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魔法のある青春  作者: ドル
6月、7月 魔法がある試験
72/103

第72話「勝つのは俺」

 その日俺は(アイツ)と戦っていた。確か母さんが突然『お前たちの実力を試したい』とかなんとか言い出したのがきっかけだった気がする。


 それまでお互い同じ道場で鍛練に励んでいたが、実際に手合わせすることはなかったので、俺はその頃は単純に尊敬していた(アイツ)との初となる手合わせを純粋に楽しみにしていた。

 

 ダンッ!


 力強く道場の畳を踏みしめて紅蓮(アイツ)は竹刀を構え、俺との距離をつめてくる。正直ここまでそれなりの時間戦っているので(アイツ)も体力の限界が来ていたのだろう、その動きはかなり大雑把でいつものキレがないため、正直回避するのは簡単だった。


 しかしそれを見た瞬間俺は同時に理解した、これはよく(アイツ)が練習していた得意な連撃の型だと。


 そしてそれを理解した瞬間俺は、いつも遠目から眺めるだけだったこの必殺の攻撃を実際に体感してみたいと思い、あえて安全な距離を取ろうとする自分の足を一瞬止めた。


 そんな俺の隙を見逃さず(アイツ)は左斜め上から一直線に竹刀を振り下ろす。


 バッ!


 俺は咄嗟に床を蹴って後ろに飛び(アイツ)の壱の太刀をかわした。


 しかし俺の両の足が再び床にしっかりつく前に(アイツ)はまた詰めより 右から横凪に振るう弐の太刀を俺に繰り出す。


 パーン!


 この体勢ではかわしようがないため俺は自分の前に竹刀を構えてなんとかその攻撃を受けきる。だがこの時の衝撃で俺の体勢が崩れる。


 本来なら次は、これまでの二回の斬撃で体勢を崩した俺に止めを刺す鋭い突きが飛んでくるので、俺はなんとかそれを防ぎきろうと(アイツ)の方に目をやったが、その時目に写ったのは。


 ドサッ!


 これまでの疲労の蓄積から足がもつれそ、の場で無様に転んで倒れた(アイツ)の姿だった。


 結果、俺が待望した3撃目の突きが来ることはなく勝敗は決してしまった。 


「勝負あり!」


 審判をつとめていた父さんからも試合終了を知らせる声が耳に入ったが、俺は床に突っ伏している(アイツ)から目が離せなかった。なぜなら(アイツ)はそんな状況にありながら、今にも立ち上がって俺に斬りかかってきそうな闘争に満ちた目をしていたからだ。


「楽しかったよ兄さん」


 数秒見つめあったのち、俺はそう言って(アイツ)に手を伸ばした。だが(アイツ)はその手をとろうともせずこう返した。


「嘘つけ。煉、俺はお前が嫌いだ」


 思えばあれが互いのことをきちんと呼びあった最後の日だった。



……

 目が覚める。今日は7月18日曜日、期末考査当日の朝。


 なんだか懐かしい夢を見た気がするが、目を覚めて1分もたたないうちにそんなことは頭の中から抜け落ちていた。


「よっしゃーやるぞ!」


 頭の中にあるのはただこの期末考査のトーナメントを必ず勝ち抜いてやるという決意だけだった。



……

 その日は食堂で朝食を済ませた後教室ではなく、期末考査の会場となるスタジアムに直接集合となり、俺達はそこで改めて期末考査のルール確認をした。


 制限時間は30分で時間内に相手が戦闘不能となるまで戦うか、自ら降参を宣言すれば終了。もしも時間内に決着がつかなければその試合内容からどちらの方が上か桐八が独断で判定を下すらしい。


 それが済むと今度は第1試合の対戦者の魔昼と臼井、第2試合に出る俺と加賀斗は控え室に移動して待機。


 5分程度準備が終わったと知らされ魔昼と臼井は試合会場に移動していき、俺はしばらく加賀斗とその場で2人きりで自分達の番が来るのを待つこととなった。



「……俺あの臼井って子と多分初めて話したわ」


 暇を持て余す俺は適当な話題を振ってみた。


「話したっていうより一方的に慰めてたって感じだけどな、それにしても人間緊張しすぎるとああなるんだな」


「あんまり緊張して取り乱すもんだから魔昼なんかこの後戦う相手なのに『大丈夫よ! 落ち着いていつも通りやればきっとなんとかなるわ!』 とか言ってたもんな。負けてやる気なんかこれっぽちもないくせに」


 ついさっきまでこの待機室では頭を抱えて『もうおしまいですー!! きっとこの後私はボコボコにされて卒業までみんなの笑い者にされるんですー!!』と泣き叫ぶ臼井桃子をこの後戦うことになる他3人で『頑張れ』『君なら大丈夫』と励ますという非常に奇妙な状態になっていた。


「まあ、一応ああは言ったけどさすがに魔昼が勝つんだろうな」


「まああいつは俺のライバルだからな俺意外あいつには勝てん」


「それは知らんが」


「知ってるだろ! いつもよく言ってんだから!」


「けどあれいつも魔昼本人に相手にされてないんじゃん。ライバルってのはお互いの実力を認め合って始めて成立するもんだろ」


「だからこのトーナメントであいつをぶっ倒して認めさせんだよ」


「……ほー、それ本気でできると思ってんのか?」


 そう聞き返す加賀斗の声のトーンは少し低くなっていた。どうやらこのあからさまな俺の挑発に乗ってきたようだ。俺は目を細くしてこちらを睨む加賀斗の目を真っ直ぐと見つめ返しながら言ってやる。


「いい目じゃんか加賀斗、その調子で本気でこいよ。いつもの模擬戦の雰囲気じゃなくて、ちゃんと全力で」


 とういうやりとりでいい感じにこの2人きりで待たされてる状況が気まずくなってきた所でこの部屋のドアが開いた。


「お、なんかいい感じにバチバチしてるなーお2人さん」


 ドアの所を見ると俺たちの次、第3試合に出るソウシと陣の2人の姿があった。


「第1試合が終わったから2人共もう行けって桐八先生が言ってたよー」


 陣に言われ、俺と加賀斗は黙って立ち上がり部屋を出ようとする、が部屋に入ってくる2人とすれ違った時に俺は1つだけ聞いた。


「ちなみに第1試合はどっちが勝ったんだ?」


「波乱はなかったよ、魔昼が勝った」


 なら次は俺か。


「ありがとな」


 俺は短くソウシに礼を済ませると廊下に出てスタジアムの方に向かって歩き出した。



……

「俺さあ」


「うん?」


 廊下を歩いてる途中、最後に一度だけ加賀斗は煉に話しかけた。


「本当はお前にわざと負けなきゃいけなかったんだよ」


「は?」


 煉はそれを聞いて明らかに不機嫌な顔をするが、加賀斗は構わず話を続ける。


「俺の家って一応お前のとこの天神家に代々仕えてる所だから、普段の模擬戦ならまだしもこんな大っぴらな場所でお前に恥をかかせたら大人の事情的に不味いわけよ」


「恥なんてかかねえし!」


「まあ聞けって。俺だってよりによってお前を相手にわざと負けるなんて絶対嫌だよ。けどちゃんと紅蓮さんから昨日許可が出た『お前をぶっとばせ』って」


(あのクソ兄貴、このトーナメントが始まる少し前からやたら煽ってきたことといい、どうあっても俺を加賀斗に負けさせてーのか、だが……)


「アイツにしては気がきくな、むしろ望むところだ」


「お前結局紅蓮さんにあんだけ言われたのに家に戻って『烈火漆式』を教わってこなかったんだろ?」


「当たり前だ、あんなもんなくたって俺は強い」


「なら悪いが、今日勝つのは俺だ」


 加賀斗がそう言うと俺たちの会話は終わった。その後、俺達はもう目も合わせず声もかけることはなく、黙々と歩き続けた。



 廊下を出るとスタジアムのある広間へと出た。観客席の方を見るとそこにはこの後試合を控えているクラスメートの以外にも見慣れない顔、恐らくこの学園の人間ではない大人が何人か席に点々と座って観戦してるのが2人の視界に入った。


(そういえば毎回この期末考査は外部の魔法使いも大勢見学しにくるって桐八が言ってたな)


 一瞬に気に留めたものの、それらの人の存在はすぐに煉の頭の中から抜け落ちる。


 それは加賀斗も同じで2人は指定の位置、リングの中心付近で互いに5メートル程度離れた場所で直立して見合う。目を合わせても、もう先程のようなお喋りは当然始まらない。ただその瞬間が来るのを黙って待つ。


 リングの端に立ち2人のその状態を確認した桐八はすぐにその時を告げる。


「第2試合、開始!」


続く

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