オカルト部の日常
授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
授業から解放された生徒達が一斉に部活やバイト、買い物へ向かう。
放課後の予定などを話しながら忙しなく教室を出て行く生徒達の中で机に突っ伏してピクリとも動かない生徒がいた。俺、土御門晴人である。周りの喧騒が一切聞こえていないかのようにピクリともしない。そんな俺の様子にクラスメイトの誰一人として気にしていないとこらから俺のクラスでの立ち位置がわかるだろう。
多くの生徒が教室から出て行き、教室は先ほどの喧騒が嘘のように静まり帰っていた。
重い体を無理やり起こしてのっそりと起き上がる。
カバンを持って重い足取りで教室を後にした。
部活など行かずに家で寝たいと思うがそんなことをしたら部室で待つ先輩に怒られてしまう。
仕方なく階段を上がり3階の廊下の一番を奥にある空き教室へ向かい、ドアに裏返しにされているプラカードをいつものようにひっくり返した。そのプラカードには綺麗な文字でオカルト相談部と書かれている。
慣れた手つきでドアを開けると教室の中にはつまらなそうにスマホをいじる月美先輩がいた。
「こんにちは、先輩。」
「こんにちは、晴人くん、眠そうだね。」
教室に入るなり欠伸をする俺に先輩は面白そうに笑った。
「そりゃ、1時間しか寝てないですから。というかなんで先輩は眠くないんですか?」
「ふふーん。お姉さんは何でもできるんだぞ。」
先輩は人差し指を唇に当てて誇らしげに言う。その仕草が高校生にしては大人びている先輩に合っていてとても様になっていると思ったが褒めると調子に乗るのは目に見えているので敢えて無視した。
「お姉さんになれば一日1時間睡眠で足りるんだったら僕もお姉さんになりたいです。」
「精進することだな少年!」
俺たちは今日も他愛もない会話を続ける。
こうやって放課後に2人で雑談をするのは高校生になる遥か前、俺が小学生1年生の時から続く日課となっている。
そう聞くと俺と先輩が婚約者かなにかかとよく思われるがそれは見当違いだ。
俺と先輩は家が隣のただの幼馴染だ。少し特殊なのは俺の家と先輩の家は1000年前からの付き合いなのだ。だからこそ両家の子供である俺と先輩は物心ついた時から常に一緒にいた。
幼馴染というよりはもはや姉弟のような関係である。
つまり俺と先輩は付き合ってなどなく、ましてや婚約者などでもない。
このような説明を生まれてから何度もしてきた。
「体操服を盗まれた子たちみんな、戻ってきた体操服を捨てたみたいだよ。」
「え!?なんでですか?」
折角真夜中に眠い目をこすって取り返した体操服をあっさりと捨てられたと聞いて思わず気の抜けた声が漏れる。
「どうやらね、帰ってきたのはいいけどみんな気持ち悪がって着ないんだって。」
「あー、なるほど。」
確かに俺と先輩は盗人が悪霊だとわかっているけれど、霊感のない一般人からしてみれば変質者の仕業にしか思えないのか。
盗まれた体操服で一体何をされたのか……たしかに想像するだけで着たくなくなる。
「全くなんの為にこんな事やってるでしょうね。」
俺はウンザリして愚痴をこぼしてしまう。
先輩は駄々をこねる子供を諭すように優しく注意した。
「いつも言ってるでしょ。私達霊感がある人間は周りの人間の悪霊を生み出しやすいの。そしてその悪霊が起こす事件を解決できるのは私達霊感のある人間しかいないの。これは霊感を持った人間の義務みたいなものだよ。」
「でも俺、霊感欲しいなんて一斎お願いしてないんですけど……。」
「それが君の運命なんだから受け入れなきゃダメ!」
そう言われて俺は自分の生まれを呪った。
霊感を得るにはふた通りの方法がある。一つ目は生まれつき持つパターンである。霊感を持つ人間の殆どはこのパターンにあたる、俺や先輩も生まれつき霊感を持っている人間だ。この霊感は遺伝しやすいもので、逆に霊感を持っていない人から霊感を持つ子供は滅多に生まれない。だから霊感を持つ人間は霊感を持つ人間と結婚しなければならないという暗黙のルールがあったりする。
2つ目は超レアケース、人から与えられるパターンだ。これは余りにも特殊なパターンで今現在、この方法で霊感を持った人間は12人しかいない。そしてこれから増える可能性も今のところはないと思われる。
説教モードに入りかけている先輩から逃げるよの視線を時計に向けるが時刻はまだ13時57分。部活終了時間の18時まではまだ2時間以上ある。
「今日は誰も来なさそうですし帰りますか?」
「ダメだよ。部活時間中はこの教室にいないとまたあの生徒会長さんに怒られちゃうもん。」
「あぁ、そうでしたね……。」
俺たちの所属するオカルト相談部は部員数2、つまり晴人と月美の2人だけである。活動内容はその名前の通り、悩みを持つ生徒の話を聞いてそれを解決することだ。
今日の早朝に『女子体操服神隠し事件』を解決したばかりのオカルト相談部は現在絶賛無職である。
新たな相談者が来るまではこうしてずっと雑談をするしかないのだ。
暇を持て余していた俺たちの元に新たな相談者が現れる。
勢いよくドアを開けたその相談者は大声で叫んだ。
「俺の悩み解決してくれまへんか?」
俺と先輩は突然襲来した新たな相談者に呆気に取られてしまう。
「と、取り敢えず中にどうぞ。」