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魔法のある青春  作者: ドル
4月 魔法のあるドッジボール大会
20/103

第20話「飼育委員会だよ!」

 波乱の第1回魔法実習試験の翌日、4月9日火曜日。


(プロの魔法使いになる自覚か……確かに魔法は好きだからこの学校に入ったけど俺が将来なりたいものって本当にプロの魔法使いなのか?)


 朝、寮生たちで賑わう食堂で、煉は昨日桐八が言っていた言葉を思いだし、その言葉の意味を自分に当てはめて考えていた。


 そんな珍しく物思いにふける煉の異変に、同じ食堂のテーブルを囲む明日香と加賀斗の2人も当然ながら既に気づいていて、その様子を気味悪がっていた。


「なんか今日煉の奴、様子が変じゃない? いつも食事中だろうと構わずやかましいのに」


「そうなんだよ、昨日からどうもぼーっとしがちでさ。普段うるさい奴がいきなり静かになるとそれはそれで気持ち悪いよな」


「そういえば試験終わったあと魔昼ちゃんに会ったんだけど、そっちもちょっと元気がなかったのよね」


「そういや珍しく1番来るのが遅いけどどうかしたのか?」


「それが……」


「おはよう……」


『わっ!!』


 突然やってきた全く覇気のない魔昼の姿に2人は声を合わせて驚いた。一方で魔昼も自分がただ挨拶をしただけで大声で驚かれたというのに、それに全く反応を示さないまま明日香の隣の席に座った。


 そこでようやく我に返った煉は魔昼がきたことに気がつき声をかけた。


「おはよう。今日は遅かったな、さてはお前昨日桐八に大目玉食らったからって落ち込んで……たみたいだな」


 煉も発言の途中で彼女の今の状態を把握し、挨拶がてらの煽り文句を送るのを途中で取りやめた。


「え? 何言ってんのよ煉。勿論昨日の反省はしてるけど落ち込んでなんか全然ないわよアハハー」


 そう言う魔昼の目には生気がなく声もかろうじて聞き取れるようなボリュームだった。


「反省も大事だけど気にしすぎもよくねーぞ。飯食って元気出せ」


「うん、ありがとう」


「一応聞くけど昨日の試験で使える魔法を隠したのはどっちなんだ?」


「それはアロス君の方、彼は昨日水魔法で私の雷魔法のサポートをしてくれたんだけど、彼はあと氷魔法も実はあんまりまだ得意じゃないし雷魔法とは相性もよくないってことで、水魔法で私のサポートに撤してくれたんだけど、どうもそこが桐八先生に誤解されたみたいで……」


「へー」


 相槌を返す加賀斗の目がいつになく冷たいものだということを気づいた者は、この時はまだ誰もいなかった。

 

「そういえば補習が用意されてるらしいけど何するんだって?」


「それは今日の朝ホームルームの時みんなに知らせる学校行事でクラスメイトと今度こそ協力していい結果を残すことって言われたわ」


「学校行事?」


 すっとんきょうな声をあげる煉。加賀斗と明日香も予想外の補修内容を聞き不思議そうな顔をしている。


「なんだマラソン大会とかか?」


「いや補習の内容にするくらいだからきっと魔法学校ならではの学校行事なんでしょ」


「なるほどな」


「けど魔法学校ならではの行事ってなんだ?」



……

「ドッチボール大会だ」


 朝のホームルームの時間、桐八は開口一番そう告げた。


「再来週の金曜日の4月26日は1日使ってドッチボール大会を開く。当然うちのクラスからも選手8人のチームを組み参加してもらう。まあこの大まかな大会の概要を書いた紙を後でクラス委員長達に渡しておくので放課後色々話し合って作戦などを練ってくれ。ちなみに昨日伝えた通り実技試験で合格評価に満たなかった者の補習内容はこの大会で、いい結果を残すことなので積極的に参加すること。それから委員長はこの後大会の対戦組み合わせを決めるくじ引きがあるから俺についてこい。じゃあ次の連絡にいって……」



……

 昼休み。


『で? 魔法学校ならではの行事がドッチボール大会なのか?』


 俺と加賀斗は明日香の所に冷やかしに来ていた。


「うるさいわね!! あんた達だって『なるほど』って言ってたじゃない」


「俺は言ってねー」


「けどドッチボール大会ってのは俺たちにとってはすこぶる優位なんじゃないか?」


「確かにな」


 中学では基本的に運動で魔力による身体能力の向上は禁止されてたがそれでも俺と加賀斗は運動力は中学でトップレベルだった。またドッチボールも中学時代昼休みに仲のいい友達何人かと毎日のように遊んでいたので慣れ親しんだ競技だからそれなりに自信はある。


「それは普通のドッチボールの話でしょ? 今回のは魔力による肉体強化、魔法による妨害なんでもありなのよ」


 俺の心情をよんだような指摘をとばしてくる魔昼。


 そうかこの学校で開かれるんだ、流石にただのドッジボールではなかったか。


「なんだかえげつなさそうな競技ね」


「ていうかなんでそんな詳しく知ってるんだ?」


「それはこのルール用紙に書いてあったからよ」


 そう言い魔昼は両面印刷されたA4サイズの紙を俺に見せてきた。書かれている文を読んでみると、確かにそこにはドッチボール大会に関するルール等が記されていた。


「あー、朝礼で桐八がいってたやつか」


 確かにホームルームの時間に桐八が大会の概要が書かれた紙をどうとか言ってた気がするが……


「うん? ちょっとまてそれってクラス委員長に渡すっていってなかったか?」


「そうよ。だからクラス委員長が桐八先生からもらって、次に副委員長の私が委員長から預かったのよ」


 おう、なんか今サラッと言ったけどこいつクラスの副委員長だったのか。……けど待てよ。魔昼が本当にこのクラスのまとめ役といえる副委員長を務めているのなら、1つどうしても気になる点ができる。


「なんでみんなのお手本となるべき副委員長が実習試験で補習くらってんだ?」


「うるさいわね! だから今度は頑張ろうとしてるのよ!」


 顔を赤く染めながらも魔昼は反論してくる。どうやら朝の時に比べて、煽っても言い返せるくらいには頭の中が切り替わり始めているようだ。そのこととは別にもう1つ俺は今の会話であることに気づく。


「というかクラス委員長なんていつ決めたんだ?」


 クラス委員長という制度は小学生の頃からあって、俺が知っている限りでは普通立候補者を募ったり、それが出ない場合は推薦とういうなの押し付け合いをして決めるもののはずだが、俺が記憶している限りそんなイベントはまだなかった気がする。


「先週の火曜辺りにきめてなかったか? お前は確か魔法を使って授業が受けれないことに拗ねて寝てたけど」


 あ、記憶してたわ。確かに、あの頃の俺は魔法学校なのに中学の頃と変わらず数学などの普通の授業を受けることが耐えられず、ましてやクラス委員長なんて誰になろうがどうだっていいと思い早々に昼寝を決め込んだった。


「ちなみにクラス委員長以外にも色々な委員会があってクラス全員がその時それぞれ何かしらに割り振られてる。お前の委員会はいい感じに人が足りてなかったところに俺が推薦しておいてそれになってる」


「なんだそれ始めて聞いたぞ! 俺はいったいなんの委員会になっったんだ?」


 寝てた俺も大概だが本人の確認もなしに勝手にこの3年間務めることとなる委員会を決める奴があるか。


「あんたは確か…」


「桂木さんちょっと今いいかな?」


 俺の質問の答えに割り込んできたのは同じクラスの3人組だった。真ん中に立ってて今魔昼に話しかけてきたのは、俺が魔導の世界に戻るきっかけとなった御前試合で手合わせをした神埼刃(かんざきやいば)だった。

 

「いや、煉たちと何か話があるならそれが終わってからでも全然いいんだけど」


「だから言ってるだろ、どうせこのメンツじゃくだらない話しかしてないんだから割り込んだって構わないって」


 右にいるのは神埼家の養子で同じく御前試合で刃と共に俺と戦った神崎ソウシ。護衛のくせに相変わらず態度がデカイ(うちもあんまり人のことは言えないけど)


「なんだとソウシ! 言っとくけど今ここでは…!」


「いや全然たいした話をしてたわけじゃないから大丈夫よ、刃君」


「おい! 魔昼!」


 確かに俺と魔昼の間で交わす会話の9割は今いったようにたいした話ではないが、今回は勝手に決められていた自分の委員会を知るという、割と俺にとっては大事な話なので、こちらの質問に答えぬままこの話を切り上げようとする魔昼に抗議しようとした。


「はいはい、私たちはもう食堂に行くわよ」 


 そう言い明日香は俺と加賀斗の背中を叩き、この場から移動するように促されてハッとする。別に魔昼じゃなくてもこの2人に後で聞けばいいのか。確かに言われてみれば腹も空いてきていたので、俺は魔昼を残し3人で先に食堂に向かおうとするが


「あ……まって! 煉くん」


 突然横を素通りしようとした俺たちの前に出て声をかけてきたのはさっきまで刃の左横にいた神崎ユミ。御前試合に出ていなかったが彼女は神崎家の分家に生まれた子でソウシと同じ刃の護衛だ。ソウシとは違って礼儀正しくおしとやかな少女。(うちの護衛とはえらい違いだ)


「おっす! ユミ元気か?」


「こんにちは煉君、元気だよ」


「そっかならよかった、またな」


「あ、ちょっと待ってくれない? 少しだけ話したいことがあって」


「けど俺朝から何も食べてなくて空腹で一刻も早く何か口にして栄養補給をしたいんだが、それでもユミと話さなきゃいけないか?」


「え? けど今朝食堂で煉くんのこと見たよ?」


「なんでそれを俺だと断言できるんだ? 名刺交換でもしたのか? もしかしたらドッペルゲンガーかもしれないだろ、というかなんで朝見かけたのに挨拶もしてくんないんだよ実は俺のこと嫌いなのか?」


 俺が早口で適当に思いついたことをどんどん言うとユミは分かりやすく『そういうつもりはなかっただけど』などと言ってあたふた困り始める。


 魔昼や明日香と違ってユミは俺のノリに対して毎回新鮮な反応をしてくれるから嬉しい。なんて俺が悪趣味なことを思っていると バシッ!


「うちのユミをからかうんじゃねぇ」


 ソウシから頭に手刀を受ける。俺の軽いジョークには比例しない威力だ、まったくこの乱暴者が。


「いてて」


「煉くん大丈夫?」


「自業自得なんだから心配なんてするなユミ、それより煉に用があるんだろ?」


「あ! そうだ煉くん、今日放課後私達の委員会の仕事があるから忘れずに来てね」


 一度後に遅らせた話題が突然舞い戻ってきて、俺はそのことを理解するのに何秒か時間が掛かった。


「うん? 俺はユミと同じ委員会なのか?」


「え?」


 俺の発言に驚き、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になるユミ。


「ごめんねーユミちゃん、実はまだこいつに委員会のことは教えてなくて」  


 明日香に説明されてようやく『なるほど』といった顔になるユミ。というか今が俺の委員会を知るチャンスじゃないか? 


「そういえば放課後に仕事って、俺らの委員会は何委員会なんだ?」


「飼育委員会だよ!」


「しいく……いいん?」


 今度は俺が豆鉄砲を食らう番だった。



……

 放課後。


「みんな悪いけど帰る前にちょっと時間をくれないかな?」


 終礼が終わりみんなが帰りだそうとしたタイミングで教壇へ上がり、教室にいるみんなに声をかけたのは刃だった。


「今度のドッチボール大会のことはメンバー選出から出場の手続きまでの全てをクラス委員長の僕に任されたので、できたらみんなにはまだ帰らないでこれから一緒に大会に向けて作戦会議をしたいんだ」


 刃の奴がクラス委員長だったのか。気づけばいつの間にか刃の横に魔昼までいるし、昼休みにしてた話の内容はこれの打ち合わせだったのか、と俺は1人で納得しながら目線をユミの方に向ける。


 理由はもちろん俺はこれからユミと委員会のお仕事をしに行かなきゃならないからだ。ユミは俺と目が合うと『大丈夫!』という顔をした。そしたらちょうど。  


「けどこの後委員会の仕事がある煉、ユミ、ソウシの3人はそっちを優先してくれて構わないよ」


 なるほどね、ちゃんとその辺も打ち合わせてあるのか。というかソウシの奴も飼育委員だったのか、まあ理由はユミが心配だとかなんだろうな。


 俺はそう思いながらも荷物をまとめ教室を後にした。



……

「ちぇ! 俺も作戦会議混ざりたかったな」


 活動場所の飼育室なる場所に向かう途中の廊下で俺はぼやく。


「刃がどうしても早いうちからやっておきたいみたいでな。まあ今日は大会のルール説明やうちのクラスの大会に向けての基本方針について伝えるだけで実際にドッチボールの練習をするのはまだだから安心しろ」


「そういやソウシは大会出るのか?」


「どうだろうな。ドッチボールは好きだが俺の魔法はそこまでドッチボール向きじゃない」


「そうか?」


 半年前の御前試合でソウシは確か近接戦で魔昼とほぼ互角だった。なのでまず間違いなくうちのクラスでトップレベルの身体能力の保有者のはずだ。 


「まあ確かに出てもそれなりにやれる自信はあるが、試合に出れるのは8人だけだからな。俺よりも向いてる魔法使いがクラスに8人いなかったら出るかもしれん」


「ふーん、ユミは?」


「私はスポーツだとみんなの足引っぱっちゃいそうだから、ほら私運動音痴だし」


「そうだお前ボールに当たってユミが怪我したらどうするんだ」


「相変わらずユミには甘いな」


 ソウシは俺たちや自分の主の刃相手にすら厳しいのにユミにだけはこのようにとてつもなく甘い。


「お前と違ってはユミは可愛いからな」


「ちょっとソウシ君!?」


「おいおい急にイチャつくなよ」


「別にイチャついてはないだろ」


 顔を真っ赤にして動揺するユミと対照的にソウシの対応はさっぱりとしていて相変わらずからかっても面白くない。かといってユミの方ばかり集中してからかうとソウシに殴られるのは目に見えてるしな。


「そういえば道こっちであってるのか? 気づいたら地下だぞ」


 今日の昼休みまで自分が飼育委員であったことを知らなかった俺は当然、飼育部屋というのがどこにあるのか知るはずもないので2人について歩いていたが、地下の階へと続く階段を下り始めた時点でさすがにおかしいと思い口を挟んだ。


「それがどうも飼育部屋は地下にあるらしい、ほらあそこに見えるドア開けた先がそうだ」


 ソウシが指差す方には学校の校舎で何度か見たことのある防火扉のようなものが設置してあった。


「やっぱり間違いじゃないか?」


「まあとりあえず開けてみようぜ」


 階段を下り終えた俺たちがドアを開くと、そこには緑が生い茂る草原が広がっていた。


 なぜ地下にこんな広大な草原が広がっているのか、しかも草原だけでなくよく見ると上には大空が広がっている。いつもの俺なら『あれ?いつの間に外への出入り口を開けたんだろう?』と今来た道を振り返るとこだが、俺は立ち止まりある一点を見つめていた。


 俺の視線の先には1匹のドラゴンがいた。


続く

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