
「そう、知ってると思うけど魔刀に斬られても物理的なダメージは負わない。ただ斬られた場所にあった魔力が一定量消失する。さっきの斬撃は完全に煉の足の部分を一刀両断した、ああなると少なくともあと数分程度、煉はまともに右足に魔力をこめられなくなる。そうなれば唯一有利をとれていた軌道面でも煉は不利になる」
「やべーじゃん」
「足がまた使えるようになるまで煉くんが加賀斗くんの猛攻を防げるかどうかがカギですね」
……
ザッ! ちょうど刃の解説が終わった時加賀斗は一気に勝負に片をつけるため煉に迫った。
「2本!」
煉はなんとか加賀斗を近づけまいと炎弾を放ったが バーン! 炎弾は加賀斗の体に着弾する前に呆気なく彼の持つ刀によって斬り払われる。だがそれでも炎弾を斬るため加賀斗はほんの一瞬だが足を止めた。その隙に煉はなんとか距離を保つために後ろに下がる。
「2本!」
そしてまた少しでも加賀斗を遅らせるために煉は炎弾を撃ち、加賀斗はまたそれに対応するため一度足を止める。
だがこの状況ではそれもほんの僅かな時間稼ぎとしかなっていなかった。実際誰の目から見ても加賀斗と煉の距離はみるみるうちに縮まっている。
いくら炎弾をぶつけても素の身体能力で魔力で強化している加賀斗の足から逃げるのはそもそも不可能だったのだ。あと炎弾を2発程度しのげば加賀斗は完全に煉を捉える、試合が始まってまだ3分程度しかたっていなかったがこの勝負の決着はすぐそこまで迫っていた。
そんな土壇場で加賀斗は内心嫌気がさしていた。
(ああ、やっぱりこいつはこんな状態でもそんな顔をするのか)
加賀斗の目がいま大きく捉えていたのは、もうこれ以上ないほど敗北に追い詰められている煉の表情だった。その顔に映る感情は焦りでも緊張でもなく、どこまでも爽やかで無邪気な笑顔だった。
(全く嫌になるぜ、まるで追い詰められてるのは俺なんじゃないかって錯覚しちまいそうだ。いまなら紅蓮さんが言ってたことに心底共感できるよ……ただ悪いが楽しい時間はもう終わりだ)
バーン! 計3回目となる炎弾を加賀斗は斬り捨てる。2人の距離はあと5メートル程度、炎弾を撃てるのあと1度が限界だろう、それが終われば加賀斗は自身の間合いに煉を捉えて正真正銘この試合最後の攻防が始まる。周りから観戦している誰もがそう思っていたが
「4本!!」
バゴーン!!
その瞬間煉の後方で爆発が起きた。
続く




