第41話「読心術」
「えーっと久しぶりね、咲笑ちゃんに麗美ちゃん」
様子見と意味合いも込めて魔昼は目の前にいる2人に話しかけた。
「そうですね、久しぶりですね、できれば二度と会いたくありませんでしたけど」
その結果やはり2人が自分に強い敵意を持っていることが返事から分かった。
その事は当然、隣にいる煉も感じ取っていて思わず苦笑いを浮かべる。
(こいつら相変わらず仲わりーな。いや正確には麗美が一方的に嫌ってるだけか)
「ほら! 隠れてないで咲笑姉もガツンと言ってやりなさいよ!」
さっきから自分の後ろに体を隠して煉達を見ていた咲笑の背中を押して、前に出させる麗美。
「いやそれよりなんでお前らはここにいるんだって」
これ以上場がこじれるのを嫌った煉が一度口を挟もうとしたが、それを遮るように咲笑が口を開いた。
「そ、そう言う煉様こそ何をしてたんですか?」
……
一方、この修羅場を相変わらず観察中の3人はある問題にぶち当たっていた。
「この距離だと何言ってるかよく聞こえないわね」
「いっそもっと近づきませんか?」
「いやさすがにこれ以上はバレるだろ」
そんな2人がどう問題を打破しようか話し合ってる中で、黒森蓮見はある提案をする。
「仕方ないわね、私が読心術で何言ってるのか読んであげるわ」
「読心術ってなんですか?」
「口の動きを見て何を言ってるのかわかる技術のことだよ。ていうか蓮見そんなことできたんだな」
ちょうどそのタイミングで煉が何かを話し出した。
……
「俺は魔昼と映画見に行く」
……
そしてそれを見ていた蓮見は宣言通りに煉が今何を言ったのかを2人に伝える。
「いま『俺は魔昼と永遠に行く』と言っていたわ」
「え? プロポーズしてんの?」
「魔昼さんこそを真剣に愛していて、君たちは遊びだったと伝えてるんですね!」
蓮見が言ってることに誤りがあるとは微塵も思っていない2人はそれぞれ動揺する。そんな中今度は麗美が口を開いた。
……
「そんなのいいじゃないですか!」
……
そしてそれをまた蓮見が微妙に言い換えて伝える。
「『そんな奴のどこがいいんですか?』と聞いているわ」
「単刀直入に聞きますね」
「まあそこははっきり聞いておきたいんだろうな」
……
「けどこいつと観てこいってじいちゃんにお金持たされちゃったし」
……
「『けどこいつのじいちゃんお金持ってるから』と答えたわ」
「お金目当てなんですか!?」
「うわー、本人の前でそんなこというなんて最低ね、女の敵よ」
……
「私たちだって煉様と遊びたいです」
……
「『私たちだって遊ぶお金欲しいです』だって」
「え? あっちもお金目当てなの?」
「これひょっとして煉さんのことじゃなくて、魔昼さんのおじいちゃんの遺産を巡ってる修羅場なんですか?」
予想外の展開に蓮見以外の全員が困惑し始めたとき、麗美がある提案を持ちかけていた。
……
「わかりました、このまま対話を続けても結局上映までの時間がどんどん無くなってくだけです、ここらで白黒つけましょう。私達と泥棒猫のあなた、どっちが煉様と映画を観に行くか」
麗美は魔昼のことを指さし宣戦布告した。
「まあ私は別にこいつとの映画にそんなこだわったりはしてないけど、桂木家の長女として申し込まれた勝負から逃げるわけにはいかないわ」
なぜかこだわらないと言いながら勝負する気満々の魔昼とは違い、どんどんおかしな方向に進んでいく会話に煉はまた水をさそうとするが。
「いや、別に4人で観に行けば……」
「あんたは黙ってなさい!」
『煉様は黙っててください!』
「あ、すいません」
拒絶されてしまい、結果これから行われる勝負を特等席から観戦することになった。
「それで白黒つけるっていってたけど方法はどうするの?」
「そんなの決まってるじゃないですか」
麗美は挑戦的な顔で魔昼に向かって拳を付きだし、こう言った。
「じゃんけんですよ」
……
「なんかたくさん話してたけどどうなったんだ?」
一連の出来事に全くついていけてない片桐は唯一この中で彼等の会話を理解できている蓮見に問いかけた。
「端的にいうと誰が遺産を継ぐか今からじゃんけんで決めることになったわ」
「そんな給食で余ったデザート誰が食べるかみたいなノリで決めちゃっていいのか?」
……
麗美の挑戦を受けると宣言した魔昼は当然グーを構えた。そんな彼女の姿を見て麗美は心の内でほくそ笑んでいた。
(かかったわね、私がそんな運任せな勝負を正々堂々挑むわけないでしょ)
そんな麗美の思惑など魔昼は知る由もなく勝負は始まる。
『最初はグー、じゃんけん……』
(いまだ!)
その瞬間に麗美は自分の体内から魔力を放出し、その魔力は彼女の周囲を包み込んだ。これは自らの魔力を体外に放出し自身の周囲に広げることで、その範囲でのあらゆるモノの動きを魔力を通して完璧に掌握する『探知領域』という魔法である。
(これであんたの動きは手に取るようにわかるわ、今チョキを出そうとしてることも)
勝ちを確信し麗美は右手にグーを作る。だがその瞬間 ピリピリ、魔昼も一瞬雷の魔力を体にまとった、そしてその結果。
「私の勝ちね」
麗美が出したのはグー、魔昼が出したのパーだった。
……
「じゃあそろそろ映画始まるから行ってくるけど……」
勝負の結果に従い煉は魔昼と2人で映画館の方に向かおうとする。
「はい、私達は先帰ってますね」
一方、自分から勝負に挑み破れた麗美はしょんぼりとうつむきながらその場を去ってく。そんな彼女を見て煉は1歩近づき何か声をかけようとするが咲笑がそれを遮った。
「多分今、麗美ちゃんはあんまり煉様とお話したくないと思うので、ここは……私に任せてください。……あ、けど別に麗美ちゃんが煉様のこと嫌いになったとかそう言うのではなくて!」
「いや、大丈夫伝わってるよ。さすがお姉ちゃんよく分かってあげてるな」
咲笑はそう言われると顔を真っ赤にして照れくさそうにして言う。
「いえ、そんなたいしたことありませんよ。では、私はこれで……あ、それから今回は譲りますけど……その、私達も負けませんからね」
最後に魔昼に対して釘を刺してから咲笑は麗美追いかけていってしまった。
……
私の探知領域は完璧だった。実際あいつ、桂木魔昼がチョキを出そうとしてることは完全に読めていた。けどそれに気づいたあいつはその寸前で雷魔法の力によって肉体強化し、高速でチョキからパーに変えた。探知領域で読んでも間に合わないほどのスピードで。
探知領域は本来自分よりも素早い相手に最小限の動きで対応するための魔法。それを使っても対応できなかったということは、つまり今私とあいつの間にはそれ程実力に差があるということ……
「咲笑姉、私強くなるよ」
ちょうど自分の隣にきた姉にそう告げると、彼女は驚いて聞き返した。
「え? じゃんけんを?」
「そっちじゃない!」
……
映画を見終え外に出るとすっかり日も暮れ始めていた。当初の目的も終えたので私と煉はこのまま帰宅するため迎えの車が来ている駐車場を目指していた。
「まあまあいい映画だった星4ってとこだな」
「私は文句無しに面白かったと思うけど?」
「いやーもうちょっとヒロイン側の感情の変化を丁寧に描くべきだな」
「へー、そういうもんなの、私あんまり映画とか見ないから」
「え? まじで? でもまあ考えてみればお前の親父さんそういうの厳しそうだもんな」
「そうね、だから今日はいい息抜きになったわ。ありがとう」
こんなストレートに煉の奴に感謝の気持ちを伝えるなんて、いつもの私ならできなかったと思うが、それをすんなり言えるほど今日私は彼に感謝していた。
ただ友達とショッピングモールをまわって買い物をして映画を観て帰る。これくらい一般的な高校生なら誰でも体験してそうなことだが、魔法使いの家系に生まれ毎日魔道の鍛練に励む私には夢のような時間だった。
けど夢とはいつか覚めるもの、そして私の夢が終わらせたの次の煉の一言だった。
「別に俺はただじいちゃんの奴にお前と遊んでこいって言われただけで」
その言葉が私を現実に引き戻す。
「そう、烈心おじさまに言われたからなの……」
私は何を期待してたのだろう。
そもそも少し考えてみればわかることだ。私と彼は許嫁といってもただ親同士が勝手に決めた仲、別に愛し合ってなどいない。だから今日のこの映画の誘いを彼が私のために自発的にやったと考える方が不自然。誰かに頼まれたという方が筋は通るというものだ。
そう頭では理解してはいる、理解しているけどなぜだろう。私は今とてもがっかりしている。
……
「じゃあまた今度な」
俺は迎えの車が停めてある駐車場の階で魔昼と別れた。
「うん、またね」
そう言った時には魔昼はもう俺に背を向け、自分の迎えが来ている上の階に向かって階段を上り始めていた。
どうもここに向かう途中からあいつの様子がおかしかったが、急に腹でも痛くなったのか?
そんなことを考えていたらいきなり後ろから肩を誰かにどつかれた。驚いて振り返るとそこには明日香の姿があった。
「ちょっとあんた何しでかしたのよ?」
「なんだよいきなり」
「なんだよじゃないわよ、魔昼ちゃん凄く怒ってたわよ」
「え? まじで? 確かに様子はおかしいと思ってたけど」
「うわー、自覚ないパターンですか、最悪。とりあえず今すぐ追いかけて謝ってきなさい」
「いや俺特に心当たりないんだけど」
「そんなの追いかけながら考えなさい!」
明日香の剣幕に押され、結局俺は今別れたばかりの魔昼のことを追いかけることになった。
あいつの迎えが来ているのはここから3つ上の階だと聞いていたので、俺はすぐに階段を駆け上がり魔昼に追い付いた。
「魔昼!」
「え? どうしたの?」
さて追い付くことには成功したが、結局その間にあいつを怒らせてしまった原因は見つけられなかったので、俺はさっき彼女に照れて伝え忘れたことを言うことにした。
「お前さっき今日は楽しかったってい言ってくれたけど……俺もだ。俺も今日めっちゃ楽しかった。この連休中に昔の中学の友達とか色んな奴と遊んだけど今日が多分1番楽しかった」
自分でも言ってて少し恥ずかしかったが、さっきまでずっと固かった魔昼の顔が軟化して少し嬉しそうになったのでまあ、素直に言った価値はあったかな。
「そ、そう。あんたもそう思ってくれたなら嬉しいわ……ただこれで私と遊ぶのが楽しいとわかったら、今度は誰かに頼まれるんじゃなくて自分から誘ってみなさいよ」
ああ、そうかそういうことか。
「そうだなごめん。じゃあ明日また遊ぶか」
「明日!?」
「なんだ嫌なのか? どうせ家に引きこもって魔法の鍛練してるだけだろ」
「鍛練は大事なことよ! ……けどまあどうしてもっていうなら後でお父様に頼んでもいいけど」
「おう、頼むわじゃあまた明日な魔昼」
その時、魔昼はさっきと違って真っ直ぐ俺の方を向いて笑顔で答えてくれた。
「うん、また明日ね」
続く
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おまけ「本当に読心術使えたけどちょいちょいわざと違うこと言ってた奴」
煉と魔昼が映画を鑑賞している同時刻桃子、片桐、蓮見の3人はショッピングモールを後にしていた。
「いやー、すごいもの見ちゃいましたね」
「そうですね、まさかあの天神家のボンボンが、お金目当てで女を弄ぶクソ野郎だったとは……けど蓮見お前読心術なんてどこで覚えたんだ?」
「何いってるの? 私使えないわよ、読心術なんて」
『え?』
一応こうして誤解は解けてたりする。




