第17話「顕現型」
俺の叫び声が学園の裏山にこだましたのち、桐八はあらかじめ決められていたペアを1組ずつ発表し、呼ばれた者から順に並んで列を形成していた。
「次、天神煉、臼井桃子」
ようやく名前を呼ばれた俺と臼井という少女はその列に加わりその場に腰を下ろした。
「よろしくお願いします!」
「おお、頑張ろうぜ」
元気よく、尚且つ丁寧に頭を下げる臼井。同じクラスではあるがこれまで彼女との接点は殆どなく、魔昼や明日香と仲のいい子くらいしか情報がないが、この感じからすると普通にいい奴でやりやすそうだ。
それからも続々とペアは発表されていき、ようやく試験に参加する生徒全員が列に加わった所でようやく桐八は詳しい試験内容の発表を始めた
「お前たちペアには今から回す紙に記された所定の位置まで行ってもらう。そこには今回の試験管である2年生の先輩が待っているので、お前たちにはその先輩と魔法を使って模擬戦を行ってもらい、相手を気絶させるか降参させたらこの場所に戻ってこい。以上が実習内容の説明だったが何か質問は?」
桐八は俺たちに問いかけたあと、それぞれのペアが向かう場所が書かれた紙を配り、1番後ろのペアに紙が届くまでの間に誰も手をあげないことを確認すると再び口を開く。
「では、質問も特に無いようなので最後に1つアドバイスだが、互いのパートナーと100パーセントの力を出し合い、協力して試験には臨め。以上それだけだ、準備ができた者からどんどん移動を始めろ」
……
「とりあえずお互いの使える魔法を確認するか」
最初の集合場所から少し裏山に入るとある程度開けたスペースに出たので、そこで俺は作戦会議を始める。
「えっとですね、私は4体の精霊を使えます」
「4体も? めちゃくちゃ多いな。試しにどれか出してみてくれよ」
「わかりました!」
元気よく返事を済ませた桃子は目を閉じて集中し始める。すると桃子と俺の間の地面に魔法陣が展開され、その中から身長2メートルくらいの青年が出てくる。一見するとただの個性的な民族衣装の様な和服に身を包んだ青年だが、ちゃんと自身がただの高身長のイケメンではないと知らしめるがごとく額の少し上の辺りから2本の立派な角が顔を覗かせている。
「やっぱり顕現型か」
魔導精霊、それは魔法によって作られた人工生命。魔法使いの中にはこれと契約し、ともに力を合わせて戦う者もいる。そしてその中でも精霊には顕現型と憑依型の2種類があり、桃子が今出したのは顕現型。己の魔力を使って精霊をこの世に形あるものとして具現化させ意のままに操る。
「はい、この子は鬼頭くんって言って私の友達の精霊で1番強いんですよ!」
確かにただ立ってるだけなのにこの精霊から感じる圧、そして滲み出る魔力から只者じゃないことが分かる。正直こいつが付いていてくれるなら、例え相手が1年上の先輩相手でも楽勝で勝てる気さえしてきていた……桃子の次の発言を聞くまでは
「でもこの子の顕現維持には凄い魔力を使うので1日3分くらいしか出せないんでよね」
「わーバカ! バカ! 仕舞え、仕舞え!!」
確かに魔力に満ち溢れている精霊とは対照的にその主人である桃子の魔力は早くもその勢いが衰え始めている。
呑気に『やっぱりこの子を出すとすぐ疲れちゃいますね』なんて言う桃子を見ながら俺は軽く冷汗をかく。
クソ、いま何秒くらい精霊出してた? 30秒とちょっとってとこか? 1分はさすがにたってなかったと思うが。
……
魔力温存のため残りの精霊は実際に顕現はさせず口頭でおおよその性能を臼井から聞いてから次は俺の使う魔法を彼女に伝えることになった。
「俺の魔法は……」
そう言うと俺は体を90度回転させてから左足を少しさげ、逆に右手をグーにしての方に突き出して構える。そのまま魔力を右手の人差し指へ少し集中させ、適当に魔力が溜まった所で俺は右手の人差し指を親指に引っかけ シュッ、人差し指で親指を弾く。
バーン、そうすると狙い通りにおおよそ10メートル先にあった岩に俺の飛ばした炎弾が当たって弾け、岩の表面が少し焦げた。
「わー、凄いです! 割り箸鉄砲みたいですね!」
「褒めようとしてくれてるのはありがたいんだが、そこは普通に『鉄砲みたい』って言ってほしいかな」
さっきから会話の節々で感じていたがこの子はひょっとしてちょっと頭が残念なのかな、と俺は少し心配になりながらも説明を続ける。
「実は今の炎弾は結構威力を絞って打ったやつで、この魔法は打つ時に弾く指の数で火力調節ができるんだ。さっきは1本だったから1番しょぼい火力だ、最大火力のならあれの倍以上の火力は出る。ただ火力を上げると比例して速度は落ちちまうんだよな」
そう、最初はただ指を弾くのに合わせて炎弾を放つだけの俺の魔法も、この半年間の特訓でそれなりに強化されている。
「まだ俺達の番が来るまで時間あるし、このまま本番での大まかな作戦も決めちまうか」
2対1で人数有利とはいえ、相手は仮にもこの学園で1年間みっちりしごかれたエリート魔法使いだ、闇雲に戦っても勝ち目は薄い。だが幸い、桐八から今すぐ2年生のところに行けとは指示されていない。なので俺はこのまま臼井と薄い勝ち目が濃くなるまで、念入りに作戦会議をしていこう。
……
カサッ、目の前の木の枝を手でどかすと少し開けた場所に出た。その真ん中に試験管の先輩はいて運がいいのか、悪いのかその先輩とは顔見知りだった。
「お、来たんだね」
「お久しぶりっす大護さん」
「そうだね、春休みの間は天神家にはいけなかったから正月以来だね」
そう、俺が相手の先輩を知っているのは天神家の繋がりでだ、なんたって彼は1個上の学年にいる天神家の『次期当主』の護衛なのだ。
「アイツも今回の試験に参加してるんっすか?」
「いや彼は試験には参加してないんだ。まあ彼が試験官になったら誰も合格できないだろうしね。ところで煉くん、君1人かい?」
そう、大護さんが今指摘した通り俺の横に頼れるパートナー、臼井桃子の姿はない。顕現型の精霊を操る際、その術者は精霊の召喚を維持することに意識と魔力を割かなければならず、その間は自身の守りがおろそかになる傾向にある。
1流の魔法使いなら精霊を出しながら自身も息を揃えて戦うという離れ業を成してしまうらしいが、聞いていた感じ桃子はまだそのレベルに達していないので、この場にいても足手まといになると判断して俺は今1人でここまで来ていた。
「そうですね、そういうことでここは男らしく1対1で勝負しましょう」
俺は大護さんに宣戦布告すると共に魔力を込めた人差し指と中指を親指に引っかけそれを弾く。
「2本!」
ボワッ! 俺の手から打ち出された炎弾が空を焦がしながらも標的である大護さんに向かって行く。
バンッ! だが大護さんはそれをあっさり左に避けたため、目標を失った俺の炎弾は何もない地面に当たって虚しく弾けた。
しかしこんな馬鹿正直に真正面から攻撃を仕掛けても、簡単に避けられるのは始めから分かっていた。だから今の炎弾は大護さんに着弾してダメージを与えるのではなく、今このすぐ近くに身を隠している彼女に合図を送ることを目的としていた。
シュッ! 炎弾を回避した大護さんは俺にいる方に向かって右ストレートを放つ。どんなに強力なパンチでもこの距離んではただの素振りにしかならないが、それは相手が1人前の魔法使いじゃない場合の話だ。伸ばし切った大護さんの拳の先からは燃え盛る拳状の炎が飛ばされた。
「2本!」
俺は急いで次の魔力を込めて2発目の炎弾を撃ち、それを相殺することで身を守る。
「じゃあ次は2発同時だ」
爽やかな笑顔とは裏腹に大護さんの両手にはえげつない魔力が込められていた、発言から察するに今度は両手で今の炎拳を放とうとしているようだ。
頑張って回避するか、やったことはないが俺も両手から炎弾を撃ってみるか、どちらの方が現実的か俺は判断しかねていたが、
「ウッ~! ガウッ!!」
それよりも先に頼もしい唸り声が大護さんの背後から聞こえてきた。
ガサッ!! 茂みを飛び越え、俺よりも一回り大きいくらいの巨体を持ち合わせた猟犬が姿を現す。あれが4体いる桃子の手持ち精霊の1体、犬の『ケンくん』らしい。
さすがの大悟護さんもこれには不意をつかれ、ズサッ! その鋭いかぎ爪に右肩の辺りを深々と切り裂かれた。その痛々しい様に一瞬敵である俺でさえ大悟さんのことが心配になるが見たところ切られた部分は出血どころか制服の布さえ裂けていない。
察するにケンくんの爪は魔剣と同じ性能、つまり物理的ダメージは与えず体内魔力を切り裂くように作られているのだろう。だとしても今の一撃は相当大護さんの魔力を削り取ったはず、少なくとも右腕はしばらくまともに使えないはず。
今が攻め時と判断した俺はすぐに大悟さんを挟み込むような位置に移動する。大護さんにその動きは横目で捉えられていたが、俺に対応しようと反転すれば今度はケンくんに背中を見せることになるため下手に動かず、目で追うだけで終わった。
「ガウッー!!」
俺の位置取りが終わったタイミングでもう一度ケンくんが大護先輩に飛び掛かる。
「貰った! 3本!!」
俺は大護先輩の意識が迫りくるケンくんに完全に向いたことを確認してから、その無防備になった背中に向けて炎弾を放つ。
続く




