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魔法のある青春  作者: ドル
4月 魔法のあるドッジボール大会
30/103

第30話「何が起きるかわからない」

 4月26日金曜日。ついに俺たちが入学して始めての学校行事、ドッチボール大会当日。大会は俺たちが散々練習に使っていた第二体育館で行われる。


 開会式を終えドッチボールに参加しないメンバーは大会運営の手伝いや、体育館の隅に椅子を並べて作られた観客席で観戦。俺たち選手組は控え室で先に行われている2年特別クラス対2年一般クラスの試合が終わるのを待っていた。


「暇だなー」


「暇っすなー」


 俺はあまりの暇さに隣に座る加賀斗と一緒にぼやいていると、バタン! ドアを開けチームメイトの1人が『やっぱ無理だ』と小声呟きながらこの控え室から出ていった。


「琢磨の奴またトイレか、どんだけ水飲んできたんだよ」


 丹波琢磨、俺たちと一緒にこれまで練習を積み重ねてきた仲間で俺との連携技もあるので、それなりにコミュニケーションをとって、口数は少ないクール系という印象だったがここ数分の行動で下半身の緩い奴という印象に上書きされつつあった。


「緊張してるのよ、あんた達と違って」


 俺達と同じように暇そうにしていた魔昼がそう指摘してくる。


「緊張? なんで?」


「別にドッチボールするだけじゃん」


「あんた達はそういうのとは無縁の存在かもしれないけど普通こういう時は緊張するものなの」


 魔昼がそう言うと今度は近くにいた界人も話に加わって来る。


「けどまあガチガチに緊張してるよりはやっぱり多少リラックスしてた方がいいんじゃないか」


「さすが界人いいこと言う」


「緊張感が欠如してるのも考えものよ」


 そんなドッチボール大会の前にどれくらい緊張していた方がいいのか論争が始まりそうなタイミングで、部屋のドアが開いた。入ってきたのはトイレで用をすませてきた琢磨ではなく大会運営係の人だった。


「そろそろ試合の準備お願いしまーす。次呼びに来たときにはもう行けるようにしといてください」


 そう言い係の人がドアを閉め出ていくと


「じゃあまだ琢磨は帰ってこないけどもう時間もないし最終打ち合わせをしよう」


 その言葉に従い部屋にいた全員が刃の周りに集まり始めた。



……

「それではこれより第2試合1年特別クラス対3年一般クラスの試合を始めたいと思います」


 色々と話し合った結果この試合に出る8人の選手は俺、加賀斗、魔昼、迅雷、刃、界人、琢磨、そしてアロスになった。その俺達と向かい合って今整列している3年一般クラス、その半数は名前も知らない人達だがクソ兄貴から貰った情報にあった要注意人物の3人はちゃんといた。

 

 1人目は3年一般クラス特待生の影虎正明(かげとらまさあき)先輩でこの人は陣と同じく、身体能力を一定時間爆発的に上げるアクセルマジックが使え攻守共に優れているらしい。


 次に元特別クラスの生徒だった宗形俊三(むなかたとしぞう)先輩。彼は元々特別クラスの中でも身体能力が高いほうであり、さらに彼の使う言霊魔法は発動されたらこのドッチボールという試合の中ではほぼ終わりなんだとか。


 そして最後に元特別クラスで序列1位だった王条当間(おうじょうとうま)先輩、彼は雷魔法の使い手で迅雷と同じくプラズマとライトニングの両属性が使える特異体質者だ。


 元特別クラスにはこの3人を除いてもう2人特待生がいる。そのうちの1人、武藤加奈子(むとうかなこ)先輩の顔も敵チームにあった。ただ彼女の魔法はドッチボールにはそこまで適していないため前の3人ほど警戒する必要はないとういう話だ。


 この4人だけで既に俺たち全員と比べて何倍もの魔法使いとしての実力の差はあるが、この日のために俺たちだって対策を練り練習を積んできたんだ、勝機は必ずある。


「それではクラス代表者は前に」


 審判を務める生徒の指示に従いうちのクラスからは刃が、3年からは王条先輩がお互い審判の前にでる。この後どちらがボールを所持して試合を始めるかじゃんけんで決めることになっていたので刃が手をグーにして出すと。


「必要ない」


 王条先輩は刃に向かって手の平を見せながらそう言った。


「ボールはそちらのチームから使ってくれ」


「ちょっと何言い出してんのよ!!」


 同じチームの加奈子先輩からブーイングを受けてることからどうやら事前の打ち合わせにはなく王条先輩がいま独断で決めて行動したようだ。


「簡単な話だ。せっかくこの学校に入学したばかりなのにいきなり俺たち大先輩に一方的にやられたら可哀想だろ?」


「そんな理由で納得すると思ってんの!?」


「まあまあ落ち着け加奈子。王条が言い出したら止まらないことはもう分かってるだろ? このまま揉めてもみんなに迷惑だし様子見もかねて1年ボールからでいいんじゃないか?」


「何よ影虎まで……もういいわ、勝手にしなさいよ!」


 途中から間に入った影虎先輩になだめられ加奈子先輩はおとなしく引き下がったが随分不服そうな顔をしていた。どうやらバカ兄貴の前情報通り3年チームはそこまで結束力は高くないようだ。


「そういうことだ、君達1年がボールを使いたまえ」


「そうですね、ここはありがたくボールは貰ってきます、けどきっと後悔しますよ」


「させてみたまえよ」


 刃が審判からボールを受けとるとうちのチームからはアロスと魔昼が、3年生からは影虎先輩と加奈子先輩が外野に向かい残り6人は内野につく。刃はボールを片手に俺に近より。


「さて、今聞いた通りだ煉。早速後悔させてやってくれ」

 

 そう言いボールを渡してくれた。


「任せとけ」


 ピーッ! 俺がちょうど答えると試合の開始を告げるホイッスルが体育館に鳴り響く。その音がなり止んだ瞬間に俺はボールを頭上に投げ、右手に拳を作りそこに魔力を込める。そして俺はボールがいい位置に落ちたタイミングで。


「5本!」


 俺は渾身のパンチをボールに叩き込み、そのボールは王条先輩に向かって真っ直ぐ飛んでいった。


……

 試合開始の数分前。


「さて会場では早くも第2回戦の1年生対3年生の試合が始まろうとしています。解説、実況は引き続き私特別クラス3年の精蓮慈真叶(せいれんじまどか)と」


「暇潰しに試合観戦に来たら捕まった特別クラス3年生の炎寺です」


「同じく炎寺についてったら捕まりました風果です」


 体育館内に急造された実況テーブルでのりのりに話すのは現在特別クラス3年生の中で序列2位でもある精蓮慈真叶であった。特別クラス3年生はこの大会に選手として参加できないため、そのかわりに実況者として彼女は大会に参加していた。


 そしてその横に座らせられる2人は自身の口でも語ったように普通に大会を観戦にきたところで突然捕まり、無理やりこの解説席に座らされて真叶付き合わされているという状況だった。しかしいま彼女に捕まったのはこの2人だけではなかった。


「そしてさきほど見事2年一般クラスチームを倒し一足先に決勝進出を決めた特別クラス2年のチームキャプテン、天神紅蓮さんにもたまたまそこで暇そうにしてたので来てもらいました」


「いやさっきの試合の反省会したいんで早く戻りたいんですけど」 


「それはこの試合が終わったあとにしてくださーい、これ先輩命令ね」


「まあ拒否権がないのは知ってましたけど……」


「以上4名でおおくりしまーす!」


 これまでの経験から彼女に正論が通じないことをよく知る紅蓮は観念して、不本意ではあるがせめて特等席から次当たるチームの実力を見てそれを分析する方向に頭を切り替えていた。


「早速ですが3人はどちらのチームが勝つと予想してますか?」


「まあ正直私たち特別クラス3年が参加しないなら今年の優勝は王条のいる一般クラスの3年でほぼ決まりでしょ」


「おっと風果さんの口からはいきなり厳しい意見が出てきました」


「それ次の決勝で当たるかもしれない俺の目の前でいいます?」


「今の紅蓮あんたじゃ王条にはまだまだ敵わないわよ」


「厳しいなー」


「確かに去年キャプテンとして1人奮闘して当時の特別クラス1年から勝利をもぎ取った影虎正明君に加えて、今年は元特別クラス3年生の王条藤間君、宗形俊三君がいますからね。事前調査でもやはり優勝候補筆頭は3年生のチームでした」


「確かに今年の3年生の実力の高さはここにいる殆どの人が知ってますが今年の1年生の実力もまだ殆どの人は知りません。そして勝負は何が起きるか始まってみなきゃわからないですよ。もしかしたら案外ここで1年生に負けるって可能性もあります」


 紅蓮の発言に真叶はマイクに入らない声で『ナイスフォロー』と親指を立てて誉めるが。


「いくら特別クラスといってもついこないだ入学してきたばかりの子が王条や影虎に歯が立つとは思えないけど」


 風果は相変わらず苦言をたらす。


「いやいや、今年の1年は中々いい魔法使いが揃ってますよ」


 だがそれでも紅蓮は食い下がる。多くの人は紅蓮が1年生へのフォローでそう言ってると思っており、本気で1年生が3年生に勝つ可能性があるとはまだこの時点では同じ特別クラス1年以外では紅蓮以外誰も思っていなかった。


「さあそうしている間にいよいよ試合が始まります。果たして大衆の予想通り3年が実力で押し潰すのか! それとも1年生がそれを越える実力を見せてくれるのか注目の試合が今始まります!」


 そう真叶が言い終えてから10秒間の間に3つの出来事があった。


 1つは審判が試合開始の笛を鳴らしたこと。


 次に煉が刃からボールを受け取り『5本!』という掛け声と共に渾身のパンチをボールに叩き込み、豪速球となったボールが王条に向かって飛んでいったこと。


 そして最後の出来事はそのボールは王条の不意を付き、胸の辺りに直撃し床に落ちたことだった。


 その後一瞬の静寂がこの会場を包んだが


「ね? 言ったでしょ? 何が起きるかわからないって」

 

 という紅蓮の言葉を皮切りに会場は大歓声に包まれた。


続く

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