第43話「めちゃくちゃ嫌われてた」
「なんだあれ?」
5月7日火曜日。長かった連休が終わり、俺は約1週間ぶりに自分の教室に足を踏み入れると、すぐに窓から見える異様な風景に気が付いた。
「おー、スゲー人だかり」
加賀斗の言う通り。正門付近に見たところ50人くらいはいそうな人だかりができていた。
「まあ大方今日この学園に帰ってくる、雷飛先輩目当てなんでしょ」
「その人誰? 有名なのか?」
全く聞き覚えのない名前だったので俺は明日香に聞き返したが、これがどうも相当非常識な質問だったことがその驚きの表情から分かった。
「嘘でしょ? この数日散々テレビで騒がれてた人よ?」
思い返してみれば、この連休の最後の方はずっと魔昼と映画観たり水族館行ったりして、1日遊んで家に帰って寝るみたいな生活をしていたから、テレビを目にした記憶はなかった。
「知らないもんは知らないんだから仕方ないだろ? で? そのライドー先輩は何者なんだ?」
「ライドーじゃなくてライトね。ていうかあんたにはこの前1回話したことあるはずなんだけど」
「忘れた」
「ほら、これ見ればあんたでもわかるでしょ」
そう言い、魔昼が差し出してきたスマホの画面にはネットニュースが開かれていて、その記事の見出しには『次世代最強の魔法使い鳴神雷飛。ついに史上最年少で極天魔導士に』とでかでかと書かれていた。
この国の全ての魔力に関する事象を管理するために作られた組織、魔導協会。原則全ての魔法使いはここに属して、各々の実力ごとにC~Sまでのランクに割り振られる。その最上位にあるのがS級魔導士である、が正確にはさらにその上にもう1つ上がある、それが極天魔導士だ。
これはS級魔導士の中でも特に優れた7人の魔法使い、つまりその時代最強の7人のみに与えられる称号で、魔導協会が保有する最高戦力として最も困難な任務を日々こなしている。
俺の母さんである天神家当主、天神蓮華もこの1人だ。あとは刃のところの神崎家当主と界人の霞家当主もまた極天魔導士だ。
「にしても『連休が終わる頃には会える』ってそういうことかよ」
俺は前に母さんと話したときに言われた言葉を思い出す。身内にいることから極天魔導士のふざけた実力はよく知っているつもりだが、俺のたった2個上でありながらその域まで達した男、鳴神雷飛。確かに俺も興味が出てきた。
「ほら、前にあんた飼育員にまだ3年の先輩が1人来てないって言ってたでしょ? それが雷飛先輩ね」
「なんだ詳しいな」
「やっぱりそんな凄い魔法使いが近くにいるなら直接会って話してみたいと思って、ちょっと調べたことがあったから」
「へー」
うっとりした顔で加賀斗に話す魔昼の顔は、なんとなく気に食わなかった。いまからあの人混みに加わる気にはなれないが、今日は飼育員の当番がある。その時に炎寺先輩に雷飛先輩がどんな人なのか聞いてみるか。
……
「雷飛先輩が飼育員って本当ですか?」
放課後、同じ飼育員の当番だった炎寺先輩に俺は早速聞いてみた。
「ああ、そうだよ。やっぱりいくら御三家の御曹司でも極天魔導士様のことは気になるもんか?」
「いや別に俺はそんな興味ないんですけど、俺の知り合いはちょっと気になってるみたいで……けどまあ、しいていうなら」
「しいていうなら?」
「……雷飛先輩と俺ってどっちの方がかっこいいですか?」
俺がそう聞くと炎寺先輩は『え、そこなの?』という顔をした後こう答えた。
「うーんとりあえずその2人と比べたら俺が1番かっこいいんじゃねえか?」
「会話のキャッチボールしてくださいよ」
「率直な感想だよ。まあ気になるなら自分で確かめろ。ちょうどこの後、雷飛の奴と会う予定だし、お前もついてこいよ」
……
飼育員の仕事が終わった後、俺が連れてこられたのは第2体育館だった。ついこの間まではここで散々ドッチボールの練習をしていたが、本来なら魔法の実戦授業や、放課後などに自由に鍛錬や模擬戦をする所である。
だがまだC級魔導師の資格を得ていない俺達1年生は足を踏み入れてはいけない所だと桐八からは言われている。
「雷飛の奴とは模擬戦やる約束してたからここにもういるはずだ」
「俺ら1年はまだ使っちゃダメだって言われてるんですけど入っていいんですか?」
「ああ、そういえばC級魔導士の資格を取るまではそうだったな。まあ俺についてきて入る分には多分大丈夫だ、模擬戦さえやらなきゃ怒られない」
「結構緩いんですね」
体育館の中に入るとすぐに真ん中で行われている模擬戦を観戦しながら何かを話している上級生が2人いた。そのうちの1人の女性が俺と炎寺先輩の存在に気がつくと声を上げた。
「あー! 星宮ちゃんこの子だよ、私が前に言ったドッチボール大会でいきなり王条をぶっ飛ばした1年生君は!」
一応言ってることは事実ではあるが、あれはたまたまラッキーパンチが当たっただけなんだよな。まあまるで俺が真っ向から王条先輩をぶっ倒したみたいになってて悪い気はしないから訂正はしなくていいか。
「始めまして俺1年の天神煉です」
「始めまして私は3年の精蓮慈真叶、実はドッチボール大会の時に君たちの試合の実況をやらせてもらったんだ。いやーあれは本当に実況のしがいのある熱い試合だったね、君が始まった瞬間に王条を外野送りにした所も忘れられないけど、私的にはあそこも……」
「こほん!」
真叶先輩のマシンガントークはその隣に座る女性の咳払いによって打ち止めされた。
「真叶、あなたがおしゃべり好きなのは知っているけど、まずは私の自己紹介が先じゃなくて?」
「ごめん、ごめん」
真叶先輩がへこへこしながら俺から離れ、後ろに下がると変わりにいま咳払いした先輩が俺の前に出た。
「始めまして私は星宮星羅。今真叶が言ったようにあなたが王条のメンツを潰したという話は私達3年の中でも噂になっているわ」
そういえば王条先輩は確か元特別クラスのトップだったはず。そんな人を俺みたいな新入生があっさり倒したとなれば3年生から生意気だと噂されていてもおかしくはないのか。『あまり調子にのらないでくださいね』くらいの釘を今から刺されるのかと一瞬身構えたが、それは思い違いだったようだ。
「よくやってくださいましたわ、あの馬鹿もこれで少しは自分が調子に乗りすぎたとようやく反省しているはず」
「ほんとざまーみろだよね。あんな大勢の前であいつに恥をかかせてくれた君には私達クラス全員、感謝の気持ちでいっぱいだよ!」
随分俺の予想からかけ離れた話の展開になってきたため、俺は後ろにいる炎寺先輩の方に振り返り向き、あることを確認する。
「ひょっとして王条先輩って……」
「ああ、クラスでめちゃくちゃ嫌われてた。だってあいつめんどくさいし人の話を聞かねーし」
確かに思い返せばドッチボール大会の時もチームメイトとちょくちょく揉めてたし、人間関係はあまり得意な人ではないんだろうな。
「まあそこの2人に関してはあいつの人間性の問題以外にも、特別クラスに王条がいる間に結局一度も勝てなかったっていう私怨も含まれてるけどな」
「ちょっと何言ってんのよ炎寺!」
「失敬ですわよ!」
「王条先輩って確か元序列1位なんですよね?」
「そうだよ。入学してから2年の夏に雷飛に負けるまで俺らの代はずっとあいつが1位だった。その後の2学期からは一般クラスに編入しちまったから結局負けたのはその時1回だけのはず」
「3学期まで残ってたら私にも負けてたけどね!」
「お互い上手く逃げられましたわね」
「けどお前ら今度は雷飛に勝てなくて結局1年の頃から序列は変わらず2位と3位じゃん」
2位と3位? 現金な話だがそれを聞いて俺はこの2人を見る目が変わってしまう。なんたって3年の序列2位、3位とはこの超エリート魔法学園内でのトップ3に君臨しているということと同意だからだ。
これほかなり誇れることだと思うが、どうやら当の本人達はあまり納得してないご様子で。
「今学期こそは1位になってやるわよ!!」
「そうよ極天魔導士だか何だか知らないけど、いつまでも雷飛程度に遅れをとる私ではなくってよ!」
かなりムキになって言い返していたが、炎寺先輩はそれを軽く流し、思い出したように2人へ問いかけた。
「そういや俺あいつと模擬戦やりにきたんだった、どこいんの?」
「雷飛ならいまは信羅と模擬戦やってるよ」
「それなら終わったよ」
瞬間、声がした方に全員が注目した。そこには中央の対戦ブースからこちらに向かって歩いてくる2人の男子生徒の姿があった。
『結果は?』
星宮先輩と真叶先輩がほぼ同時に質問を投げかけると、前にいる方の男が面白くなさそうに答えた。
「9対1」
「私と同じとは中々やるじゃない信羅」
「まあ私は2本とったから、やっぱりこの中でいま極点魔導士に1番近いのは私だと正銘されたね!」
「威張るんなら、せめて自分から5本くらいとってから威張れや、真叶」
真叶先輩に釘を刺したのは後方にいた長髪の男、会話の流れから察するにこの人が……
「うっさいわねたかが極天魔導士になったくらいで調子に乗るんじゃないわよ雷飛!」
やはり俺のお目当ての人物、鳴神雷飛先輩のようだ。
「お前それ自分がS級魔導士になった時も言っとったけど、それで言うたら自分はいつになったら調子にのっていいん?」
「むかつくから一生ダメに決まってんでしょ」
「理不尽やな~」
そこまで話したところで男は、いや雷飛先輩は俺の存在に気が付いた。
「うん? なんか見慣れん顔が1人増えとるな炎寺?」
「ああ、こいつは俺たちと飼育員の1年の天神煉だ」
「天神? ああ、紅蓮の弟か……うん? ってことは自分か? ドッチボール大会で王条をぶっ飛ばしたっていうのは?」
「そうですね、油断してたんでやっちゃいました」
「いやーよおやってくれたわ、直接見とらんくてもその話し聞いとるだけでこう胸がすーっとするわ」
あの人ホントにみんなから嫌われてるんだなー。
「基本任務が忙しくてあんまり委員会には顔だせへんやろうけど、これからよろしく頼むわ」
「はい、よろしくお願いします」
俺との挨拶をすますと雷飛先輩はそのまま一旦飲み物を買いに外に出ていった。すると残された俺に炎寺先輩は聞いてきた。
「どうだお目当ての極天魔導士に会えた気分は?」
「そうっすね、とりあえず俺のがルックスは上ですね」
「え? あっそうか……」
(こいつマジで顔の良さを見比べに来たのか)
続く




