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透と瑠奈 3


それからも、瑠奈は、『怜奈』になり済まして、透に会っていた。それは楽しいこともあったが、同じくらい辛いことでもあった。『怜奈』と呼ぶ声、ずっと『怜奈』が好きというその言葉がだんだん辛くなっていった。透綺麗な青い瞳が純粋で、だましている罪悪感がいっぱいになる。ごめんね。『怜奈』じゃなくてごめんなさい。良い雰囲気になってキスされそうになると体だけは嘘がつけず、拒否していた。怜奈じゃないから、瑠奈だからそれを体でははっきりさせておかなければならないと頑なに思っていた。

もう夏休みの終わりが近づいている。夜に会うことになっていた。瑠奈は髪を下ろしてすこしメイクをした。鏡でチェックをしてから聖輪に忍び込みにいった。音楽室で会うことになっている。

誰もいないが、今日は満月が綺麗に見える。ピアノに差し込む月の光が綺麗であった。瑠奈は誰もいないピアノ室で1人で透が教えてくれた曲を何曲か弾いていた。全て弾き終わる前に透が来た。


「怜奈、きてたんだ」


「うん」


「ドビュッシーの月の光ってかなり難しくない?よく弾けるね」


「そうだねぇ。小学校でどうしてもこれだけ弾きたくて頑張ったんだぁ。ドビュッシーはアラベスクも好きなんだけど」




「へー、なんで月の光が好きなんだっけ?」


透は確かめるように聞いた。


「太陽は人を照らすけど、月は傷ついた心を優しい光で包むの。それを、幻想的に表現してるから。本当は、ちょっと意味の捉え方が違うかもしれないけどね」


透は、演奏を止めた瑠奈の隣に座った。透もピアノが弾けるため、聞かせてくれることもあった。すり寄って座られると極度に緊張する。怜奈は緊張しないだろうけれど、本物じゃないから仕方ない。肩を持たれそうになると瑠奈は立ち上がった。透は瑠奈の腕を取った。


「なんで、いっつも逃げるの?僕のことが嫌い?」


顔が近づいてくる。いつもいつも逃げても笑っているだけなのに、今日はそうはいかない。

真剣に青い目が見ている。やめてよ。見ないでよ。怜奈じゃないから、私は瑠奈だから、慣れてなんていない。体は怜奈の代わりにはなれない。いや、本当は心も体も『怜奈』のかわりなんてできない。


「そうじゃなくて、…ごめんなさい!」


瑠奈は、腕を放して走って逃げた。透は取り残されて、ため息をついた。頭に手をやって、後ろ髪をかいた。


「それは、君が本当は『怜奈』じゃないから?」


今日いまこの瞬間に気がついた。彼女は、怜奈じゃない。そして、彼女に惹かれている自分がいた。あの子は怜奈じゃない。中学のとき、怜奈に比べて愛想がなく、かたぶつで接しにくいと噂された姉・瑠奈だ。二人で一緒に行ったときに買っていたネックレスをつけていた。自分の誕生日にと言っていた。それに、鎖骨と鎖骨の真ん中にほくろがあった。透は追いかけることができず、やるせない顔をしていた。



瑠奈は走って逃げていった。だんだん、自分を隠すのが不可能になってきた。次で最後にして、全部いってしまおう。彼には嘘をついたまま、怜奈と入れ替わればいい。透は絶対に気づいていない。そういう自信があった。次が最後だと、瑠奈は心で誓った。


夜逃げてしまってから、1週間は透と会わなかった。怜奈から連絡が来て誕生日会わないという話を聞いていた。決心をして誕生日の前日に会いに行った。聖和ではお昼までバスケ部が活動している。瑠奈は少し化粧をして見に行った。周りを確認するといつもは沢山いるいる女子は少なかった。体育館を覗くと、バスケ部は休憩中だった。


「怜奈!」


透が手を振って近付いてきた。


「よかった。この間帰ったから怒ってると思ってたよ」


「あのときはごめん!やっぱり会いたくて、サプライズ!」


「今日は朝だけなんだ。どこか行く?」


「演奏会行かない?」


瑠奈は気になっていたピアノのコンサートのチラシをみせた。せめて、共通のもので終わらせたい。


「お、いいね。行こうか」


透はくしゃっと笑った。瑠奈は笑顔にキュンとしたが同時に胸が痛くなる。この秘密はすぐに分かってしまう儚いものだ。この思い出は胸にしまっておこう。怜奈に説明して元通りの生活にならないとな、そう心に言い聞かせていた。今日でバスケ部が終わり、透は私服に着えてきた。


「お待たせ!」


にっこり笑っている。凄く楽しみなのだろう。


「髪の毛まだ濡れてるよ」


シャワーを浴びてきたようでまだ髪の毛が乾ききっていなかった。透は背がたかいので、瑠奈は背伸びをしながら髪の毛を拭いている。透は屈んでくれた。


「これでよし!」


瑠奈はにっと笑った。そしてすぐはっとした。素が出てしまった。楓によくやってることで思わずやってしまった。駄目だな。隠せなくなってる。瑠奈ははっとして、慌てて手を離した。


「ありがとう」


瑠奈は悲しく笑って見せた。大丈夫だ。この笑顔を崩さないために頑張るんだ。透と手を繋いで歩くのは変な感じがした。街を歩くとよくわかるが、透は背格好もよくて、顔もハーフで整っているためみんなの視線を集める。瑠奈はいまは怜奈になりましているため、胸を張って歩いているが、瑠奈のままでは滅相もなくて歩けないと思った。2人は電車に乗って演奏会に出かけた。電車は家とは反対方向である。乗っている人も少ないため、座席に座った。


「僕さ、夏休みが楽しかった。誕生日のプレゼントあるんだよ」


「そうだね。わたしもとても楽しかったよ」


「……瑠奈ちゃんも誕生日ってことだよね。何するのかな?」


「あ、瑠奈はたぶん高校の友達と祝うって言ってたよ。帰ってこないんだって」


「そうなんだ。」


「どうして?瑠奈のこと気になる?」


「誕生日プレゼント選ぶとき、一緒にきてくれたからさ」


「あ、そっか。瑠奈のことは気にしなくていいよ!」


瑠奈はそう返した。電車からおりて目的の公会堂までたどり着いた。プラグラムを受け取り、席につく。


「あ、月の光!」


瑠奈は、プログラムの中にあるのを見つけて喜んでいた。透はこちらをみてただ微笑んでいた。それは、本当に好きな人を見る顔だった。瑠奈は申し訳ないように俯いた。今日で嘘をつくのは最後。神様が夢をみせてくれた。でもこの夢は短いほうが良い。それはきっとお互いそうだ。嘘を完成させるためには、怜奈にクラシックを好きになってもらわなくてはいけない。できるはず、一卵性双生児なんだからと瑠奈は心で自分に言い聞かせる。怜奈にごめんねと心でつぶやいた。奪いたいわけじゃない。なりすましてしまったのは自分の非で、やっぱり今考えても駄目なことだった。


「…幻想的な仮装のしたで、そこはかとなく悲しげな恋の勝利やめぐまれた人生を、短調で歌われながらも、おのれの幸福を信じている様子もないその歌は月の光に溶けてゆく…」


透は途中から入ってきた。僕も読んだにこっと笑っていた。


「覚えてるんだね。僕も覚えてる」


「いつか読んだんだって」


「へー」


瑠奈は、頭のなかでもう一度、文章をいった。悲しげな恋の勝利…、今の自分はそうなんだろう。


「……先に瑠奈と出会っていたら、どうしてたのかな?」


透は少し考えていた。瑠奈の顔をみてちゃんと答えた。


「…こういう出会いって運命だと思うんだよね。俺は君を好きになったんだ、後先は関係なく君のことが好きなんだよ」


「……そっか」


あの出会いを透が意味付けたのは、怜奈だからで、自分じゃない。わかっていたことなのに、涙が出てきそうだ。本当の自分は好きになってくれるはずもない。瑠奈としては3回しか会ってないけれど、可愛くなかったなぁと思い返してため息が出そうになった。期待してなんてなかったけど、ショックが大きい自分がいた。少し聞いたら帰ろう。そして、伶奈に言わなくちゃいけない。彼を騙していたと、そう言って終わり。この恋のピリオドだ。


「僕は、やっぱり最初の微笑んだ君の笑顔が忘れられないな」


「ありがとう」


曲が始まり集中する。なんで彼のためなんて思ったんだろう。全部自分のためにしたことじゃないか。自己満足でこんなことをして、自分が情けない。ただ1度だけ彼と過ごして見たかっただけだった。こんなことして、怜奈を傷つける。薄暗い中、ピアニストだけが照らされている。いま、月の光を聞いたら、きっと涙を流してしまう。


「ごめん、トイレ行ってくるね」


「わかった」


瑠奈はそう言ってゆっくり出て行った。涙は溜めていたが流れていない。まだ大丈夫だ。勝手に自分で終わらせた。でも、怜奈が酷い子になってしまう。はやく怜奈に連絡しなければならない。会場からも出て行き、1人で来た道を歩きながら、怜奈に連絡した。


『もしもし、瑠奈?』


怜奈の声を聞いて、罪悪感でいっぱいになった。涙が思いきり出てくる。前が見えないくらい視界が曇ってなにも見えない。


「…怜奈、ごめんね…あたし…」


『どうしたの?!』


瑠奈の潤んだ声をきいて、怜奈は驚いた声をしていた。瑠奈はがくがくする足を前に前に動かしていった。


「透くんと会ってた。ずっと怜奈は連絡とんないで頑張って勉強してて、なのにわたし…ごめんなさい」


『…ちょっと、補習終わってるから、来て話そう』


怜奈には、なにが起こったのかはわかっていないようだ。瑠奈は地元の駅に戻るとだけいって。地元の駅にいくと、怜奈が待っていた。瑠奈は挨拶もせずその場ですぐに怜奈に簡単に説明をして、服を交換していってもらった。瑠奈は帰りの電車で涙をこらえていた。寮につくと、部屋に戻る。


「瑠奈、ひっどい顔だよ?!」


梓が部屋におり、お帰りも言わずに心配した顔をしていた。


「……やっぱり?後で慰めてね」


瑠奈はそういうと、時間を見て怜奈に電話をかけた。

しっかり夏休みのことを話した。ピアノを弾いていて、間違えられたこと。そこからずっと透と怜奈の代わりにあっていたこと。


『つまり瑠奈は、あたしがいない間に透に変わりに会ってたの?』


「…そう、やましいことはしてないよ。手も握ってないよ。ずっと秋月くんは怜奈を見てたよ。こんなことしてごめんね」


『…瑠奈はずっと透が好きだったってこと……?』


怜奈の声は曇っていた。表情が見えなかった。怜奈を傷つけることは、一番したくなかった。大好きな妹を、太陽みたいで、自分を照らしてくれた怜奈が泣くのだけは嫌だ。でも、隠すのが一番怜奈が傷つく。


「……そう、でももう会わないよ!!!秋月くんは怜奈しか見てなかった。そのときだって私越しに怜奈を見てたの。それは、凄く伝わってきたんだよ。だから、わたしはもういいの。」


瑠奈は真実を述べた。怜奈に恨まれても、蔑まれてもいい。


『怒りたいけど、怒んないよ。瑠奈が初めて正直に気持ちをいってくれたことがむしろ嬉しい。瑠奈が大好きだもん。嫌わない。でも、やっぱり透は私の彼氏だからもあげられないよ。応援できなくてごめんね』


「……うん、いいの。ありがとう」


瑠奈はそういって電話を切った。

これで終わったんだ。この恋は自分の中だけで幕を閉じる。これからは妹の彼氏として仲良くしよう。


「瑠奈、お疲れ様。偉かったね」


梓にそう言われて、瑠奈は大粒の涙を流していた。


「梓……練習付き合ってね。」


「嫌よ。今の瑠奈は体が壊れるくらい練習しちゃいそうだし、今日は泣きなさい。みんなで慰める会の準備してあるから」


梓にそう言われ、広間に連れて行かれた。お菓子とジュースが用意されていた。クラスメイトや学年の友達が集まりみんなで慰めてくれた。楓がジュースを飲みながら瑠奈の隣に座った。


「夏祭り明後日湊たちと行くんだけど行こうよ。透いないし、浴衣着て行こうって話ててどう?気晴らしに!」


「じゃぁ行こうかな」


瑠奈はみんなのおかげで心が落ち着いた。




それから、夏休みが明けた。瑠奈は怜奈にいろいろな曲を教えた。怜奈は頑張っているがなかなか難航している。透と一切会うことはなかった。朝練で毎日梓や小春と歩いているのに、湊たちと会うことはあっても、不思議なことに、会わないと気持ちも薄れていく。だんだんそれにもなれてきて、学校で毎日しっかりもののお姉さんをやっていた。


「今日遊びに行く人ー!」


クラスメイトに言われて、数人が手を上げる。


「今日部活の人ー!」


楓が真似をしてそう言った。瑠奈は元気に手を上げた。学校は楽しい。みんな優しくて、明るい雰囲気で。この生活に慣れてしまって、卒業なんかしたくないと思ってしまう。瑠奈は素直に笑っていた。部活に行くため、小春と道場に向かう。




その日、怜奈と透はデートをしていた。夏休みがあけて、二人は週に一回あっていた。怜奈と会う度に違和感が募っていった。夏休みの怜奈は怜奈じゃなかった。それが確信されていった。怜奈は明るくて可愛くて、やなり中学のときの好きな子のままだった。自分が変わった。夏休みにあっていた怜奈になりすました瑠奈と重ねてしまっていた。冬休みに入ったレストランでお茶していた。



「ちょうどこの席だったよね。君が座ってたの」


透はそう言った。 これで答えられるまで瑠奈は話しているのだろうか。


「えっ?なんのこと?」


怜奈は瑠奈から、出会いを聞かずにいた。瑠奈はそれだけは話せなかったのだ。怜奈はクラシックよりも今どきの曲が大好きだ。瑠奈が好きになったのは、自分が紹介したときだと思っていた。透が夏休みに会っていたのは瑠奈だが、透の気持ちが傾くことは無いと思っていたが、この一ヶ月での心が遠ざかった行く感じが肌で感じられた。


「僕と同じように友達と音楽の話してて、とくに好きなのはドビュッシーの"月の光"って被ったんだ」


透はぼーっと、怜奈をみていた。やっぱり、怜奈には黒子はない。夏を過ごしたあの子は瑠奈だった。


「ピアスを落としたのを拾ったとき、お礼だけで名前も言わないでいなくなっちゃったんだ。怜奈はそんなことしないよね」


透は優しく微笑んだ。怜奈は堪忍した顔をしていた。

瑠奈はずっと騙すことに決めたみたいだが、透はもう見破っていたようだ。


「あたしじゃ駄目だね。瑠奈みたいになれないよ。クラシックなんて眠くなっちゃうし、ピアノなんて弾けないし、ていうか瑠奈はピアノどうやってあたしに教えるつもりだったんだろうね」


怜奈は苦笑いを浮かべていた。


「…ごめんね、僕は怜奈とは付き合えない。別れてください」


「あたしもその話をしようと思ってたんだ」


伶奈はそう言って笑った。


「行ってあげてよ。あたしが大好きな瑠奈を泣かせちゃ駄目なんだから!」


「ありがとう」


透は優しく笑った。お店から出ていった。学校に戻っていった。清蓮の寮の前にいれば、瑠奈に会えるはずだ。怜奈はジュースをすすった。


「あーあ、いい男だったのになぁ。次探すの大変だわ。」


怜奈はそう言いながら、涙を溜めていた。瑠奈にメッセージを送ってしばらくレストランで涙していた。




瑠奈は弓道場にいた。練習の鬼と化した瑠奈は、夏休み明けから練習づくしの日々を送っていた。心の乱れがでてしまい、上手く弓を引けずにいた。


「もうおしまいだよ、瑠奈。」


「後10本だけ」


最近的に中てられず、瑠奈はあせっていた。心の乱れがのせいとわかっていることが悔しい。夜の8時くらいを回っていた。


「だめ、先生からも言われてるんだから。瑠奈は初めてのスランプだから戸惑うかもしれないけど、今までが凄いくらいなんだから、しばらく休むほうが瑠奈のためだよ」


小春にそう言われて、瑠奈は弓から手を離した。更衣室で道着をぬぎシャワーを浴びた。制服に着替えて2人で寮に帰る。


「朝練はしないからね。形が乱れてるのにそのままくせになるよ」


「……ごめん」


「てか、明日古文の小テストだから勉強しないと」


「あ、そうだった!」


瑠奈はテキストを取り出して小春とチェックする。


「瑠奈は古文得意だからいいよね」


「小春は歴史得意だから、古文だってできるでしょ」


「いつも瑠奈先生に助けてもらってるじゃん」


「小テストって単語でしょ?覚えればいけるよ」


瑠奈は小春と前を見ないで歩いていた。透に気づくこともなかった。


「瑠奈ちゃん!」


透は瑠奈を呼んだ。瑠奈はわかりやすくびくついて前を向くと透が優しく笑って手を上げた。

瑠奈は、立ち止まって戸惑っていた。


「瑠奈ちゃん、話したいことがあるんだ」


少しずつ近づいてくる透に怯えて小春の後ろに隠れた。ばれたんだ。怒っているんだ。謝ったって許されることじゃない。怜奈はどうしてるの?怜奈ならうまくやってくれているはずでどこでばれたんだろう。まだ会いたくない。あったらまた乱されてしまう。寮に入れば、男子禁制だから透は入ってこられない。小春も戦闘体制をとっている。


「秋月さんですっけ?なんのようですか?」


「瑠奈ちゃんと話したいんだよ」


全く動じない様子だった。


「怖がってるじゃない。あんたは瑠奈の妹の彼氏なんでしょ。なんの用があるってのよ。痴話喧嘩の仲裁なら、瑠奈はそんな暇ないんだからお互いでやんなさいよ」


小春がヒートアップしそうなので瑠奈はとめた。


「小春、相談あるのかもしれないから大丈夫だよ。先行って勉強してて」


瑠奈は、小春を先に帰らせて透の前にたった。黒い髪の毛が風で少しなびいている。深呼吸をして心を落ち着かせる。勇気を出して視線を合わせると透の表情は思ったよりも優しかった。その目は見たことある表情だった。誕生日以来あってないことを装って話を切り出す。


「久しぶりです。プレゼント購入以来だよね?どうしたの?怜奈は指輪気に入ってくれなかった?」


「違うよ。君と最後に会ったのは、あの音楽会のときだよね。夏休みだって、あのレストランのときだって君だったんだよね」


瑠奈は一瞬怯んで俯いた。透は怒っている気て配ではないが、笑顔が怖かった。


「なんのこと?そんなの知らないよ」


透は、瑠奈の腕を掴んだ。


「知らないわけないだろ?」


「違うもん!!離してよ」


「正直に話してくれるまでは離さないよ」


振り払おうとしても力が強くて振り払えない。瑠奈は涙をたくさん溜めていた。


「わかった!!怜奈になってた!!夏休みのあいだあってたのはわたし。」


「………やっぱり」


瑠奈は頭を下げた。透は瑠奈の腕を離した。 


「本当にごめんなさい。騙すようなことしてごめんなさい」


瑠奈は、頭をあげようとしなかった。


「顔上げて。誤ってほしいんじゃないんだ。僕は途中で気づいてたんだ。わざとだまされてたんだ。」


瑠奈の顔を挙げさせると涙がとまっていなかった。怜奈よりちょっと大きい目が潤んでいる。


「…え?どうして?」


「だって確認したら瑠奈ちゃん逃げちゃうと思ったから。それに一緒にいてみたかったんだ。誕生日プレゼント買いに行った夜なんて、自分で買ったネックレスしてきちゃってて、でもそれで気づいたんだ。鎖骨同士の真ん中にほくろがある。怜奈より目が少し大きくて、本当はふんわり笑うと可愛くて、あのレストランで見かけたふんわりした笑顔は瑠奈ちゃんの笑顔だったんだよ。」


透は苦笑いをしていた。瑠奈は透の気持ちが認められないようで否定する。


「でも、きっとあのときに私だって知ったら秋月くんは残念がってた。運命なんて感じなかった。あー、なんだ、瑠奈のほうかって絶対思ってたよ。きっと秋月くんのその気持ちは一時の気の迷いだよ。だってわたしは可愛げもなくて冷徹で地味な瑠奈のほうだもん。」


瑠奈は悲しそうにそういった。噂を知らないわけじゃない。それに、透だって最初自分を怖がっていた。瑠奈はそういう雰囲気には敏感だからすぐわかる。


「中学のときの僕ならそうだったけど、でも瑠奈ちゃん本人と話しをしたら噂は嘘だってわかったよ。瑠奈ちゃんは優しいから僕のためだと思って正体を打ち明けなかったんだよね」


瑠奈は首を横に振った。


「違うよ。私は12月のあのときに貴方に恋をしてしまったの。どんな人なのかなってずっと気になって…どうしても話してみたかったの。優しいからじゃない」


瑠奈は素直にそう答えた。透は瑠奈に少しずつ近づいていき、半径1メートルまで詰めた。そしてかがんで瑠奈と視線を合わせる。


「怜奈とは別れてたんだ。夏休みの君との思い出がどうしても忘れられなくて。いろんな曲を引いたり連弾したり、話して笑い合って、瑠奈ちゃんは綺麗に光る月で僕を優しい光で照らして導いてくれた。気づかなくてごめんね。こんな僕でよければ、お付き合いしてけれたせんか?」


「………よろしくお願いします。」


瑠奈は真っ赤になりながら頭を下げて返事をした。透と頭がぶつかった。瑠奈はごめん!と慌てたが透は笑っていた。寮からいろんな人が見ているが、お構いなしに透は瑠奈を抱き寄せた。


「きゃー!!」


女の子の悲鳴が聞こえてくる。ブーイングと、祝福両方だ。透のファンもいるようだった。瑠奈は、自分に必死で周りがわからないし、透は気にしていないようだ。

優衣は、感動して瑠奈の涙にもらい泣きをしていた。


「髪の毛おろしてるの初めてみた。一番似合うね。可愛い。」


透は瑠奈にキスをして離れると、透はくしゃっと笑って、瑠奈の頭をなでた。


「これからよろしくね」


透はとても嬉しそうだった。やっと、誰かを照らす明るい月の光になれたと瑠奈は思った。


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