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魔法のある青春  作者: ドル
6月、7月 魔法がある試験
71/103

第71話「逆になったな」

 7月10日水曜日の放課後、俺はいつも通り訓練室で加賀斗、迅雷、アロス、陣の5人で模擬戦を回していた。その合間の休憩時間に一緒にいた迅雷が急にとある質問を投げてきた。


「ぶっちゃけ煉と加賀斗ってどっちが強いの?」


「俺だろ」

「俺だよ」


『あ?』


 俺達はお互い同時に返事した後、すぐ同時に横にいる相手を睨みつけ威圧をかける。 


「お前さっき3本勝負で俺に負けたばっかだろ!」


「なんで1週間後にガチでやり合う奴に手の内を見せるんだ、あんなの手を抜いてるに決まってんだろ!」


「適当なこと抜かしてんじゃねー!」


 出会った当初のこいつらならここら辺で俺と加賀斗の間に割って入り、言い合いを仲裁してくれたが、いまはまだ模擬戦の疲れが残ってるというのと、この程度のいがみ合いは既に見慣れてしまっているのだろう。この場にいる他の3人は特に動じず俺たちの様子を周りから見物している。


「2人共負けず嫌いだね~」


「というかあんな質問したらこうなるに決まってんだろ迅雷」


「いやーけどこいつらトーナメントでいきなり当たるから今のうちにどっちを応援するか決めときたくて」


「どういうこと?」


「ほら高校野球とかもなんとなく負けてる方を応援したくなるじゃん。あれと一緒で弱い方を応援しようかなって」


 ……なんか質問の意図を知った瞬間に俺は加賀斗といまこうして争ってるのが物凄くバカバカしくなってしまった。


 どうやらそれは加賀斗も同じようで呆れた顔でこう言った。


「別にあいつに応援されたくないしな」


「そうだな。どうせ来週の今頃には結果は出てるしな」


 俺がそう言っていい感じにこの話を終わらせたと思ったが、突然この会話に割り込んでくる者がいた。


「いーやこのままいけば結果はやるまでもなく明らかだ、なぜならお前より加賀斗の方が強い」


 声のした方に視線を向けるとそこにはあいつ……俺の実の兄である天神紅蓮の姿があった。


 年がら年中、見ててイラッとするにやけヅラをしているあいつだが、今日はなぜかいつになく険しい表情をしていた。


 昼飯でも食べ損ねたのか?


「なんだよいきなり話に割ってきて偉そうに」


「偉そうじゃなくて偉いんだよ。いつまでも逃げているお前よりな」


 逃げる。なるほどな、この話を蒸し返したいから今日はこんな顔をして俺の前に出てきたのか。


「もう一度言うがお前はこのままだと確実に負ける。だが今からでも『烈火漆式れっかななしき』の基礎だけでも学べば話は別だ」


 案の定コイツはその話を持ち出した。


 ならば俺の返す言葉はあの時から何も変わっていない。


「嫌だね、俺は俺のやり方で強くなる」


 俺がはっきりとそう言い返すとアイツは面倒くさそうにその場で重いため息をした後、もう一度俺を睨んでい言った。


「なら試してやるよ、お前のやり方とやらで身につけたやり方がどの程度のものか。今から俺と模擬戦をしろ」



……

 いつものメンツで鍛錬に励み、いつも通り休憩中にくだらない雑談でにぎわっていたところ、突然の上級生の乱入といういつもとは違うイベントに煉が突如巻き込まれるのを見て、2人の関係をよく知る加賀斗以外の迅雷、アロス、陣の3人は呆気に取られていた。


 そうするうちに煉と紅蓮の2人は対戦ルームに移動してしまい、残ったメンバーの中でなんとなく気まずい沈黙が続いた。それを最初に破ったのは迅雷だった。


「……あの人誰?」


「2年序列1位で煉のお兄ちゃんの紅蓮さん」


「え? マジで? あいつ兄貴いたんだ」


「まあ、いま見た通り兄弟仲が激烈に悪いからな、煉はあんまり進んであの人の話はしない」


 そう言われて自然と次に聞きたくなるのは不仲な理由になるが、たった今その現状を見せつけられ、尚且つよその家族事情にあまり首を突っ込むのは……と普通の者なら二の足を踏むところだが、この中でただ1人、そういった思考に至らなかった迅雷は続けて聞いた。


「なんであんなクソほど仲悪くなったん?」


「迅雷!」


「お前もう少しデリカシーを持て!」


「へ?」


 両脇にいた友人2人から当然の叱責を受けて驚く迅雷を見て呆れながらも加賀斗は答えた。


「さすがに普段からあんなに仲が悪いわけじゃない。いつもなら顔を合わせた瞬間からしょうもない煽り合いを始めてそこからちょっとじゃれるくらいだ。だから今回はいつもと違ってちゃんと怒る理由が元からあったらしい」


「あーなんか劣化七草とか言ったっけ?」


「烈火漆式な」


「それなんなんだ?」


「烈火漆式は天神家に伝わる魔法、奥義みたいなもんだ。色々あって煉はそれをこれっぽちも習得してないんだ。さっき本人も言ってたけど『俺は俺のやり方で強くなる!』って言ってな」


「それであんな怒ってたのか? 別に煉のやりたいようにやらせてあげればいいのに」


 理由を聞いてもいまいち紅蓮が怒る理由に迅雷は賛同できないといった様子だった。


「まあ、紅蓮さんからみれば煉は自分からわざわざ強くなるチャンスを放棄してるんだ、見ててイラつきもするだろ……それに、こうなったのは自分のせいだってあの人なりに、この件に責任感じてるんだよ」



……

「かかってこい」


 対戦ルームに入り、紅蓮から試合の開始を宣言を受けた煉は即座に両手を前に出し、人差し指を弾いた。


「1本!」


 指先から炎弾が放たれ真っ直ぐ紅蓮に向かう、しかし煉はそれが相手に着弾するより先にさらに人差し指を一度戻し、連続で弾きすぐさま次の炎弾を出す。


 これを繰り返し合計10発となった炎弾が紅蓮を襲った。


 これまで煉は炎弾を単発でしか打ってこなかった、しかしここ最近授業や放課後でより自分の魔法と向き合う時間が長くなったため、最低火力での場合のみこのように弾幕を貼ることが可能となった。


 一瞬にして逃げ場のない無数の炎弾に追い込まれた紅蓮であったが、彼はこの初見の技に対して特に動じることはなく。


「烈火漆式、壱の型『ほむら』」


 右手に握っていた刀を横なぎに振るい、その動きに合わせて刀から溢れ出たより大きな焔が炎弾を全て飲み込んだ。


 しかしそれは煉の読み通りだった。


(1本の炎弾は火力は低いが速度はあるし、今みたいに数をばらまけば相手は回避ではなく防御してしのごうとする。なら俺はその防御のために足を止めたとこを狙う!)


 煉は紅蓮が自身の焔で炎弾を防いだ瞬間、前もって足に溜めていた魔力を利用して全速力で目の前に燃え広がる焔の壁に突き進んだ。


(属性使いの魔法使いは同属性に強い耐性を持つ。だから俺があの焔に突っ込んでも多少ダメージは受けるが問題なく突っ切れるはず、後はこの炎の向こうで呆けてるアホに俺の拳を食らわせてやる!)


 バッ!、魔力により肉体を強化した煉は一瞬にして焔の壁に到達、その熱さに耐えながら突破し拳を振り上げると


「は?」


 その先で待っていたのは飛び出した自分に対して的確に刀を振るう紅蓮の姿だった。


 煉が炎の壁を越えてくることをわかっていたとしか思えない完璧な太刀筋とタイミングのため煉にこれを回避するという選択肢はなく、咄嗟に振り上げた拳を刃にぶつけて迎撃するしかなかった。


 刃物に素手の拳をぶつけるのは普通に考えれば無謀もいいところだが今回紅蓮が持っていたただの刀ではなく魔力を使って作られた魔刀だった。


 魔刀や魔剣と呼ばれる魔法武具が切り裂くのは人の肉体ではなくその中にある魔力である。通常何の備えもなくこれを斬られ大量の魔力を消費した人間は一瞬で気を失う。これを防ぐにはその武具よりも大きな魔力で身を包むしかないため、その時もっとも魔力を込めていた右手をぶつけた煉の咄嗟の判断は正しかった。


 キーン!!


 煉の拳と紅蓮の刀が衝突、それはほんの数秒だけ均衡したが


「烈火漆式、弐の型『迦具土かぐつち』」


 バチン!!


 最終的に煉の拳はあっさりとはじかれ、その勢いのまま後方の床に叩きつけられた。


「お前魔力操作下手だろ、最初の炎弾撃った時から足に魔力溜めてるのがみえみえだ」


 自分が床に仰向けで倒れてる間に追撃もせず聞いてもいない解説をだらだら話す紅蓮にイラつきながらもその間に体勢を建て直せ、助けられたという事実から煉は何も言わなかった。 


 まだ完全にこめきれていなかった煉の拳の魔力ごと煉の体内魔力は今の一撃で切り裂かれ、すでに半分近い魔力を消耗させられていた。


「どうした? また悪知恵を働かせて浅はかな作戦で攻めてこいよ。どれか1つでも成功して俺からクリーンヒットを奪えたならお前の勝ちってことにしてやるよ」


 プツン!


「なめてんじゃねーぞ!!!」



……

 戦いはそこから30分も続いた。やろうと思えば次の攻防で決着はつけれたが紅蓮はあえてそれはせずなんとか一矢報いようとする煉の攻めをことごとくはねのけ、彼に圧倒的な実力の違いを見せつけた。


「勝負あったな」


 ドサッ!


 とうとう完全に魔力も体力も尽きた煉はその場にうつ伏せで倒れた。残された気力でなんとか目の前で汗1つかかず立っている紅蓮を睨み付ける。その目をそらさず真っ直ぐと見つめ返しながら紅蓮はとある記憶を思い返していった。


「あの時とは逆になったな……」


 煉もその発言から全く同じ記憶にいきつく、6年前天神家の道場で行われた2人の戦い。


 ただ紅蓮の言う通りあの時敗れ、床に伏せて相手を見上げていたのは紅蓮の方で、その試合の勝者、相手を見下ろしていたのは煉だった。



続く

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