第39話「映画見に行こうぜ」
5月3日金曜日、連休も折り返しを迎えた今日、俺はある場所に来ていた。
目の前にある仰々しい門の横には『桂木』という表札が付いている。そうここは桂木家の本家、つまり魔昼の自宅だ。なんでいきなり俺が1人でここに来る羽目になったかというと今から数時間前……。
ーーー
『で? お前さん最近魔昼ちゃんとはどうなんだ?』
『は?』
特に予定もないので自室でくつろいでいたところ、いきなり俺のじいちゃんこと天神烈心がやってきた。正直この時点から既に俺の中で嫌な予感がしていた。
『どうもこうも、別に相変わらずだよ』
『つまり相変わらず仲はよろしくないんだな?』
『まあ、いつも通りだよ』
実際の関係を一言で言うなら破滅的に仲が悪いとなるのだが、そんなこと言えるはずもなく俺はわざと容量がつかめないような答え方をして誤魔化しにかかる。
『お前今日は何だか暇そうだな』
『まあここ何日かは中学の友達と久しぶりに会って遊んでばっかだったから、今日はゆっくりしようかと』
『ならたまには魔昼ちゃんとデートでもしてみてはどうじゃ? ちょうどじいちゃん今流行りの映画のチケットを2枚ほど持ってての』
『いやでーす、今日は家から1歩もでませーん』
はっきりそう断り、俺は自室から出ていこうとするが。
『またんか!』
じいちゃんはいきなり俺の後頭部を力強く鷲掴みして乱暴にその場に押さえつけてきた。
『じいちゃんは暁と明日香の報告を受けて知っとるんじゃぞ! 同じ学校の同じクラスだというのにお前いまだに魔昼ちゃんと手をつないだことすらないのを』
『やかましいわ!! ていうかそんなくだらないこといちいち報告させるなよ! 何回も言ってるけど俺とあいつの関係はお前ら大人が勝手に騒いでるだけで俺は認めてないからな!!』
『お前そんなこと言って昔は一緒にお風呂とか入ったりしてたじゃないか!!』
『ガキの頃の話を持ち出すんじゃねえ!!』
俺はじいちゃんの拘束をなんとか振りほどこうとするが、割と本気で力を入れてるのにその腕はびくともしない。腐っても元天神家当主なだけはあるか。クソ! まあどうせ暇だったんだしこの際、映画くらい行くか。
『わかった! わかった! 行けばいいんだろ! 行けば!』
……
という流れを経て俺は今この場所にいる。そういえば魔昼に『今からお前の家に行くわ~』って連絡するの忘れたな。出掛けてないといいんだが。
とりあえず俺は目の前のインターホンを鳴らしてみる。
「はい、どちら様でしょうか」
押してすぐにインターホンから女の人の声が聞こえてくる
「あ、天神煉です。ちょっと魔昼に用があってきました」
「れ、煉様ですか! すいません何の出迎えもなく! 今すぐ連絡して家のものに出迎えをさせます」
大げさに思われるかもしれないがこういう反応はよくされる。まあ別に俺が偉いんじゃなくてみんな天神家が怖いからする反応なんだが
「いや別に大丈夫ですよ! 勝手にこっちが来ただけなんで、ところで魔昼今どこにいます?」
「恐らくこの時間なら道場で鍛錬をしてるかと」
「ありがとうございます。じゃあ門開けて入っちゃっていいですかね?」
「勿論構いませんがわざわざ煉様がお迎えに行かなくとも、客間でお待ちいただければこちらから魔昼様に来るようにもできますので」
「いや! 本当に大丈夫なんで!」
これ以上ここにいると本当に使用人の人が出迎えにきてしまいそうなので俺は魔昼の居場所を聞き出すとすぐにその場を後にした。
……
「ただ映画観に行こうぜ、って誘うだけなのにいちいち客室に案内されてらんねーよ」
正直この家の敷地内は昔散々冒険したから道場のある場所も勿論覚えていた。門から小走りで移動すること5分程度、あの日から何1つ変わってない木造建築が見えてきた。靴を脱いで中に上がると部屋の真ん中で1人、目を閉じて座禅を組んでいる魔昼がいた。かなり集中しているようだが俺は構わず声をかけた
「起きろー!」
驚いて魔昼はすぐに目を開けたが、なぜか目を開けてもまだ驚いた顔をしていた。
「煉? なんであんたここにいんのよ?」
多分この家で俺にため口で話すのはこいつだけだな。
「お前暇なら今から2人で映画見に行こうぜ」
「は? な、何よそれ!? いきなり過ぎない?」
「まあ、嫌なら俺1人で見に行くけど」
「誰も行かないなんて言ってないでしょ!」
「どっちだよ」
どうもいつもより興奮気味の魔昼のことを俺が不審がっていると、道場の襖が開き新たな人物がこの空間に加わってきた。そしてその人は正直昔からあまり好きではない相手だった。
「挨拶が遅くなってしまい申し訳ない煉殿。今日はどういったご用件で?」
その人物、魔昼の親父さんは俺に一礼した後そう聞いてくる。
「よければこれから魔昼と一緒に出掛けようかと、すいません突然来て」
「いえいえ、こんな娘で良かったらいつでもお誘いください。しかし道場で鍛錬したなら遊びに行く前に魔昼の汗を流させた方がよいかと」
……
ということで結局俺は魔昼がシャワーから出るまで客室で待たされることになった。置いてあった高級そうな菓子を適当につまんでいると魔昼より先に別の人が来た。魔昼の世話係のトメさんだ。
「あ、トメさんこんちは」
「こんにちは煉坊ちゃん」
「もういい加減坊ちゃんはやめてくださいよ」
「あらごめんなさいついつい癖で」
トメさんとは俺がまだ小学生にもいってい頃からの長い付き合いだ。
「それにしても今日はありがとうございます。学校から帰られてから魔昼様はずっと元気がありませんでしたので」
「なんかあったんすか?」
「いえ、むしろこの家に魔昼様が喜ばれることが何もないのでございます」
正直魔昼は昔から桂木家で疎まれている。理由は知らない。当主の1人娘が疎まれるなんて普通は考えられないが桂木家にも何か事情があるようだ……。
噂に聞くと俺が桂木家と交流が無くなっていた間にこの家の養子となった魔昼の義兄、桂木暮魔が今は次期当主候補筆頭となっているらしい。
魔昼が昔からとにかく魔法の鍛錬に打ち込んでいるのもそのためだ、魔法使いとしての実力すら無くなれば家から見捨てられる。あいつは本気でそう思っている。だから正直俺はこの家の人間を魔昼とトメさん以外好きになれない。
「なので昔のようにこうして遊びに来てくださると魔昼様は大変お喜びになります。さっきすれ違ったときも大変ご機嫌がよろしいご様子でした」
昔のように、そう言われると、ここに来る前にじいちゃんに言われた言葉が頭を過る。
『お前そんなこと言って前はよく一緒にお風呂とか入ったりしてたじゃないか!!』
「ごめん、待った? あ、トメさんもいんたんですね」
するとちょうど魔昼がやってきた。『遅せーぞ』と文句を言おうと思ったがそういう魔昼からはほのかにいい匂いがしてきた。
「顔赤いけどどうかしたの?」
「は? 赤くなんてなってねーから。それよりお前シャワーが長いんだよ軽く汗流すくらいでいいだろ」
「使用人の人たちが勝手に洗ってきたのよ、『煉様と出かけるならそれくらいさせとけ』ってお父様に命令されて」
「へー、わざわざ使用人が洗ってくれんのか。楽でいいな」
「……そんなのあんたと遊ぶ時だけよ」
「なんか言ったか?」
「別に、それより車出してくれるみたいだからさっさと行くわよ!」
いつも通りの厳しめの言葉使いだったが、そう言いながら部屋から出て行くあいつの後姿は凄く喜んでる様に見えた。
「まあ、わざわざここまで足を運んだ甲斐はありそうだな」
俺はそんな独り言を呟きながらその背中の後を追った。
続く




