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魔法のある青春  作者: ドル
6月、7月 魔法がある試験
67/103

第67話「なんだそれ?」

 6月22日土曜日。


 休日で人の少ない校舎内を私は歩いていた。


 ついさっきまで私は明日香ちゃん、桃子ちゃん、夏樹ちゃんの4人とファミレスという場所にいた。そこにはあくまでも勉学を目的として行ったのでこんな感想は間違っていると思うが、今日はとても楽しかった。特に最後にした恋バナは私も思わず聞き入ってしまった。 


 ……けどもしも


 ふと考えてしまう。それは本来、乱入者が来なければ訪れていたはずの未来。


 もしもあのまま初恋の話が中断されずに続き私の番が来ていたなら、私は誰の話をしたのだろう。


 1人だけ脳裏でちらつく男がいた。


 そしてその男はちょうど私が下ろうとした階段の下の踊り場にいた。


『わっ!』


 私は動揺して思わず心の中で叫び声をあげ、そのまま下からは見られないように手すりの影に隠れた。


 いつもならこんなことはせず普通に話しかけに行くところなのだが、直前に考えていことがあれなわけだったし、何より彼はいま私もよく知る女性、新城マナちゃんとなぜか神妙な面付きでいる。そこで私は思わず自分の存在をさとられぬようにし、2人の会話を盗み聞きしてしまった。


 しかし良いのか悪いのかこの会話はちょうどもう終わりを迎えるところのようだった。


「まあ、私がどうしても伝えたかったのはそれだけだから……ありがとう」


 そう言いい終えるが早いかマナは階段をさらに下りこの場を去った。


 このまま隠れてやり過ごすのはどこかバツが悪いので残った煉にだけでも私は話しかけることにした。話していた内容も気になるし。……まさかマナちゃんに限ってそんなことはないだろうが。


「何してんのよ」


「おー! ビックリした」


「なんかいまマナちゃんもいたみたいだけど、何話してたの?」


 私がそう聞くと煉は体をビクッとさせてかなり驚いた。そんな仕草が余計に私を不安にさせる


「いや別に……たいした話じゃない」


「何よそれ、ちゃんと教えないさいよー」


「やだ、あんまり誰にも言うなって本人にも釘刺されたし」


「あんまり他人には言えない内容ってこと?」


「そう、じゃあ俺はもう行くわ」


「あ、ちょっと……!」


 煉は聞こえているはずの私の声も無視して足早に階段を駆け下りていく。


 同じクラスの男女が人目の少ない校舎で神妙な面付きで話していてその内容は教えられない。


 あの2人に限ってそんなことはないと思うけど……って何を考えてるんだ私は、万が一今のがそういう話だったとしてなんだというのだ。


 確かに名目上、一応私とあいつの関係は許嫁ということになっているが、それは親同士が勝手に決めた関係だとお互いが言ってるんだ。


 だからもしも万が一で今の話がそういうものだったとしても、別に私にはたいして問題はない、そう問題はない……はず。



……

 6月23日、日曜日。


「なんでこんな面倒なこと……」 


 ドサッ、俺は悪態をつきながら持っていた荷物を床に下した。


 C級魔導師承認試験も明日に迫ったこの日俺はなぜか学園の校舎裏にある駐車場から保険室までを両手でダンボールを持ちながら往復していた。


「お疲れ天神少年」


 ようやく最後の荷物を保険室の床に置いた俺に労いの言葉をかけてきたのは、この保険室の主である茨クロエ先生。


 茨先生との出会いはつい数分前。今から突然記憶喪失にでもならない限り落ちることのない試験のために勉強する気が微塵も起きない俺はあてもなく校舎をさまよっていた。そんな時たまたま出くわした茨先生に『暇なら少し手伝ってほしい』と声をかけられ、それにほいほいついていったところこうしていいようにこき使われた。


「しっかし君は中々元気だね、これだけの量を運ぶとなるともっと時間がかかると思ったが」


 床に乱雑に置かれている10個近い段ボールの山を見て茨先生は感心しているようだが、俺は我ながらよくこんなに運んだもんだという呆れの感情しかわかなかった。


「ていうかとりあえず運びましたけどこれなんなんっすか?」


「あーこれは魔法植物だよ」


「魔法植物?」


「魔力革命以降この国の大地の大気中の魔力濃度は年々上がり続け、その環境の変化に適応するため、一部の人間は魔法使いに、獣は魔獣に、そして植物は魔法植物になった」 


「いやまあそれは知ってますけど、俺が気になったのは何でこんなにたくさんの魔法植物をわざわざ保険室に運びこんだのかってところです」


「ああ、そういうことか。確かにそれは当然の疑問だね。実は私この学園には今年から赴任することになったが元々は魔導協会で魔法植物の研究をしてたんだよ。ただここ数年たいした成果を挙げられなかったから追い出されたんだ。そしてたまたま昔配合してできた魔法植物の中に傷を癒すものがあったからそれ目当てで私はこの学園に呼ばれたんだ。暇なときは自分の研究を進めてていいと言われたから私にも断る理由はなかったしな……あれ? なんでこの話になったんだっけ?」


 長々と自分語りする中で茨先生は元の俺の質問を忘れていた。


「なんでこんな段ボール一杯の魔法植物を持ち込んでるのかって俺が聞いたからですね。まあそれも今のでだいたいわかりましたけど、ようはここに今俺が運んできたのは先生が魔導協会にいたころ集めていた魔法植物ってことですよね?」


「ああ、つまりはそういうことだ。話が早くて助かるよ」


 うちの学校も妙な先生を雇ってるな大丈夫かよ。


「まあとりあえずこれで終わったんで俺はもう行きますわ」


「ああ待ちたまえよ天神少年、さすがにこれだけの重労働をしてもらったんだお礼にお茶とちょっとした菓子くらいは振る舞うよ」


「あざっす、そういうことならもらってきますわ」


 2分もしないうちに茨先生はお茶と思わしき飲み物とクッキーを出した。


「いただきまーす」


 俺はクッキーを次々と口の中にほうりこみ最後のしめに一気にコップの中身を飲み干した。 


「うん?」


 俺はそこで違和感を感じた。


「これなんすか? 今まで飲んだことない味がするんですけど」 


「あー実はそれ昔、私が調合した魔道植物の成分を含ませたものだよ。ペットボトルにつめて保管してたのはいいがラベルを貼るのを忘れてね、どういう効力かわからなくなってしまったからちょっと君に毒味してもらったんだ」


「はぁ!?」


 俺は突然の茨先生のカミングアウトに驚愕する。彼女が言うことが本当なら俺はいまなんだかわからない危険な飲み物の実験体に現在進行形でされていることになるからだ。


 ドン! ドン! ドン! 俺はなんとかいま飲んだ危険物を吐き出そうと腹を叩いてみるが特に効果はなかった。


「まあ大丈夫だ、命に別状があるようなものほ作ってないはずだから」


「そう思うならあんたが飲め……よ、ってあれ?」


 その時突然くらっとなる感覚が襲い、そのまま俺の意識は闇の中に落ちた。



……

 私、桂木魔昼は明日香ちゃんと一緒に食堂に向かっている最中、明日香ちゃんは何かに気づき声をあげた。


「あれ? 加賀斗だ」


「ほんとだ、けどなんか様子がおかしくない?」


 廊下の向こう側に見えた加賀斗はなんだか落ち着きがない様子で周りを見渡してる。    


「なーにしてんの?」


「お前らか、ちょうどいいところにきた煉の奴どこにいるか知らないか?」 


「煉? 今日は見てないけど」 


「連絡とれないの?」


「一応メッセージは送ってみたけど返信がない」


「先に食堂に行って迅雷くんたちと一緒にご飯でも食べてるんじゃない?」


「じゃあとりあえず俺も食堂行くか」


 そう言い加賀斗も加わり3人で食堂を目指すことになった。


「あれ? 煉いるじゃん」


 階段を下りた先の廊下にちょうど話題となっていた煉の姿があった。


「おお、なんだお前どこ行ってたんだよ」


 加賀斗と明日香ちゃんが呼ぶ声に反応して煉はこちらを向いたがなぜかその顔は訝しげな表情だった。


「なんだお前ら俺のこと知ってんのか?」


『……は?』


 文字通り意味不明な煉の発言に私達3人はワンテンポ置いて全く同じ反応してしまう。


「いやいや、何言ってんだよ」


「おおー、ようやく天神少年の知り合いと巡り合えたか」


 煉が何か答えるよりも先に白衣をきた女性が話に割って入ってくる。私はその人のことを始めてみたがこの場で唯一加賀斗だけは知っていたようで反応をした。


「茨先生」


「やあ、加賀斗少年」


「どちらさま?」


 明日香ちゃんは小声でこっそり加賀斗に彼女の正体を聞いた。


「ああ、この学校の保健担当の先生。俺は保健委員だから何度か会ったことあるんだ」

  

「へー、そうなんだ」


「ところでこれ煉の様子がなんかおかしいんですけど、もしかして茨先生のせいですか?」


「ああ、実は色々あって天神少年には私の魔道植物の被験者になってもらったんだ。それがたまたま記憶の一部が消える薬だったようなんだ」


「はいー!?」


「おお、さすが友人同士だね。天神少年もさっき全く同じ反応をしたよ」 


 にわかには信じがたいがいまの話が本当ならこの人のせいで煉は記憶の一部を失っていることになる。そんな重大な話をへらへらと話すこの人の態度ははっきりいって癪に障った。


「あの、初対面でこんなこと言うのは失礼かもしれないですけど無責任じゃありませんか? 今の話を聞いてる限りだと多分ちゃんと煉に了承をとって投薬したわけじゃないですよね? まるで笑い話みたいに言ってますけどちゃんと記憶は戻せるんですか?」


 私は頭に思い浮かんだ言葉を次々と茨先生へ投げつける。正直目上の人にこんな態度をとるのは失礼にあたるとは思うが、突然大切な人の記憶を消されて大人しくいれるほど私は人としてできていなかった。


「そうだね、確かにいまのはいくら私でもいささか良識に欠ける行動だった。すまない許してくれ。記憶に関してはそのうち戻るはずだが具体的にどれくらいかはわからない。ただこの後すぐ記憶戻す薬の調合をすることを約束する」


「わかりました、そうしてください。その間記憶のない煉は私達が引き受けますので」



……

「……でもお前本当になんも覚えてないのか?」


 ひとまず昼食を済ませるため私達は記憶のない煉と4人で食堂に移動していた。


「ああ、全然ダメだ。思い出そうとしてもなに1つ浮かんでこない」


「一応この中だと俺がお前と1番長い時間一緒にいるがわかんないか?」


「うーん、だめだやっぱり思い出せない」


「そうかこれでも10年以上の付き合いなんだがな」


「10年? そりゃまた随分長い付き合いだな、幼馴染って奴か?」


「まあだいたいそんな感じだ。一応そこにいる女性陣もお前とはそれなりに長い付き合いだけどなんか思い出せないか?」


 横に座る加賀斗にそう言われると、煉は向かい合って座っている私と明日香ちゃんの顔を交互に見つめながら顎に手を当て数秒考えた後、明日香ちゃんを指差して言った。


「多分こっちの方が性格悪い」


「正解」


「あんた記憶がないからって調子乗るんじゃないわよ!!」


「明日香ちゃん落ちついて!」


 椅子から立ち上がり煉にとびかかろうとする明日香ちゃんをなんとか私がなだめて居ると加賀斗が突然『あ!』と何かに気づいたように声を上げた。


「明日の試験」


『あ!』


「試験?」


 記憶がない煉は当然なんの話か理解できていないようだったが、私と明日香ちゃんも加賀斗が何を危惧しているのかその一言で察して同じように短い悲鳴を上げた。


「……けど記憶がないといってもさっきから充分会話は成り立ってるんだし、元から備えた知識は残ってるんじゃないか?」


「そうね! それは十分あり得るわ!」


「えーっとじゃあ煉、属性魔法は全部で8種類あるけどそれ全部言える?」


 これは魔法専門学校に通ってなくても答えられるような簡単な質問、一般良識だ。私としてはここから徐々に問題のレベルをあげて煉がどこまで覚えているのか確認しようと思ったのだが。


「魔法? なんだそれ?」


 この最初の質問で煉が魔法に関する全ての知識を失っていることが確定してしまった。


続く

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