蓮見と若葉
わたしは傍観者。
当事者になることは許されない。
河田若葉は、部屋で本を読んでいた。
黒い髪の毛は肩より少し下くらいのセミロングで、身長は153センチ
二重の目は黒目がちで、ごく普通の女の子。部活は園芸部、真面目で大人しい性格をしている。勉強にかけては学年トップを常に維持しもし試験でも常に上にいる。勤勉でいて、それを鼻にはかけず、皆の勉強を優しく見てくれる先生のような存在であった。
「若葉ちゃん、ゴールデンウィークは地元に戻るの?」
同じ部屋で同じクラスでもある優衣に話しかけられた。若葉は本を閉じて机においた。若葉はかなり遠いところから来てる。観光地として有名な場所であるが、田舎なことには変わりなく、若葉は観光地の隣の村に住んでいた。片道4時間はかかるため、なかなか帰れない。
「決めてないんだよね」
本を本棚に戻し、机の引き出しから写真を取り出した。若葉を囲む美男美女3人の写真だ。
若葉には幼馴染が3人いる。生まれたときから隣の家にいる幼馴染である。
蓮見、海斗、美紗といって3人はクラスでも中心のような存在で、いつも周りにいろんな人を囲んでいるような存在だった。3人は、だ。昔から3人は容姿端麗でいつも目立っていた。家が近いためいつも4人で集まっていたが、若葉は小さい頃からなんとなく三人は違うと感じていた。その意識は中学になり、生徒数が増えると明らかなものになった。そして気づくと3人は、三角関係になっていた。
若葉は1人傍観者の立場になり、3人の恋愛動向を見守っていた。まわりの噂を込み若葉の見解では、美紗のことを蓮見も海斗も好きで、美紗はそれを知らず二人を振りまわしている、といった相関図になる。美紗は二人に愛されて、どんどん綺麗になっていった。
美紗は色素が薄く、薄茶色の髪の毛をロングヘアーにしていた。スタイルも良くよく町内会での広告のモデルを頼まれていた。目も鼻も形が綺麗で人形みたいなのである。しかも性格は接しやすく、馴染みやすい。男女問わず人気で、いつもいろんな子に囲まれている。海斗も蓮見も美紗の隣に常にいた。若葉はまわりに可哀想と何故か同情されつつも、一緒にすごしていた。それが昔から当たり前だったからだ。でもそんな3人から逃げてくるように、高校は一人地元を離れてここに来たことには理由があった。
中学3年生の冬に入りかけているある日、若葉は一人で教室に残り、日誌を書いていた。
「若葉」
声をかけられて顔をあげると、蓮見が目の前に立っていた。
ナイノールのスクエア型の眼鏡をかけていて、二重の吸い込まれそうな目と、どこか読めないミステリアスな瞳をして、髪の毛は染めてないが、美紗のように色素が薄いためダークブラウンな、ミディアムのウルフカットで、。
蓮見は毎日若葉のことを気にかけてどこかのタイミングで話しかけに来てくれる。昔からあまり人と群れるのは好きじゃない性格だった。しかし、なんだかんだ一緒にいてくれる。そんな、彼も美紗の魅力にはやられている。若葉はそれを知っていた。
「蓮見くん。どうしたの?」
若葉は文字を書くのをいったんやめた。蓮見は若葉の前の席に座り外を眺めながらぼーっとしている。彼の気持ちに気がついたのは、中学2年生のころだった。教室に忘れ物を取りに行くとき、彼女の机にキスをしていた。それから美紗と一緒にいるとき、蓮見と視線が合うことが多く、美紗を追っているのを知った。
「忘れ物取りに来た」
蓮見はそういうと、本を広げていた。静かに本を読み始める。昔から嘘が下手である。蓮見は若葉に優しくて、よく気にかけてくれている。家も隣でよく来てくれた。言葉数が少なく周りからはミステリアスな雰囲気と言われてきたが、若葉にとって彼は優しくて落ち着ける存在だった。若葉は話さなくても一緒にいることで穏やかに過ごせる。たぶん、蓮見は若葉が心のどこかで3人と距離をとっていることに気づいていたのだろう。若葉は日誌を書きつつ、ふとした疑問を聞いてみた。
「…蓮見くんて、美紗が好きなの?」
「え?なんで?」
蓮見は若葉と視線を合わせて首をかしげていた。不思議そうな表情に、若葉はくすっと笑った。
「好きなんでしょう?知ってるよ」
「…もしそうだとしたら、若葉どうするの?」
蓮見はそういうと、若葉は困った顔をした。少しうつむいて、考えたいた。海斗だって大切な幼馴染だ。どちらかに偏って応援するなんて本当はないだろう。海斗は蓮見とは正反対の性格で、人懐っこくいつも笑顔でいるし、美紗と海斗に気持ちが傾いているような様子が見受けられた。海斗が美紗を好きだいうのは、皆が知っている。とてもわかりやすかった。小学生の時から美紗にくっついていたし、中学生になると、ストレートに好きだといっていた。その点、蓮見はいつも寄り添うように2人の隣にいるだけだった。好きだと言葉にするのは苦手らしい。
「…応援するよ?」
若葉は真面目な顔をしてそういった。無口で、ちょっとアプローチが苦手な優しい蓮見のために、ひと肌脱ごうと思った。
中学校の頃、机にキスをする彼をみたとき、苦しくて胸が痛くなった。それは蓮見が人知れずひたむきに美紗を想っていると感じられたからだ。ずっと三人を見てきた。間違いないはずだ。
蓮見は、若葉の強い意志をもった瞳に驚いていた。
「え?」
「だって蓮見くんは、かいちゃんのことも考えて、美紗とずっと友達でいいとか、一緒にいられるならそれで幸せだと」
「、、それはいけないことか?」
「それだとかいちゃんに負けちゃうよ!かいちゃんは凄く積極的だもん。蓮見くんも負けないで頑張ってよ」
「…なにそれ」
蓮見は視線を反らして、気まずい顔をしていた。困ったように笑って、若葉は蓮見の手を取った。
「約束ね。私は蓮見くんを応援する。ほんとはかいちゃんのことも応援してるけど、でも蓮見くんがあまりにも消極的だから、それはやっぱり同等くらいまでは引き上げてあげたいっていうか、蓮見くんは小さいときから私のこと気にかけてくれてきたから、それはわたしが負い目を感じてしまうっていうか。じゃあ、説明するね。私の見解とまわりの情報から考えるに、いま、美紗はかいちゃんに気持ちが傾いてる。傾いてるけど、蓮見くんにもチャンスはあるよ。蓮見くんの場合、、、」
若葉はそこで蓮見に自分が思う今の状況を説明した。スイッチが入ったように立ち上がって、1から丁寧に説明する。どうすれば、美紗を惹きつけられるか。
海斗と居ないところで美紗に会うべきだということ。若葉はゆうに1時間使っていた。蓮見は唖然としながら話を聞いていた。若葉はスイッチがオフになると、座り込んだ。
「ここまで言っといてなんだけど、一番大切なのは、蓮見くんの気持ちだよ」
「…ああ」
「わたしは全力で応援するから、蓮見くんは自分の気持ちを大切にすること!約束だよ?」
若葉は蓮見と指切りをした。
「俺、行くわ」
蓮見は立ち上がりいなくなる。自然に涙が流れてきていた。なんの涙かわからない。日誌についてしまい、ティッシュでふいた。ずっと3人を追うのに必死だった自分を世話してくれていたのは蓮見だった。蓮見のこと考えると、自分の精一杯の今までの恩返しだった。
卒業式に、告白しようという作戦を練った。卒業式の日、朝から美紗と学校に行き、花が添えられる。そして卒業の言葉を読む若葉は、読みながら蓮見の成功のためのイメージを浮かべていた。若葉は答辞を読み終わり席に戻ると、蓮見をみた。視線があい思わずそらしてしまった。卒業式が終わると、後輩などと話す時間がある。これから告白をするという予定だ。卒業式後、美紗と若葉は一緒にいた。
「若葉って、蓮見のこと好きだよね」
唐突にそう言われた。
「え?!?違うよ!あ、ねぇみて!」
話をそらし、下にいる海斗と蓮見がボタンを取られている様子を美紗と二人で教室から覗いていた。
「あはは、あんなに取られてるー」
「凄いね。二人とも、美紗ちゃんも、モテるから、告白ラッシュだったよね」
ここ数日、美紗はたくさんの人に告白されていた。
「……まぁね」
美紗は何とも言えない曖昧な表情をしていた。モテることがいいことではない。
美紗も大変な目に沢山あってきた。それを支えたのは、幼馴染である3人である。
「下行こうよ。皆と写真撮ろう」
若葉はそう誘い、美紗の手を引いた。そういって校庭に行くと、美紗も囲まれていた。若葉は友達と写真を撮ったり、先生に御礼を言ったりして回った。
後輩や女子生徒から逃げ切った蓮見が友達と写真を取っている若葉のもとにきた。。
「若葉、ちょっと」
「ん?」
若葉は蓮見を見上げると、蓮見は真面目な顔をしていた。いつも以上に表情が固い。
「話したいことあるから、待ってて」
「えっ?えっと…話すことはないよ。もう大丈夫」
若葉はそういって、微笑んだ。
「いいから、待ってて」
「そんなことより、呼んできてあげるから、心の準備!じゃあ、頑張ってね。バイバイ」
そういうと、若葉は美紗を呼び蓮見と一緒に裏庭に行くように伝えた。
若葉自身は海斗と二人で写真を撮るように、海斗を呼んだ。皆一緒にいるということを疑っていなかった。
公立高校の試験に行ったのも、そのためだった。合格しても、蹴るのは自由。
3人は若葉も公立にいくと疑っていなかった。若葉は卒業式の日に出ていくことになっていた。
ここからいなくなることは、ずっと決めていた。三人を見ているのは、もう辛くなっていた。本当は気づかないふりをしていた
。蓮見のことが好き。さっき美紗に言われたことは本当のことだ。
心にしまって気づかないふりをしているのが1番楽だからそうしてきた。
でも、もうこれ以上隠せなくなりそうで苦しくなるのはおしまいにしそう思って、県外の全寮制の学校を受けた。
「かいちゃん、ごめん。先に帰るね」
「え?みんなで帰らないの?」
「うん!私これから家でもお祝いがあるの」
「あとで四人で集まろうぜ、蓮見向かわせるから」
「うん、ばいばい」
若葉は海斗に笑ってみせた。
中学校から出ていくと、家でまとめていた荷物を持ってすぐに電車に乗って、清蓮学園の寮に向かった。携帯ももっておらず連絡手段は手紙しかない。それをわかったうえで、全てを隠していった。奨学生として行く、成績をキープするということで親は県外の高校に行くことを許可してくれた。電車の中で、いろいろな感情がこみあげて、涙を流していた。
うまくいっただろうか。美紗の気持ちはよくわからないままだったけど
いろいろな恋愛小説や漫画、恋愛について書かれた書物を呼んで研究して、蓮見に教授した。蓮見は卒なくこなせるから、きっと大丈夫だろう。自分の気持ちは心の中でしまっておこう。もう戻っても合うことはないだろう。どこの高校にしたか場所も教えてないし、連絡手段はないに等しい。
高校に入学すると、3人のことも忘れて、勉強に明け暮れた。高校でも首席をキープすることで奨学生でいられる。
1年間、若葉は、誰よりも努力をし、ずっと首席を維持していた。それを認めてくれるクラスメイトや友達がいた。三人と離れることはやはり心のどこかではすっぽり抜けたものが大きかったが、それを埋めるだけの楽しい学校生活があった。親にも口止めしているため手紙が来ることもない。蓮見への気持ちを1年も経てば自然と薄れると思っていた。告白の結果は知らないけれど、うまくいってもいかなくても、三人は三人なりに楽しく過ごしているはずだろう。
「今年のゴールデンウィーク、2泊3日で若葉ちゃんが戻るなら行きたいと思ってたんだけど、ここ、若葉ちゃんの住んでたところだよね?!」
ゴールデンウィークに差し掛かり、遠くから来ている生徒はいったん戻っていく時期である。優衣は学校と家が近いので土日によく家に戻っている。ゴールデンウィークということで、余暇を楽しく過ごす生徒もいる。若葉は旅雑誌を呼んでいる優衣のほうに椅子を向けた。
「えぇ?!」
雑誌を見て驚いた。三人が写っている。確かに有名な観光都市の近くだが、中高年に人気で女子高生のセンスじゃいと思いきや、こんなからくりがあったのか。
「えっとー、、誰が行くの?」
「多分小春ちゃんが行く!若葉ちゃんが嫌なら仕方ないんだけど…」
優衣はしゅんとしていた。若葉は押されると断れない性格をしている優衣と小春が行きたがっているなら行かせてあげたいというのは本音である。ただ、雑誌に三人が載ってるんだとしたら会う可能性が高い。雑誌を見せてもらうと、チェックしてある個所は、自分の本当に見たことのある場所ばかりであり、案内も出来そうである。しかも、三人が働いているお店はチェックなしという好都合さだった。どうにかできるだろう。
「……オッケイ。家に連絡しとく。2人でいいのかな?」
優衣の顔は明るくなっていた。そして、若葉の両手を掴む
「ありがと!!若葉ちゃん!!」
「いいのいいの」
若葉が優しく笑うと、優衣は抱きついていた。優衣は女の子の甘い香りがする。
若葉は受け止めて、くすっと笑っていた。すぐにはなれると、若葉をじーっと見つめている。大きい瞳を向けられて、少し恥ずかしくなる。
「若葉ちゃん、なんか恋してるニオイがする」
「え?そんなことないよ・・・」
その反応をみて、優衣は食いつこうと思ったが、若葉の表情はあまり聞いてほしいというような顔をしていたため、そうなんだと言って話を終わらせた。
ゴールデンウィークになり、初日から2泊3日で若葉は家に戻ることになった。
朝起きて、寮の電話を借りて親に電話を入れた。
朝から4時間半かけて家に戻るのだ。3人で話し合った結果、長旅になるが、朝早く出てお昼は少し遊べるようにという予定だった。若葉と優衣は6時起きで準備をしていた。小春を呼びに行くと、すでに準備万端で、楓を叩き起こしていた。
「楓!!あんたはこれから合宿でしょ!早く起きなさいよ」
「んー…あたしも若葉の家行きたいのにぃ…合宿に行かされるんだぞ……
もうちょっと寝かせろよー」
「意味のわからないいいわけすんな!ほら起きろ」
小春に言われてしぶしぶと起き上った楓は頭をかきながら寝ぼけ眼で優衣と若葉に挨拶する。
そして、そのままシャツを脱いで着替え始めた。楓の生着替えは普段の事であるが、スタイルの良さを二人はまじまじと見ていた。
よく食べてよく動くが、出るところは出ているし、しまっているところはしまっている。ふだん洋服で隠れているらしい。
「おはよー。二人とも相変わらず可愛い。朝から癒されるねぇ」
楓はそう言うと、二人に視線を向けてにっと笑った。こういうところが女子にもモテる部分なのだろう。
ジャージに着替え終わっていた。髪をとかしてまとめている。
「合宿頑張ってね。お土産あげるから!」
優衣がそういうと、若葉も励ました。
「そうだよ。楓ちゃんのためだけに特別に考えてあげるから」
楓は二人に抱きついた。
「もーちょーかわいい。小春にいじめられないようにね」
小春が腕組みをして呆れていた。
「あんたじゃないからいじめるわけないっしょ」
小春が腕時計をみると、7時を指していた。あと1時間ある。
「朝ご飯って7時には食べられるよね?」
「うん、それまでは大広間でテレビ見てよっか」
そういうと、3人で1階におりてテレビを見ていた。起きている生徒たちと話しながら朝の用意が出来ると食堂へ行った。
バスケ部が集まって、朝食を食べているとなりで三人もまったりと時間を過ごしていた。先に出ていく楓たちを送ってから、寮を出ていく。
バックを持って、歩いて電車まで出ていく。途中で隣の男子校のバスケ部にも会い、湊や透が優衣と小春に挨拶をしていた。
彼らも合宿らしい。二人は若葉を紹介し、若葉は挙動不審になりながらも自己紹介をした。
湊が、若葉の名前を聞いて驚いていた。学校から最も近い駅に付き、三人で電車に乗った。乗り換えは3回、特急に乗ることになる。
3人で話しながら、若葉は昔を振り返っていた。
「若葉ちゃんて中学まで幼馴染いたんだよね?」
優衣が話しを変えて若葉にそう質問した。
「あ、うん。雑誌に出てた人ね。いまは超有名人。知らない子はいないくらいになってたりして」
「若葉は頭がよくて有名だったよね。全国模試の結果もいつもトップ10入りして、名前載ってるから、湊くんもかなり驚いてたじゃん?」
小春は、窓に肘をかけて、若葉を見ていた。若葉は謙遜した。
「そんなことないよ。わたしは、勉強趣味みたいなものだから、みんなのほうがいろいろ両立してて凄いよ。
ついたら、計画通りに動けそう。お昼はうちで食べる?郷土料理作ってくれるってお母さんが言っていたの」
「えー!食べるよ!!」
「じゃ、直行だね」
三人で話していると、あっという間に観光地の駅に着いた。ここからまた1時間半かかる。
最寄駅にはすでに母親が来ていた。若葉は車を見つけると、先に歩いていく。
小春と優衣は景色を見ていた。緑豊かで、山が広がっている。
近くに観光案内があるだけで、あとは奥に行けばレストランやお土産のある場所があるというように看板があるだけだった。
「お母さん!」
優衣と小春は挨拶をして車の中に入った。
「若葉がいつもお世話になってます」
「優衣といいます。私は同室なんですけど、いっつも勉強教えてくれるんですよ」
優衣が満面の笑みで若葉の母親をみた。
「そうなの。学校忙しいみたいよね」
「忙しいよ。行事も多いし」
若葉は助手席から母親をみてそういった。
「若葉は副寮長も生徒会入ってるから、2年の代表みたいなもんだよね」
いろいろな名前が飛び交う。母親はかなり嬉しそうにしていた。
若葉は優衣と小春と学校の話しで盛り上がる。
「若葉、みいちゃんが会いたがってたわよ?正月もお盆も会わずに帰っちゃうから」
母親が思い出したように若葉にそう言った。若葉はぎくっとする。
「あ、そうなんだ。」
「観光するなら、三人に会えるかもね。バイトしてるみたいよ?」
「あ、あの雑誌にのってた人?」
優衣が食いついた。
「……うん」
若葉は曖昧に答えた。
「えー、会いたい!」
小さい村だ。観光地に行けば会ってしまう確率は高い。しかし、ここは逃げられない。若葉はドキドキしていた。
サングラスにマスクをつけ、帽子をかぶっていこうと用意していた。
話しが盛り上がる中であっという間に家に付いた。
観光地の手前にある村が若葉が15年過ごしたところである。
家と家との距離は遠いうえに、田んぼに囲まれている。
車から出て、若葉が家の中に案内すると、優衣も小春も古風な家に驚いていた。昔ながらの一軒家で2階に若葉の部屋がある
。若葉は祖父母と両親と妹2人と過ごしていた。
荷物をそこにおき、昼飯を食べると、母に送ってもらい、3人で予定していたルートでまわることにした。
若葉が誘導し、15分もしないで目的地に着く。カメラでとったり見学をしたりしていた。
ゴールデンウィークで観光客もそこそこいる状態である。
歩きながら、旅行雑誌を広げている優衣は、若葉に聞いた。
「その重装備熱くない?」
サングラスに帽子とマスクをしていた。
「思ったんだけど、若葉ちゃん、ここで何かあったの?」
「ま、いいじゃん。お城って歩いてどれくらい?」
チェックしているお城の名前を見て、若葉はすぐに答えた。
「えっと、20分くらい。ついたらちょっと休もうか?結構歩いたよね」
「喫茶店あるみたいだから、そこ行く?」
小春は雑誌を覗き込み、提案した。優衣は賛成していた。
若葉も頷いていた。歩いている最中も、若葉はキョロキョロとしていた。
帽子を深く被り直し、ふーっとため息をつく。
「ねぇ、やっぱ気になるわ。そこまでして会いたくないっていったいなにがあったわけ?」
小春がそういうと若葉は俯いていた。優衣も小春も聞き役に徹しており、若葉はかたい口を開いた。
「私ね、幼なじみの三人は大好きだよ。ずっと一緒にいてくれた。でも苦しくなったの。
心にしまったままにしたい感情が出てきてしまいそうだったから、
隠しておくべきものだから、離れないとだめになると思って
会いたくないといわれたら、会いたいけど、もう少し時間をかけたいというか・・・」
若葉は言葉に詰まっている。
「幼馴染の誰かを好きになっちゃったんだ?」
優衣の言葉に若葉は顔を真っ赤にした。
お城がどんどん大きくなってきた。
「若葉ちゃんて、かわいいし、頭もいいし、よく周りのことみてるのに
どこか自信がないよね。わたし、若葉ちゃんが自分に素直になってほしいなって
いつも思っているよ。」
優衣が泣きそうな顔をしていた。若葉の気持ちを思って涙が流れてきてしまったらしい。
「ありがとう。なんだか、わたし変だね。こういうとき、言葉に詰まってしまうの
」
「よくわからないけど、若葉ちゃんの可愛さに気が付かないなんて変だよ!!」
「まあ、気持ちもあることだからね。若葉だけでどうこうできるなら、もうやってるだろうし
いいじゃん、いま楽しいし、三年生まで若葉がいてくれないと、楽しくないし
勉強見てくれる人もいなくなると困るし。」
二人の言葉に若葉は思わずくすっと笑っていた。そして、目的のお店に入った。
店員に案内されて窓側の席に通された。
「若葉、さすがに全部とったら?室内だし、そこまで警戒しなくても
会うかもわかんないんだしさ、雑誌にもいる場所は書いてあるわけだし
ここにはいないよ」
「そうだね。失礼だしね」
若葉はすべてとって、すっきりした顔をしていた。
目の前に見える城の話をしていると、水を出された。
「小春ちゃんて、歴女だよね」
「おもしろいじゃん。日本史って、あつい男たちの戦いや友情が見えて
そういうの大好きなんだよね」
「どうぞ」
その声に若葉はびくっとした。15年一緒にいた幼馴染の声を聞き間違えるはずはない。
髪の毛で顔を隠すように打つ浮いた。
「あ、どうも。はい、若葉」
小春がそういって渡す。
「あ、うん」
若葉がうつむいたまま受け取ろうとすると、声をかけられた。
「若葉、久しぶりだな」
「「………え?」」
優衣が蓮見の顔を見ると、写真に写っていたミステリアスな雰囲気の男の子がそこにはいた。
芸能人見たいというとたしかに納得する。
優衣と小春は蓮見の顔をまじまじとみて、若葉と蓮見の顔をきょろきょろ見ていた。
若葉は俯いて、蓮見を紹介した。
「あ、えと、・・・・・・・・・・・・幼馴染の志藤蓮見くんです」
若葉はそういって紹介した。
「あ、若葉ちゃんの高校の同級生の乙幡と槇です」
「あぁ、よろしくお願いします。ごゆっくり」
無表情のままだった。そして会釈をして戻っていく。小春は蓮見を目で追っていた。
雑誌だと、ここにいるとは書かれていなかった。バイト先を変更したのだろうか。
「いい顔だけど、愛想なさすぎ」
小春はふと思ったことをいってしまった。
「蓮見くんは人見知りなだけだから、愛想ないは確かにないけどとっても優しいんだよ」
若葉はついフォローを入れていた。昔から、愛想がないからつっけんどんに見られがちである。
人と接するのは苦手なはずなのに雑誌でもバイト先は別の場所でレアキャラだと書かれていたのになぜここにいるのだろう。
蓮見はそれから何も接点はなく、若葉は終始どきどきしながらもお茶をして、話が盛り上がっていた。
周りを見ると、女子高生やら、OLやら女性客が多かった。
「小春ちゃん的には、あの城はどうなの?」
「結構テンションあがるよ。なかなか有名じゃないところって足を踏み入れにくいでしょ?」
小春はお城めぐりをしたいといって優衣を誘ったのだ。
小春は歴史の話を語りだすと止まらない癖がある。
若葉は何回か付き合わされた経験があり、深いところまでお互いに知っているので小春は嬉しそうに話していた。
止まらない小春と若葉の会話をよそに、優衣はぱっと腕時計を見て行った。
「そろそろいこうよ!もう15時だし
17時にはお迎えきちゃうんだよね?」
「そうだね、」
若葉は立ち上がり、帽子とサングラスとマスクを装着した。。
会計分を机で徴収し、小春が会計を済ませる。
「トイレいってきてもいいかな?」
優衣がそういうので、喫茶店の外で小春と若葉が待っていると、私服の蓮見が来た。
雰囲気は一向に変わっていない。瞬時に気づいた若葉は小春の陰に隠れた。
しかし、蓮見は無表情のまま若葉に近づいた。小春はさっと二人の間から抜け出す。
壁まで逃げていた若葉が逃げられないように、蓮見は腕を壁に付いていた。
傍から見ると、脅しているようにも見える。
「なぁ、若葉」
若葉は驚いてびくっとしていた。
「…な、な……なななな、なんでしょうか?」
「俺も一緒に行っていいか?」
優衣が丁度帰ってきた。小春が困っている若葉と目が合い、一言言い返した。
「それ、若葉だけが決めるものじゃないから!あたしと、その子も一緒に決めることよ」
蓮見はうーんと腕を組んで考えていた。
そして、眼鏡を外して、小春の顔を覗き込んだ。
「じゃぁ、お願いします。一緒にいかせてもらっていいですか?」
小春もたじろぐくらい綺麗な顔をしている。
「あぁ、負けました。優衣がよいならいいです。」
小春は真っ赤になっていた。若葉は蓮見にこんなことができるということに驚きと通り越して感心していた。
高校の1年で何を学んだんだろうか。こんなこと出来るような人だったっけ?
若葉ははたと考えていた。蓮見は次は優衣に近づいていた。
同じように頼む前に、優衣は二つ返事でOKする。若葉はよくわからないまま4人で行くことになってしまった。
優衣が蓮見と話しながら、小春と若葉が先を歩いている。小春はやはり止まらずに歴史の話しをしていた。変な状態だ。
「若葉と幼馴染なんだよね?」
「そう」
「雑誌にいたのを見たの!実物もかっこいいね!」
「あぁ、どうも」
優衣は社交的で、本当に気さくに誰とでも話す。人見知りな蓮見も一言ではあるがしっかりと返していた。
優衣の彼氏も蓮見のように不思議な雰囲気を持っているから話しやすいのだろうか。
「ほんと、優衣ってすごいよね。あんなにすぐ誰かと仲良くなっちゃうなんて」
「ほんとだね。すごいよ」
若葉は蓮見が押されているのが少しおかしかった。
そんな表情をみて、小春は察した。
「で、若葉はあの人にこいしてるのか」
小春はそういうと、若葉は帽子を深く被った。
表情は見せず、旅行の雑誌を見ながら言った。
「…両思いになるように手伝ったんだよね」
「手伝い?」
「そう、雑誌にのっていた女の子」
「あぁ、ママさんがいってたみいちゃん?だっけ?」
「そう、幼馴染の3人は三角関係だったんだ。でも、蓮見くんて
とっても内気だから…私いなくなる前にひと押ししてあげようと思って」
そういうと、小春は優衣と仲良く話している蓮見に視線をやった。
「内気なやつがあんな風に女子を口説くか?」
「や、私も驚いたよ?なんか、レベルアップしたっていうか新しい技を見に付けたっていうか…」
若葉は苦笑いをして、涙をためそうになっていた。
城につくと、小春よりも若葉と優衣が大はしゃぎをして、カメラで写真を撮ったり、
二人でわいわい騒いでいる。若葉はいつの間にか、帽子以外の装備はやめていた。
城の中では圧倒されたりしていた。小春は必然的に蓮見と隣同士になる。
優衣と若葉がきゃっきゃとはしゃぐ姿を見ながら、小春はどうしようと思い
蓮見に話しかけた。
「えっと………あんたはなんでついてきたの?」
小春はそういうと、蓮見はいった。
「あいつ、確実に逃げるからさ」
「まぁ、でしょうね」
小春は周りを見ながら、しみじみと楽しんでいた。
「あいつ、卒業式の後、何も言わずに一人でそっちに行ったんだ。」
蓮見が若葉に視線を送っていた。
それをみて小春はにやりと笑って見せる。
「…へー、若葉のこと好きなのか」
「そうだよ。なのにあいつ、変な勘違いしたままいなくなったんだ」
「勘違いしたまま、よくわかんないねじ曲がった感じになってるもんね」
小春は蓮見から離れて城の中をのぞいていた。感心しながら見ている。
蓮見は小春についていった。ついてきている姿を見て、小春は言った。
「あたしはさ、学年トップを貫いてるのに、謙虚で図に乗らない若葉のこと
大好きなの。だから告白してもいいけど、こっちには返してなんてあげないんだから」
小春はそういうと、蓮見にあっかんべーと舌を出して、優衣をよんだ。
彼女なりの気遣いなのだろう。蓮見は小さくありがとうと感謝をした。
そして、違うところに行ってしまった。若葉は二人を追いかけようとしたが、蓮見に腕を掴まれた。
「…蓮見くん?」
「ちょっと出よう。話したいんだ」
腕を引っ張られそうになり、若葉はぱっと離れた。
「え?いいよ。ここで」
「…いや、ついてきて」
そういうと、蓮見は若葉の手を取り直ししっかりと握ったまま城から出て、
裏にある竹林の中まで歩いて行った。あまり人気がない。
若葉は委縮していた。逃げ出したいし、二人に何も言っていない。帽子を深く被ったまま下だけ向いてはなしていた。
蓮見と顔を合わせるのが一番怖かったのだ。若葉の腕を話すと、振り向いた。
若葉は帽子からちらっとだけ顔を見上げていた。メガネが似合う整った顔、すこし大人になったようだ。
帽子をまた深くかぶり、うつむき直した。
「若葉、俺の顔みろよ」
「…」
若葉は蓮見の顔をおずおずと見上げると、切ない顔をしていた。
あまり表情を変えない蓮見が、分かりやすく感情を見せている。
若葉はえーっとと困った表情をして、蓮見を見上げた。
「えっと…どうしたの?美紗ちゃんと上手くいってないの?」
「お前さ、15年間ほんとずっとそうやって傍観者でいたの?
勝手にいなくなって、俺の気持ち考えたことある?」
「え…?」
「若葉は、俺達3人といるのそんなにやだった?今の環境のほうが俺たちといたときより楽しい?
俺と一緒にいる時間は、おまえにとってつらい時間だったの?
泣いているときも、笑ってるときも、おまえの隣にいたのは俺なのに、
どうしていきなり消えるんだよ!」
蓮見はどんどんと若葉を詰めていった。若葉は混乱して、頭に手を当てていた。
「ごめん、蓮見くん、話が見えないよ」
若葉は混乱したまま、またうつむいていた。蓮見は若葉の両頬を掴んで
無理やり上を向かせ、顔を合わせた。
「俺は、ずっとお前が好きだったんだよ。好きで好きでたまらない。
勝手に美紗のこと好きだとか言い出すし、勝手に卒業式の後いなくなるし
なんで、俺のいうこと一つとして聞かなかったんだよ。」
怒った顔をしているのか、切ない顔をしているのかわからないが、
蓮見の顔はゆがんでいた。若葉はきょとんとした顔をしていた。
何を言っているのか分からなかった。
「え?!わかんない…だってかいちゃんと蓮見くんは幼稚園から
美紗ちゃんのことばっかり見てて、それで、蓮見くんは内気だから美紗ちゃんの近くにいるので十分で……、えっと
15年生きてて、私の中の相関図は三角でしかなかったし…
ほら、机にキスだってしてたし、いつもお弁当のご飯あげてたし、
美紗ちゃんがし怪我したら、かいちゃんよりさきに慰めてあげてたし、
日直も一緒にやってたし、掃除も変わってあげてたし、
体育のときは、ペアになること多かったし、、、、」
若葉は自分が考えていたことを口に出していた。蓮見がさえぎった。
「そんなこと考えてたの?若葉ってほんと勉強できるだけで馬鹿なんだな
美紗のことなんてどうとも思ってねーよ。あいつは俺のこと幼なじみとして見ていたし、
俺だって、あいつはただ幼なじみだよ。ほんとに見てた?あいつ、俺のこと弟みたいにして扱ってただけだから!
怪我したら、そりゃ心配するわ、背格好同じなんだからペアにさせられるのは当たり前だろ
海斗はよく好きだなって感心してたんだよ。
若葉はいつも俺の隣で優しく笑ってた。俺に何かあれば、一番にわかってくれた。
落ち着いてて、一緒にいると言葉もないのになんだか居心地がいい、どうしていなくなるんだよ」
蓮見は勢いよく話しすぎたゼーゼーしていた。
「でもでも、じゃぁ中学校の時のことはどう説明するの?
だって、告白するの協力するって言って、うんって…」
「俺一言でも協力してって言ってないだろ!!お前が勝手に話進めたんだ。
勝手にくっつけようとしただけだろ。なにもせずフラれたショックであのあとの話覚えてないけど
逆に美紗に相談してたんだよ。卒業式の日に待ってろっていったのに
お前、音沙汰もなくいなくなっちゃうし。」
話すのが苦手なのに、蓮見からはどんどんたまっているものがはき出るように言葉が出てきた。
「ごめん、ちょっと混乱してる。頭の中で整理できてないんだけど。」
若葉は混乱しすぎて、頭を抱えていた。
「俺は、小さい頃から若葉が好きだ。これは、海斗も美紗も知ってることで
知らないのは若葉だけだ。」
「それは………えと、インプリンティング的なやつであって、、、ほら、
私が蓮見くんと一番家が近いし」
まだ反論をしようとした若葉をふさぐように蓮見はキスをした。
若葉の息が続かないほど長いキスだった。
「これでわかった?」
若葉は真っ赤になって蓮見のほうへ背中を向けると、へなへなと座り込んだ。
蓮見は、放心状態の若葉の手を取った。
「俺がどれだけショックだったか知らないだろ?」
「蓮見くんおかしくなっちゃったんでしょ?だってしゃべりすぎだもの。
変なもの食べたの?急にいなくなっちゃったから、変に思ったの?
勘違いしてない?「もー、認めてあげていいじゃん。若葉って、結構頑固だよね」
小春が、後ろから声をかけてきた。優衣も一緒だ。
「認めたくないものでもあるの?」
小春は若葉にそう聞くと、若葉は困惑した顔をしていた。
「……でも…私が必死に隠してきたもの…なんだったの?!」
「若葉が勝手に勘違いしてたんだろ?」
「そんな!私の勘違い?でもさでもさ、たくさん勉強したんだよ?
恋愛小説とか、デートのこつとか付き合うこつとかの本たくさん読んだし、
どれもあてはまってたし、「そういうとこ変わんないんだな、安心したわ」
蓮見はとてもうれしそうにしていた。
「若葉ちゃん、素直になりなよ。隠すことはなにもないんだからさ
まだ、志藤くんに大事な言葉言ってない。」
「え?あ・・・・、私もずっと好きでした」
若葉は恥ずかしそうにそういった。
蓮見は若葉からの言葉を聞いて、真っ赤になっていた。
優衣が二人の間に入った。
「二人って、お似合いだと私は思うけどなぁ
だって、そんなに好きなんでしょ?さっき若葉ちゃんのこと話す蓮見くんは楽しそうだったし
大好きなの伝わってきたよ~
素直になんなよー。キスまでしちゃったんだから」
若葉と蓮見は離れて真っ赤になった。小春はそんな二人をみて、にやーっと笑った。
「いいじゃん、ね。1年会わなかったんだから、積もる話もあるだろうし
今日は私たち若葉の部屋に二人で泊まるから、志藤くんの家で話してきなよ」
小春はそういうと、優衣に行くよといって竹林から出て行こうとした。
「明日はあと二人にも会いに行かなくちゃだもんね」
優衣も楽しそうにそういった。
「私、家に帰るよ?!」
若葉は小春と優衣を追いかける。蓮見はクスッと笑っていた。
そして、若葉の手を優しくとった。
「俺はいいよ」
「だめだよ!破廉恥でしょ!」
若葉は大真面目な顔で蓮見を見上げた。
その顔は、一緒に過ごしてきた若葉に戻ったようで安心できる。
蓮見は声を出して笑っていた。若葉はなんで笑うの?とずっと問うていた。
言い合う二人の手はしっかりつながれていた。




