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魔法のある青春  作者: ドル
5月 仲間探し
44/103

第44話「性格悪いわね」

「よっしゃー! 俺とも勝負しろ雷飛!」


 飲み物を片手に帰ってきた雷飛先輩に炎寺先輩は早速勝負を挑んだ。しかし雷飛先輩の後ろからついてきた新たな人影がその挑戦に待ったをかけた。


「ちょっと雷飛先輩と次やるのはこの俺、天神紅蓮様ですよ」


 自分の名前に様付けるかね。またクソ兄貴の残念ポイントを1つ知ってしまった。


「ふざけんな紅蓮! 俺は放課後になってすぐ飼育部屋に行く前から雷飛と約束してたんだぞ」


「それ言ったら俺だって昼休みにたまたまあった時に約束したんで、俺のが先ですよ」


「少しくらい先に約束したくらいで威張んな」


「炎寺先輩が言い出したんでしょうが!」


 いつも俺とバカ兄貴の喧嘩見てる時の加賀斗と明日香の目がやたら冷たい理由が今わかった気がする。


「どっちでもいいから早くしなさい、見苦しいわ」


「そうよ! 私と星宮ちゃんだって早く2回戦やりたいんだから」


 どうやらこの低レベルな争いに嫌気がさしてるのは俺だけではなかったようで、真叶先輩と星宮先輩から非難の声が上がる。


「しゃーねえ、どうしても譲らないならじゃんけんで決めるしかないな」


「え? いいんですか?」


「それが1番早いだろ」


「いやまあ炎寺先輩がいいならいいんですけど」


 その時、俺と炎寺先輩以外のその場にいた全員が何かを察したような顔をした。


「じゃんけんぽい!」


 ジャンケンの結果はバカ兄貴がパー、炎寺先輩がグーだった。


「じゃあ俺が先ということで」


「クソー負けたー!」



「炎寺は絶対じゃんけんする時グーを最初に出すんだ」


 『やっぱり』といった空気が流れる中で、真叶先輩が俺にこっそり耳打ちで教えてくれた。


 なるほど、だからバカ兄貴はじゃんけんを持ち出された時わざわざ『いいんですか?』と聞き返したのか。


 随分大げさに落ち込む炎寺先輩を尻目に対戦する2人は訓練ブースへ移動を始めるが、バカ兄貴は俺の方を見て一旦足を止める。


「え? お前なんでいんの?」


 どうやらこの場に俺が居ることに今ようやく気付いたようだ。まあ俺自身、普通に絡まれたくなくて気配は消してた節はあるしな。


「雷飛先輩に会いに来た」


「じゃあもう会えたんだから帰れよ、宿題とか出てんだろ」


 あからさまに不満気な顔をして、クソ兄貴は俺をここから追い出そうとしてくる。

 

「まあそうなんだけど、どうせなら戦ってるところみたいじゃん」


「さては紅蓮、あんた弟の前で負けるの恥ずかしがってるの?」


「違いますよ!」


 いつもムカつくくらい余裕たっぷりなクソ兄貴だが、珍しくあからさまに動揺していることから、真叶先輩の言ってることは図星なのだろう。


「……まあ冷静に考えて極点大魔導士にただの学生魔導士が勝てるわけがないから、例えボロ負けしても恥ずることはないと思うが、あんまり見られたくないのなら、その負けっぷりをがっつり見てってやるか」


「お前思ったこと全部声に出てるぞ」


「性格悪いわね」


 無意識のうちに出ていた俺の本音を聞いたクソ兄貴は憎々しげにこっを見てきた。だが何かを言おうとする前にその背中を雷飛先輩がポンと叩く。


「安心しいや、自分は弟の前だからって気を利かして手を抜いたりはしない」


「別にそんなの期待してないっすから、やりますよ!」



……

 2人が中央のブースへと入った瞬間、その空間を覆うように魔力の壁ができたのが分かった。


「結界ですか?」


「そうだよ、あれがなきゃ観戦してるこっちまで燃やされたり雷にうたれたりするからな」


「極天大魔道師の攻撃でもちゃんと壊れないんすか?」


 いち学園の施設に使われてる結界でこの時代最強の魔法使いの1角の攻撃を完璧に防ぎきれるとは少し考えにくい。


「あーそれがあの結界は普通じゃなくて、なんだっけ黒魔術……だったか? まあとにかく特別な術の影響で中に入ると展開される魔法の威力はB級魔導士程度のものになるらしい」


「なるほど」


 炎寺先輩の説明がふわっとしすぎて仕組みはよくわからないが、とにかくあの2人がいくらあそこで暴れても結界の外にいる俺達に被害がないことは理解できた。



……

 リング内で位置についた2人はいよいよその戦いの火蓋を切ろうとしていた。


「ほな、始めますか。サービスでそっちから先に攻撃してもええで」


「どうせ躱すくせに」


「わからへんぞ、案外簡単に当たったり……」


 雷飛が言葉を言い終えるより先に紅蓮は左手に魔刀を召喚し即座に雷飛に向かってその刀身を振るう。2人の間は5メートルほど離れていたので、当然剣は雷飛にかすりもしないが、剣を振るうと同時に剣先から溢れ出た炎が雷飛を襲う。


「ほら、やっぱり躱した」


 始めに雷飛がいた場所には彼の身長ほどはある炎が燃えさかっていたが、当の本人の姿は紅蓮の真後ろに5メートルほど離れた場所に移動していた。


「前よりも炎の速度と範囲が上がっとるな」


(けど当たってないんだよな)


「どうも」


「攻撃面で成長してるのはよーわかったが、防御面はどうや?」


 雷飛は床を蹴り出し一気に紅蓮との距離を詰める。その動作に全く追い付けず紅蓮は簡単に詰め寄られた雷飛に殴り飛ばされてしまう。


「ちょっとそれ法廷速度違反じゃないですか?」


 警戒は緩めずも素早く立ち上がりながら紅蓮は言う。


「これでも2割くらいの速度や」


 雷飛は雷魔法の「ライトニング」の魔力適正を持つ。ライトニングの特性は文字通り雷のように速くするどい動きを可能にするもので、その力で極天大魔道師にまで登り詰めた雷飛の動きは一般人はもちろん魔法使いでもA級以下の者では目で追うことすらできない。



(2割って言ったけどパンチに込める魔力はそれよりさらに低い、じゃなきゃ思いっきり1発くらって俺がこんなにぴんぴんしてるわけがない。予想していた通り雷飛先輩はなんだかんだで全く本気を出してない。そりゃそうだ俺だって魔法覚えたての小学生と模擬戦することになったら手を抜くからな、けどやっぱ手を抜かれるのはムカつくな……あいつが見てると思うと尚更)


「せめて5割は引き出させてやる」


「なんか言うたか?」


 雷飛の問いかけを無視し紅蓮は魔剣に魔力を集中させる。


「烈火漆式、参のれっかななしきさんのかた……『生炎せいえん』」


 集中させた魔力を剣から解き放つと、ボワァーー!! 剣から大量の炎が燃えさかりそれはやがて3つ股の竜の姿を形成した。


「こらまたおっかない蛇が出来てきたのう」


 しかしそれを見ても雷飛は涼しい顔をしたままだった。そのことに対する怒りを少し込めながらも紅蓮は竜に命令した。


「いけ」


 3匹の竜は紅蓮の下した命令通り、それぞれ別々に三方向から一斉に雷飛に襲い掛かる。だが雷飛はその攻撃も軽々と躱す。


「さすがにこいつらに噛みつかれたら、ちょっと自分でもきつかもしれんへな。まあ当たらへんけど」


 先ほどと同じように自分のスピードについてこれていない紅蓮に対し、雷飛は一気に距離を詰めて一撃を与えようとするがその途中、側面から再び竜達が襲ってくる。


「確かに俺は雷飛先輩の動きを見切れないですけど俺の魔法は雷飛先輩のこと見えてるみたいですね」


(生炎か、なるほどこいつら蛇はただの魔力の塊かと思っとったが、それぞれが個別に意思を持つ顕現型の精霊に近いようやな。本気じゃないとはいえ、自分の動きについてこられるかなり高性能な精霊が3匹。強力な魔法やが、その分紅蓮の魔力がどんどん減ってるのがわかる)


 勝負は打って変わって雷飛が防戦一方の展開になっていたが追い詰めているはずの紅蓮ははたから見ても確かにかなり消耗しているのがわかる状態だった。


(このまま5分も耐えれば自滅しそうやけど、さすがに先輩としてそんな勝ち方はできへんな)


 正面と背後から挟み込むように2匹の竜が雷飛に向かってくる。雷飛はそれをギリギリまで引き付け右に回避するが、その回避先に向かってもう1匹の竜が炎弾を放つ。


 ボーン!  雷飛がさっきまで立っていた場所に炎の柱ができた。だが。


「惜しかったのう、あともう1匹おったら危なかったかもしれへん」


 いつの間にか紅蓮の背後には雷飛の姿があり、赤く光る雷を纏った拳を振るおうとしていた。


 しかし、この竜たちの攻撃をかいくぐらせ、接近すればと自分の勝ちだと雷飛に確信させることこそが、紅蓮の本当の狙いだった。


「いますよもう1匹」


 雷飛の方に振り向きながら紅蓮は突きを放つ。そしてその剣の先から4匹目の竜が現れ雷飛の拳とぶつかり合った瞬間に爆音と爆風がブース内を埋め尽くした。



……

「負けたかー」


 気づいた時には紅蓮はブースの外で尻餅をついていた。


「いや完全に嵌められたわ、中々やるやないか紅蓮。多分俺以外の3年なら今ので1本取れてたんとちゃうか?」


 一方でブース内に残る雷飛は紅蓮に励ましの言葉をかけた。


(ブース内で中の人間が一定量以上のダメージを受けると判定されると、安全用の術式が作用して外にはじき出される。つまり雷飛先輩はあの一瞬で俺の竜を吹き飛ばして尚且つ俺に致命傷を与えられるくらいの力があるってことか)


「負けは負けですよ」


「ほな次行くか、残り9回」


 この後に炎寺や真叶や星宮の2周目が控えている雷飛はひと休憩する暇も惜しみ、そのまますぐに2回戦に移るように紅蓮にせがむが、彼はそれに対して首を横に振った。


「いや、実力差は充分分かったんでもう大丈夫です」


「なんや偉くさっぱりしとんの」


 大の負けず嫌いである紅蓮なら、『言われなくてもすぐに次行きまよ!!』とか言ってリベンジを挑んでくるだろうと踏んでいたので口にもした通りそのサッパリした返事に少し驚いた。


「ムキになってこのまま続けても時間の無駄ですからね。ちなみに最後のは何割くらいの力ですか?」


「うーん多分4割くらいやな」


(4割、まあ今の俺には及第点か)


「A級魔導士に上がったらまたお願いしますね」


 多少の悔しさを胸に秘めながら、その場を去る紅蓮を見据え雷飛はある思いを持っていた。


(自分がこの学園を離れとる間にあいつも変わったちゅうわけか……これから楽しみやな)


続く

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