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プロローグ

草木も眠る丑三つ時、東京都のとある郊外にある高校は当然の如く静まり返っていた。

静寂と暗闇が支配する学校の中を颯爽と駆け抜けるひと組の男女と黒い影が蠢く。


「先輩、一階の職員室前に追い込んで下さい。そこで挟み撃ちにします。」

「わかった、任せて!」


短く会話を交わすと男の方が階段を駆け下りる。

残る先輩と呼ばれた女は長方形の薄い紙切れを取り出して何かを唱えながらその影を追った。


「急急如律令」


女の掛け声とともに手に握られていた札が炎の蝶へと姿を変える。

真っ赤の炎に照らされて暗闇に隠れてよく見えなかった女の顔と黒い影の姿がはっきりと見えた。

女は高校の制服を着ており茶色がかった短めの髪をなびかせて、黒い影を追う。

一方の黒い影の正体は牛車だった。しかしその牛車を引いているのは人ではない。青白い炎の不気味な顔がその牛車を引っ張っていた。

この異常な光景に怯むことなく女は手から炎の蝶を放つ。

炎の蝶は牛車を追い越して牛車の目の前に着弾して小さな爆発が起こった。

進行方向を塞ぐように起きた爆発を見て牛車は慌てて体を傾けて左の下り階段を降りていった。

その牛車の姿を見て女は無邪気に小さなガッツポーズを決めた。


「よしっ。後は任せたよ。」


階段を降りた牛車の前に女の仲間、先程別れた男が待ち構えていた。


「急急如律令」


男の声に合わせて薄い紙切れが水の槍へと姿を変える。

その槍を牛車目掛けて投げ込んだ。

水流の槍は燃え盛る牛車の引き手を貫く。激しい音と共に霧が発生して辺りが見えなくなった。


しばらくして視界が回復すると目の前に牛車の姿は無くそこには大量の女子生徒の体操服が散乱していた。


「お疲れ様、晴人くん。」

「お疲れ様です、先輩。」


先輩と呼ばれた女は不満気な顔をしながら階段を降りてきた。


「余所余所しいなぁ。昔みたいに月美お姉ちゃんって呼んでくれていいんだよ?」

「大丈夫です。賀茂月美先輩。」

「昔の晴人くんは可愛かったのになぁ。どこ行くときにもお姉ちゃん、お姉ちゃんってついてきてたんだけどなぁ。どうしてこんなに生意気になっちゃったのかなぁ。」

「馬鹿なこと言ってないで早くこれ戻しますよ。」


口を尖らす月美を余所に晴人は女子生徒の体操服をまとめる。

月美も相手にされていないのがわかったのか怒りながらも晴人の側に行った。


「これで女子体操服神隠し事件、解決ですね。」

「悪霊を使って体操服を盗むなんてとんだ変態だね。」

「でも実際に女の子を襲ったりしないだけまだマシじゃないですか?」

「多分この悪霊の主は女の子に話しかけられないヘタレなだけだと思うな。」


盗まれた体操服を持ち主の机へと一枚一枚返している間に夜はさらに更けていきやがて早朝といわれる時間帯に差し掛かっていた。


「それじゃわたし達もそろそろ帰ろうか。」

「どうせまた登校するのに帰るの面倒臭くないですか?」

「ダメだよ。先生達が来る前から学校にいたら不法侵入で捕まっちゃうよ。」

「僕たちは学校に潜む変態を退治した英雄なんですけどね。」

「ほら文句言わない。急いで急いで。」


不法侵入を阻むために作られた人間が跳びこえることなどできない柵を軽々しく跳び越えた2人はとぼとぼと朝焼けの街を歩いて行った。


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