第60話「大切な何か」
……
魔法と心は繋がっている。
それは今時、子供でも知っているような魔導の基礎原理。少し恥ずかしい話だが私はその時、始めてそのことを実感した。
なぜなら大切な仲間のことを想って放った私の『瀑布』の流れは明らかにいつもより強く、速く、大きかったから。
……
「ぷはぁ!!」
完全に不意をつかれて放たれた一花の瀑布により白夜は脇に担いでいた刃と共に随分の距離を流されたが、咄嗟に自身の周りに展開した防壁魔法により2人とも肉体的ダメージはほぼなく波の中から脱していた。
「時間まであと少し……多少のアクシデントはありましたが、これで今回の第2目標は」
『達成』その言葉を口にするよりも前に、キーン!! 白夜が咄嗟に構えた刀と近くの茂みから飛び出した神崎ソウシの持つ槍の先が甲高い金属音を鳴らして辺りに響く。
「こんなところまで戻されましたか」
「そいつは絶対に返してもらうぞ!」
鍔迫り合いながらもソウシは高らかに吠え、武器を持つその手にさらなる力を込める。
「無理です」
そのまま押し切られる前にソウシの薙刀を払おうとした白夜だったが。
「それはこっちの台詞」
その前に背後から回生が飛び出す。
バッ!!
回生が伸ばす手の先から逃れようと白夜は身を翻して後ずさったが、チッ! 狙い通り、その手の先で彼女の纏うローブの端に触れることに成功し、それと同時に回転魔法が発動する。
グルッ! 次の瞬間、白夜の体は180度回転して足は地面を離れて宙に浮き頭から真っ逆さまに落ちていく。なんとか受け身を取り頭は打たないようにしたが、その時すでに彼女の脇の中に刃はいなかった。
「いいぞソウシそのまま全力で離脱しろ!!」
急いで体を起こして周りを見ると、さっきまで互いに武器を交えていたソウシが刃を抱きかかえてこの場から遠ざかっているのが見えた。どうやら自分が一回転してから地面に落ちるまでの間に刃の身柄を取り返されたことを白夜はすぐに理解した。
当然その後を追おうと白夜は1歩踏み出すが、バン!! 自分の真横から現れた燃えさかる竜が地面をえぐるのを見てすぐに足を止め、それが来た方向に目を向けた。
「追わせねーよ」
「天神紅蓮」
白夜はその怪物を操る男の名を知っていた、なぜなら。
「いいでいしょう、あの子のことは諦めます。ただ変わりにあなたを連れていきます、あなたも今回の第2目標の1人ですから」
こうして紅蓮とこの場に残った回生を相手に第2回戦が始まる……と思った瞬間。
カァーーーッ!!!
突如青白く光る魔法陣が白夜の胸元で光だしそれを見て彼女は残念そうにつぶやく。
「時間切れですか……」
……
数分前。
ドサッ!! 炎寺の巨体がその場にゆっくり倒れた、そしてすぐにその体の上に容赦なく体重をかけた火月の右足が乗せられた。
「同属性同士で戦えばちょうどいい時間稼ぎになると思ったか? あめぇわ!! てめぇと俺じゃ炎に込める想いの熱が違うんだよ!! 大人しく先に行かせたお友達と2人で戦うべきだったな!?」
自分の真上で唾を飛ばしながら大声で勝利宣言をしている火月をうんざりしながら見上げて炎寺は言った。
「あまいのはおめーだよ、脳みその中まで熱で溶けてんのか? 俺はあいつに先に行けなんて言ってねえ『上手く動け』って言ったんだよ」
「何を……」
グサッ!! 火月が話している途中、光の魔力を纏ってその背後から高速で現れた信羅の魔剣の先が火月の胸下を貫いた。
「クソが!!」
火月はその状態から身を捻りながら背後に裏拳を打ち込んで信羅を引かせながら自身も後退した。
「あの野郎、思いっきり体重かけやがって」
上に乗っていた火月がどいたことで、制服に着いた土埃を払いながら炎寺は立ち上がる。
「まだやれるか?」
「ああ、まだまだこれからよ」
口ではそんな強気の発言をしているが、実際のところ炎寺はかなり消耗していることに信羅はすぐに気が付いた。だからこそ信羅は本来、先の不意打ちで仕留めるつもりだったが、火月は咄嗟に急所である胸を逸らして攻撃を受けたため、魔力はかなり消費したはずだが、それでもまだまだ元気な様子だった。
「おもしれークソガキ共!! やってくれんじゃねーか!!!」
「俺が前衛で行く、炎寺は後ろから炎で援護してくれ」
「任せとけ」
互いに臨戦態勢に入り、早くも第2ラウンドのコングが鳴り響こうとしたその瞬間、カァーーーッ!!! 突如青白く光る魔法陣が火月の胸元で光だした、これに気づいた火月の表情は怒りに変わる。
「ふざけんな!! これからって時に!!」
「あれって……」
「転送魔法陣だな」
「……しゃーねえ、今日はこの辺で満足しておこう、どうせいつかはお前らともまた戦うはめになるかもしれないし。それまでにはもう少し火力上げとけよ小僧」
わざわざ名指しをされた炎寺は吐き捨てるように火月が消える瞬間に言った。
「焼身自殺でもしてろ」
それを聞いた火月は嬉しそうな顔をして笑おうとしたようだが、その笑い声が響くより先に光とともにその場から姿を消した。
こうして、神森学園に突如起きた襲撃事件はいったんの幕を閉じた。
……
その翌日、5月29日水曜日。神森学園襲撃事件は新聞の一面を飾るほどの大事件として取り扱われていたが、実際のところ大した被害は出ていないため臨時休校にこそなったものの特別クラスの生徒は変わらず寮に残っていた。
そんな中で煉、加賀斗、明日香の3人といつも通り食堂で昼食をとるため魔昼は1人で廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「あの!!」
振り返るとそこにいたのはクラスメイトの霞一花だった。普通に考えて同じクラスの人間に廊下で話しかけられるのはごく普通の事なのだが、今回はその相手が相手なだけに魔昼は少し驚いた。
なぜならいつも一花と話すときは自分から話しかけていて、その時も基本的に嫌そうな空気を露骨に出され、大抵いつもさっさと話しを切り上げられてしまうからだ。
そんな彼女が自分から話しかけるなんてよほど緊急な用事かと一瞬、魔昼は考えたが。
「あの……魔昼さんは次の土曜日はお暇かしら?」
「へ?」
あまりに予想外の話しの切り出し方に魔昼は思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。なぜなら今のはどう考えてもまるで暇だったら遊びに誘うような言い方だったからだ。
「もし暇ならその……まま、前に誘ってもらったケーキ屋さんにいいっ、一緒に行ってみたいんだけど……!」
と思っていたら本当に遊びに誘われていた。
「前に誘って貰ったときは私の方から断ってしまったし、やっぱり今さらこんなこと言い出すのは虫がよさすぎるかしら……?」
あまりに予想外の展開に魔昼は圧倒されっぱなしだったが、やがて落ち着いて一花に返事をした。
「ううん、誘ってくれて凄く嬉しいわ! 今度の土曜日一緒に行こう、けど出来れば明日香ちゃんも誘っていいかな?」
「も、勿論! 一緒に行きましょう!」
「うん、わかった! この後で誘ってみるね」
そう言うと軽快な足取りで魔昼は食堂へ向かった。
……
「全く本当に昨日はとんだアクシデントだったぜ」
その後魔昼も合流し煉、加賀斗、明日香のいつもの4人で昼食をとっている最中に煉はぼやいた。
「結局あれを受けて今回の実習はまだ途中だけど中止になっちまったな」
「まあ当然の措置よね、残念だけど」
「あー! あんなに毎日練習したのに結局1回も勝てなかったー! ていうか実質1回しか実戦できなかったし!」
「あれ結局成績とかどうなるんだろう」
「まあ最初の1戦目でつけるしかないよな」
「けどそれだとチームの相性とかその日の調子もあるしちゃんと成績つけれなくない?」
「くそー! マジで何だったんよあの2週間! 魔昼もそう思うよな?」
自身と同じチームでこの2週間を共にした魔昼に煉は話を振った。それに対して魔昼はどこか遠くを眺めながらも静かに答えた。
「うん、まあ勿論残念ではあるけど……」
「あるけど?」
「たとえ今回の実技の勝敗ははっきりつかなくても、成績にもしっかり反映されなくても……この2週間の中で私達の中でそれよりも大切な何かはちゃんと成長してったと思うわよ」
そういう魔昼の視線の先では頬赤らめ恥ずかしそうにしながら界人共に刃、ソウシ、ユミの3人が食べるテーブルに混ざろうとする一花の姿があった。
続く




