第65話「あるあるに負けるなー!!」
「あとはあんただけよ」
今日行った小テストの返却が行われる中、すでにテスト用紙を返してもらった魔昼、加賀斗、明日香の3人は気づくと俺の席の周りに集まっていた。
「天神煉」
その時ちょうど桐八が俺の名前を呼んだ。俺は普通に椅子を引いて席から立って歩き出しただけなんだがなぜか周りの3人はその一挙手一投足を注視していた。
教壇まで上がり俺は自分のテスト用紙を桐八から受け取ったが、なぜか桐八は俺が掴んでも用紙を離そうとしなかった。謎の意地悪に困惑した俺が桐八の顔を覗くと、いつもの不機嫌そうな顔ではなくどこか悲しそうな静かな表情をしているのが見えた。
「お前正直やったろ?」
「は?」
顔を合わせた瞬間に桐八が言った言葉は俺の耳に全てしっかり届いていたがその意味を俺は一切理解できなかった。
「ふーっ……魔導憲法第4条の内容は?」
そんな俺の反応を見た桐八はわざとらしいため息を1ついてから急にクイズを始めた。
「えーっと、緊急時を覗き魔法使いは一般人に魔法を行使し危害を加えてはいけない」
「では同じく17条の内容は?」
「17条はたしかいかなる理由があろうと魔導協会の許可なく個人で魔獣を飼育することは許されない」
「22条は!?」
「22条はいち魔導師が契約できる召喚獣は5体まで、それ以上契約する場合は必ず魔導協会に申請を行うこと」
「……用紙を受け取ったならさっさと席に戻れ! 後がつまるだろ!」
突然始まったクイズタイムは同じように突然終了し、桐八の顔はいつも通りの、いやいつもよりさらに不機嫌な顔をして急に怒鳴り散らかした。
「あいつ何がしたいんだよ」
俺は教壇から自分の席に戻る最中に今の一連の出来事を思い返し1つの可能性に気がついた。
「あいつひょっとして俺がカンニングしたと思ってたのか?」
中々失礼な話だが、まあ直にそう言われたわけじゃないし別にしてもいないからどうでもいいか。
「お、やっと戻ったな」
相変わらず俺の席の周りには人が集まっていてそのうちの1人加賀斗がそう言って俺を迎えた。
「じゃあせーのでテスト用紙を見せあいましょう」
あーそれをやりたいからわざわざ集まってたのか。
「じゃあせーの!」
バッ! 俺含め4人は同時にテスト用紙を出した。結果は加賀斗は34点で8位、明日香は42点で6位、魔昼は46点で3位、そして神守学園1の秀才こと俺、天神煉の結果は48点で1位という華々しい結果を叩き出していた。
この圧倒的な格の差を見せつけられた3人はその場に跪いてしまった。
「あと2点……!!」
「こいついつも私の課題写してるくせに……!」
「こいつ俺より授業中寝てるのに……!」
「勝ちは勝ちだ」
……
「う~~」
テスト返却と終礼が終わり席を立ち教室を出始める生徒もちらほらいる中で私、片桐夏樹のすぐ横の席に座る友達の臼井桃子はあからさまに何か悩んでる様子だった。
「小テストの結果悪かったのか?」
「え!? 片桐さんなぜそれを知ってるんですか!?」
「いやそんだけあからさまに悩んでたらわかるわ!」
「そうですか、もうバレてしまっているなら仕方ありません、実は私こんな点数をとってしまって……」
桃子が出した答案用紙には20点、14位と書かれていた。
「あのテストで半分とれてないのは不味いわね」
反対側の桃子の隣席に座っている黒森蓮見も私と一緒に彼女の机の上に開かれた答案用紙を覗き込んでからそう言った。
確かにこの小テストは簡単なものだったとは言えないが、きちんと勉強しておけば半分程度はとれる内容だったと思う。
「このままじゃ私C級魔導師試験落としてこのクラスからも追い出されて地元に帰ってみんなから『桃子は頑張ったよ』と慰めを受けながら一生を終えるんです!」
「このドアホー! まだ1週間もあるんだから諦めんな! 普通に勉強しろ!」
私は渇を入れる意味もこめてすっかり弱気になっている桃子の頭を パチーン! といい音は響くがそんなに痛くないようにぶっ叩いた。
「けど桃子、あなた昨日の朝一緒にご飯食べたときは『今日は1日勉強漬けです!』って意気込んでたじゃない。それでこの点数だったの?」
「いえ……あの……それは~」
蓮見がそう聞くと桃子は急にばつの悪そうな顔をした。
「えっとそれがいざ勉強しようと机に向き合ってしばらくしたら、そういえばこの部屋ちょっと汚れが貯まってきたなーって気になって、用務員さんから掃除道具を借りて午前中はずっと部屋の掃除をしてました」
「あるあるに負けるなー!!」
物凄く普通な理由でテスト勉強をサボった桃子に私は再度、渇を入れるために頭を叩く。
「とりあえず午前勉強しなかったのはそれでわかったけど午後は何をしてたの?」
「それが部屋を綺麗になしたらちょっと満足してベッドの上に寝転んだら、なんだか目蓋が重くなって……」
「寝んなー!!」
物凄いシンプルな理由で勉強をサボった桃子の頭を私はこれまでより少し強めに叩いた。
「それじゃあ誰かの部屋に集まって一緒に勉強する? 実は私も勉強机の上に積んである天井まで届きそうな高さのトランプタワーを倒さないように注意を払いながら勉強するのは神経をすり減らして困ってたからちょうどいいわ」
「逆にこれまでよく倒さずに生活してたな」
「確かにそれならもし勉強しててわからないところがあってもすぐに聞けますし勉学以外のことをしようとしても止めてもらえますね!」
「まあ私も全然構わないけど、正直私も蓮見も人に教えるほど勉強できるわけじゃないんだよな~」
「なら頭のいい人も一緒に誘いましょう!!」
「え? そんなあてあるの?」
「はい! ちょっと聞いてみますね!」
正直私はいつも一緒にいる桃子、蓮見の2人以外にこのクラスであまり親しい仲の友達はいない、そしてそれは2人も同じだと思っていたがどうやらそんなことはなかったようだ。まあよく考えたら2人は私と違ってこれまで2回の実習試験でクラスのメンバーと仲を深める機会はあったしな。
その場からは動かず視線だけで桃子の姿を追っていると、前の方の席で話していた2人の生徒に声をかけていた。会話が始まってすぐ桃子はいつも通り少しオーバーすぎるリアクションをとって喜んでいた。
「上手くいったみたいだな」
「あの子って本当にわかりやすいわね」
同じことを感じ取った蓮見と軽く言葉を交わしていると桃子はいま話していた2人と一緒にこちらに向かってきた。
「魔昼さんと明日香さんの2人も一緒に勉強してくれることになりました!」
「よろしくねー」
「一緒に頑張りましょう」
……
「頼む煉! 俺に勉強を教えてくれーー!!」
廊下というかなり人目につく場所にも関わらず迅雷は俺の右足に情けなくすがりつき、そのまま子供みたいに情けなくわめいていた。
「お前ついさっきまで散々俺のことをバカ扱いしてたくせに急に手の平返してんじゃねーよ!」
「あの時はお前がマジの天才だったなんて知らなかったんだよ!! 頼むこのままだと俺は試験に落ちる!! というか大事な友人がこんなに頼んでるのになんでそんなに渋るんだよ!!」
「だってお前すげーバカだから教えるの大変そうだもん」
「うるせー! それくらい我慢しろクラス1位!」
「開き直るな!」
迅雷は一向に足から離れようとしないので俺は強引に足を動かして振り払った。
……
「ということで断られたんだ……俺ってもしかしてこのままじゃヤバイ?」
自身の席で返却された14点の答案用紙を見つめながら迅雷はすごくざっくりとした不安を抱えていた。
「もしかしなくてもヤバイぞ」
「さすがに10点台は不味いね」
両脇に立つアロス、陣もその意見には同意した。
「ていうか昨日は大人しく勉強するって言ってなかったっけ?」
「やろうとしたけど教科書に書いてある意味が全然入ってこなくて気づいたら寝てた」
「どうせそんなとこだろうと思ったよ」
「よし! こうなったら……陣! 俺に勉強を教えてください!!」
ものすごい勢いで自身に頭を下げる迅雷を見ても長年の付き合いがある陣は特に動揺したりはしなかった。
「はいはい。多分そうなると思ったよ」
「全く進歩のない奴だ、お前みたいな奴のお守りもをさせられたらいくら陣でも自分の勉強ができないだろう。よし、こうなったら俺もお前らに一緒について勉強して迅雷があんまり陣の邪魔をしないように見張ってやろう」
「あ! お前さては適当な理由つけて一緒に陣に教わりたいだけだろ!!」
「ち、違うわ! 俺は本当に陣のことが心配だから行くだけだ。……まあ、確かにちょっとわからないところがあったら教えてもらうつもりだが」
「やっぱり教わる気なんじゃねーか!!」
「まあまあ僕は別に2人に教えるくらいなんともないから」
このままほおっておくと永遠に不毛な言い争いをしそうなので見かねて陣が口を挟むと、迅雷とアロスは目を輝かせて頭を下げる。
『よろしくお願いします!!』
続く




