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魔法のある青春  作者: ドル
4月 魔法のあるドッジボール大会
23/103

第23話「モヤモヤ」

「ドッチボールやったことないってお前……宇宙人なのか?」


 なるほど確かに刃が地球人ではなく別の星で生まれ育ち地球征服のために送り込まれた宇宙からのスパイというならばドッチボールをやったことがなくても納得だ。


「まじか、火星辺りから来たのか?」


「驚くとは思ったけど予想の斜め上の対応だね」


 俺と加賀斗の寸劇に刃はただただ苦笑いを浮かべていた。


「こいつの通ってた小学校はお坊ちゃん学校だからドッチボールなんてやらなかったらしいんだよ」


「バレーボールとかならやったことあるんだけどね」


「ということで、肝心のリーダーがドッチボール経験0じゃ話にならんから今から俺たち4人でドッチボールだ」


 そう言いソウシは何の問題もないようにドッチボールを始めようとコートの方に歩き始めたので横にいた加賀斗が異論を唱える。


「いやだからなんで4人でやるんだよ!」


「そりゃあうちのチームのリーダーがドッチボール経験0なんてことがばれたら『こいつがリーダーで大丈夫かよ』なんて声が上がってくるかもしれないだろ」


  まあ確かにまだうちのクラスはできてから日が浅いし、そんな声もでるかもしれない。それで元から刃のことを知っていて、その程度のことでは不満を覚えない俺達が呼ばれたのか。 


「ルールは昨日もうだいたい教えたから大丈夫で……あ、ちなみにうちのチームは刃が内野だがこれは刃が実際にボール投げてみたり、回避する経験を詰むための練習だから当てられても別に外野の俺と交代はしない。お前らも別に交代してもしなくてもいいから」


「そういうことなら仕方ねえ、刃のために人肌脱ぐか」


「まあ、ドッチボールとか俺達もわりと久しぶりだし感覚を取り戻すいいチャンスだな」


「じゃあ、2人ともお手柔らかに頼むよ」



……

 約2時間後、体育館には床に尻をつけて座り込み、息を荒くし暑そうに手で風を仰いでる3人の男と、疲れ果てうつ伏せに横たわる人の皮を被った宇宙からの侵略者がいた。


「……お手柔らかにっていったのに」


「これで地球は守られたな」


「星に帰れ」


「ご苦労、お前らのおかげで刃もドッチボールというものがどういうものか少しは分かったはずだ」


 ソウシの言う通り確かにこれだけやれば、さすがに最初の時に比べてかなりドッチボールのことを理解できたとは俺も思うが。


「ボールコワイ」


「なんか俺らにボール当てられすぎてトラウマになってないか?」


「ほっといても明日には治ってるだろ」


 今の状態の刃を見ても大して心配する様子も見せないソウシ。こいつは相変わらず自分の主だろうとお構いなしに厳しいな。


「体育館の戸締まりとかは俺らがやっておくから、お前らはもう先に戻ってていぞ」


「おー、じゃあまた明日な」


「じゃあなー」


 そう言い俺と加賀斗は刃を何とか立ち上がらせようとするソウシを残し体育館を去った。




……


 体育館を出た俺たちは寮に戻る前に、体育館と寮の間にある自動販売機に立ち寄っていた。


「けどなんだかんだでやっぱり刃の奴センスはあったな」


「あー俺もそれ思った。あんな一方的にバンバン当てられるのは今日だけだろうな、それに本番になれば刃にはあの魔法もあるしな」


 御前試合で刃が俺に見せた魔法、『剣神顕現』。半年前の刃はまだ巨大な剣神の右腕しか実体化できていなかったが、あのバカでかくて頑丈な腕ならどんな剛速球でも容易にキャッチすることができるだろう。


「確かにドッチボールであの魔法は反則だな、けど相手のチームもどんな魔法があるか分からない以上安心はできない」


「そういえば相手チームも気になるけどうちのチームは誰が出ることになってんだ?」


「それは確か今日のうちに魔昼を中心に話し合って決めてるらしい」


「そうか、けどメンバーがどうなったにしても煉、お前に忠告しておきたいことがある。うちのクラスの蘭アロスだが……」


 ガシャーン、加賀斗がらしくない真剣な表情で突然話を始めたところで、騒音が横やりを入れた。俺は音のした方に反射的に目を向ける。


 そこには運動場とこの校舎と寮をつなぐ通路をしきっているフェンスが見えた。ボールをフェンスに叩きつけたときによく今のような音を聞いた記憶があったが、今回叩きつけられていたのはボールではなく


「落ち着けよアロス!」


 フェンスにぶつかっていたのは迅雷だった。



……

「じゃあ落ち着いてやるから早く選べ、お前は誰の友達でいたいか」


 なんでこんなことになってるかはわからないが状況から考えるに迅雷とアロスが喧嘩しているようだ。そうと分かればただ黙ってみてるわけにはいかない。


 俺は脚に魔力を込め本気の全力疾走で助走をつけてから思いっきり地面を蹴ってジャンプをしフェンスを文字通り飛び越え、2人の間に着地する。2人の視線は当然俺に向けられ、共に表情が固まる。


「なんで迅雷をどれだけ大きな音を立ててフェンスに叩きつけれるか選手権をしてるか知らないがこんなの桐八達先生に見つかったら怒られちゃうぜ、特にお前はこないだの実習の成績も悪かったしそれは困るんじゃないか? アロス」


「煉いいんだ、これは俺とアロスの問題だ」


「いやいや目の前でこんなことされて知らんふりはできねーよ。 なんでこんなことになってんだ? 教えてくれよ」


 俺は迅雷とアロスの両方を交互に見ながら言う。しかしアロスはともかく、迅雷ですら話す気配を見せない。しばらく静寂が続いいた後ようやくアロスが口を開いた、だがアロスは俺ではなく迅雷に対して話し始めた。


「もういいよ、迅雷。お前は友達思いのいい奴だから決めれないんだろうから俺が決めてやるよ。お前とは絶交だ、明日からは赤の他人だ、だからもうお前の好きにすればいい。俺はもう友達じゃないからいちいちお前に口出しをしたりはしない。……じゃあな轟君」


 『待てよ!』という迅雷の言葉も届かず。言いたいことを言ったアロスはその場を去っていった。



……

 アロスが迅雷に絶交宣言をして去った後、残された俺たちはいつまでも外にいるわけにはいかないので加賀斗の提案で食堂へと向かい、3人で夕飯にすることにした。


 いつもなら『口にモノを入れながら喋っちゃだめだよ』と、陣に注意されるまでくだらない話をし続けている迅雷だが今日ばかりは食材を口にするため以外に口を開くことはなかった。


 俺と加賀斗もさすがにこの空気の中『実は刃の正体が宇宙人でこのままうかうかしていたら宇宙戦争が始まるかもしれない』なんて話ができるわけがなく自然と沈黙が続く。


「で? そろそろ話してもらえるか?」


 それを破ったのは、迅雷が夕食を食べ終わるタイミングを見計らって放った俺の言葉だった。


「まあ、このまま『また明日な! おやすみ』とはいかねえよな」


「これからクラス一丸となって3年生と戦うって時にあれは見逃せねーよ」


 加賀斗がそう言うと迅雷は観念したような顔で頷き始めた。


「まず始まりはこの間の魔法実習試験日当日の朝だ、俺はいきなり話したいことがあるとアロスに呼び出されたんだ……」



……

 2日前。


「ったくなんだよこんな朝早くに呼び出しやがって」


 俺が指定された場所に行くとすでにアロスが先について待っていた。


「悪いな、けどどうしても今日の魔法実習が始まる前にお前に言っておきたいことがあってな」


「言いたいこと? なんだよ言ってみろよ」


「もし今回の試験で高魔の前で魔法を使うことになったら、お前の『プラズマ』の魔力は見せるな」


 雷魔法には己の体に雷をまとい圧倒的な身体能力で戦う『ライトニング』と電撃で麻痺など相手を不利な状況に追い込み戦う『プラズマ』の2種類が存在し、雷魔法の使い手は基本的にこのどちらか片方を得意とする。


 だが俺はこの両方を得意とする特異体質を持っている。だからその片方を使うなということはアロスは俺に試験で本気を出すなと言っているのだ。


 俺ははっきり言ってそれを理解した瞬間カチーンと頭にくる感覚になったのを覚えている。


「おいアロス、まさかお前は俺に魔法で手を抜けって言ってるのか?」


「お前が何事にも全力で取り組むことが好きなのは知っているが、まあこれにはちゃんと理由があるんだ聞いてくれ」


『当たり前だ!』


 と思った。俺のことをよく知るアロスが何の理由もなくそんなことを俺に頼むとは思えない、何か理由があるはずだと思っているからこそ俺はまだこの場に残っている。


「この1学期の最後に行われる期末考査、これは俺たち特別クラスの生徒がトーナメント形式で実際に1対1で戦い、この結果から俺たちのクラスの最初の序列順位が決まる。つまりこの試験までに己の実力を隠していればそれだけ有利に立ち回れるということだ」


「迅雷、お前なら『プラズマ』の魔力無しでも試験を乗り切れるだろうし、手の内を明かさなければ俺達は高魔のお坊ちゃんどもになんて負けないはず、だから!」


「だから手を抜いて他の奴らを騙して勝てってのか? そういう話なら答えはノーだ。お前がこのクラスで勝ち抜くためにどんな方法をとろうが、俺は口出しするつもりはない。けど俺はそんな理由で目の前の戦いから手を抜いたりはしない」


 言いたいことをすべて言い終えた俺はその場を去ろうと来た道に振り返る。


「待てよ迅雷! それじゃあ俺たちの約束はどうするんだよ! 俺たち2人で特別クラスのトップ2を独占して高魔の奴らを見返すって約束は!」


 確かに俺はアロスとこの学校に入学する前にそんな約束はした。けどこの学校に来て煉や加賀斗達と出会い、一緒にいるうちにあることに気が付いた。


 いつかそのことをアロスに伝えなくてはと思っていたが、今がその時なのかもしれない。


「なあアロス、俺はこの学校に来て実際に高魔って呼ばれる奴らと直接会って話してみたが、みんな俺や陣に普通に接してくれてる。確かに一般の魔法使いを下に見ている奴も中にはいるだろうけど、みんながみんな俺たちのことを下に見ているってのは俺たちの偏見だったんじゃないか?」


 言いたいことを言い終えた俺は迅雷を真っすぐ見つめる。それから数秒、お互い黙って目を合わせた後アロスは口を開いた。


「やっぱりな、俺が心配した通りだ。迅雷お前は騙されてるんだよ。いいかあいつらにとって俺たちはゲームの駒なんだ! 自分が有利に事を進められるようそう表立ってぞんざいに扱ったりしないが結局大事な時に俺達を見捨てるんだよ!! 俺の親父がそうだったように……! 迅雷悪いことは言わないもうあいつらと一緒にいるのはやめておけ、陣にも……」


 正直途中からアロスの話は頭に入ってきてなかった。なぜなら俺は完全にキレちまっていたからだ。キレた俺はまだ話している途中のアロスにズカズカと近づき、手の届く距離まで近寄ると グイッ、と胸倉の辺りを掴みこちらに引き寄せて


「俺の友達を悪く言うんじゃねー!!」


 俺は吠えた。



 そこから先は半分取っ組み合いみたいなものだった。まあそうなったのは俺がキレてアロスの胸倉を掴んだせいなんだが。お互いどんどんヒートアップし始めたところで後ろから声がした。


「おいおい、お前ら朝から暑苦しいぞ」


「加賀斗! お前なんでこんなとこに?」


 予期せぬ第三者の登場に俺もアロスも当然驚き、取っ組み合いは中断される。


「煉の奴が今日の実習のために考えた桐八をあっと驚かす100の戦法とかいう意味不明な話を語りだしてな、付き合いきれなくなって34辺りの戦法を語っている途中で抜け出して来たらお前の怒鳴り声が聞こえてきたんだよ。で? なんでこんなことになってんだ?」


「別にたいしたことじゃない、気にしないでくれ」


 そう言い捨てアロスは冷たい表情のまま行ってしまった。


「たいしたことじゃないか」


 今アロスが言い残した言葉を呟きながら加賀斗はこちらを見てくる。


 その視線からは状況の説明を求める意図を感じた。その時一瞬素直にここで何があったか説明しようかとも思いもしたが、この問題に加賀斗を巻き込むべきではないと判断し。


「今アロスが言った通りだ、俺ももう行くわ。お前も遅刻すんなよ」


 俺はその場を立ち去った。



……

「ってことがあって、その後俺は普通にプラズマとライトニング両方使い無事特別試験を終えたが、逆にアロスの考えは裏目に出ちまって試験に落ちたからな。今なら俺の話を聞いてくれるかもと思って呼びつけたんだが結果はお前らがさっき見た通りだ」


「なんだか随分嫌われてるんだな俺たち」


「まあ実際名家の魔法使いは一般家系の魔法使いを軽視してる奴は多いからな」


「お前らにはもう見られちまったから全部話したけど、できたらこのことはクラスのみんなには黙っててほしい。これからクラス一丸にならなきゃいけないって時期にこのことが広まるのは不味いと思うんだ」


「そうだな、正直他のやつらに相談してもどうにもならなそうだし、これ以上刃の負担を増やしたくもないしな」


「助かる。またアロスとはタイミングを見つけて俺から説得してみようと思うから、お前たちはあんまり気にしないでくれ」


 迅雷の言ってることは正しい。この件に俺たちが首を突っ込んでも話しは何も好転しないだろうし、むしろ余計に悪化する可能性のが高い。


 加賀斗の言っていることも正しい。アロスと一番親しい迅雷が説得に失敗しているんだ、他のやつらに相談しても解決できる可能性は薄いし、今うちのクラスはドッチボール大会に向けてで手一杯だこれ以上問題を抱えるわけにはいかない。


 2人の言っていることはどっちも正しい、俺自身もこの問題は迅雷に任せて、俺たちはドッチボール大会に集中すべきだと思う。なのに俺の中には謎のモヤモヤが生まれていた。口では表せないが何か謎の大きなモヤモヤが俺の中でどんどん広がっていくのを確かに感じていた。


続く

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