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魔法のある青春  作者: ドル
6月、7月 魔法がある試験
70/103

第70話「面白くなりそうだ」

 無事試験に受かり、ついに正式な魔法使いとなった俺たちをとりまく学園の環境は少しずつ変わっていた。


 例えばそれは魔法原理基礎学の終了。これはもともとC級魔導師承認試験に受かるための勉強をする時間だっため、それが終わったことでもう授業割に組み込まれることはなくなり、変わりに念願の実際に魔法を使った授業、魔法演習の授業が入れられた。



……

 7月8日月曜日の5限。


「魔力を使って全身を覆えば誰でも常人を大きく上回る身体能力が手に入る。また身体のどこか一点に魔力を集中させればさらにその能力は向上する。これは俺たち魔法使いが無意識に行う魔力操作と言われる技術であり、これは非常に強力な力だ」


 そう言うと桐八は訓練室の床に体育座りをして注目している俺たちによく見えるように右手を突き出した。


 普通の人にはただ手をこちらに向けて広げているだけにしか見えないだろうが、俺達の目には思わず後ずさりしたくなる程の量の魔力がその手に込められているのが見えた。


「だがこれは強力な反面、とにかくこのように目立つ。相手からすれば非常に読みやすい攻撃だ。そこで重要になってくるのは魔力操作の速度だ……!」


 ぶうぅーん!


 突然桐八の正面にいた俺達に対して突風が吹く。風が過ぎ去って反射的に閉じた目を開くと、先ほどまで普通に地面について身体を支えていた桐八の右足が、こちらから足の裏が見える高さまで上げられており、その足にはさっき見せられた右手と同等の魔力が込められていた。


 チラッ、と右手の方にも視線をやったがそちらの方にはもうたいした魔力は込められていないようだ。どうやら桐八は今の一瞬で魔力を右手から右足にむけて移動させ、そのまま足を蹴り上げ、その動作に空気が振るわされたため突風が生じたようだ。


「このレベルまで、とはまだ言わないが魔力操作の最適化は魔法使いとしての実力と大きく関わるものだ。早速お前らも立ってやってみろ」


 桐八に言われた通り俺達は全員、その場に立ち上がる。それを確認した桐八は次の指示をとばす。


「さっきの俺と同じように右手に魔力を集中させろ」


 言われた通り俺は右手に魔力を集中してこめてみる。


「それができたら次はなるべく早くその魔力を今度は左手に移動させろ」


 そう言うと桐八は開始の号令として パン! 手を叩いて音を鳴らした。


 俺はすぐさま言われた通りに魔力操作を行う、ここまで大きな魔力をそのまま移動させるのは始めてで、いつもと違う感覚に少しモタついたがそれでも5秒程度で言われた作業を終え視線を桐八に戻した。


「1番速かったのは桂木だな。だいたい3秒くらいか」


 3秒、つまり俺の倍近い速度でいまのをこなしたのか、さすがは俺のライバル。


「だがそれでは実戦では役に立たん。この程度のことは最低でも1秒でできるようにいずれはなってもらう。次は逆だ、左から右に魔力を移せ」


 パン! 桐八の手から二度目の合図が鳴る。俺は目標の1秒を目指して今度はふんだんに気合を入れて魔力操作に挑むが、結果はさっきとたいして変わらなかった。


「まずは準備運動としてこれを100回だ」


『100回!?』


 しれっとした顔で桐八はとんでもないことを言い出したので俺を含め何人かが悲鳴をあげるように聞き返した。


「そうだ、さっきもいったがこれは基礎だ。例え疲労した状態でも確実に、正確にできなければならない、そのための反復練習だ。はい次は右から左」


 パン! こうして3度目の合図が無慈悲に響いた。



……

「しんどー」


「なんだ今日はまた偉くお疲れじゃねえか」


 5限終了後、廊下を移動中の俺が疲れからそんなことをぼやくと先ほど合流して一緒に移動していた炎寺先輩に声をかけられた。


「聞いてくださいよ炎寺先輩、今日準備運動とかいって両手の間で魔力移動させるのを100回もやらされたんすよ。準備運動とか言ってましたけどあれだけで20分くらいかかりましたよ」


「ああ、それ俺も1年の時やったな。魔力を体内で移動させるだけなのに、ずっとやってると意外と疲れるんだよな、あれって。まあ疲れたのはわかったけどそろそろつくぞ」


 炎寺先輩の言う通り俺達の目的地はすぐ目の前にあった。


『男性専用浴場』


 そうでかでかと入り口に書かれているこの施設はその名の通りこの学園の寮生用にある風呂だ。


 キーンコーン、カーンコーン。


 俺たちがちょうど目的地についたところで6限の開始を知らせるチャイムが聞こえた。


「じゃあ今日もいっちょやるか」


「うっーす」


 勘違いされてるかもしれないが俺は別にここに汗を流すために来たわけではない……いやまあ結果的にはそうなるのだが。


 前の時間、5限目では主に魔法使いとしての基礎的技術を俺達は習う。そしてこの6限目では自分の適正魔法、ようは得意魔法を伸ばす時間となっているが、これは人によって違うのでクラス単位ではなく基本的には3年の先輩か先生が個別についてどうすれば効果的に能力を伸ばせるのか指導してくれる。


 そうして俺は先週から同じ炎魔法の適正を持つ炎寺先輩の教えを、このまだ誰もいない貸し切り状態の風呂場で受けている。



……

 時は遡り先週の火曜日。始めて炎寺先輩に炎魔法の鍛錬をつけてもらうことになったその日、俺は『何で風呂?』と当然疑問に思いながらも、とりあえずいわれるがまま脱衣所で着ていた制服を脱ぎ、裸一貫となって浴場に足を踏み入れた。


「まずは確認だけどお前これできるよな?」


 そう言うと炎寺先輩の全身が燃えた。いや正確には全身を炎魔法がこもった魔力で覆うことで、体の表面を燃やしている。


 なるほどなー、これをやりたいから風呂場に来たのか。服着ながらやってたら服が燃えちゃうもんな。


「ふん!」


 適当な掛け声と共に俺も炎寺先輩の真似をしてみたところ一発で成功。俺の全身、足の先から頭までが炎に覆われる。


「お、うまくいったな。じゃあそのままの状態で聞いてろ」


「うっす」


 そういうことで俺も炎寺先輩も絶賛大炎上中のままで話を進める。


「炎魔法ってのは基本的に小細工なしだ、正面からぶち当たって相手を燃やすなり、ぶっ飛ばす。それくらいの攻撃力はある属性だからな。前にも話したことがあると思うけど、そうなると大事になってくるのは魔法の質だ。基本的に魔法ってのは質が強いの方が勝つ。そして今からお前には魔法の質をあげる訓練をやってもらう」


 そう言うと炎寺先輩はあらかじめ水をためて脇に置いてあった桶を拾い バシャ! 俺に向けて中の水をぶちまけた。


「うわっ! いきなり何するんすか!」


「消えたな」


「え?」


 俺が顔にかかった水を手で拭き取っていると炎寺先輩がそう短く言った。始めはなんのことか理解できなかったが数秒してその答えにたどり着く。


「あ、ほんとだ消えてる」


 確かに先輩の言う通り先ほどまで俺の全身に燃え広がっていた炎は完全に消失していた。


「まだ誰も消していいなんて言ってねーぞ」


 先輩は意地悪な笑みを浮かべながらそう言う。


「違いますよ、今のはいきなりかけられたから驚いて集中力が切れただけです!」


「ならもう1回やってみるか」


 バシャ! また桶に溜められた水を俺は正面からかけられた。さっきとは違い俺は気合を込めて全身を燃やしながらそれを受けたが、結果はさっきと同じであった。


「まあ全身という大きな面積を覆えば当然その分、魔力の質は落ちる。とはいえ現状いまのお前はたった桶一杯分の水で消えちまうようなしけた炎しか生めないってわけだ。」


 そこまで話すと先輩はまだ全身を炎に包みながら回れ右をして浴槽へと向かった。先輩はそのまま肩まで身体を浴槽のお湯の中につけたが、その全身を包む炎の勢いは先ほどまでと変わらず燃えさかっていた。


「まあひとまず1年の間にこれくらいできるようになれば合格だな」


 正直、俺はまだこの先輩が実際に戦う所を見たことがないので漠然とこの学園で3年間も魔法使いとしての腕を磨いてきたすごい先輩。と思っていたが、いま改めてたった2つ上のこの先輩が俺なんかとは次元の違う実力を持つ魔法使いということを理解し、そんな先輩にどうしてもいま伝えなければならないことがあった。


「先輩、浴槽に浸かる前にしっかり身体は洗わなきゃダメですよ」


「……すまん」


 面目なさそうに先輩は答えた。


……

「前から疑問に思ってたけど、なんでお前っていつも6限終わった後いい匂いすんの?」


 全ての授業が終え残るはホームルームのみとなった教室で自分の机についていると隣の席に座る加賀斗が話しかけてきた。


「あれ? 言わんかったっけ? 俺6限の個人指導は浴場で受けてんだよ」


「ああ、なんか水を浴びても炎を消えないようにすることで魔法の質を上げてるとか言ってたな。そうかあれ風呂場でやってんのか、てっきり裏山の川でやってんのかと思った」


「さすがにそんなところで全裸で鍛錬してるわけないだろ」


「それもそうか」


 ガラッ、その時先ほどから待っていた桐八が教室に入ってきた。周りに立っていた生徒は速やかに自分の席に戻っていく。桐八はそれを待つ間に黒板にチョークでトーナメント表を書き始めた。


 2分程度でそれを書き終えると既に全員着席を終えた俺たちに次の指示をとばす。


「では事前に通告していた通り今から期末考査のトーナメント組み合わせを決めるためのくじ引きを行う。刃から出席番号順に前に来てくじを引け」


 言われた通り1番の刃、2番の界人、3番の魔昼までが順番に列をなす。ちなみに俺が1番でないのでこれっぽちも信じていないが、噂によるとこれは入試の際に測った俺たちの実力順となっているらしい。


「刃は第5試合だな自分の場所に名前を書いておけ」


 指示を通り刃がチョークを持ち名前を書いている間に次々とくじは引かれる。


「界人は第7試合……魔昼は第1試合……ソウシは第4試合」


 俺の前の出席番号4番のソウシまでがくじを引き終わりいよいよ俺の番がくる。


 今のところ綺麗にみんなバラバラに散らばっているのでそろそろ誰かしらと被る気もする……まあ正直誰と当たろうが楽しみなので俺は適当に出されたくじを引く。


「煉は第2試合」


 第2試合ということは……なんだまだ誰とも被っていないのか。……だが、たしか魔昼は第1試合だったはず、つまりあいつと俺がお互い1回勝てばこないだの約束は果たされるわけか。


 そんなことを考えながら自分の名前を書くために前のソウシからチョークを手渡された瞬間に後ろから次のくじの結果が発表される。


「加賀斗は第2試合だ」


 嬉しいことに早くも俺の相手は決まったようだ。


 俺は自分の名前をトーナメント表に書き込んだ後に振り返り記念すべき初試合の相手にチョークを手渡す。


「運が悪いな加賀斗」


「それはこっちの台詞だ、煉」


 今回の期末考査、本当に面白くなりそうだ。


続く

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