第46話「俺の千円札」
俺達1年生が全員席についてまもなく桐八、そしてもう1人その後ろから女性が食堂に入ってきた。これまで校内で何度か見た覚えのある顔、確か2年特別クラスの担任、八神カグヤ先生。
「全員揃ってるな? ではこれから試験内容の説明を始める。今回、1年にはB級魔導師としてのチームの動きを学習するため、2年にはA級魔導師としてチームをまとめるリーダーとしての経験を詰んでもらうことを目的とした実習を行う。そしてその具体的な内容はチーム戦。お前達には今日からちょうど2週間後に裏山で他チーム全てと対戦、つまり合計3回のチーム戦を行ってもらう」
そこまで話すとカグヤ先生は口を閉じて1歩下がり、変わりに今度は桐八が前に出て説明の続きを始めた。
「勝敗はシンプルにどちらか片方のチームが戦闘続行不可能と我々試験官がみなすか、その前に降参した時に決まる。先程もいった通り実際の試験が始まるのは2週間後だ。それまでの期間の間はチームメンバー全員が揃った場合のみ1年生にも第二体育館の使用を許可する」
実習の内容を聞いた限りは強い方が勝つシンプルなチーム戦。多分チームの編成事態は実力が均等になるように学校側で調整されているはずだから、差をつけるとしたらチームワークってわけだな。そうなるとこの2週間という短い期間をどういかせるかが鍵になりそうだ。
「以上で試験の事前説明は終わりだ。何か質問はあるか?」
そう聞かれて手を挙げた奴が1人だけいた。同じ1年の霞一花だ。
「恐らくこの4チームの構成は実力が均等になるように組まれたものだと思っています。実際リーダーを努められる2年生の先輩は序列1位の紅蓮先輩、2位の遊佐奈先輩、3位のカムイ先輩と2年トップの実力者の方です。しかしそんな中なぜ私たちのチームは高魔でもなく、ましては特別クラスの生徒ですらない回生先輩なんですか?」
正直その事に関しては俺も少し疑問に思っていた。一花の言う通りここにいる生徒の中で唯一、回生先輩だけは特別クラスではなく一般クラスの生徒だ。不振に思うのは当然だがわざわざこのタイミングでそれを言う必要はないだろう。
俺がそんなふうに呆れているとカグヤ先生が一花に対してはっきりと答えた。
「ようはなぜ回生がこの試験でリーダーをつとめているかという質問だと思うが、そんなの答えは簡単だ。彼が強いから、それだけのこと。彼はたしかに特待生とはいえ一般クラスの生徒であり、また君の言う通り生まれた家も魔導名家ではなく一般家系だ。だがここにいる他の2年生3人と比べてもなんの遜色もない実力がある、そう判断して我々学園側は彼を4人のリーダーの1人として選んだ」
本人も言っていたが、非常にシンプルで簡単な答えが一花に返された。表情を見れば一花がまだ全然納得していないことが分かるが、ここまで断言されると言い返すのは難しいようでそのまま大人しく席に座り直した。
この後、一花のチームとも戦う俺達からしてみればいいことなのかもしれないが、ひとまず今の一連の流れのせいで回生先輩のとこのチームの雰囲気は最悪だろうな。
……
試験内容を聞いた後、俺たちのチームはそのまま第2体育館に移動していた。
「それじゃあまずはみんながどんな魔法を使えるか教えてくれる?」
遊佐奈先輩がそう聞いてきたので俺が早速それに答える。
「俺は炎魔法が使えます、だいたいこんな感じの」
俺は誰も立っていない方向に右手を向けて炎弾を撃ってみせた。
「なるほどね、あとドッチボール大会のときボールをパンチしてたよね?」
「そうですね、相手が距離とったら今の炎弾、近づいてきたらそのパンチをかますって感じですね」
まあ俺たち1年はまだ実戦訓練ができないから今言った戦法をまともに使ったことは一度しかないんだけど。
「うん、だいたい分かったよ。ありがとう」
遊佐奈先輩がそういうと次は魔昼が自分の魔法を説明しだした。
「私は雷魔法のライトニングを使えます」
雷魔法と一言で言ってもその中には今、魔昼がいったようにライトニングとプラズマという2つの種類がある。
前者は雷の力を身にまとって高速で戦うフィジカル系で後者は電気の力を放出させて相手を痺れさせるなどいやらしい攻撃を得意とするチクチク遠距離系。心と魔法は繋がってるというし、まあ魔昼みたいな気性の荒い奴がライトニングの適正持なのは妥当だろう。
「あと魔刀が使えて基本的に剣術とライトニングで向上した身体能力を合わせて戦います」
「へー奇遇だね、僕も実はライトニングの適正で魔剣を持って戦うんだ」
遊佐奈先輩がそんなことを言うと我慢できないとばかりに1人の男がその話に割って入ってくる。
「俺も雷魔法を使えて魔剣使いますよ!」
「おーいいね! これだけ同じスタイルの魔法使いがいたら作戦が組みやすいかも」
「けど俺は先輩や魔昼と違ってライトニングとプラズマ両方の魔力適正があるんですよ! だから魔剣も2本あって右はライトニングで左はプラズマって使い分けて戦います」
これには少し遊佐奈先輩も驚いた様子だった。
「凄いね、君魔力適正を2つ持つ『ダブル』なんだ!」
迅雷のまんざらでもない顔は少し癪だが実際こいつと魔昼が同じチームなのは心強い。この間のドッチボール大会でもこの2人の連係は輝いてたし。
「それじゃあ最後に新条くんの魔法を聞かせてくれるかな?」
当然俺達の視線は最後に番が回ってきた新条マナに集められる。するとなぜか新条は少し困った顔をした後、一番近くにいた俺に妙なことを聞いてきた。
「ねぇ、あなた千円札持ってる?」
「え? まああると思うけど」
「1枚貸してくれない?」
「どういうこと?」
「貸したらすぐわかるから、1枚だけでいいから! お願い!」
昔、父さんにお金の貸し借りはなるべく控えなさいと注意された気がするが、さすがにこの状況で貸すのを断るのもどうかと思ったので俺は財布をとりだし千円札を1枚、新条に渡した。
「ありがとう」
新条はそれを受け取りながら俺に一言礼を言いそのまま遊佐奈先輩の方を向き、説明をはじめた。
「私は黒魔術を使います。みんな知ってると思いますが黒魔術は何かしらの代償を払うことで超常現象を起こす能力です。私の場合は……」
そういうと新条は俺が渡した千円札をいきなりオーバースローで投げたと思ったら、それは彼女の手から離れた瞬間に白く光り、数メートル先まで飛んだあと爆発した。
「これが私の黒魔術『銭投げ』です。今見てもらった通りお金の価値を代償に攻撃ができます。金額が高いと他にもできることが増えて、例えば……」
「ちょっと待て!」
新条はまるで何もなかったかのように話を進め始めたので俺は思わず口を挟み大事なことを確認する。
「俺の千円札は?」
俺が聞くと新条は『やっぱりそうなるかー』という顔をしながら答えた。
「今回の実習が終わって私の所持金がまだ残ってたらその時返すから……ごめん」
やっぱり父さんの言う通り金の貸し借りは控えるべきだった。
……
俺たちが自分達の魔法を説明しあった後、遊佐奈先輩は顎に手を当て目を閉じて何か考え始めた。
待つこと3分程度、目を開けた遊佐奈先輩は早速このチームの基本方針を明らかにした。
「よし、とりあえず僕たちのチームは迅雷くんと魔昼くんを中心にしたチームにしようと思う」
それはかなり予想外の提案だった。だってどう考えてもこの5人の中で1番強いのは遊佐奈先輩だ(2番目は俺だが)。だからこのチームで戦うとなったら1番強い遊佐奈先輩が前線をはって、俺たちがそれをサポートする形になると思っていたからだ。
他の4人も思うところは同じようで、全員が『どうして?』といった顔をしていると遊佐奈先輩はその理由を説明しだした。
「1年生にライトニングの適正持ちって他にもいる?」
「プラズマはいますけどライトニングは私達だけです」
「それなら1年生で君たちの動きについてこれる人はいないわけだ。ならやっぱりこの作戦でいこう。さっきも言った通りこのチームの中心となるのは魔昼くんと迅雷くんだ、君たちは戦闘が始まったら1年生の誰かを集中攻撃して一気に倒しちゃって」
なるほど確かに魔昼と迅雷はうちのクラスでもスピードだけでいえば間違いなくトップクラス、その2人にいきなり襲われたら誰でもキツいだろう……あの2人以外は。
けどそうなるとやっぱり1つ気になることがある。
「でもそれなら遊佐奈先輩のほうが確実じゃないんですか?」
遊佐奈先輩も2人と同じライトニングの適正持ちのようだし実力は2人より上のはず、だからそっちのほうが相手にとっても脅威だとは俺も思う。
「そうかもしれないけど、それは相手のチームに予想されてるはずなんだ」
確かに言われてみればそうだ、俺だって戦いが始まったら相手チームで最も警戒するのは1番の脅威である2年生だ。
「だから私は戦闘が始まったら最初のうちは半分囮に近い動きをして少しでも2人が戦いやすいような状況にしようと思う。煉くんとマナくんは中距離攻撃が得意みたいだから僕たちとは距離をとって後方から援護をお願いしたい」
『わかりました』
俺達1年が全員その提案を承諾したのを確認した先輩は『うん、うん』と満足そうに頷き次の話を始めた。
「じゃあ早速やってみようか」
先輩は後ろに振り返りその場に魔法陣を展開した。展開された魔法陣の中からすぐに土でできた巨大な人形が出てきた。
「これはこの体育館の持つ機能の1つ、訓練用ゴーレム君。だいたいB級魔導士の上位くらいの力を持ってるんだけど、とりあえずこれを使って練習しようか。4人はさっき僕が言ったことをなるべく意識して戦ってもらって、僕は最初それを見て修正したほうがいい場所があったらその都度伝えるね」
今さらな話だがこの時俺はようやく魔法学園に入学した実感が湧いた。この間のドッチボール大会のようなスポーツという枠組みではなく、本当の真剣勝負がこの先待ち受けていて、それに勝つために同年代の人間と真剣に作戦を練る。
「最高に楽しい」
思わずそんな言葉が俺の口からこぼれた。
続く




