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魔法のある青春  作者: ドル
5月 仲間探し
50/103

第50話「なんでいきなりフラれたの?」

  5月27日月曜日。ついに2回目の実技試験当日の昼休み、既に昼食を早めに済ませた俺たちは裏山の目の前に班ごとに集まり、2人の教師から最後の説明を受けていた。


「基本的なルールは以前話した通りだ。初日はAチームとBチームが山の東側で、それからCチームとDチームが山の西側で戦う。勝敗はチームメンバー全員が戦闘不能状態になる、もしくは降参させた方の勝ち。それともう1つ、今回の試験開始時お互い離れた場所からスタートするが、このスタート地点にチームメンバーが2名以上撤退した場合は引き分けとする。だが最初から引き分け狙いで自陣の近くから動かず相手を待ち構えるような行為は禁止だ」


 事前に説明されている互いのチームのスタート地点は裏山の端っこ同士でかなり離れている。仮に中間地点辺りで戦闘になり、チームが不利になってその場からすぐに離脱して戻ろうとしてもその前に追いつかれてしまうだろう。


 そして今桐八が言ったように自陣の付近から移動しないのは禁止。こうなると引き分けるのは容易ではないが、そもそも俺達はこの2週間勝つために準備してきたのだ。なのでこの引き分けという選択肢は実質あってないようなものだろう。


「では質問がないなら早速スタート地点に移動してもらう、5限のチャイムが試験開始の合図だ」



ーーー

 数日前。


『雷飛先輩のアドバイスも受けてチームの連携はだいぶ仕上がってきたね』


 練習終わりにいつも通り俺たちはチームで固まって食堂で夕食にありついていると遊佐奈先輩はそう話を切り出した。


『いよいよ試験も近いし、この時間を使って各チームと対戦する時の具体的な戦闘方針を決めていこうと思います』


 確かにこれまではひとまず魔昼と迅雷を中心に戦うという連携を煮詰めてきたが、それだけであっさり勝てる相手ではないのは明らかだ。


『まずは初日に対戦する紅蓮くんたちのチーム。リーダーの紅蓮くんを最初に落とせたら最高なんだけど、多分それは難しい。だから他の1年生を私は狙うべきと思うんだけど、その中でも1番チームの障害になるのは誰かな?』


 確かクソ兄貴のところの1年はソウシに加賀斗、琢磨と黒森蓮見という女子の4人。


 黒森とはろくにコミュニケーションをとったことがないので使える魔法も知らないがそれを抜いた3人で1番厄介なのはまず間違いなく。


『琢磨ですね』

『琢磨くんですね』


 俺と魔昼は遊佐奈先輩の問いに同時に答えた。


『理由を聞かせてもらおうか』


 こういう説明は魔昼の方が向いてる。あいつもそれは分かってるようで俺が何も言わずとも話始めた。


『琢磨君の使う魔法は鏡魔法です。具体的にいうと光の屈折率をいじって人やものを本来の位置とはずれた位置にいるように惑わせるというサポート向きの能力です』


『なるほどね。確かにこのチーム戦においてそれはかなり厄介、真っ先に落としておきたいね。けど露骨に迅雷くんと魔昼ちゃんが琢磨くんに突っ込むだけじゃきっと上手くいかない。相手チームを一度分断させる必用がある』


 そこまでいうと遊佐奈先輩は俺とマナの方に視線を向けてきた


『それを君たち2人にやってもらいたい』


『楽勝ですよ、任せてください!……ところで何すればいいんですか?』


『出会い頭に相手に向けて君たちの魔法をぶつけて欲しい。うまくいけば後ろに一旦下がる人、その場で防御態勢をとる人、左右に回避する人って感じで簡単に分断できるかもしれない』


『なるほどー』


『初手から出費がかさむ……』


 攻撃する度に自身の懐が寂しくなるマナはこの提案に苦悶の表情を浮かべたが、それだけで『やりたくありません』とは言わなかったので遊佐奈先輩はそのまま話を続ける。


『分断が成功したら僕は紅蓮くんを攻撃する。彼の魔法はあまり距離とかは関係なく多人数を相手にできる強力なものだけど、その分溜めが必要とするから僕がなるべくそれをさせないように攻め続ける』


 あんなバカの魔法なんて大したことないと言いたいところだが、数週間前に実際に目にしたばかりだったのでさすがにそうも言い切れなかった。あの時は相手が雷飛先輩という異次元な実力者だったため軽くいなされていたが、あれと琢磨の鏡魔法を同時に相手するのは正直考えたくない。


 そうなってくると遊佐奈先輩がクソ兄貴を止めてくれてる間に琢磨だけでも倒さなければならない。


『その後は練習通り煉くんと新条さんは遠距離からサポート、そして桂木さんと迅雷くんが仕留める』



……

「始まったな」


 試験開始の合図である5限開始のチャイムが鳴り始めたとき天神紅蓮は呟いた。


「負けた方がジュース1本奢りの約束を魔昼と煉の奴としちまったからな、この戦い絶対に負けられない!!」


「その理由ならわりと負けても問題なくないか?」


 拳を握りながら今回の試験への意気込みを語る加賀斗に対してソウシは冷ややかな目で突っ込みを入れる。


「バーカ、あっちは2人だから俺が負け時は1人で2本も買わなきゃいけないんだよ」


「なんでそんな不利な条件呑んだ?」


「俺が買ったら2人から1本ずつ貰って2本も飲めるんだよ、ハイリスクハイリターン」


「しょうもな」


「まあ、理由はなんであれ試験に前向きなのはいいことだぞ加賀斗」


「ですよねー、さすが紅蓮さんは分かってる」


「お前も少しは見習え琢磨」


 そう言い紅蓮が目視線を向けた先には足をプルプルさせながら青ざめた顔をしている丹波琢磨の姿があった。


「紅蓮先輩すいません。やっぱり俺どうしてもトイレに……!」


「いやお前さっき散々行ってたんだから今さら行っても何も出ないだろ! だいたいもう試験は始まってんだぞ! 後にしろ」


「え? そうなんですか? けど確か開始はチャイムがなってからじゃ……」


「さっき思いっきり鳴ってたろ!」


「すいません聞いてませんでした」


(不味いな完全に緊張に飲まれてる、わりと俺たちのチームはこいつの魔法頼りの戦法だからな、このままじゃ不安だ)


 このコンディションでは練習通りの動きはまず期待できない。そう悟った紅蓮は少しでも琢磨の緊張を和らげる方法はないか思案し、すぐにそれを思いついた。


 紅蓮は先程から1人会話の輪に入ってきていないチームメイトの黒森蓮見に近づき、小声であることを頼む。


「おい黒森、お前からちょっと琢磨に励ましの言葉を送ってあげてくれないか」


「構いませんけど」


(琢磨の奴、根は単純というか素直な奴だから黒森みたいな女子に『頑張って』とか言われたら途端にやる気が出たりするだろう)


「丹波くん」


「は、はい!」


(黒森さんの方から話かけてきたのはこれが始めてじゃないか? うわーさっきまでとは別の緊張が……)


 一応、紅蓮の思惑通りこの時琢磨の頭の中から試合に対する緊張は幾分か取り除かれはしたが、思い通りに行ったのはそこまでだった。


「多分この先何があっても私があなたに恋愛感情を抱くことはまずないわ、ごめんなさい。それはそうと今回試験頑張りましょう」


「はい?」


「ちょっと待ってー!!」


 発言の前半部に明らかに自分の指示にはなかった、謎めいた発言があったため紅蓮は慌てて2人のやり取りに首を挟む。


「なんでそうなった? 俺の指示聞いてた?」


 大慌てで詰め寄る紅蓮と対照的に黒森はいつも通り何食わぬ顔で淡々と問いに答えた。


「丹波くんって単純だからもし私が『頑張りましょう』とかいったら『ひょっとして俺に気があるのかな』とか勘違いしそうで、それはちょっと困ると思ったので先にそれは否定しておいたんです」


 なまじ自分の狙いを見透かされた発言であったため紅蓮はそれ以上、黒森に何も言えなくなってしまう。その間にことの流れを一切知らない加賀斗とソウシが琢磨に詰め寄る。


「お前なんでいきなりフラれたの?」


「実は俺らに隠れて訓練の合間に色目つかってたのか?」


「いや黒森さんに特にそういう感情は持ってなかったから、今すごくどういう反応をすればいいか分からない」


(ヤバい、どうにかチームの雰囲気をいい方向にもっていこいうとしたらなんかカオスな感じになってきた。とにかくこれ以上事態が悪くなる前に進もう)


 いくら頭を働かせてもこの状況を好転させる手立てを見つけられなかった紅蓮はもはや半分やけで、1年生に対して大声で指示を出し強引に統率を取ろうとする。


「よーし!! そろそろ行くぞ! 加賀斗は先頭に立って索敵を頼む。戦闘になったら俺とソウシが前衛、琢磨は後衛から鏡魔法で相手を撹乱、黒森はその琢磨の護衛をしつつ俺らのサポート」


「分かってますよ」


「この1週間散々練習してきましたからね」


 続く





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

おまけ


「ていうかそんなにショック受けるってことはお前実は黒森のこと好きだったのか?」


「俺が黒森さんのこと……?」


 その時、琢磨の脳内で数少ないこれまでの彼女とのやりとりの記憶が流れた。


 それは例えばたまたま図書室で彼女と出会ったとき



……


「あら琢磨くん、奇遇ね」


「ど、どうもく、黒森さんも本を読みに来たんですか?」


「ええ、私こう見えて結構読書は好きなの」


「どんな本を読むんですか?」


「そうね、今読んでるのは『これで今日からあなたも蟻地獄! アリの巣の破壊の仕方7先』って本ね、どう? あなたも悪戯にアリの命を奪いたいならおすすめの本よ」


「いや特にアリに恨みとかないから僕は大丈夫かな」


……

「いや全然なんにも意識してませんでしたね。なんならちょっと怖いなって思ってました」


「なら別に問題ないじゃん」


「確かに」


(明日琢磨くんの机の中に画ビョウでも入れとこ)

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