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魔法のある青春  作者: ドル
5月 仲間探し
38/103

第38話「我が家」

 俺は父さんに言われた通り母さんに会うため天神家の敷地内に置かれてある道場へと向かった。思い返してみれば小さい頃の俺と母さんの思い出の殆どはこの道場にある気がする。まだ純粋に世界最強の魔法使いになるために魔法の鍛練に明け暮れていたあの頃……。


 そんな思い出に浸っているうちに俺は道場についていた。 ガラッ! 出入口のふすまを開くと奥で胡座をかいて座ってる母さんがいた。


「やれやれ、やっと帰ってきおったか」


「帰ってきてやったぜ、母さん」


 俺はそのまま道場の中に上がり母さんのとこまで歩いていった。


「聞いたぞ同級生の氷魔法の使い手と勝負して勝ったそうじゃの」


「何でそれを……!」


 と、言いかけたところで自分でその理由に気づく。


「あのクソ兄貴だな」


「やれやれお前ら兄弟の仲も相変わらずじゃの、いったいどこで教育を間違えたのか」


「あいつは根っからのクソ人間だから教育云々の問題じゃないよ」


「あいつはあいつなりに弟のお前のことを気にかけてやってるんじゃが、まあそのうち分かる日がくるじゃろ。そんなことよりせっかく久しぶりにあったんじゃし、私に土下座してまで入学した魔法学園で1ヶ月もまれた成果を見せてもらおうかのう」


 なんとなく道場にいると聞かされた時点でこうなる気はしてたが、やっぱりか。


「けどちょうどいいや俺もどれくらい自分が強くなれたか試したかったんだ」



……

 結論から言うと俺がどれくらい強くなれたかはよくわからなかった。なぜならだいたい30分くらい全力で攻撃したが母さんはその全てを軽くあしらい、結果俺は体力と魔力を使い切ってへばったからだ。


「まあ確かに確実に腕は上がっておるな。だが1年前の紅蓮はもう少し強かったぞ」


「世界1腹が立つ情報どうも」


 俺は一度逃げ出したてしまったが、アイツは物心ついた時から天神家の魔導の極意を散々叩き込まれた。なのでまだ魔法使いに復帰して1年もたってない俺がアイツより劣っているのは当然といえば当然だが、面と向かってはっきり言われるとやっぱりムッときてしまう。


「悔しかったらもっと鍛練に励むことじゃな」


「俺が卒業するくらいには母さんに追いつけてるかな?」


「それくらい強くなってくれでば天神家も安泰なんじゃが、まあこのままでは望みは薄いな。お主が教えを受ける気があるなら話は別じゃが」


 刃が使う『剣神顕現』のようにある程度の歴史がある魔法使いの家には代々受け継がれている秘伝の魔法ってものがあったりする。うちの家にもそれはあるんだが俺は色々あってそれについてホントに基礎の部分しか習ってないしこれから習い直すつもりも今はない。


「言ったろ、俺は俺のやり方で強くなるって」


 母さんとの戦いの中でぶつけたのだろうか、少し痛む頭を片手で抑えながら俺は言った。


「まあ実際学生でありながらわしに近い実力をもつ者はおるからの、お前も自分の信じた道をゆくがよい」


「まじかよ。世の中にはそんな怪物もいるのか、一度は会ってみたいな」


「なーにこの連休が終わる頃には会えるだろうて」


 母さんの意味ありげな言葉に真意を聞こうとするよりも早く、ガラガラー、道場のふすまが開かれ見知った顔の人達が入ってくる。いつも母さんの手伝いをしている従者の人達だ。


「蓮華様そろそろお時間です」


「そうか……」


 母さんは一瞬暗い顔をしたが、俺の方を向き直った時にはいつもの顔に戻っていた。


「悪いがそういうことじゃ、またしばらく家を空けることになるじゃろうから、今度帰ってきたときはお前の学校生活の話でも聞かせてくれ」


 それだけ言うと母さんは道場の入り口まで歩きだした。俺はそんな母さんの背中を見て一瞬照れくさくて言うのをためらったが、なんとかそれを我慢して言った。


「ありがとな」


「うん?」


「ここに来る前に父さんから聞いたよ。本当は昨日の夜に出なきゃいけなかったのに俺が今日まで帰ってこないから無理言って今日まで家に残ってくれてたって」


「やれやれ、別に言わんでいいと頼んでおいたんじゃがな」


「悪いな手のかかる息子で」


 俺がそう言うと母さんはこちらの方を振り返った。その顔にはさっきの無理して作った表情ではなく心からの笑顔ができていた。


「まあそれでもお前たちは私の可愛い息子じゃからの」


 それだけ言うと母さんはまた前を向き今度こそ一度も振り返らず行ってしまった。



……

 夜、その日の天神家の台所は久しぶりに賑わっていた。


「はい、煉さまには特別大盛ご飯ですよ」


「まじか、サンキュー麗美!」


 煉が持ってきたお茶碗の中に麗美はそこから飛び出るほどの山盛りのお米をよそった。


「お兄ちゃんも特別大盛ご飯を頼むぞ麗美」


「そんなことしたら煉さまのおかわりが失くなっちゃうでしょ」


「差別だ!!」


 加賀斗と麗美がいつものショートコントじみたやり取りをしている中まだ台所にいる咲笑を明日香が呼びに行く。


「咲笑ちゃーん、洗い物は一旦その辺にしてもうごはんにしましょう!」


「はーい!」


 台所から咲笑が戻って来ると同時に紅蓮も大護と悠里斗の2人を引き連れて食卓につく。


「お! 今日はなんだか豪華だな」


 テーブルを埋め尽くす様に置かれた料理の品々を目にして紅蓮は思わず感嘆の言葉が出る。


「久しぶりにみんなで夕飯だからって調理師さんがはりきってくれたらしい。咲笑と麗美も手伝ってくれたみたいだし」


 仕事を終わらせて1人先に戻ってきていた花火がそのことを教えた。


 それから程なくして煉、加賀斗、明日香、花火、麗美、咲笑、紅蓮、悠里斗と大護の総勢9名がそれぞれの席に座り、声を合わせて言った。


『いただきまーす』




「あ! その唐揚げ咲笑姉が作ったんですよ煉さま、ちなみにそのトンカツは私の力作です!」


「おいしかったですか?」


 煉を挟むように両隣に座る麗美と咲笑は自分達の料理に口をつけたタイミングを見計らってすぐにその感想を求める。


「うん! どっちもうめーぞ!」


「やったー!」


「ありがとうございます!」


煉から無事お褒めの言葉を貰ったことで、麗美は右手で拳を握り大袈裟にガッツポーズを作り、咲笑は手を合わせて嬉しそうにお礼を返す。



 その様子を見ていた加賀斗は横に座る明日香に質問をしてみた。


「ちなみにお前はどれを作ったんだ明日香?」


「みんなが今飲んでるお茶は私がついであげたのよ!」


「そうか、ありがとな」


 ほぼ何もやってないということをなぜか胸を張って堂々と言う明日香に、これはツッコムだけ無駄だと思った加賀斗はそのまま軽く流すことにした。




「悠里斗! 味噌汁のおかわりとってきてくれ」


 早くもよそってあった味噌汁を飲み干した紅蓮は目の前の座る悠里斗に向けてお茶碗を差し出しながらそう言った。


「いやよ、それくらい自分でとってよねー」


「なんだよ、いいじゃないかお前のが若干鍋に近いんだし」


「この唐揚げ咲笑ちゃんが作ったの? また料理の腕が上がったのねすごいわ!」


「おい聞けよ!」


 間違いなく聞こえるはずの紅蓮の言葉を無視することで『絶対にやらない』と意思表示をした悠里斗の姿を紅蓮の横から見ていた大護はやれやれとため息をついてから、その器を受け取り席から立ち上がった。


「僕が取りに行ってあげるよ」


「さすが大護頼りになる!」


「ちょっと、甘やかしちゃだめよ大護」 


 

……

「やっぱりいいね、みんなで食べるご飯は」


 食事の最中にふと父さんがそんなことを呟いたのが聞こえた。そういえばつい1ヶ月前まではクソ兄貴達こそいなかったが、これがいつもの夕飯の光景だった。迅雷や陣それに魔昼との食事も楽しかったがこれはこれでまた違った楽しみがある。


「やっぱ我が家はいいもんだな」


 俺も父さんに同意するようにしみじみと呟いた。



……

「ただいま戻りました」


 煉達と別れてから私、桂木魔昼が家に帰ってきたのはちょうどお昼頃だった。仰々しい門を開けて私は家の敷地内へと入る。


「おかえりなさい魔昼ちゃん」


 屋敷の中に入って1番最初に出迎えてくれたのは小さい頃から私のお世話係であり、古くからこの桂木家に仕えているトメさんだった。


「学校はどうでしたか?」


「色々あったけど楽しかったですよ。そうだ私クラス副委員長になったんですよ!」


「あれまーそれはすごい、さすが魔昼ちゃん」


「けどその後魔法実習ではちょっと失敗しちゃって、それを挽回しようと思ってその後のドッチボール大会は頑張ったんですよ! そう! ドッチボール大会で煉の奴がもうめちゃくちゃ大暴れして!!」


「まあまあ魔昼ちゃん、私のボケた頭ではそんなに一辺に言われても追い付けませんよ。ゆっくり聞かせてほしいところですが、私はこれからご飯の準備をしなければなりませんので」


「じゃあ早く話したいのでお料理手伝いますよ! ちょっと荷物を一旦部屋に置いてくるので待ってて……」


 しかし私がそう言うと、トメさんの表情は途端に暗くなりこう言った。


「それが当主様が魔昼ちゃんに帰ってきたらすぐ自分の所に来るようにと」


『嫌だ』


 その言葉を聞いた瞬間、真っ先に頭に思い浮かんだのはそれだったが、当然私の立場ではそんなこと口には出せないので。


「そうですか、わかりました。すぐ行きます」


 その真意とは全くもって逆の言葉を発した。



……

 自分の部屋に持ち帰ってきた荷物を置くと、私はまだ制服のまま桂木家の現当主、私の父である桂木玄(かつらぎげん)の自室に向かった。スー、静かに障子を開けて私は部屋に入った。


「お久しぶりです。お父様」


 私の予想通り父さんは非常に機嫌が悪そうだった。そのためか私の挨拶をしばらく無視した。余計なことを言うべきではないと私が判断したため室内はしばらく静寂に包まれる。


「聞いたぞ、実習試験で合格評価を得られず補修を受けたそうだな」


 ようやく口を開いた父から出た言葉は案の定『おかえり』などの私をねぎらう言葉ではなく断罪する言葉だった。


「すいません、全て私の実力不足です」


「そうだな、やはりお前は暮魔と違って魔導の才能はないのかもしれないな。だが一度入学してしまった以上後には引けない、お前には特に何も期待してないがくれぐれも桂木家の恥にならないようにだけ気をつけてくれ」


 それは予想通りの言葉であったが、それでも私は胸にナイフを突き立てられたような感覚を覚えた。


「はい、分かっています」


「今日から学園は休みのようだが、お前のようなものはおごらずこの休みの間も魔道の鍛錬はかかさぬよう。そのためにお前のようなものをわざわざ家に帰してやったのだから」


「はい、もちろんそのつもりです」


 その返事を聞くと父は鬱陶しそうに、私に向かって手を降った。部屋から出ていけという合図だ。それに従い私はまた静かに部屋を出た。


 部屋を出てすぐの廊下で心配そうな顔をしたトメさんと会った。


「ごめんなさいトメさん、やっぱり私少し疲れたので部屋で横になってますね」


 トメさんには悪いが、今の私はとても料理の手伝いをできるような気分ではなくなっていた。


「分かりました。お食事ができましたらお呼びします」


「お願いします」


 私の気持ちを察してくれたトメさんに感謝しながらもその場を去った。



 バタン! 自分の部屋のドアを開けて中に入り、そのまま真っ直ぐベッドに向かい力なく背中から仰向けに倒れた。


 ふと部屋に置いてあった時計に目を向けると現在の時刻は12時47分だった。いつもなら煉達と一緒にくだらない話をしながら食堂で昼食を食べている頃、そう思いふと言葉を漏らす。


「……早くまた学校始まらないかな」


続く

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