第51話「連携」
「近いよ」
試験開始から10分。反対側にある相手チームのスタート地点を目指して先頭を走っていた遊佐奈先輩は俺たちに短くそう告げた。
「みんな準備はいいね?」
こちらを振り返りもせずしてきた先輩の質問に俺は返事をすることができなかった。なぜなら次の瞬間相手チームの5人全員が俺の視界に入ってきたからだ。
「烈火漆式……」
1番始めに動いたのは相手チームのリーダー、クソ兄貴だった。魔刀を召喚しそれに魔力がどんどん集中させられていく。前に見たあの蛇みたいな怪物を召喚しようとしていると俺は即座に理解した。
「1本!」
俺は作戦通り相手チームを分断するため、そしてバカ兄貴の魔法を中断させるために自分に急ブレーキをかけて狙いをつけて炎弾を放った。
「チッ!」
どうやらそれは間に合ったようでバカ兄貴は自分の発動させようとしていた魔法を中断させその場でジャンプして上空へ回避した。
「銭投げ!」
さらにそれに追い討ちをかけるようにマナも無数の1円玉を辺りにばらまく。
その払う代償に応じて威力が決まる黒魔術の性質上、1円玉による攻撃は本来なら大した成果を期待できないものだが、相手チームにはその情報がないため不意の弾幕攻撃を警戒してそれぞれ散り散りになりながら回避していった。
これで分断は成功だな。
バシュンッ!!
それを即座に理解した魔昼と迅雷は即座に第一目標である琢磨に向かって駆け出す。それを視界の端に捉えながら、俺は俺で自分のターゲットを補足する。
ーーー
時は戻り、まだチームを組んでまもないころの出来事。同じ食卓を囲んで試験時の作戦を煮詰めている時、魔昼は思い出したように遊佐奈先輩を見て話し出した。
『前にライトニングを使えるのは1年で私と迅雷くんだけって言ったじゃないですか』
『うん、そうだね。それがどうかした?』
『ライトニングが使える人は確かにいないんですけど、ライトニングのスピードを駆使しても簡単には勝てない魔法使いが最低でも2人います』
『それは面倒だね。詳しく教えてる?』
『はい、1人は神埼ソウシ。光魔法の魔法適正を持っています』
『光は雷魔法と並んでスピード得意だからね。確かに厄介だね、僕たちの連携をかき乱されるかもしれない』
うちのチームの作戦は魔昼と迅雷の超スピード連携で1人ずつ相手の戦力を削っていくというものだ。そのため例え1人でも魔昼達と同等以上のスピードを持つソウシの存在はかなり面倒だ。
『前に一度ソウシとは手合わせしたことがあるんですけど、その時スピードだけなら私より上でした。スピードだけですけど』
スピードだけという部分を誇張することで、それ以外は自分の方が上だと主張する魔昼の姿に俺は思わずため息が出た。
『この負けず嫌いが』
『何よ!』
図星を突かれて怒った魔昼は俺に噛みついてくるが、すぐにそれを『まあまあ』と言って遊佐奈先輩が制した。
『僕は恐らく紅蓮くんを止めるので手一杯になっちゃうから、そのソウシくんの相手は煉くんかマナくんに頼みたいんだけど……』
『私は嫌です、お金かかりそうなので』
マナはきっぱりとその提案を拒む。俺もここ数日一緒に戦う中で彼女の性格はそれなりに掴んできていたので、別にそのことに驚いたりはしなかった。むしろ好都合だ。
『じゃあソウシの相手は俺がしますよ。ある程度あっちの手の内は知ってるし』
……
俺は散り散りになって新城の銭投げを回避する相手チームのメンバーの中から素早くソウシの姿を補足する。
「2本!」
まずは死角から挨拶がてらの炎弾をお見舞いする。だがまるで後ろに目がついてるかのようにソウシは体を右に傾けることでそれをあっさり避ける。
「攻撃がトロいんだよ」
こちらに振り返り余裕の表情で煽ってくるソウシだが、次の瞬間その姿が俺の視界から消える。いや正確には目で追えなかったのだ、ソウシの動きがあまりにも速すぎて。
だがこうなるこの展開は俺がソウシの相手をすると決まった時から読めていた。特別慌てて取り乱すことなく、俺は前もって決めていた通りその場で地面に手をつき魔法を発動する。
直後、足元から炎が湧き立ち、俺を中心とした火柱が燃え上がる。属性魔法の使い手は同属性に対して強い耐性を持つ。そのため俺にとってこれはちょっと熱めのシャワーとなんら変わりなく、また同じ炎属性の魔力で覆ってるため服が燃えることもない。
「くそっ!」
すぐ後ろでソウシが悪態をつく声が聞こえた。いつの間に俺の背後に回ってたのかまるで分らないが、未だにこの胸にあいつの持つ薙刀が突き刺さっていないということはどうやらこの作戦は上手くいってるようだ。
光は8つの属性魔法の中で雷属性すらも抑えて最速を誇っている。しかしそれと引き換えに攻撃、防御に関しては他に比べて劣っている。
そのため基本的に攻撃手段は魔力を散らす遠距離攻撃ではなく直接攻撃になりがちであるので、俺はあらかじめ自身の周りに攻撃を置いておくことで例えソウシの動きを捉えきれなくとも身を守ることに成功していた。
まあこの戦法だとこちらからもソウシに手は出せないのだが、俺が元々任されていたのはこいつの撃破ではなくただの足止めだ。
そして作戦通り、ソウシが俺に対して攻めあぐねているうちに魔昼と迅雷がターゲットである琢磨の元へ向かうのが見えた。
……
視界の端で作戦通りに煉がソウシの足止めしている姿が見えた。これでもう相手チームに私と迅雷くんのスピードに追い付ける者はいなくなった。
私達の今目の前には目標である琢磨くん、それと彼を守るように身構えている黒森蓮見さんの2人。琢磨くんの魔法は単体では攻撃性能がないので警戒すべきは黒森さん1人。
彼女は当然、接近している私と迅雷くんの存在に既に気づいていたが特に慌てた様子はなく、こちらに身構えながらその手にあるものを召喚した。
「靴?」
すぐ横で迅雷くんが思わず口にした通り、彼女の手にはなぜか男物のスニーカーが片方だけ召喚された。それは本当に特に何の変哲もないスニーカー、しいて言うならかなり使い込まれていてくたびれている。特に踵の部分は完全に履き潰されているようでぺったんこになっている。
なぜそんなものを今取り出したのか、その意図は全く理解できないがここで下手に警戒して足を止めれば、あまり時間をかけてしまうと他のメンバーに横槍を入れられるかもしれないので、ここは構わず突っ込む。
「私が彼女の相手をするから迅雷くんはそのうちに琢磨くんを」
「分かった!」
返事を聞いた私は1歩、迅雷くんの前に出て黒森さんに斬りかかろうとしたその時、彼女は突然問いかけてきた。
「あなたは考えたことがある? いつもいつも靴を履こうとした時に横着するせいでその足に踏みつけられる靴の踵の気持ちを」
その瞬間、私の周囲が突然少し暗くなった。驚いて上を見上げるとそこにはなぜか大きな靴底があった。
……
心と魔法は繋がっている。そのためより大きな感情を魔法に込めればその分、威力は上がる。
だがこれは必ずしも自分の魔法だけではない、時として心は他者の魔法と繋がってしまうこともある。
そのためもしもこの時、魔昼がいつも靴の踵を吐き潰していることに対する罪悪感を感じれば、この黒森の魔法は性能が数段上がり、高速移動する魔昼と迅雷の動きを捉えられる速度で降り、2人を踏み潰すはず、だったが……
……
スパッ!
結果としてそれは加速せず、既に2人がその下を通り過ぎてから何もない虚空を踏みつけ、その隙に魔昼は黒森を斬る。
「私、靴を履くときはキチンと踵を踏まないように気をつけてるから」
「偉いじゃない」
何とか急所である胸への一撃は避けた黒森だったが、今の一太刀でかなりの体内魔力を失いその反動で動きが鈍る。
「もらい!!」
その隙を突いて迅雷は黒森の横を颯爽と駆け抜け、琢磨に近付き左手に握る刀を一振する。
バチッ!
「うがっ!!」
彼の刀から少量の電気が発せられそれに当てられた琢磨君は短い悲鳴をあげて倒れた。
続く




