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魔法のある青春  作者: ドル
4月 魔法のあるドッジボール大会
33/103

第33話「何諦めてんだよ」

 何とか王条のプラズマ魔球はアロスが止めたが、彼にはさらにそのもう一段階上の技がありそちらの方は防げないと既にアロスも公言しているため、人数上は1年チームの方が有利だが、現状追い詰められているのは実は彼らの方だった。


「こうなったらやられる前にさっさと試合をきめるしかないな、よし! いくぞ琢磨!」


 そのことをよく理解している煉は早々に決着をつけるためにアロスからボールを受け取る。


「あ、やっぱりそうなる?」

 

 再び出番が来たことを悟り、さっきまでの威勢はなくなり動悸を感じ始めた琢磨だったが、深呼吸をしてその緊張をほぐそうとする。


(さっきもできたんだ今度だって大丈夫)



……

「さてどうにかボールを取り返さないとな」


 煉が再びボールを打つ態勢に入ったのを見て影虎は言った。


「まだあっちの魔球の正体ははっきりしないからとりあえず王条の言ってた対処法でいきましょう」


「珍しいな、いつも噛みついてるお前があいつの言うことを素直に聞くなんて」


「別に王条のことは嫌いだけど負けるのはもっと嫌いなだけよ」


 バーン! 爆音と共にボールが打たれ影虎へと向かっていく。そしてすぐさまそれに気づいた影虎は


「アクセル」

 

 瞬時に身体能力向上の魔法を発動させ横にとんでボールを大きく回避する。そしてボールは影虎の横を通過し外野へとんでいく。


(王条の推理があってたのかどうかはわからないが、一先ずこの避けかたならボールは当たらないようだな)  



ーーー

 それは数分前、宗形が当てられた直後の3年外野での会話だった。


『恐らく奴等が使ったのは幻術系の魔法だろう』


『確かに俺たちが幻術にかかっていてボールが本来の位置より少し後ろに飛んでるように見えていて、それが宗形に当たる瞬間解除すれば一瞬でボールが目の前に現れたように見える』


 影虎もその可能性には気づいていたので、確認を込めて王条の発言の詳細を自ら口にしたが。


『けどそれなら当てられた宗形だけでなく外野にいる私達まで幻術にかけられてることになるわよ。いつ1年生がこの私達全員に一切勘づかれず幻術なんてかけられたのよ?』


 そう、加奈子が今言ったことが影虎の中でも引っかかっていたから、彼はこの説を自ら話さなかった。そのため是非とも詳しい解説を王条に求める影虎であったが。


『知らん、そんなくだらんことは自分で考えろ』


『くだらないって何よ! あんたが言い出したんでしょうが!』


『俺は幻術系の魔法が使われている可能性があると言っただけでいつどうやってかけられたかなど知らん!』


 それの何が悪いというようにはっきり言い切り、さらに王条は話を続ける。


『だが対処法はわかる。ボールをキャッチするのではなく避ければいい、さっきの使い方からすると奴等の幻術はそこまで強力ではない、せいぜいボールの位置を数十センチ錯覚させる程度のようだ、それなら幻術の効果範囲よりも大きく避ければボールが当たることはない』



……

 王条の仮説は大方当たっていた。ただ使われていたのは幻覚魔法ではなく琢磨の鏡魔法だった。


 煉がボールに炎拳を叩き込む前にサーブトスのようにボールを高く上げった際に琢磨は鏡魔法でボールの位置が微妙にズレるように光の屈折率を弄る。そしてそれが標的に当たる直前に魔法を解除することであたかもボールが一瞬で移動したように見せていた。


 そのためこの魔球はボールのキャッチを狙う相手には有効だが、今されたような回避の前では大した効果は望めないものであった。



「避けられたな、ひょっとしてもうタネがバレたか?」


 2回目で早くも的確に自身の攻撃を攻略されてしまったことにより内心、激しく落胆しながらも煉はそれを態度には出さず、努めて冷静な様子でそう言った。


「どうだろう? キャッチできないならかわしてしまうというのは言われてみれば自然な発想である気もする」


 確かに刃が言ったことは煉もある程度予想していた。だがそれを加味して自分の身体能力に絶対の自信を持ち、どんなボールも受け止めようとする影虎を狙ったのだが、予想は外れ追い詰められてしまった。 


「どうする? フルパワーで打てるのはあと1回きりだがここで使うか?」


 ここ最近習得したばかりの煉の炎拳はまだ1日5回までという制限があった。この試合だけで既に炎拳は4回使っており、ここで勝てば決勝戦も控えているので、次のラスト1回をいま打てばその時に煉は実質戦力外ということになってしまう。


「もとから相手はこっちよりはるかに格上なんだ、先のことなんて考えてる場合じゃないだろ」


「そうだな、加賀斗の言う通りだ俺たちはここで負けるわけにはいかない例え次の試合の勝ちを捨てることになったとしても、いま全てを出し切ろう。琢磨は大丈夫か?」


「ああ、こっちはまだまだいけるよ」


 そんな自分以外のコートにいる4人の話し合いを少し離れた位置からアロスが不思議そうに眺めていた。


「とりあえずボールをこっちに戻そう」


 そう言うと自チームの外野の方に刃は右手を上げた。これは前もって決めていたサインで意味は『高いパスをくれ』だ。


 サインの指示通りボールを持っていた界人が自チームの内野に向けて高いボールを投げる。


 だが、バシュン! 騒音と共にボールは空中で何かにぶつかったように空中で止まり、そこから重力に従って真下の3年チームの内野内に落ちてしまう。


「私の魔法を使う機会はないと思ってたけど、まさかいきなりこんないい的がとんでくるとはね」


 武藤加奈子、彼女の適性魔法は指鉄砲。指で銃を作ってその先から目には見えない魔力の弾丸を発射できるという非常にシンプルな魔法だ。


「思わぬ形でチャンスがきたな」


「影虎ー! 俺によこせー!」


 落ちたボールを影虎が拾い上げ、それを見た王条がすかさず外野から声をかけるが


「悪いな王条、まだ俺の魔法は続いてる」


 一言謝罪を済ませ影虎はボールを持った右腕をふりかぶり ブンッ!、スピードだけなら煉の放つものに負けないくらいの豪速球を投げた。


(恐らくあの天神の子が使えるのは炎魔法だけ。ボールの位置をずらして見える魔法を使ってるやつは他にいて俺の予想だとさっきから特に何もせず周りの生徒に守られてる君だ)


「また俺!?」


 ボールを投げた先にいたのはまたしても琢磨だった。当然加賀斗がフォローへ向かおうとするが。


『止まれ』

   

「しまっ……!」


 宗形の魔法によって動きを止められてしまった。そして……


 パーン! ボールは琢磨に当たった。



……

「くっそー!! まさかこのタイミングでまた言霊か! すまん琢磨!」


 1年チームの攻撃の要でもある琢磨を守る、それが加賀斗に与えられた役目だった。言霊魔法という理不尽な妨害に阻まれた結果とはいえ、それを果たすことが出来なかった加賀斗は心底悔しそうにしながらも琢磨に手を合わせて謝罪する。


「いやこっちの方こそごめん、そもそも俺が自分で避けることができたらな……これから働かなきゃいけなかったのに」


 始まる前はいっそのことすぐに当てられてしまった方が気が楽になれそう。などと思っていた琢磨だったが、このコートで煉達と共に戦う中でそのような雑念は既に消え去り、実際に外野へと退場しなくてはいけなくなった今、本当に心の底から悔しそうな顔をしてチームメイトに頭を下げていた。


「いやお前のおかげで宗形先輩にボールを当てられたんだ充分助かったよ」


「そうだぜ、守れなくてごめんな」


「大丈夫、僕らなら絶対勝てる」


 そんな琢磨の無念の想いをしかと受け取った煉、加賀斗、刃はそれぞれ三者三様の励ましの言葉を送りながら彼を外野へ見送った。


「……けどどうするんだ? 実際琢磨がここでやられたのはいたいぞ」


 内野に残るメンバーの中で唯一その様子を傍観していたアロスは試合が再開する前にじわじわと追い詰められている現状について触れる。


「確かにあの連携は琢磨と煉が同じコートにいなきゃできない」


「宗形先輩にもとられたんだ、普通に真っ正面から打っても影虎先輩にボールは当てられない」


 煉の炎拳による攻撃は恐らく影虎には通用しない。その事実には全員が気づいていたが、現状コートに残るメンバーの中で攻撃手段を持つのは煉だけのため、自然と他の3人の視線は煉へと集まる。


「……悪い少し考えさせてくれ。きっとまだ何か手は残ってると思うんだ」 


 自分だけがこの絶望的な状況を覆せる、そのように現状を解釈し内心密かにワクワクしながらも煉は脳をフル回転させその手立てを考えていた。


「いやいいんだ、ゆっくり考えてくれ、その分の時間は僕達が稼ぐから」


 土壇場での煉の閃きの凄さをその身を持って御前試合の時に思い知った刃はその言葉を迷いなく信じ、宣言通り少しでも長く時間を稼ぐための作戦を実行する。


「魔昼さん! こっちに来てくれ!」 


……

「さー試合はいよいよ終盤戦に入ったと言っていいでしょう。1年生チーム丹波選手がボールを当てられましたが、それと入れ替わりで内野へと入った桂木選手が外野にいる轟選手とのコンボで3年の斎藤選手を当て3年生チーム残りは橆道選手と影虎選手の2人となりました。だがボールは再び3年生チームへ! 果たして1年生はこの攻撃をしのぎきれるのかー!?」



(それは無理だろう)


 ふと耳に入った真叶の実況にアロスは心の中で応答した。


(人数的にはまだリードしているが現状、俺達のチームに王条先輩の攻撃を防ぐすべはない。このまま3年チームにボールがわたる度に俺たちの人数は減っていく)

 

「思ったんだけど煉。影虎先輩かもし王条先輩にボールを渡そうと高く投げたらさっき加奈子先輩がやった見たいにあんたの炎弾で空中で打ち落とせないの?」


「それグットアイデアってやつだ、やるな魔昼」


(確かにそれなら王条先輩へボールを回るのを少なくとも1回は防げそうだが、結局今の俺達に影虎先輩にボールを当てられる術がない以上それは悪あがきにしかならない。つまり俺達の負けはもうほぼ決まりだ。まあこの試合が終わり明日になれば俺は一般クラスの学生だ、ここで勝とうが負けようが関係ない)


 このような状況下でも勝つために最善の策を模索する魔昼と煉の様子を見ても、この大会自体が消化試合でしかないアロスの心が揺れ動くことはなかった。


 またその一方で3年チームの内野ではようやく加奈子の説得に成功した影虎がその力を開放しようとしていた。


「アクセル2」


 さっきよりも1段階上の強化魔法を発動したことにより生じた強烈な魔力の余波に当てられ、1年チーム全員に緊張が走る。


「残念なことに大人しく外野にパスするきはないみたいだぞ、魔昼」


「ええ、どうやらここが正念場って奴みたいね」

 

……

 バシュン! 影虎の手から今日1番の豪速球が投げられる。そのボールの動きを目で追える者はまだ内野に残っている中には誰一人いなかった。だがそれでも刃と加賀斗はそのボールの軌道の先にいた。


(やっぱり狙いは王条先輩を封じることができるアロスか)


「いくよ加賀斗!」


「おう!」 


 掛け声と共に刃と加賀斗は魔力を放出する。そして刃は剣神顕現で再び巨大な右手を出現させ、その手を加賀斗の闇の魔力が包みさらに強化する。


 ズガッー! !! 刃と加賀斗との連携魔法と影虎の投げたボールが接触した瞬間轟音が会場に響く。


 始めは互角のせめぎ合いだったがやがて ピキピキ、ボールを止めようとする巨大な手にヒビが入り始め、それはどんどん広がっていき、パリーン!!


「うわっ!」


「うぉー!」


 やがて手は砕けちりその衝撃で刃と加賀斗を弾き飛ばし2人の後ろで守られていたアロスへと向かっていく。


(今から回避するのは難しいな、まあここらが潮時か)


 そう思いアロスは迫ってくるボールを一瞥してから目を閉じた。


 だが目を閉じたとほぼ同時に ドンッ、何かに彼は何かに突き飛ばされた。反射的に目を開くと目の前にあったのは自分を庇う加賀斗の姿だった。


「何諦めてんだよ」


 パーン! 恐らくアロスにしか聞こえてないであろうその言葉を言い終えると、アロスの盾となった加賀斗の背中にボールが当たった。


続く

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