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魔法のある青春  作者: ドル
4月 魔法のあるドッジボール大会
34/103

第34話「勝ちたい」

「お前なんで……?」


 俺、蘭アロスは今の目の前で起きた現実を受け入れられずにいた。


 俺のことを庇った加賀斗はきっと迅雷や煉から話をこちらの事情を聞いてるはず。なら当然、俺のことはあまりよく思ってないはずだ。それなのにどうして自分を犠牲にしてまでいま俺を守ったのか、どうしても分からなかった。


 そんな俺の投げかけに加賀斗はさも当然かのようにサラッと答える。


「そんなもん決まってるだろ、勝ちたいからだよ」


 勝ちたい? 


 理解が出来なかった。なぜならこいつはきっと煉や迅雷からこちらの事情を聞いているはず。それなら俺が一応、煉との約束でこのドッチボール大会に力を貸すことにはなっているが、あまり積極的に力を貸す気はないことを知っているはず。


 高魔にとって下魔は使い捨ての道具でしかない。特に俺のように反抗的な不良品は乱雑に扱いやすいだろう。だからそんな俺をその身を挺してまで守ることなど、いくら勝つためとはいえ本来は有り得ないはずだ。


「ほら、ぼさっとするな立て! 俺に当たった後、ボールはそのまま転がってあっちの外野までいっちまった」


 加賀斗はそう言うと絶対に解けない式を懸命に思考し続ける俺の手を掴み上げ、無理やり立たせた。


「俺が残っても役には立てないぞ」


「かもな、けど少なくとも俺よりは王条先輩を止めれる可能性がある。お前は俺のこと嫌いだろうからこんなこと言っても無駄かもしれないが……俺はこの試合勝ちたい、だから例え無駄な努力だったとしてもお前には今ここで本気をだしてほしい」


 あいつはそう言ったあと数秒、俺と目を合わせてから背を向け外野へと歩いていった。


 絶対に有り得ないことだがその時のあいつの目はまるで『お前を信じてる』そう訴えかけてるように見えてしまった。


……

「さあこれで1年生チームも内野の残りも半数の4人になってしまったー! しかもボールはそのまま3年生チームの外野へと渡っています!」


 いよいよ試合も終盤戦に突入したため、真叶はその実況により拍車をかける。


「とうとう影虎まで動き始めたし、今残ってるメンバーじゃもう3年の攻撃は防ぎきれないだろ。さすがに1年贔屓のお前から見てももう負けは見えてきたんじゃないか?」


 試合開始から終始1年生の肩を持つような発言続けていた紅蓮に対して風果は挑発的な視線を向ける。


「別に俺は始めから1年生が勝つ可能性もあると言ってるたけですよ。実際なんだかんだ1年生はまだ3年生の倍は内野に人が残ってますからね。このまま全滅する前に1年が全員当てて逃げ切る可能性も残ってますよ」


 実際、ここまで何度も予想外の展開を見せてくれた1年チームの奮闘もあり観客席の何割かは紅蓮の言うようにこのまま1年チームが勝つと予想していた。


 誰もが3年チームの圧勝で終わると思っていたこの消化試合であったが、ここに来て最後までどちらが勝つか分からない好試合へと昇華され、その幕切れはもうすぐそこまで迫っていた。



……

「これで終わりにしよう」


 恐らくわざと俺達がいる1年チーム内野まで聞こえるように言う王条先輩の視線の先にいるのは天神煉だった。


「アロス、どうやら王条先輩は煉狙いのようだから煉を守ってくれ」


「分かった」


 俺は一応、刃に言われた通りに煉に近くに移動する。


 まあ今こっちのチームで攻撃手段を持つのは桂木魔昼か天神煉だけなのだから、そのどっちかを狙うのは当然だ。もっともそのどちらの攻撃も影虎先輩よりも身体能力が劣る宗形先輩にも通用しなかったんだから期待はできないが。


 加賀斗暁は俺に随分期待してたが結局俺がここで王条先輩を止めようが止められまいが勝ち目がないことに変わりはない。


 よりによってあいつの身代わりになるなんて勘弁してほしかったが、これさえ済めばこの大会での俺の役目も終わりだ。そう割りきった俺が煉の前に立つと。


「なあアロス、俺たった今影虎先輩倒す方法思い付いた」


 いきなりそう言われた。


「は?」


「けどそれをやるには俺がここで王条先輩のプラズマの魔力で痺れる訳にはいかない。だからなんとかこの攻撃を防いでくれ」


 何勝手にベラベラ言い始めたんだこいつは……けど残念だが俺は別にお前が影虎先輩を倒せるかどうかなんてどうでもいいんだ。


 だからやることは変わらない。適当に氷の壁を作ってそれをボールに貫通されておしまい。実際俺には王条先輩の魔球を止める魔法なんてないんだから仕方ない、ここは適当に返事しておけばいい。

 

「分かった、できる限りのことはするがあんまり期待しないでくれ」


「いや無理だ、めっちゃ期待する。なんたってこの試合の勝敗がかかってるからな」


 そう言う煉の目は瞬時に俺の中でさっきの加賀斗の目と重なった。


「どうしてそんなに必死なんだ?」


 どうしてもその理由が聞きたくなった。


「そんなの決まってるだろ、勝ちたいからだ。だから頼む俺達に力を貸してくれ」


 そう言うとあいつはその場で俺に頭を下げた。瞬間、俺の中で答えが出た、いや出てしまった。


 高魔はクズだ。そしてそいつらから見て俺たち一般家系の魔法使い、いわゆる下魔はただ利用するための駒でしかない。それが俺の中での常識、だからこの大会の開催が発表されたとき刃がクラスを仕切り始めた時『やっぱりな』と思った。


 刃は思ったよりも優しい口調で協力を呼びかけてきたが、ただそういう優しく頼れるリーダー顔をして俺達をいいように利用する気なんだと判断した。


 試しにクラスに非協力的にしたら煉がきて力ずくで俺に言うことを聞かせてきたことからそれを確信していた。試合中に一般家系の魔法使いである琢磨にも励ましの言葉をかけるのも例えこの試合に負けてもいい人ポジションを守るためだと思っていた。


 だがわざわざ俺の身代わりになった加賀斗、そして今俺の目の前で頭を下げている煉、この2人の行動が俺には理解できなかった。だから2人に思わず質問を投げた、そしたら2人とも同じ答えが返ってきた『勝ちたいから』と。


 けどやっぱり理解できなかった、なんでわざわざ名家のプライドを捨ててまで俺を守り、頭を下げてまでたかが学校行事のこの1試合に勝ちたいのか……。


『高魔のみんながみんな俺たちのことを下に見ているってのは俺たちの偏見だったんじゃないか?』 


 かつて迅雷に言われた言葉が頭を過る。


 ……本当はもっと前から気づいてたのかもしれない。琢磨に声をかけるこいつらの言葉に裏なんてない、煉は1人で腐ってクラスに協力しなかった俺に正面からぶち当たってそれは違うと伝えてくれた。こいつらは確かに名家の魔法使だが仲間思いのいい奴等で、ただ純粋に今この試合に勝ちたいと思ってるんだ……。


『違う』 


 そこまで思考がたどりついたとき、俺の頭の中ですぐにそれを否定する別の思考が現れた。


『お前はまた騙されようとしている、奴らはクズだ、俺達を利用するだけして用がすんだら見捨てる。父さんの一件で俺はそれを見たはずだ』 


 ようやくまとまりかけた俺の頭の中はそのまま再び混乱しかけるが、今はそんなゆっくり自分の考えをまとめる材料も時間もない、そこで俺はある妥協点へとたどり着く。


「わかった、この試合絶対勝とう。考えるのはそれからにする」


 俺は煉にそう言ってから刃の方を向く。


「刃、力を貸してくれ。王条先輩を止めるにはあの連携技しかない」


「けどあれは結局練習では1回も成功しなかった」


「それは問題ない、今回は俺も本気で協力する。きっとできるはずだ」


「……なんだか今始めてアロスと話してる気がするよ。よし、やろう!」


 そう言うと刃が俺の前にやってくる。これで準備完了だ、後は上手く魔力を合わせるだけ……まあそれが上手くいかなくて練習では上手くいかなかったのだが、きっと今なら大丈夫のはずだ。



……

「さて、ようやく準備ができたようだな」


 影虎に当てられた加賀斗が外野に移動し終え、試合が再開してもボールを片手に1年チームの内野の動向を観察していた王条はようやく動き出した。


「優しいな、わざわざ待ってやるなんて」


 宗像はそのことに特に怒るわけでも呆れるわけでもなく淡々とそう言った。


「なんたってこの俺様と勝負をするんだ。それ相応の準備が必要なのは当然で、それを待つのが強者の振る舞いというものだ」


「なるほどな、けどご丁寧に時間くれてやった結果ボールをとられるなんてことはよしてくれよ」


「当然だ、そういう凡人の努力をねじ伏せるのもまた強者の振る舞い」


 バチ! バチ! 王条がボールに魔力を込める。今度はさっきと違ってもう何を投げるかバレているのでこれ見よがしに大量の魔力を込めていく。


「さあ! 楽しませてくれよ!」


 そしてついに王条の手から魔球が投げられた。



……

 ボールは当然のことながら俺達の方に向かってきた。瞬間、俺と刃は同時に動いた。


 刃は剣神顕現を発動し巨大な右手を召喚する、そして俺はその手に向かって氷魔法を練習の時とは違って本気でかけ、腕の全体を凍らせた。


 ガシャーン! ボールと接触した瞬間衝撃で表面を覆っていた氷の一部が砕けたのが分かった。俺はすぐに魔法で砕けた部分の氷を修復する。だが修復したそばから氷は砕かれ剥がれ落ちる。


 それでも俺はひたすら氷魔法を発動する。いくら刃の力でボールを止められてても俺の氷でプラズマの魔力を押さえられなければ意味がない。


「うおおおおーーーー!!!!!」


 気づけば俺は大声で叫び、頭の中は『勝ちたい』ただそれだけしか考えていなかった。


 そしてついに魔法を通して俺が感じていたボールの衝撃が途切れた。



……

「止めたー!! なんと1年生チーム2人がかりとはいえ王条選手の新魔球を見事防ぎきりましたー!!」


 さっきからちょいちょい聞こえていた実況をしている女の先輩の声がマイクを通してよく響くが、大声を上げてるのは実況者だけではない。周りの観客席全体からこの日1番の熱い歓声の声が上がっていた。だがコートの中にいる俺達はいたって冷静だった。


「ご期待に答えてやったぞ。今度はお前の番だ、煉」

 

 そうアロスの言う通り、いくら王条先輩の攻撃を防げても俺がここで影虎先輩を倒せなきゃ俺たちはこの試合に勝てない、喜ぶのはまだ早い。


「その前に聞かせてくれないか? さっき言ってた作戦ってやつを」


「別にそんなに難しい作戦じゃない」



……

「じゃあいきますか」


 内野に残った魔昼、刃、アロスの3人に作戦を説明して同意を得た俺はボールを片手に影虎先輩の真っ正面の位置につく。当然影虎先輩はすぐに自分が狙われてることに気づくがその場から動くことはなく


「アクセル」


 ただ静かに魔法を発動させた。それを確認してから俺も魔力を右手に集中させながらゆっくりとボールを中に投げる。そして。


「5本!!」


 バンッ!! ボールを殴り付ける。



……

「またしても煉選手の拳から放たれたボールが影虎選手を襲う!!」


「今度は受け止めるつもりみたいだけどどのみち宗形でも止めれるようなボールで影虎は倒せないわよ」


 風果の言う通り影虎はボールを両手でがっしりと受け止めてしまう。だがそれでもボールの威力はまだ死んでいなかった。


「いや威力がさっきよりも上がってる」


 やがてズルズルと影虎はボールの勢いに押され後ろへと後退していく。


「これでコートの線から一ミリでも出たらボールを落としていなくても影虎先輩は外野いきです!」


「いけー!」


「あと少しー!」


「ぶったおせー!」 


 会場中からそんな1年生の勝利を指示する声が聞こえてくる。だが。


「……アクセル2」


 そんな希望は影虎のたった1つの魔法によって砕かれる。


「やるね」


 ボールの勢いは完全に殺され影虎の手に渡ってしまった。


「けどこれで終わりだ」


 宣言通り、この試合最も3年チームを苦しめたと言っても過言ではない煉を今度こそ確実に仕留めるため影虎の手からこの試合1番の豪速球が放たれる。それを目にした瞬間に会場の誰もが、紅蓮でさえも勝敗は決したと思った。


 だが1年チームに残る4人は誰1人まだ諦めていなかった、いやむしろこう思った。


(これが最後のチャンス!!)


 煉は再び残された全魔力を右手に込めて叫んだ


「5本!!」


……

 数分前。


「影虎先輩を倒すには『カウンター』しかないと思う」


 俺はついさっき思いついた、影虎先輩を唯一倒せる可能性を秘めた作戦をみんなに説明していた。


「カウンター?」


「つまり何をするわけ?」


「まず俺がもう1回影虎先輩に向かってボールをぶっ放して影虎先輩にアクセルマジックを使ってもらう。そしたら魔法の効果が切れる前にすぐに目の前の俺にボールを投げてくるはずだ、その飛んできたボールを俺が殴って弾き返す。そしたら影虎先輩に俺に向かってきた時の数倍の威力でボールが返っていき、ぶっ倒すって戦法だ」


「けどあんたフルパワーでボール打てるのはあと1回のはずでしょ?」


 魔昼は痛いところをついてきた。確かにこの作戦を成功させるには俺があと2回炎拳を使う必要がある。だがこの試合で俺は既に1日5回しか使えない炎拳を4回使っていた。


「ああ、あれは5回以上使うとその後は上手く魔力を右手に集中させられない、だけどまあ魔力量的にはなんとかあと2回くらいならいけると思う」


「いやいやそれじゃ結局無理なんじゃない」


「任せとけって魔力量的にはできるはずだから、ようはそれを俺がコントロールすればいいだけだ。ほら俺って本番には強いからなんとかなるだろ、それに今度は俺が期待に答える番だからな」


 そうだこの作戦はそもそも俺が内野に残っている前提のもの。そのためには王条先輩の攻撃を防ぐという大きな壁を超える必要があり、先程アロスと刃は見事にそれを越えてくれたのだ。その努力をここで無駄にするわけにはいかない。


「それじゃあいくか、この攻撃が失敗しても成功しても勝敗はここで決まる」



……

「5本!!」


 作戦通り俺の炎拳と影虎先輩の投げたボールがぶつかり合う。そうここまでは作戦通り後はこいつを影虎先輩に殴り返すだけだが、ここに来て作戦にはなかったトラブルが発生する。


 ズキッ! ボールと直接ぶつかり合っている拳の先から俺の右腕全体にかけて激痛が走る。もちろんバカみたいなボールの勢いのせいでもあるが、主な理由はやはり制御が上手くできず右腕の中で俺の魔力が暴走していることにある。しかも痛みのせいでさらに右手に魔力を集中するのが困難になっていく。


 このままじゃあボールを殴り返すどころか逆に吹っ飛ばされてしまう。そんな考えが過った時に。


 ポンッ、誰かが後ろから俺の肩に手をかけた。振り替えるとそこにいたのは。


「アロス!?」


「全く偉そうなこと言っておいて失敗しそうじゃないか、仕方ないから手伝ってやるよ」


 俺がどういう意味か聞く前にアロスは行動でそれを教えてくれた。俺の右腕が徐々に凍り始めたのだ。確かに手の部分以外を凍らせれば制御などしなくても勝手に魔力は手だけに集まる。これなら……。


「いける!!」


 俺は自身の中に残るありったけの魔力を振り絞り、右腕を思いっきり振りきりボールを弾き返した。そしてボールはそのまま投げた張本人である影虎先輩の元へと返っていき……。


続く

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