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魔法のある青春  作者: ドル
4月 魔法のあるドッジボール大会
21/103

第21話「ドッチボール上手いんですか?」

「魔力革命以降、この国の大地の大気中の魔力濃度は年々上がり続けている。その環境の変化に適応するため、人は魔法使いになった。だが人以外の生命体はどうしたか、桂木答えてみろ」


「はい。魔力濃度が濃くなったことにより魔力革命以降、生物達の中にはその環境に適応するため独自の進化を遂げていったものたちが多くいます。それらの生物は総じて魔獣と呼ばれるようになりました。こうした魔獣の多くは魔力濃度がとても濃い土地で主に生息し、そのような場所は危険区域とされ人が近づかないようにされていますが、稀に人里へ魔獣が降りてきて被害をもたらすことがあります。このような魔獣の駆除も私達魔法使いの使命の1つでもあります」



……

 なんてことを魔昼がこの間授業で言ってた気がするが、扉を開けたすぐ先にいたドラゴンを駆除しようと飛びかかるほど俺は使命感が強い男ではなかった。


 実際のところ俺がしたのはビビッて態勢を崩し、そのままとりあえずうつ伏せに倒れて死んだふりをしてみることだった。ドラゴンと不意に出会った時の対処法がそれで正しいのかは知らないがとりあえずその状態で10秒ほど経過しても、俺達がドラゴンに食べられることはなかった。というかドラゴンは反対方向をずっと向いていて俺達が入ってきたことに気が付いていないようだ。


「なんでうちの学校の地下にドラゴンいるんだよ」


 いつの間にか俺と同じように横でうつ伏せになっているソウシがそう言う。


「なんか思ってたよりも大きく育ちすぎて困った人がここならバレないと思って捨てたんじゃね?」


「ドラゴンさんかわいそう」


「とりあえず俺達のこと気が付かれる前にこの部屋から出ないか?」


「けどそろそろ集合時間になるから今この部屋から離れたら怒られちゃうよ」


「いや絶対ここ目的地の飼育部屋じゃないだろ、ドラゴンいるし」


「だからあのドラゴンの世話が俺らの仕事なんだろ?」


 飼育員と言えば普通うさぎとか鶏だろ、どこの世界にこないだまで中学生だった奴らにドラゴンの世話を任せる学校があるんだ。


 俺がそう否定しようとしたところで後ろから声をかけられる。


「そんな所で何してるのー?」


 体は起こさず顔だけ後ろに向けると、そこには恐らく先輩と思われる男女の生徒がいた。制服につけてるバッチの色からして一般クラスの生徒のようだ


「あれだろ、今日から活動に参加する1年生だろ」


「あーそういえば今日からだった……ね?」


 女の方の先輩は俺と目があった瞬間少し驚いたような顔をしたが、横にいた男の先輩はそのことには気付かずに話し始めた。


「俺は同じ飼育委員で2年の日野回生ひのかいせいだ、よろしく」


「あ、私も2年生で七瀬優火ななせゆうかっていいます、これからよろしくねー」


 おいおい今この人達飼育員っていったか? ということはまじであのドラゴンの世話しなきゃいけないのか。


「まあ、そんな所で寝転んでないで部屋に入ろうよ」


 そう言い当たり前みたいに人食い(食ったことあるのか知らんが)ドラゴンの居座る部屋に回生先輩はスタスタ進んで行く。俺はそれについて行く前に物凄く重要なことを1つ確認しておく。


「あのドラゴンって人食べます?」


「ああ、龍之介なら大丈夫だよ。3年生の先輩達が赤ちゃんの時から優しくお世話したおかげでこの世で1番フレンドリーなドラゴンに育ってる」


 ドラゴンに龍之介って名前つけたのか、まあ確かに分かりやすくていかもしれないけど……とりあえず食られないという返答がかえってきたので俺たちも少し警戒しながら先輩2人の後についていく。


 進んでいく時、始めはドラゴンにしか注意がいってなかったがよく見るとほかの小動物もいることに気が付く。最初はウサギかと思ったけどよく見たら違った。いくらウサギでもあそこまで耳は長くないし何より額に真っ赤な鉱石はついてない。俺が気になっていると先にユミの方が先輩に質問してくれた。


「あれってひょっとしてカーバンクルですか?」


「そうだよ、よく知ってるね。この学園の先生が知り合いから何匹か貰ってそれをわざわざこんな部屋作ってまで学校で飼うことになったって聞いてるよ」


「へー、確かにこの部屋は中々いい環境ですもんね」


 ソウシは周りを見渡しながら聞いた。そういえばドラゴンの方にばかり気がいっていてこのとても学校の地下とは思えない自然溢れるのどかな空間に対して疑問を持つことを忘れていた。


「この部屋凄いだろ? 俺も始めてきたときは驚いたよ」


「この部屋の空とかってやっぱり全部魔法なんですか?」


「そうだね、空は幻覚魔法の一種でこの床に生えてる草も魔法で無理やり生やしてるんだ。ただのコンクリートの壁と床じゃみんなストレスが溜まるからってことで」


 魔法ってすげーなー。と思う一方でなんでそこまでして学校の地下にドラゴンを飼っているのか、この時、疑問に感じた。



……

 そんな話をしていると俺たちはドラゴンの目の前まで辿り着く。そこについてようやくドラゴンがずっと俺達に背を向けてた理由に気がついた。なぜならドラゴンの巨体に隠れて出入口から見えない位置に、1人の男がカーバンクルに囲まれながら胡坐をかいて座っていて、ドラゴンはその男に向かって顔を突き出し顔を撫でてもらっていた。


「よくみたら炎寺えんじ先輩いたんですか」


「おお、回生に七瀬か、うん? あとの3人は誰だ」


「今日から活動に参加する1年生の子ですよ。あ、この人は3年の炎寺先輩ね」


 胸についてるバッチの色が金色だからこの人は俺達と同じ特別クラスの人か。


「あのー」


 唐突に俺とソウシの横に並んで立っていたユミが1歩前に出て炎寺先輩に近づいた。


「私もその、カーバンクルちゃん撫でさせてもらってもいいですか?」 


「おお、勿論いいぜお嬢ちゃん! こっちにおいで」


 そう言われるとユミは嬉しそうに炎寺先輩に駆け寄っていく。近づいてきた所で炎寺先輩はユミに近くにいたカーバンクルを差し出し抱っこをさせてあげる。


「うわー! モフモフして可愛いですねー!」


「そうだろ、そうだろ。ちなみにお嬢ちゃんが抱っこしてるこの名前はハイジっていうんだぜ」


「ひょっとしてみんなに名前つけてるんですか?」


「まあな、やっぱり名前があった方が親しみやすいだろ?」


「あー! わかります、私も持ってるぬいぐるみにはみんな名前つけてるんですよ!」


 一瞬にして先輩と打ち解けているユミの姿を見て俺は少し驚いた。


「ユミってもっと人見知りなイメージあったわ」


「まあ昔ほどじゃないけど、どっちかっていうと今も人見知りだな。けどあいつ昔から可愛いものを目の前にするとそういうの一切関係なくなるんだよ。かわいいよな」


「なるほどね。確かにかわいい」


「そんなことよりあの女の先輩、お前に随分熱い視線を送ってるけど知り合いなの?」


 そうソウシの言う通り、七瀬先輩はたまたま目が合ったと思った瞬間からなぜだかずっと俺のことをガン見しているのだ。あっちから何か言ってくるまで頑張って気づかないふりをしてるのだが、それもそろそろ限界な気がしてきた。


「いや始めて会うはずだけど、ひょっとして俺って今モテ期か?」


「魔昼にチクるぞ」


「あんなの親同士が勝手に決めただけの仲だっての」


 昔からの付き合いなので勿論ソウシは俺と魔昼の関係を知っている。


「何してんだよ七瀬」


 ようやくこのおかしな状況に回生先輩の方が気づいてくれる。七瀬先輩は声をかけられると肩の部分をびくっ、とさせ回生先輩の方を向く。どうやら俺の方を見ながら何か考えていたようだが今ので我に返れたようだ。


「なんか似てない?」


「何が?」


「それが思い出せないんだよー」


「は?」


 回生先輩はその全く容量の得れない受け答えに困惑する。が、さっきまで七瀬先輩が見ていた方をみて俺の存在に気付きしばらく俺と目を合わせると『なるほど』といった顔になる


「君、名前教えてもらってもいい?」


「え? あ、はい煉です、天神煉です」


「やっぱり彼紅蓮の弟だよ」


「弟さん!?」


 この2人はあいつと違って一般クラスのようだが知り合いなのだろうか? 


 ちょっと聞いてみようと思ったが、その前に背後から足音がしたので俺は反射的にその方向に振り向いた……そしてすぐにそれを後悔した。


 なぜならそこにいたのは


「ゲッ! バカ兄貴!」


「ゲッ! アホ煉!」


 俺の1つ上の兄の天神紅蓮だった。



……


「なんでお前飼育委員なんて選んでんだよ!! 祭りでとった金魚を毎年次の日には絶命させてたろ!!」


「うるせー!! 委員会決めてるときに寝てたら加賀斗に勝手に決められたんだよ!!」


「なんで寝てんだよ! ちゃんとクラスの活動に参加しろ!!」


「たまたまその時眠かったんだよ!!」


「こらこら会って5秒で喧嘩するなよ2人とも」


 紅蓮の後ろから出てきた大護が喧嘩の仲裁をする。大護に注意され言い合いこそ一旦やめたが煉と紅蓮はお互いにらみ合ったままだった。その間にさらに割り込んできたのはカーバンクルを抱き抱えた七瀬だった。


「紅蓮君! ひ、久しぶり! 元気だった?」


 そう言う七瀬は緊張気味で顔も少し赤くなっていた。


「おお! 優火かそういえば久しぶりだな、それにしても相変わらず可愛いよな」


「えっ!?」


 どうみても尋常じゃないくらい驚いている七瀬のことは特に気にもとめず、そのまま紅蓮は七瀬の方に向かって手を伸ばす。


(今ひょっとして私紅蓮君にか、可愛いって言われた? それになんだかこっちに手を伸ばしてきてるしこれがひょっとして噂に聞く頭なでなで?)


 しかし紅蓮の手は顔を真っ赤にし目をつむる七瀬の頭の手前で高度を下げていきそれが止まったのは七瀬が抱き抱えているカーバンクルの位置だった。


「いやー可愛いし相変わらず手触りも抜群だなーハナコ~」


「その子はニコだぞ」


 回生の指摘を受け『本当はわかってたぞニコー』と言いながら紅蓮は楽しそうにカーバンクルをなで回すが一方七瀬の表情は固まっていた。


 その一連の流れを見ていた煉とソウシは全てを察していた。


「あの七瀬先輩ってひょっとして」


「そうあれが我が飼育委員会名物甘酸っぱい恋になります」


「今のところただ酸っぱいだけですけどね」


 ついさっき出会ったばかりの1年生の2人にも彼女の想いは見透かされていたが、そんなことが起きてるとは知らない炎寺は紅蓮と大護も到着したのを確認するとこの場にいる人間全員に向け声をかける。


「なんだ紅蓮とイルゴも来てたのか、じゃあこれで今日は全員だな、集まってくれ」



……

 全員集まったとろこで炎寺先輩からこの委員会の仕事の話をされた。俺たちは当番制でこのドラゴンとカーバンクル達の世話をしなければならないようだ。


 当番の日は朝、昼、夜の3回飼育部屋に来て餌やりやドラゴンの体を掃除してあげたりしなければならない。今日は俺たち1年に教えるためにも今から一連の流れを全員でやることになった。全員といっても今日は来れないが本当はもう1人炎寺先輩の他に3年の先輩がいるらしい。


 俺とソウシはデッキブラシでうつ伏せになっているドラゴンの背中を大護さんに教えてもらいながら磨いていた。


「へー、魔昼ちゃんあの試験補習になっちゃったんだ」


「そうなんですよ。まあ、あいつ実は昔から口先ばっかで意外とダメな部分多いいんで」


「けど補修の内容がよりにもよってドッチボール大会とはまた大変だね、確か1回戦の相手は一般クラスの3年生でしょ?」


「あれ? なんで大護さんそんなこと知ってるんすか?」


「今日の朝対戦相手を決めるくじ引きが行われたんだよ。桐八が朝礼の時言ってたろ」


 そういえばそんなことも言ってたかもな。


「けど3年とはいえ一般クラスの生徒ならまだ3年の特別クラスよりは全然いいんじゃないかですか?」


 決して3年生をなめているわけではないが、一般クラスと特別クラスの中には大きな差がある。その証拠に俺たちの特別クラスには定員数というものはなく推薦で入る生徒と、この学校の入試試験の中で特に光る資質を見せたもののみ、後日追加試験を受けそこで再度その才能が認められ者のみ特別クラスに入れる、らしい。これは迅雷から聞いた話で俺は推薦でこの学校に入ったからこの間まで知らなかった。


「いや特別クラスの3年生はドッチボール大会にはでない。あと1年の一般クラスもまだ今年は参加しないから、出場するチームは1年特別クラスと2年一般クラス、2年特別クラス、3年一般クラスの4チームなんだ。一般クラスとはいえ3年には特待生もいるからね、油断しないほうがいいよ」


 なるほどな、強すぎる特別クラスの3年生と逆にまだ入学したばかりで実力のない一般クラスの1年生は参加しないのか。


 そのことはすんなりと理解できたが今の大護さんの話の中で1つまた聞きなれない単語が出てきた。


「特待生?」


「特待生ってのは学校の予想に反して一般クラスの生徒でありながら大きく実力を伸ばし特別クラスの生徒と比べて引けを取らないと認められた実力を持った生徒のことだ」


「つまりめっちゃ強い一般生徒ってことですね」


「強ければいいってわけじゃないけど、まあだいたいそういう認識で合ってるよ。例えばさっき話してた回生と七瀬の2人は2年の特待生で、特に回生の魔法は僕と相性が悪いから1対1で戦ってみたら僕の方が負けるかもしれない」


 なるほど昨日嫌というほど大護先輩の実力を見せつけられた俺には分かりやすい表現だ。けどそんな魔法使いとドッチボールというスポーツとはいえいきなり勝負できると思うとワクワクしてくる。


「中でも3年生の王条先輩には気を付けた方がいい」


「ドッチボール上手いんですか?」


「王条先輩は今でこそ一般クラスの生徒だけど、去年までは特別クラスの生徒で序列1位だったんだ」


続く

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