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魔法のある青春  作者: ドル
4月 魔法のあるドッジボール大会
27/103

第27話「5本」

 結論から言うと俺の動きは完全に読まれていた。たった2回の水魔法で俺は思いっきりコンクリートの地面に打ち付けられ、衝撃で全身を魔力で覆っていたにも関わらず鈍い痛みが体中を走った。


 そんな中、なんとか次の攻撃に備えるため俺は素早く立ち上がり、さっきまでアロスのいた方を見たがそこにはもう誰もいなかった。


『落ち着け』


 俺は一度自分に言い聞かせると、バシャ! 背後から水を踏みつける音が聞こえた。


「そこだ!」


 俺は背後から迫ってくる気配に向かって振り向きながら裏拳を放つ。


 だがそれはアロスに当たることなく空を切った。なぜならアロスはギリギリのところで突然しゃがんだからだ。


 俺の裏拳を読んだわけじゃない、元からその場所でしゃがむつもりだった動き。俺は何となく不味い気がしたがもう遅かった。


「凍れ」


 俺の足元で両手を地についているアロスはその言葉と共に魔法を発動した。アロスの発動した氷魔法は2度の水魔法によりすっかりびしょびしょになっていた地面を伝って俺の下半身を膝の辺りまで凍らせた。


 思いっきり力を込めて身をよじり、下半身を動かそうとするがびくともしない。俺は完全にその場から身動きが取れなくなった。


「勝負あったな」


「いや! いや! まだちょっと足が固まっただけだろ!」


 勝手に勝利宣言を始めたアロスに俺はまだ勝負がついてないことを主張する。


「ならこれでどうだ」


「え?」


 アロスはそういうと右手の平を広げて俺の方に向ける。すると、カチカチ! 俺の足元からそんな音が聞こえてきた。


 理由はわかりたくなかったがすぐにわかってしまった。どうやら俺の体は足の方から少しずつ凍ってきているようだ。


 このままでは『自分から勝負を仕掛けてまんまと負けたアホの氷像』が出来上がってしまうが、勿論俺がただ黙って凍っていくわけがない。 


 ふーっ、と俺は一息ついた後『ハアッ!』という掛け声と共に全身に炎の魔力を纏う。


「中々いい手だったが相性が悪かったな。炎は氷を溶かすんだぜ」


「相性が悪いのはお互い様だろ? 結局お前がしてることは時間稼ぎにしかなってないぞ」


 そう、アロスの言う通りだ。俺は全力で炎の魔力を発し続けているがどうやら自分の体の凍結を止めるがやっとのようで、最初に凍らされた足元の氷を溶かすまでには至っていない。


 これは完全に計算外だ『炎は氷を溶かすんだぜ』なんて当たり前のことをドヤ顔で言った後だけにめちゃくちゃ恥ずかしい。


 けど俺はそんな羞恥心は一切出さずに余裕の表情を作りながらこう言った。


「ならこのまま根比べと行くか? 見たところ今までの大技のせいでお前はずいぶん消耗してるようだし」


 俺がそういうとアロスは小さな魔法陣を1つ展開する。一瞬ドキッとしたがそれはすぐに弾けて自滅した。やはりここまでの攻防で奴は魔力の殆ど使い果たしたようだ。


「もう水魔法を使う魔力は残ってないか……まあいい、俺はお前と違って足が自由だしな」


 そう言うとアロスは右手はこちらに向けて魔法を維持しながら、ゆっくりとこちらに向かって1歩踏み出した。


「抵抗できない相手を殴るのはあまり好きじゃないんだが、降参しないなら仕方がない。このまま意識がとぶまで殴らせてもらおうか」



ーーー

 時は前日に巻き戻り、4月19日金曜日。


『いやーようやくコツみたいなの掴んできましたよ、炎寺先輩』


 この週は俺が飼育当番担当だったため放課後炎寺先輩と2人でうつ伏せになっている龍之介の背中に乗り、翼の付け根の部分を握りこぶしで思いっきり押していた。俺には翼が生えてないので知らなかったが、ここを刺激されるとドラゴンは気持ち良くなってリラックスできるらしい、まあようはマッサージだな。


『魔法で広々とした景色を見せてるが結局こいつにとっちゃ小さな活動範囲だからな、こうやって少しでもストレスを減らしてやらないと』


『なるほどー』


『そういやお前明日は来れないんだって?』


『あ、そうなんですよ。だから龍之介の散歩は日曜日お願いしていいですかね? 明日の飼育当番はクソ兄貴に変わり頼んだんで』


 土、日はいつもの仕事に加えて龍之介やカーバンクル達を外に出して裏山などを散歩させることになっている。龍之介はでかすぎるので魔法の首輪を着けて大きめの犬くらいのサイズまで収縮させてから連れ出すらしい。


 俺は前々からこの散歩を楽しみにしていた、明日の午後に急遽アロスと決闘することになったのでそれは1日お預けとなってしまった。


『あれ? そういえばなんで俺が明日来れないって知ってんすか? 今から言おうと思ってたのに』


『昨日、紅蓮が俺のとこに来て言ってきたんだ。聞いたぞ何でも決闘するんだって?』


『あいつそんなとこまで喋ったんですか?』


 あのバカ兄貴、自分からあそこでの話は他言無用って言ったくせに……いやそれはドッチボール大会の方だけだったか。


『ちょうどいい、お前も俺と同じ炎魔法の使い手のよしみだ。明日の決闘に向けてこれが終わったら俺がちょっと臨時特訓してやるよ』


『まじっすか?』


『ああ、可愛い後輩の初戦が黒星なんて俺のメンツが潰れちまうからな』


 そうして一通りの仕事が終わり、カーバンクルの方の世話を担当していた大護さんとマリを先に帰らせてから俺達は特訓を始めた


『まずはお前がどんな炎魔法を使えるのか俺に見せてくれ』


 『そう言われても1つしかないんですよね~』と言いながら俺は自分で解説を加えながら最小火力の1本から最大火力の4本まで全種類の炎弾を見せる。そうすると炎寺パイセンは少し困った顔をして顎の辺りを撫でながら言った。


『本当にこれ以外できることは何にもないのか?』


『あと体術はそこそこ自信ありますよ』


『体術か……相手がどれくらいの氷魔法の使い手か知らないが、ひょっとしたらこのままじゃ勝つのは難しいかもな』


『えー!!?』


『まあ落ち着け。そうだな、まず氷魔法と炎魔法の相性から話すか。実際に氷に炎を当てれば氷は溶けちまう。だがそれは魔法となると話は変わる、いくら自然の炎で熱しても溶けない氷は魔法を使えば簡単に作れる』


『ならどんな氷も溶かせる炎も魔法でつくれるんじゃないですか?』


『そうだな確かにそれも可能だ。まあ結局魔法の氷と魔法の炎、どっちが勝つかっていうと魔力の『質』が高い方が勝つ』


『『質』ですか』


『そうだ、けどお前の炎弾はそんなに質は高くない。まあ最大火力のだけはそこそこだったが』


『じゃあどうやったらその『質』ってのは上がるんですか?』


『そうだな、『質』を上げるには普通ならそれなりに修行を詰まなきゃいけないんだが。今のお前なら1つだけ手っ取り早く質を上げる方法がある。それは……』



……

 現在。


「今ならまだ間に合うが降参するか?」


 後1歩、1歩だけこいつが前に来てくれたら


「なんで勝てる相手に降参する必要があるんだ?」


 俺は親切にまだこの状態からでも勝つことができるとを教えてやる。


「そうか」


 アロスはそう短く返事をし俺にまた1歩近寄り左拳を思いっきり振りかぶる。そしてこの瞬間こそが俺が唯一逆転できるチャンス! 俺は最後の力を振り絞り魔力を右手に集中させる。


(こいつまさかこの距離で炎弾を打つつもりか?)


 それに気がついたアロスは右手につけた盾を体の前に出し、防御の姿勢をとる。


(だがこの距離で打てばあいつもただではすまない。つまりこれを耐えれば俺の勝ちだ!)


 俺の思った通りアロスは炎弾をあと1発くらいならさっき出した盾で防げると考え回避ではなく防御に徹してくれた。


「5本!」


 だが今回俺の手から放たれたのは炎弾ではなかった。


続く

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