第40話「2人の知り合い?」
5月4日土曜日の朝、神守学園の食堂にて。
「おはようございまーす!」
元気よく挨拶し、先に食堂の席に座って朝食をとっていた片桐夏樹と黒森蓮見のいるテーブルに臼井桃子は加わる。この3人は家が学園から離れているので連休の間も実家には帰省せず学園の寮で生活をしていた。
「昨日は楽しかったですねー」
「片桐のオススメしてたパフェ確かに美味しかったわ」
「あそこテレビで何度かとりあげられてたからな」
「蓮見ちゃんの案内で行った心霊スポットは怖かったけど」
「普通『行きたいところがあるの』って隠し通して心霊スポット連れてくか?」
「あそこもテレビで何度かとりあげられてた有名な場所よ」
「そういう問題じゃないわ!」
帰省しないといっても連休の間ずっと学園の中だけでは退屈なので3人は休みに入ってからほぼ毎日学園の外に出てそれぞれの行きたい場所に出掛けていた。
「今日はみんなで映画を観に行きましょうよ」
桃子は早速今日出掛ける場所を提案する。
「あ、いいねー。けどこの辺って映画館あったっけ?」
「それなら昨日近くの映画館の場所を調べておきました!」
桃子はそう言って既に今日行く予定の映画館があるショッピングモールをピン指したスマホの地図アプリを2人に見せた。
「ここで映画を見るなら、私ちょうど近くに寄りたい場所もあるんだけど」
「それ絶対また心霊スポットだろ!」
昨日、全く同じような話の流れで心霊スポットへと連れていかれたことを当然、まだ覚えていた片桐はずばりそのことを言い当てる。すると黒森は少し考えるように間を当ててから答えた。
「……楽しみね今日の映画」
「おい誤魔化すなよ! 絶対また心霊スポット連れてく気だろ!」
……
一方、魔昼に会うため煉が出掛けた後の天神家では、居間で横になってテレビを見ている加賀斗のところに咲笑と麗美の2人が来ていた。
「煉様がいない」
「出掛けたんじゃないか?」
(もしも煉が魔昼のところに行ったと知ったらこいつ絶対邪魔しに行くからな、何とかして誤魔化さないとな)
精一杯自然な顔を作って言ってみたが加賀斗は内心ドキドキしていた。彼は普段から当たり前のように噓をついて煉や友人達をからかうが、妹達に対してだけは噓を付くのに強い抵抗を持っていたからだ。
「けど煉様今日はずっと家に居るって言ってたよ」
「あいつ気まぐれだしな」
「そうだけどなんかおかしいのよね」
「おかしいって何が?」
加賀斗はこの時まだ白を切り通せばこの場を乗り切れると思っていたが、麗美は既に兄が本当は何か知っていることを確信していた、なぜなら。
「そうね、例えばあき兄がいつもなら一瞬でチャンネルを変えるテレビショッピングをずっと見てる所とか」
「ば! バカ野郎! 俺だってたまには最新の電化製品に興味が湧くんだよ!」
「今やってるの英会話教材の通販だよ?」
「あき兄は私達に嘘つくとすぐ動揺して変な行動とる癖あるんだから、諦めて白状しなさいよね」
「うるさい! とにかく俺は何もしら……!」
「ぶっちゃけ桂木魔昼が関わっるでしょ」
「それは本当なのあき兄さん!?」
「なんで知ってんの!?」
麗美の『やっぱり』という表情から加賀斗はすぐに自分が嵌められたことに気がついた。
「なるほどね、あの泥棒猫また私達の煉様にちょっかいだしてきて……で? 今2人はどこにいるの?」
「さ、さあそこまでは」
『居場所さえバレなきゃまだセーフ』そう思った加賀斗はこれ以上の追及を避けるためテレビの電源を消し、居間から出て自室に逃げようとする。
「待ってよあき兄さん」
当然、咲笑と麗美の2人が追いかけてくるが加賀斗は無視して廊下をずんずん進んで行く。
「仕方ないこうなったら……あき兄、これ以上しらばっくれるようだったら私たちにも考えがあるわよ」
「な、なんだよいきなり。俺は本当に2人がどこにいるのかは知らないんだよ……」
「もし本当のことを言わないなら今日からあき兄のことをクソ兄貴と呼びます!」
「やめろー!! それだけはやめてくれー!!」
長年にわたり煉と紅蓮という最悪の不仲兄弟の非常に低レベルの喧嘩を間近で見ていくうちに、加賀斗の中にはある信念が生まれていた。それは『俺は妹と仲良くしたい』だった。そんな彼が妹から紅蓮と同じようにクソ兄貴と呼ばれるのはとても深刻なダメージだった。
「実の妹を騙そうとする兄貴なんてクソ同然よ! このクソ兄貴!」
「うがっ!」
可愛い妹からのいきなり二度もクソ呼ばわりされた精神的ダメージに耐えきれず、加賀斗はその場に膝から崩れ落ちた。
「そんな汚い言葉使っちゃダメだよ麗美」
そのあまりに惨めな兄の姿に同情した咲笑は思わず麗美のことを諭すが。
「けどこれ言わないと煉様がどこにいったかわからないわよ?」
「あ、そうか」
煉がどこにいるか知るために必要だと言われるとあっさりとこの行為を容認してしまった。
「じゃあ咲笑姉からもクソ兄貴って言ってよ」
「え? けどそうしないと煉様の居場所知れないんだよね……」
そしてついに咲笑が覚悟を決めた顔つきになり、息を大きく吸い『ク』の発音をする口の形になった瞬間。
「分かった! 全部言うからもう許してくれー!」
加賀斗暁に限界がきた。
……
桂木家の人間が送迎する車に乗って俺、天神煉と魔昼は1番近いショッピングモールの一角にある映画館まで来たが、上映までまだ1時間以上あったので時間潰しのため建物の中をぶらぶらとしていた。
「どうする? とりあえずカフェにでも入って時間潰すか……って聞いてんのか魔昼?」
話しかけていたつもりの相手がこっちの話しそっちのけでよそ見していたので、俺は少し声を強めて彼女の名前を呼ぶ。
「あ、ごめん何か言ってた?」
魔昼の謝罪を聞きながらも、俺は自然と彼女がさっきまでむけていた視線の先を追っていた、すると見えたのは女性用の服やアクセサリーを着飾ったマネキンが置かれた服屋が目についた。
「なんだ服欲しいのか?」
「うん? べ、別にただちょっと綺麗だなって思っただけで欲いわけじゃ……」
「そういやお前が着てる服ってどうやって用意してんの?」
あの父親と魔昼が一緒に服を買いに行く光景はちょっと想像できない。
「いつも着てる服とかは全部家の使用人の人が勝手に用意してくれてるの、だから考えてみたら私自分で好きな服選んだことないなって、ちょっと思っただけよ……」
「じゃあちょっと寄っていくか?」
そんなあからさまに『自分で好きな服選んで買ってみたいです』って空気を出されたら俺もそう言わざるをえないんだが
「まああんたがそこまで言うなら寄ってみてもいいわよ!」
「いや別に俺は寄らなくてもいいんだけど」
「なんであんたはあーいえばこう言うのよ! もっと素直になりなさいよ!」
「お前がな」
……
そんな煉と魔昼の姿を少し離れた場所から観察している蓮見、桃子、片桐、3人の姿があった。
「あわわ、やっぱりあのお2人はお付き合いしてたんですね」
「あの人達は誰? 2人の知り合い?」
「いや2人共クラスメートだわ!」
彼女たちは煉達が向かった映画館で一足先に目的の映画を観終わり、帰る前にショッピングモールに寄ったところで2人のことを発見し、ここ5分ほどなぜか尾行を続けていた。
「仲が良さそうね」
「この間クラスの男子が話してのがたまたま聞こえたけど許嫁らしいよあの2人」
「そんなの本当にあるんですね、ロマンチック」
「けどわからないわよ。恐らくは親同士が勝手に決めた関係、本当はお互い別のところに想う人がいて、あれはただの見せかけの幸せかもしれないわ」
「そうなんですか!?」
「いやいや普通に楽しそうに見えるぞ」
「けどだいたいあーいうチャラついた陽キャはどうせデート中でもトイレとか行くふりして、別の女にも適当に『大好きだよ』とかチャットして機嫌をとって遊んでるものだって、私の兄が言ってたわ」
「ええ! それって二股じゃないですか、最低ですね!」
「いや私あいつのこと詳しくは知らないけど、別にまだ2股してると決まったわけじゃないだろ。あとお前の兄貴偏見が凄いな」
そんな知らぬ間にあらぬ疑いをかけられている煉は服屋を魔昼と共に出たところで別の2人組に見つかり声をかけられていた。
……
「ようやく見つけましたよ煉様」
加賀斗暁から煉の居場所を吐き出すことに成功した麗美と咲笑の2人はついに煉の元まで辿り着いていた。
「麗美に咲笑じゃんなんでここに?」
……
そして奇しくもこの状況はまさに先程、蓮見が言っていた別の女の登場であったので、依然として後ろから観察を続けていた3人のテンションが一気にヒートアップする。
「やっぱりいたようね、別の女が」
「まじかあいつクズ男だったのか」
「しかも2人もきましたよ! ということは3股!?」
続く




