第49話「血」
「やっぱり前後から挟むように動くのが相手からしたら一番嫌だと思うの」
「なるほどな、なら俺が正面から攻めて魔昼が後ろから回り込むことにするか」
「そうねプラズマの攻撃も警戒しなきゃいけない迅雷君が正面から対峙した方が相手も気を散らされると思う」
「私の黒魔術は煉の魔法と違って持ち金っていう限度があるから基本的にはあんたが牽制して、それでもうち漏らした奴は私がカバーするわ」
「いや俺も魔力切れっいう限度はあるけどな、まあけどそれでいいと思うわ」
5月20日月曜の朝、次の試験内容が発表されてから俺達は基本的にチームメイト同士で集まって朝食を食べていた。
まあこうすればうっかり自チームの情報を漏らすリスクがなくなるし、教室と違って周りに聞かれる心配をせずに今みたいな打ち合わせができる。そのため俺達だけでなく全てのチームが同じようにチームごとに固まって食事をとっている。
「みんなおはよう!」
いつもより少し遅く遊佐奈先輩が食卓に合流した。
『おはようございます』
俺たちが挨拶を返すと遊佐奈先輩はそのまま話を始めた。
「このチームが決まってもう4日経ちました。チームの連携もだいぶ形になってきたと僕自身思っているので今日からの訓練には特別コーチを呼んでさらに連携を煮詰めていきたいと思います」
「特別コーチ?」
遊佐奈先輩のいきなりの提案に俺達は驚いたが、確かに今までは遊佐奈先輩を除いた4人で訓練用のゴーレムと戦い、それを見ていた先輩から色々とアドバイスをもらうという内容だった。しかしそれもだいぶ形になってきたし、このまま遊佐奈先輩にずっとアドバイスをもらっていては先輩を入れた5人での練習が出来ない。
「コーチって誰なんですか?」
実際遊佐奈先輩はかなり的確なアドバイスをくれていたので、その変わりとなるのは割とハードルは高いように思える。
「うーん、それはこの後のお楽しみってことで!」
……
「ということで特別コーチとして来てもらった3年の鳴神雷飛先輩です!」
まあ普通に考えたら納得の結果ではある。2年生の序列2位である遊佐奈先輩より的確なアドバイスをするとなると、同じ2年生には少し荷が重いし、さすがにこの試験の性質状、教師陣は特定のチームに積極的に力を貸してはいけない。だから消去法的に3年生に頼るのは当然といえば当然なのだが、まさか3年トップ、いや教師を含め今この学園最強の人を連れてくるなんて大胆な展開は予想外すぎた。
「びしびししごいたるから覚悟せいや」
俺以外はこれが雷飛先輩との初対面だったためまだその衝撃にたじろいでいた。なので俺が率先して彼にみんなが今思ってる疑問を投げた。
「いいんですか? 先輩は極天魔導師なんですから忙しいはずじゃ」
この世界に魔法が普及してからそれなりに時間はたったが、いまだに魔法犯罪者や魔獣に対処できるレベルの魔法使いは少なく、魔導協会は万年人手不足だ。
そしてその魔導協会トップの極天魔導師ともなれば日々多数の任務に斡旋され、とても多忙なことはみんなが知っている。なので普通に考えて俺らなんかの訓練に付き合ってる暇はないと思っていたのだが。
「あーそうゆうのいいねんいいねん。今なんか上が自分を極天魔導師にしたっちゅう事務処理を鳴神家と一緒にやるので忙しくて、ちょうど自分らの試験が始まる日までは任務もなくて暇してたところやねん。まあそれに遊佐奈は可愛い1番弟子やしな、頼まれたら断れるわけにはいかん」
雷飛先輩の1番弟子という言葉に反応を示したのは俺のすぐ隣にいた魔昼だった。
「遊佐奈先輩って雷飛先輩の弟子なんですか?」
「うん、僕が去年1個上にすごく強い雷魔法を使える先輩がいるって噂聞いたから直接行って弟子にさせてもらったんだ」
それを聞いた魔昼はごくりと唾をひと飲みした後に雷飛先輩の方を真っ直ぐ向き頭を下げながらこう言った。
「あの! 私1年の桂木魔昼っていいます。私も雷飛先輩と同じ雷魔法を使えるのでぜひその手ほどきを受けたいです」
と随分重苦しく頼み込む魔昼の横で今思い付いたように迅雷が手を挙げ手言った。
「あ、俺も雷魔法使えるんでそれ混ぜてください」
「別に構わへんで、ていうか今日はそれをしにここに来たんやし」
「いえ、できたらこの試験が終わった後も定期的に」
「ああ、つまり2人は弟子になりたいっちゅうことやな、ええで自分が学園にいるときやったらいつでも声かけてくれでば稽古つけたるわ」
「ありがとうございます!」
「あざっす!」
その時のやたら嬉しそうな魔昼の笑顔を見て、俺はなぜかちょっとムッとした。
……
俺の気分とは裏腹に雷飛先輩のアドバイスを受けさらにチームの連携は精度をました。ただ相変わらず雷飛先輩と楽しそうに話す魔昼の姿はなんか面白くなかった。
そうこうしてる間に時は5月26日の日曜日。いよいよ試験前日を迎えた今日、俺は飼育員の当番が周ってくる日だったため、練習には途中参加すると伝え飼育部屋に来ていた。
さっき職員室に行ったとき既に飼育部屋の鍵はかけられていなかったため、今日同じく当番が周ってくる炎寺先輩が来ているのだろうと思いながら部屋のゲートを開けて中に入ると、予想とは違った人物が俺を迎えた。
「あれ? 雷飛先輩?」
「なんや煉も今日の当番やったんか」
一足先に飼育部屋に来てカーバンクル達と戯れていたのは雷飛先輩だった。周りを軽く見渡してみたが他に誰かがいる気配はなかった。
「今日って確か炎寺先輩が当番の日じゃあ……」
「本来ならそうなんやけども、自分が明後日から神原家との合同任務でしばらく学園離れるもんやから、その間は炎寺に変わりに当番入ってもらう約束して、今こうして炎寺の分も働いているちゅーわけや」
「へー、やっぱ極天魔導士になると大変なんですね」
「いやー自分らも2学期にB級魔導士に昇格出来たら、月に1回くらいは任務に駆り出されて学園から離れることになるで、魔導会は万年人手不足、いや魔導士不足やからな」
「それは面白そうっすね」
そういえば雷飛先輩とは何かとよく顔を合わせてるけど、こうやって2人きりで話すのは初めてだな。この際前から聞きたいと思ってたことを根掘り葉掘り聞いてみるか
「雷飛先輩ってなんでそんな強いんですか?」
「なんや急に藪から棒に」
「いやだって俺と2つしか歳違わないのに極天魔導士なんてやばくないですか? 今だって史上最年少ってなんて言ってお祭り騒ぎだし、実際雷飛先輩より若く極天魔導士になる人なんてこの先もう現れないんじゃないですか?」
この人の性格状、こんなことをいえばドヤ顔で『まあそうやな』と言ってくるものかとばかり思っていたが、実際はこれまで見たこともないしおらしい顔をして静かに答えた。
「別に自分はそんな大した魔法使いやあらへん、この力だってただのもらいもん。自分にはそこまで魔導才能はないねん」
「もらいものってどういうことですか?」
そういうと雷飛先輩はしばらく考えるような素振りをしてから答えた。
「鳴神家ってのは代々雷魔法のみを使う魔導士の家系やねん」
「はい、聞いたことあります」
「おかしいと思わへんか?」
「へ?」
「さっき言った通り鳴神家の人間は全員が全員強力な雷魔法の使い手やねん。確かに魔法使いの子供は高確率でその両親と同じ適正魔法を持つことが証明されとるが、それだって確か7割くらいの確率のはずや。なのに鳴神家の人間は100パーセント、1人残らず雷魔法の適性を持つんや」
ここまで言われたら俺だって流石にその以上性は理解できた。確かに人が生まれたときから持っている魔力適正はさっき雷飛先輩もいったように親の影響などは多少受けるが、完璧に一族全員揃えるのなんて俺が知る限り不可能なはず。
「なんでそんなことが出来るんですか?」
「……血を飲むんや」
「血?」
「鳴神家本家の屋敷、その地下には『雷獣』ちゅう雷魔法を使う強力な魔獣が代々拘束されとって、自分ら鳴神家に生まれた人間は物心ついたときその雷獣の血を1口飲まされるんや。するともれなくその子は将来優秀な雷魔法の使い手になれるんや」
「まあみんながみんな血に適応できるわけではない、中には命を落とすもんもおるが、鳴神家はついこの間までそうやって優秀な雷魔法の使い手を生み出し続けとったんや」
魔獣の血を飲む、これまで全く聞いたこともない手法、人様の家のやり方に口を挟むべきではないかもしれないが、下手すれば我が子の命が失われてしまうようなリスクをとってまで強力な魔導士を作ることに果たして意味はあるのだろうか。俺はそのことに疑問を持たずにはいられなかった。
「……いいんですか? それって鳴神家にとってめちゃくちゃ大事な情報ですよね? 俺みたいな部外者にペラペラ話して」
「せやな、このことを知るのは外部の人間では一握りの魔導名家の人間と魔導協会の上層部だけやから多分あんまりよくないんやろな。ただ最近みんな自分のこと極天魔導士、極天魔導士ってもてはやされてるうちにどうしても誰かに話したくなってしまったんや。自分なんて本当は別にたいした魔法使いやない、ただ周りよりちょっと多く血を飲んだだけなんやって」
『多く血を飲んだ』というくだりが気になったが正直その場の空気的に俺から聞きにくかったため俺は黙って雷飛先輩の話に頷いていた。
「それにもう鳴神家はこのやり方はしてない、いやできなくなったんや6年前に」
『6年前』、『鳴神家』と言う単語を聞けば嫌でも頭に浮かぶのはあの大事件。ある1人の魔法使いが鳴神家を襲撃し、それに応戦した当時の鳴神家当主を含む鳴神家の魔法使いの多くが惨殺されたあの事件。
「あの日殺されたんわ自分の兄貴だけやない。鳴神家の地下に拘束されていた雷獣も『ヤツ』の手にかけられたんや。あの日たまたま自分もその場に居合わせとって『ヤツ』に殺されかけたんやが、瀕死の雷獣の血を大量に飲むことでなんとか命を繋ぎとめたんや」
さっき『多く血を飲んだ』といってたのはそのためか。
「検査の結果によると今、自分の中に流れる血の半分くらいは雷獣の血らしい、だからまあ俺がこの歳で極天魔導士になれたんわそういうズルをしてるからちゅうわけや」
雷飛先輩がそう言って言葉を切ると何とも言えない沈黙が飼育部屋を包んだ。
「……すまんのう、なんやか変な空気にしてもうて」
「いやいや、もとはといえば俺から振った話ですし」
「そういえばいよいよ自分らの試験は月曜からのはずやけど初日はどこのチームとやるん?」
「えーっと確か初日は……」
……
同時刻訓練場で練習を重ねていた紅蓮はふとあることを思い、チームメイトの神崎ソウシ、加賀斗暁、丹波琢磨、黒森蓮見の4人に質問をしていた。
「そういや初日ってどこと戦うんだっけ?」
「Bチーム、遊佐奈先輩がリーダーのとこですよ」
真っ先に答えたのは加賀斗。それに続いて発言したのは神崎ソウシだった。
「あと1年におたくの弟さんがいますね」
「いきなりゆさっちとのところか、出来れば1回くらい実践を経験してから当たりたかったけどしゃーない。あのバカ弟に引導を渡してやるか」
続く




