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魔法のある青春  作者: ドル
6月、7月 魔法がある試験
64/103

第64話「テスト」

 6月17日月曜日の朝、俺はいつも通り食堂のおばちゃんから今日の朝食を受け取り既に明日香、魔昼、加賀斗の3人が座っているテーブルに向かった。


 しかし先に席についていた3人は少しいつも通りではないことをしていた。3人とも朝食を食べながらもその視線はテーブルに広げられた教科書やノートに釘付けになっていた。


「なんだお前ら今日の予習か?」


「そうだよ」


「ちょうど1週間後にC級魔導士試験だから」


「そうそう、これ落としたら私達1発で一般クラスに落とされちゃう」


 入学初日の時点で担任の桐八から俺達は年内にB級魔導士まで進級しろと言われている。魔導協会に飛び級という制度は基本的にないので、そのために俺達はまず来週行われるC級魔導士試験を合格しなければならない。だがC級魔導士の認定試験は実技なしの筆記のみのため、まあ今日からでも勉強を始めればいいだろうと俺はのんびり考えていた。


「けど試験で聞かれるのって魔法と魔力についての基礎原理と魔法を使うにあたってのこの国の法令だろ? そんなの家で耳が腐るほど聞かされたぞ」


 ここにいる人間は俺含め代々魔法使いとして生計を立ててきた魔導名家出身の者ばかりなので、その辺の知識は子供の時からみっちり教育される。


「だからこそ今日の試験で不甲斐ない点は取れないんだよ」


「だからってまだ1週間もあるのにこんな朝から勉強なん……て、あれ? いま今日って言った?」


「言った」


「え? 試験って来週じゃないの?」


 そこまで言うと3人はようやくそれぞれの教材から目を離し変わりに呆れ果てた顔で俺を見た。


「今日は試験対策用の小テストやるって前々から桐八が言ってたろ」


「しかもそれはその日のうちに採点して放課後までには順位付きで返却されるのよ」


「試験とは直接関係ないけどここで不甲斐ない結果だったら特に私達名家出身者はいい笑い者よ」


「……お前らなんでそれ早く言わねーんだよ!!」


「なんで逆に忘れてたんだよ」


「仕方ないわね、私のノート見る?」


 すぐ隣に座っていた魔昼が自分の目の前に開いていたノートをこっちに寄せてくれた。


「いいのか?」


「別にいいわよこれくらい」


 俺は魔昼の親切に甘えてノートに目を通し始める。分かりやすく丁寧にまとめられた内容をしばらく読んでいると魔昼がページを1枚めくった。


 そこにはまたさっきと同じように整った綺麗な文面があったが1点明らかにさっきとは違うところがあった。それはノートのタイトル欄の辺りに鬼がいたことだ。頭に2本の角を生やしにっこりと笑いながら両手を挙げている鬼の落書き。


「なんだこの鬼は? とうとう桃太郎に復讐出来て喜んでるのか?」


「へ?」


 魔昼は一瞬『なんのこと?』って顔をして俺を見たが、すぐに何を見てこの感想が出てきたのか察したようで頬を赤く染めながらノートを急いで閉じた。


「別にそんな恥ずかしがることないだろ、俺も授業中よくノートの端に剣とかドラゴン描いてるぞ」


「……さぎだもん」


「え?」


「どう見てもあれはバンザイしてるうさぎでしょうが!!」


 そう言われて俺はもう一度脳内でさっきの落書きを思い浮かべ俺のよく知るウサギと照合してみる。結果、俺の中で1つの答えが出た。


「お前さては絵描くの下手だろ」



……

「……って言ったら思いっきり殴られたんだよ」


「なんだ、じゃあいつも通りお前が悪いんじゃん」


「なんでだよ!」


 朝礼前の教室で俺は迅雷にどうしてそんな酷い顔をしてるのかと聞かれ、ついさっきあった酷い出来事を説明し終えていた。


「ていうかお前今日の小テスト忘れたのかよ、バカじゃん」


「クソ! きっとお前も忘れてると思ったのに!」


 あまりにも朝の食堂でその件のことを煽られ続けたので、せめて同じく小テストのことなど忘れてそうな迅雷も巻き込んでやろうと声をかけたが、俺の彼への多大なる期待は裏切られていた。


「ていうか昨日体育館でバスケやろうぜって誘われたとき『明日に備えて今日は勉強する』って言ったろ」


「そうだっけ?」


 昨日珍しく迅雷を誘ったら断られたという出来事そのものは覚えていたがその理由については既に記憶の彼方に失せていた。


「けどそんなこと言うわりにはお前いま勉強してないよな」


 小テストは1限の時間に行われるのでもう開始まで1時間を切っている。教室にはすでにクラス全員集まっており俺と迅雷以外はそれぞれの席に着き最後の詰め込みをしている。


「俺はあれだよ、今なんかテスト直前になるとなぜか逆に開き直って大丈夫な気がしてくる時間が来てるから」


「そういう奴ってだいたい何にも大丈夫じゃないんだよな」


「うるせー! もう勉強すんの面倒なんだよ!! どうせ本番は来週なんだしもういいだろ!」


「本音が出たな」


「だいたい煉、お前だってなんも勉強してねーじゃんかよ」


「俺は別に天才だからその場しのぎの勉強は必要ないんだよ」


「そういう奴ってだいたい何にも天才じゃないんだよな」


「んだと!?」


 そんな風に俺と迅雷がいつも通り戯れていると ドン! 俺の机の上に乱暴に魔昼が手を置いた、いやそれはもはや叩いたという表現の方が正しかった。


 突然の出来事に俺も迅雷も言葉を失う。そんな俺達に笑いかけながら魔昼は一言言った。


「2人ともすこーし静かにしようか? 2人と違ってみんなは今おしゃべりじゃなくて勉強に集中したいんだ」


「ごめんなさい」


「すいませんでした」


 魔昼に怒られるのは日常茶飯事だがそれに対してぐうの音も出なかったり恥ずかしさで顔が真っ赤になったりするのはこれが始めてだった。



……

「で? テストどうだった?」


「ここで『全然ダメだったー』って答える奴に限ってだいたいいい点とってるんだよな」


「あ、それわかる」


 小テスト含め今日1日の授業が終わり、俺は加賀斗とダベりながらホームルームもといテストの結果が帰ってくるのを待っていた。


「けど桐八おせーな、早く持ってこいよ」


「いやもっと遅くていい、なんなら一生返さないで欲しい」


 声がした方向を振り替えるとそこにいたのは朝の謎の自信はその面影すら残っていない迅雷だった。


「もうおしまいだ、あんなに昨日勉強したのに全然解けんかった……」


 どうやらテストを通じて自分がバカだという現実と向き合わされ随分ショックを受けているようだ。


「昨日しかやってないから全然解けなかったんだろ」


「勉強は毎日ちゃんとこまめにしないとダメですよ迅雷ちゃん」


「おれ勉強嫌いだから無理」


「身も蓋もねー」


 ガラガラー、そんなことを話ているうちに教室のドアが開き、テスト用紙の束を片手に持った桐八が入ってくる。


「ひぃぃぃ! もうおしまいだ!」 


 それを見て迅雷は両手で頭を押さえその場にうずくまってしまう。


「大袈裟だな」


 俺はそう言いながら迅雷に手を貸して立たせ自分の席に戻そうとする。


「ていうか俺より勉強してないお前はなんでそんな余裕なんだ!」


「いや、だから俺は天才なんだって」


 朝も同じようなこと聞かれてそう教えてやったのになんでこいつは同じことをまた聞いてるのか、不思議に思いながらも俺はまた答えてやる。すると迅雷は可哀想な者を見るような目で俺を見て言う。


「お前って俺が思ってたより重症なんだな」


「どういう意味だ?」


 俺の問い詰めから逃げるように迅雷はそのまま自身の席に戻った。そしてそれを見た桐八がようやく口を開いた。


「それでは今から今朝行った小テストの返却を行う」



……

「うわー!! 俺14点だ!! 順位は16位!」


 膝から崩れ落ちながらわざわざ教室中に聞こえるようなボリュームでわめく轟迅雷の姿を見て俺、丹波琢磨は思わず顔をしかめる。


 それは当然というものだ。彼は朝から勉強もせず煉の奴とギャーギャー騒いでいたし、今もわざわざクラス中に自分の結果を公表している。


 しかも今回の小テストは50点満点なので14点ということは3分の1も点がとれていない上に、順位に関してもこのクラスは合計17人だから16位とはつまり下から2番目の順位と全くもって誇れる結果ではない。なのにそれをわざわざ公表するなんて全くもって文字通りバカがやることは理解できない。


「丹波琢磨!」


「あ、はい」


 そんなことを思っているうちに俺のテスト返却の番が来る。俺もそんなすごい手応えがあったわけではないが、とりあえず30点以上は間違いないだろう。


 そんなあたりをつけながら受け取ったテスト用紙に目をむけるとそこには11点クラス順位17位というこの世の地獄が顕現していた。


「……俺もう死のうかな」



……

「陣は何点だった!?」


 テスト返却と終礼を終えて放課後になってすぐ迅雷は何かにすがるように陣のもとへ向かいそう聞いた。


「47点で2位だったよ」


「クソ! なんでだ! 昨日一緒に勉強したのにどうしてこんな差がついたんだ!」


「多分迅雷がよく授業聞いてないで寝てるってところで差がついてるかと」


「そうだぞ迅雷、普段の積み重ねがお前と陣との間にそれだけの差を作ってるんだ」


 2人の会話に割り込んできたのは、2人と中学からの付き合いで親友のアロスだった。


「そういうアロスはどうだったんだよ」


「……26点でクラス順位は12位」 

 

「順位平均以下じゃん」


「うるせー! ヤマが当たらなかったんだよ!! ヤマが!」


「普段の積み重ねが云々どこいったんだよ!!」


 順位が低い方の迅雷がなぜかアロスを煽るという奇妙な構図になりながらも2人はしばらく言い合いをしていた。


「けど結局アロスも俺よりは上なのか」


「なんだお前自分よりも順位が下の人間を探してたのか」


「ああ、俺の下にあと1人いるからそいつを見て下には下がいるなって安心したくて」


「性格悪いな」


 迅雷がそう発言した途端、人知れず足早に琢磨が教室を去ったことに気づく者は幸運にも誰もいなかった。


「まあ、正直それが誰か既に検討はついているがな」

 

 口に出さなくても3人が今共通の人物を頭に思い浮かべていることはそれぞれすぐに理解し、それと同時に迅雷は体の向きを変え煉の元へ向かう。


「おーい! 煉はテスト結果どうだった?」


「1位だよ」


「いや、そういうのいいから」


 『しょうもな』という顔をしながら迅雷は煉が持っていたテスト用紙を奪い取る。


「1位ってとうせ下から数えてとかそういうオチだ……ろ?」


 迅雷は話の途中で思わず言葉を失う、続いて迅雷の後ろからテスト用紙を覗き込んだアロスと陣も思わずそれを見て開いた口が塞がらなくなる。


 それも当然だ彼のテスト用紙には本当に48点クラス順位1位と記されていた。


「だから言ったろ? 俺天才なんだって」


続く

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