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透と瑠奈 1




私は月

誰かに照らされないと光ることも出来ず、影みたいな存在であり続ける。

いつも妹のことを支えるために生きてきた。

顔も、声も、身長も全く一緒。でも、性格は正反対。

人懐こく、愛嬌があり可愛らしい性格の伶奈と、

そんな妹のために、しっかりしなくちゃってそればかりに必死で、可愛げがなく、強がりな私では、どちらがみんなに愛されるかなんて分かりきっていた。

伶奈はいつだって中心にいて可愛がられていた。高校生になって、私はこの全寮制の清蓮高校に入った。


伶奈と放れて、私がまわりの目を気にせずに自分らしくいられる生活がそこにはあった。






神埼瑠奈は高校一年生である。中学生の頃、彼女は真面目で堅物で融通が効かないと学校で浮いていた。双子の妹は瑠奈とは正反対で明るく可愛らしく着飾り、一卵性双生児でも全然違うと比べられてきた。そんなわだかまりをすべて払拭したいと、全寮制の清蓮学園を選んだ。彼女が望んだように、比べる対象がおらず、昔の自分を知らない友達ができた。一年間、楽しい学校生活になっていた。


一年の冬休み、寮は帰省する生徒が多く人が少なくなる。瑠奈はギリギリまで帰らず、その日は部活の友達と4人で遊びに出かけていた。カフェで、友達と音楽について話していた。


「好きな歌手って誰?」


「わたしは、クラシックが好きなの」


瑠奈は昔からピアノを習っており、JPOP などよりもクラシックが好きだった


「瑠奈はほんと古風な感じだよね。好きな曲は?」



「「ドビュッシーの"月の光"」」


誰かと声が揃った。ふと瑠奈は後ろを向いた。ちょうど後ろの席は同い年くらいの男子が四人でいた。瑠奈のちょうど後ろで視線を合わせた男子は、茶髪で顔立ちがハーフの男の子がこちらを向いている。目は青くて若草のようだった。引きこまれる顔立ちで、ミディアムで、落ち着きのある髪型をしている。顔と髪型が綺麗に整ってい。友達はつっこみをしている。



「クラシックかよ!」




友達のつっこみには耳を傾けず、瑠奈に話しかけた。


「へー、君も好きなんだ」


その男の子はにこっと笑ってそういった。

顔が少しくしゃっとなって可愛い印象をうける。引き込まれてしまいそうな男の子だった。


「あ…はい」


「幻想的で綺麗な曲だよね」


「そうですね」


瑠奈は、ぎこちなく答えた。男の子ははっとした顔をした。見覚えのあるなというそんな感じの顔をしていた。瑠奈はその表情をみてまずいと思い、腕時計を見て、友達に話しかける。



「やばい!!!映画会社10分、行こう!」


そう言って、皆が慌てて立ち上がり急いでいたため席を立った。瑠奈は、忘れ物がないか最終確認をしてから、みんなのもとへ急ごうとすると、その男の子に腕を掴まれた。


「ピアスは君の?」


彼はテーブルから落ちた月の形をピアスを拾ってくれた。来る時に外れてしまったようだ。


「ありがとうございます」


瑠奈は優しく微笑んだ。


「…君は、神崎伶奈ちゃん?」


瑠奈は急いでいたため、答えず笑って会釈をし、走って友達と会計を済ませ、レストランから出て行った。


「お前が中学のときに一目惚れしたって子?」


友達に言われて頷いた。中学のときに他校で可愛いと評判の女の子に一目惚れした。あのかわいい女の子だ。


「これって運命かも」


嬉しそうにそういった。






それから5ヶ月たった。

学校は月曜日。瑠奈は、進級し2年生になり、2年3組の教室にいた。1年のときとは違うクラスになった。二年生でも楽しい学校生活を送っている。


「ちょっと、楓、また口にクリームついてる」


「え、まじか」


楓は手の甲で拭いそうになり、瑠奈がティッシュを出した。楓とは一年生が同じクラスだ。楓はバスケ部のエースで、性格もさばさばして男らしさがあるため、全学年で人気のある子だった。本人はそんなこと気づかずに鼻にかけず楽しそうに過ごしている。


「瑠奈、楓の世話はいいよ」


小春が、あきれた顔をして瑠奈の肩を叩いた。小春は同じ弓道部で、しっかりもので目鼻立ちがしっかりした美人な女の子だ。楓とは同室である。


「でも、楓は女の子なんだから」


楓にティッシュを渡して、瑠奈は鞄のチャックを締めた。


「この子、本当にあの奥出くんと交流してるとは思えないよね」


こんな楓は、隣りの学校の清和で特Aランクの性格込みのイケメン奥出湊とかなり仲良しで、じつは片想いしてるのではと噂されている。それも1ヶ月前くらいのことだ。


「奥出くんは別にあたしのこと女として見てる訳じゃなくて、ただ単に気のあう友達なんだから、交流してたっていいでしょー?」


楓は後ろ髪の毛を結わきながらふんっと鼻をならす。放課後は、毎日こんな感じで過ごす。

そ部活が始まる時間となり瑠奈は、小春と弓道場に向かった。着替えて、基礎をやってから本格的に打つ。

休憩時間、友達と話していると、声をかけられた。


「瑠奈!!」


自分と同じ声。周りはみんな驚いている。伶奈だ。

髪をおろしてばっちりメイクをしていて、瑠奈を可愛いらしくした感じだ。笑顔で手を降っている。

瑠奈は、失礼しますと声をかけて道場から出ていった。


「伶奈、なんでいるのよ?」


「いまねぇ、隣に行ってきたの!」


「あ、聖和か。彼氏いるんだっけ?」


4月くらいに玲奈から彼氏ができたと連絡があった。なんでもいままでとは違い、思いが強く素敵な彼氏らしい。怜奈は中学生のころから男の子と付き合ってはふってを繰り返し一番長くて半年の交際期間である。まだ二ヶ月だが、瑠奈は今回は長続きするだろうと思っている。話を聞くぶんに彼のぞっこん度がいままでの彼氏とはけた違いである。


「そう!バスケ部なんだよ」


伶奈はにこにこ笑っていた。この柔らかく人懐っこい笑顔には昔から弱かった。まわりとはうまくいかない関係だが、伶奈との関係は悪いわけではなかった。むしろ仲良しだった。だからこそ、怜奈を学校でも注意すると反感を買ってしまった。自分はおせっかいで可愛げがないと陰口が絶えなかった。


瑠奈ははっと、思い付いた人を言う


「…奥出湊くん…?」


「違うよ!!奥出くんは最近本気で好きな人がいるんだよ。そうやってフられる子最近いっぱいいるみたい」


「ふーん」


瑠奈は、楓を思い浮かべた。楓が最近仲良いといっているが

彼はそうじゃないような感じだ。そろそろ休憩が終わる。


「瑠奈!始まるよ」


小春に声をかけられて、瑠奈は戻っていった。


「瑠奈、後で来るから、3人でご飯食べよう」


「うん」


瑠奈はうなずき、道場に戻る。練習が再開し、集中して稽古に励んだ。稽古が終わると、急いで着替えて、校門に向かった。すると、ちょうど背の高い男の子が伶奈と一緒にいるのが見えた。夕方で少し暗くなってきていふる。暗くてあまりよく見えない。瑠奈は伶奈に呼び掛けた。


「伶奈!」


「あ、来た」


伶奈はにこっとしていた。やっぱり可愛いな。自分は同じ顔なのに、こんなに可愛く笑えない。伶奈の隣りに見覚えのある男の子が立っていた。瑠奈は、驚いて、声にならない叫びをあげた。あっちも驚いている。再会の驚きじゃなく、伶奈に似ているからだろう。



「凄い!双子ってそんなに似るもんなんだ」


「はじめまして、姉の瑠奈です。えと、、、妹がお世話になっています」


目を合わせずにお辞儀をした。あの時の綺麗な目がこちらをまっすぐにみている。


「伶奈から聞いてるよ。本当にそっくりだね。よろしくね。俺は秋月透っていうんだ」


くしゃっとした笑顔は、間違いなくあの日の彼だった。瑠奈は笑って挨拶が出来たことに、安心した。胸がドキドキして痛くて仕様がなかった。

近くのレストランで、3人で食事をする。2人が隣りで、瑠奈は1人で向かい側に座る。昔から、いつもそうだったな。自分が好きになるものは、全部伶奈が手にする。好きな人も、好きなものも、取られないのは興味のない弓道とピアノだけ。

食事を頼み、食べていると、伶奈がフォークを落としてしまった。その瞬間、瑠奈と透の声が重なった。


「「すいません」」


2人は驚いた。


「凄い、重なった」


透は笑っていた。ウェイトレスがきて、透がフォークを頼む。伶奈と見つめあって話している。瑠奈はただ俯いていた。あ、あの瞬間に、自分はこの人に恋をしていたんだ。そう理解して泣きそうになった。瑠奈は立ち上がって、ぎこちなく笑った。


「ごめん、思い出したんだけど、あたし寮でやることあったんだった。」


「…そう?でも瑠奈、あんまり会えないから寂しい」


「伶奈は、透くんと付き合って、よくこっち来るでしょ?ならいつでも会えるよ。わたしは清和の隣の学校だし」


もう限界だ。今にも涙が出そう。瑠奈は席をたつと、お金も払わずに走って出て行った。寮まで走ると、食堂で崩れた。涙でいっぱいになって、前が見えない。


「どうした?!」


食堂で談笑していた2年の仲間が、崩れた瑠奈をしゃがんで宥める。


「…失恋した」


瑠奈はそれだけを言った。泣き崩れた。皆が慰めてくれた。経験なんてしたことがなかった。







次の日、昨日泣いたことで、少し気持ちが晴れていた。初対面のたった一回したあっていないのに好きになった人だ。そんな人絶対すぐに忘れる。大丈夫だ。そう思って、明るくなった。放課後、その日の夜はクラスのメンバーが集まって話していた。



「なんで瑠奈がフられたのかわかんない。可愛いし、気配り上手いし、がんばり屋なのに」


小春がそう言った。


「いや、怜奈はモテる要素の塊みたいなものだし、あたしおせっかいすぎだし、それに一目惚れっていってたよ」


「でも、その男は勘違いしてる可能性もあるよね?」


同室の梓が、冷静に答えた。梓は一緒に映画に行った子の1人だ。透のことも一度見ている。同じ部活に所属していて、昨日唯一伶奈を見て驚かなかった。梓には夜にすべて話した。


「前から伶奈が好きだったんじゃないかな」


あのとき、伶奈であると確認された。急いでいたし、答えなかった自分にも問題はある。


「それより」


瑠奈は話を変えた。また胸が抉られるような感触がした。みんなが話題が変わり盛り上がっているなかで、瑠奈は外をぼーっと見ていた。

すると、楓が走ってきて、窓を指でカチカチ叩いて瑠奈を呼んだ。瑠奈は、窓を開けた。


「あ、楓!部活は?」


「休憩中。瑠奈、秋月透と友達?」


「妹の彼氏だよ」


「あ、そういうことか。昨日の立て替えといたよって伝えてって言われてさ」


「あ、どうやって返そう」


「後でこっちの寮の前にくるって!あたし、連絡するよ」


「楓、そいつ敵だから」


「え?透って敵だったの?」


「小春!!!楓ちゃん、嘘だから連絡待ってるね」


「OK、とりあえず戻るわ」


楓は走って戻って行った。今日は聖和で練習らしい。体育館の関係で、週に一回はあちらで練習させてもらっているのだ。




午後6時半頃に、楓からの連絡が来た。瑠奈は寮の下に行くと、3人が門の前に立っていた。

楓と奥出湊と、透だ。2人が大きいので楓が小さく見える。楓は湊とも透とも楽しそうに話している。

それにしても、打ち解けている。


「楓!」


声をかけると、楓がこちらを向いてにこにこ笑って手を振った。透も湊も目立って仕様がない。みんな部屋から見ている。瑠奈は気まずい気がしてならなかった。楓は何も気にせず、楓の肩にてをまわした。


「ほら、透謝って、湊があたしにしたような最低なことしたんだから」


湊は不本意そうにしていた。透が瑠奈を見てしゅんとした顔をしていた。



「瑠奈ちゃん、昨日はごめんね。2人の世界になっちゃって、居にくかったよね、、」


「いえ。伶奈に彼氏が出来るといつもそうなるから、大丈夫」


瑠奈は、しれっとしていた。中学生のころのつんけんした対応になってしまう。感情を隠すのに必死だからだ。

瑠奈の元気がないので、楓は気を使って、隣りにいた湊のシャツの裾を引っ張って、耳元でこそこそ話した。

湊は、それで何かに承諾して、瑠奈に話しかけた。


「俺と楓と透でお好み焼き食べに行くんだけど、行く?」


「…えっ、秋月くんに返す2000円しか持ってきてないよ?」


瑠奈はためらった。それに、透といると悪い気がするし、湊といるのはもっとなんだか不特定多数の女子に悪い気がした。


「大丈夫!透のお代分払っても絶対500円くらいは余るから」


湊に言われて、透も了承していた。4人でお店に向かった。湊は常連らしいのか、ごく自然に話している。

楓と瑠奈が話しながら、お好み焼きを焼いていた。瑠奈はひっくり返してから、透を見た。


「なに?」


澄んだ青い目がこちらを見ている。瑠奈は首をふった。少しこわばっていることを察した湊が瑠奈に話しかける。


「透はその辺のやつとちょっと違って落ち着いてるから話しやすいよ」


「うん、雰囲気が優しいから分かるよ。あと、とてつもなくロマンチスト」


楓は、へらでお好み焼きをきっていた。お皿に分ける。瑠奈は、第1印象でそう答えた。


「伶奈とも運命を感じたんだ。中学で、友達に紹介されたときに、一目ぼれしたんだ。

それから、ずっと忘れられなくて、3月に再会したんだ」


透はまるで少女のようにうきうきしながらそう言った 否定せず堂々としたそぶりとまた、周りの男の子とは違う印象をうける。


「運命感じたんだろ?」


「そう、中学生のときバスケの試合で見かけて一目惚れしたと思ったら、去年再会してさ、僕が好きな曲が彼女も好きらしくて、運命感じたんだよ」


湊はあきれ顔をしていた。何回も聞いたらしい。


「そうなんだ、好きな曲って?」


瑠奈は知らないとそよおいながら聞く


「僕、ピアノやっててクラシックが好きなんだけだ、ドビュッシーの月の光」


楓はずっと話だけきいて食べていたが、手を止めた。昨日、楓も瑠奈の話をすべて聞いていたのだ。


「…それさ、る…」


瑠奈はあわてて楓の口をふさいだ。男子2人は不思議そうにこちらをみている。


「ちょっと、楓。口にソース付いてるよ」


そう言ってペーパーをとり、楓に渡した。小声で話す。


「今更、信じるわけないでしょ」


「でも!なんかあのへらへら笑顔にイライラして」


「仕方ないよ。悪いのは秋月くんじゃないし。伶奈と上手くいってるんだから、ここは内緒で!!!!」


「知らないからね」


楓は口をぬぐって、息を吐いた。湊にどうした?と言われて、別にと答えていた。


「何の話?」


「秘密です」


「えー?」


「あ。秋月くん、実はわたしもクラシックが好き!モーツァルトとか、シューマンとか


「へー、一番好きな曲は?」


瑠奈は即座に言おうとしたが、戸惑って止めた。


「特にないよ、オススメある?」


「こんどCD貸すよ。」


透は優しく微笑んだ。瑠奈はずきっと胸が痛んだ。

出会ってから一目ボレをして、再会したときは、同じ曲が好きだった。

こんなロマンティックな奇跡を、彼は望んでいた。なら、自分は嘘を吐こう。そう決めた。

透は柔らかい感じで話しやすかった。よく演奏会にも行くらしい。ひとつひとつ、彼を知ると好きが募りそうな気がした。


食事が終わると、会計を済ませ4人で店から出る。瑠奈は外を見ていた。今日は、三日月だ。

空に雲はなく、綺麗に光っている。


「綺麗…」


瑠奈がうっとりしていると、楓が瑠奈の肩を組んだ。


「本当だ」


「楓、今日の話は奥出くんにも内緒だよ?」


「あったり前でしょ。乙女の秘密なんだから」


楓は優しくそういった。


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