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22/22

楓と湊 5

冬休みになった。聖和の寮では湊がウキウキした顔でスマホをいじっていた。楓とオリエンタルにいく約束をして今日はその日だった。この日がくるまでは、いろいろ話し合い斗真も行くことになっていた。それは終業式の一週間前だった。クラスの違う斗真が湊のクラスに訪ねてた。一年の頃同じクラスだった二人は仲のよさは普通だ。すごく打ち解けているわけでもなく、遠すぎず近すぎかい関係である。


「湊、たのみごといいかな?」


「めずらしいな、なに?」


「俺も、梓ちゃんと行くことになったんだ。期末テスト点数も順位も一緒だったから、梓ちゃんが君たちと一緒ならオリエンタルランドのチケット俺と使ってくれるって言ってて」


「俺は二人で行きたいんだけど」


「そういうと思ってたよ。だから提案、行ってからは別行動にしよう。行くまで一緒で、梓ちゃんのスマホは没収しておくから」


「そんなことしてらお前嫌われないのか?」


「あ、今までもよくやってるから梓ちゃんは俺のことそんなんで嫌わないから大丈夫」


「すげーな」


斗真は優雅ににこっと笑っていた。湊は立ち上がり、腕時計で時間を確認する。


「とりあえず了解。部活行くわ。」


「うん、じゃあよろしくね」


当日、楓も服を決めていた。噂を聞き付けたクラスメイトたちが二日前にきるものをきめていた。オフホワイトのゆるいタートルネックのニットに青いチェックのショートパンツでいつもの楓の雰囲気とは違う装いになっている。


「かわいい似合うね」


優衣は朝楓の姿をみて嬉しそうにつげた。楓は朝御飯を食べている。


「ありがと。どうしてこんな格好になったかわからないけど」


「それは、わたしもだけど」


ぷりぷり怒りながら梓がきた。梓は花柄ワンピースにカーディガンを来て、髪の毛もまとめられている。


「面白いほど男女で温度差あるわね。あんたたちは」


小春が二人の様子を見て呟いた。


「奥出くんと相田くんはたぶんめちゃくちゃ楽しみにしてると思うわよ」


ウィンナーにかぶりつく。二人は同時にため息をついた。朝早いため、二人は食べ終わるとすぐに立ち上がり出掛けていった。二人は靴を履いて外に出る。コートは来ているが寒く、梓は苦手なようでプルプル震えていた。


「なんでこんなときにいくのよ。信じらんない」


梓は愚痴をいっていた。楓は持っているカイロを3つ渡す。


「寒くなったら使って」


「楓は?」


「背中に貼ってあるよ。それにあたしは寒さに強いから」


「ありがと」


二人が門を出て歩いていくと、すでに湊と斗真が待っていた。華やかで驚くほど輝きがある。


「ねぇ楓、あたしもう帰りたい。あれは無理。楓は平気?」


「いや平気もなにも、ただの友達なんだからいいじゃん。まぁあたしも最初平気ではなかったけどね」


楓は気にせず、湊たちに手をふった。梓はため息をついて楓のとなりを歩く。あちらはこちらに告白してるのだから、ただの友達でないはずだ。楓もぎくしゃくしないのは、湊が普通に接してくれているからであり、ただの友達は語弊がある。


「おお、五分前にきたな」


湊はネイビーのダウンジャケットのなかに灰色のニットソーとベージュのチノパンを着こなしている。モデルが歩いているような背の高さとスタイルである。


「湊たち待ってたの?」


「女の子を待たせるわけにはいかないからね」


斗真がそう答えて、梓に笑いかけた。斗真はキャメルのピーコートに白いニットのなかは青いシャツと黒いスキニーを着ていた。湊同様に自分によく似合う服装がわかっているようだ。


「いくぞ。混むから」


「そうね。いこいこ」


梓は楓の腕をつかみ隣をキープして歩きだす。男子二人は後ろを歩く。朝早いため、会社に向かう人たちも少なかった。最寄り駅までの間は梓は湊と斗真を寄せ付けなかった。梓はこそっと楓に囁く。


「絶対別行動って言い出すと思うのよ」


「前から言ってたね」


「二人は真っぴらごめんなの」


「わかってるよ。四人で回ろう。多いほうが楽しいしね」


「お願いね!!」


「オーケー、オーケー」


電車に乗り座る席も楓の横をキープする。梓は端っこに座りその隣が楓、湊、斗真の順番だった。


「楓たち、クリスマスどう過ごすんだよ」


「うちは、毎年クリスマスは残ってる生徒たちは体育館でパーティーやるよ。去年も楽しかったよね、梓」


「うん、盛り上がった。出し物もあったしね。シンデレラ再演希望が多いよ」


「大丈夫、準備してるから」


楓は親指をたてて元気にそういった。


「俺たちがやったら男臭いね、それ」


「湊たちはどうやって過ごすの?」


「たぶん、勉強と部活で終わるかな。来年受験だから講習も部活も29日まであるかな」


「そうだね。勉強づくしだ」


「あたしらもそんなもんだよ。28日までだけどね。梓は帰るの?」


「帰らないわよ。こっちで過ごすわ」


「え、帰らないの?」


斗真が反応した。


「帰らないわよ。弓道部で正月越射会するし、瑠奈と小春と初詣行くんだから」


話しているうちに、乗り換えになり少し混んでいる。四人で乗り込むが、梓は遅れそうになり斗真が手をひいて急いでくれた。その手を邪険にするわけにもいかず、握れたままだった。


「あの、離してもらっていいかしら?」


「え、なに?」


「手、離してよ。もう乗れたんだから」


梓が斗真に困った顔で見上げてくる。卵型の輪郭に奥二重の大きな瞳と、ふんわりした唇にはピンクのリップが濡れている。色素が薄く目も髪の毛もきれいな茶色である。斗真は、思わず視線をそらして手を離した。


「梓ちゃん、ズルすぎるよ。」


「は?なにいってんの?」


「そうじゃないよ。まぁいいや。。。」


斗真はドキドキが聞かれそうで気が気ではなかった。可愛い自覚がないのは罪だ。あざとい女ならまだ対応できるが、梓は無自覚である。


「楓、何乗りたい?」


「何でも乗るから人気なとこは制覇しておきたいかな。絶叫系は平気?」


「あたし、大好き」


「じゃあ、一番最初はここで」


楓が、スマホを見ながら提案する。梓が楽しそうにるんるん気分が顔からわかる。斗真は何も言わなかった。オリエンタルランドにつき、入場する。最初の目的地に向かう途中で梓は湊に肩を叩かれる。


「藍原さん、俺のお願いごと聞いてくれる?」


「え、なに?」


「俺の我儘なんだけど、楓と二人で回りたいんだ。梓ちゃんが斗真に四人ならいいよって言ったの知ってるし、嫌なら4人でいいけど、俺の気持ち知ってほしいと思って」


「え…………ずるい。そんな真剣な顔で言われたら困るじゃない」


「ずるいのは承知で言ってるんだ」


「奥出くんの気持ち知らない訳じゃないけど、あたしは嫌なの」


「どうして?」


「斗真は天敵だからよ。これで二人きりになったら違う形にせよ、あいつの策略どおりじゃない」


梓は不服そうだった。後ろで楓と話している斗真をちらっとみた。友達としても見られてないことに同情する。梓は頑なだった。斗真と二人でいることがそんなに嫌なのだろうか。


「わかったよ。じゃあ俺、梓ちゃんの味方する。四人で回るよ」


「いや、でも、、、じゃあさパレード始まる時間からならいいよ。17:00から。どうかな?」


梓は残念そうな湊の表情に負けてそう打診してきた。湊は嬉しそうに笑顔をみさた。爽やかにお礼を言われるとなんだかファンになりそうだった。視線が湊に向けられているし、彼はいろいろ目立つ存在である。人混みでも湊とははぐれそうになかった。並んでいる間、四人で話をする。梓と楓は一年生のときにクラスが同じであったが、お互いの過去の話はしたことがなかった。


「中学まで一緒だったの?」


「そう。小中はクラスもずっと一緒だったよ。梓ちゃんと名字もあ行で横に並ぶこと多かったし、席も隣が多かったよね」


「ほんとね、どんだけ苦労したか」


「てか、梓はいつからそんな相田くんに対してつんけんした態度とってんの?」


「覚えてないわよ」


「幼稚園からだよ」


斗真はフォローを入れた。列が進むがまだまだ先のようだ。


「なっげー、幼稚園てもう10年も前かよ」


「湊は幼馴染いないの?」


「いない、楓は?」


「小学校の子はほとんど中学一緒だよ」


「幼馴染じゃないわ、腐れ縁よ。大学に行けば離れるわよ」


「え、梓ちゃん俺と同じとこじゃなかった?」


「若葉と同じとこでしょ?あたしは関西のほうの国立大学志望なの」


「なんで?一番てっぺんの大学にいくんだろ?おれと同じ学部で競いあうんじゃないの?」


「あんたがどこ目指してるのかなんて知らないし、あたしは自分のやりたいことを優先するの」


「なに馬鹿なこと言ってるの?俺を倒す以外にやりたいことってあるの?」


「あるわよ。馬鹿なこと言ってるのはそっちじゃない」


いつもと違い梓のほうが冷静だった。斗真は動揺しているが、楓も湊も声をかけられず二人の会話をきいている。


「なんで?女の子が一人で遠くにいって、もし、なにかあったらどうするんだよ。俺だって駆けつけられないし、誰も助けてくれないかもしれない。それに変な人に捕まったり、ストーカーにあったり、絡まれたりしたらどうするの?」


「ひとりでどこかいくなんて大学生になったらざらでしょう?あんたが心配するようなことないわ」


「ダメだよ!」


斗真の顔は必死だった。声もどんどん大きくなり回りの人もちらちら見ている。梓はまわりの目に気付き押し黙った。


「なんでだめなんだよ。しっかり考えてるんだから、斗真がどうこうなんて言えないだろ」


湊は落ち着いた声で諭す


「………だって」


斗真は悲しそうな顔をしていた。乗る前に微妙な空気が流れる。すぐに順番が来て、梓のとなりに斗真が座った。前の湊と楓が楽しそうに話しているが、二人はなにも話さなかった。乗り終わり出口に向かう。微妙な空気になるのが耐えられず、梓が斗真のコートに手をかけた。


「こんな空気じゃ二人に悪いからあんたと二人でまわるわ」


「え?」


「ねぇ、楓、奥出くん、あたしたち二人でまわるからここで別れよう。いいかな?」


「いいけど」


「ありがと。斗真、行こう」


梓はコートを引っ張っていく。図らず二人きりになれたが、斗真の心中は穏やかではなかった。楓と湊は地図を見て場所を確認しすぐに離れていった。


「どこにいく?」


歩きながら聞く梓に斗真は手をとって立ち止まり提案する。


「その前に座って話をさせて。そこにベンチあるから」


「………いいわ」


二人でベンチに座る。周りは目まぐるしく人が、行き来しているし、並んでいる人も沢山いる。家族連れやカップルもいた。梓は俯いていた。マフラーを上げて暖を取る。斗真は微妙な距離に見えない壁を感じた。


「俺さ、ずっと一緒にいるのが当たり前だと思ってるんだ。さっきはごめんね。気が動転して」


「別に気にしてないわ。あんたは敵だから」


「目の上のたんこぶって言われても、敵って言われても、梓ちゃんが俺を意識するならなんでもよかった。でももう嫌なんだよ。好きになってほしいんだ。どうしたらいいの?俺はどうすれば君の好きを手に入れられるの?」


斗真は身を乗り出して梓に迫った。梓は斗真の真剣な顔に戸惑った。いつも余裕な顔ばかりしてるのに、自分のことでここまで戸惑うなんて、文化祭での告白からも全然変わらず接してきたから、嘘なのかと思っていた。しかし、それ強がりなだけだったのかもしれないと思った。


「そんなの、、、わかんないわよ」


顔がどんどん近づき梓のドキドキが止まらない。斗真の泣きそうな顔が梓の心に刺さった。周りに見られるのも気にならないくらい、斗真の視線が暑かった。


「なんでそんな顔するのよ?ずるいじゃない………」


「ずるいってことは、梓ちゃんの心のどこかで俺を見てくれようとするきもちがあるってこと?」


「そんなのわかんないわよ」


梓は耐えきれず立ち上がったが手を握られていた。いつもの余裕のある表情に戻っている。


「キス、しよう。1ヶ月毎日1回」


「は?!」


「キスは相手との相性を遺伝子レベルで判断するという重要な役割があるんだよ。俺とのキスが合わないからそれまでだってこも」


「そんなの知らないわ。相性なんてわからないわよ。キスしたことないんだから、それにキスは好きな人としたいわ」


「俺とのキスが心地よいものであれば相性がいいってこと。これは、俺もわからないよ。俺だってキスしたことはないんだから。でも合理的な手段だと思わない?最初はわかんないけど毎日してれば一ヶ月しないで辞めてもいいよ。お互いに相性が悪かったら諦められる気がするから」


梓はしばらく考えた。ファーストキスの相手が斗真で1ヶ月も毎日キスなんて考えられない。でも、多分ずっと斗真は真剣に好きでいてくれたようだった。向き合わないでだめというのも不誠実ではないだろうか。


「………いいよ。わかった。斗真のことちゃんとみるわよ」


「ほんと?!」


思わず顔が綻んでいた。


「もういいでしょ??ほら行くわよ。時間食っちゃったじゃない」


「やった、ありがとう。梓ちゃん、大好きだよ」


梓は先をどんどん歩いていき、顔を見せることはなかったが、斗真は耳が赤くなっているのに気がついて微笑んだ。



湊と楓は二人で話し合い、効率よくまわっていた。しかし、いま、お化け屋敷の前に並んでいた。ここは、怖くて有名なお化け屋敷があり湊がすごく行きたがっているのを楓は知っていた。お昼を食べてすぐに行こう話しており、いまその並んでいる最中である。どんどんと進んでいく順番に怖さ高まる。本当は心霊系は大の苦手である。昔みた心霊番組がトラウマで暗闇だけでも怖い。怖くてたまらないのに湊の手前やっぱり無理とは言えなかった。馬鹿にさせる気もしていたからだ。周りはカップルが多く、多分くっつけることが目的なのもなんとなく分かる感じだった。


「超楽しみにしてたんだよ。なかなかいけねーし」


「うん、そうだよね。前は誰ときたの?」


「あー、前は誰だっけ、理恵とかな」


「そうなんだ。楽しめた?」


「あいつ、怖がりだから全然見てねーの。ずっと背中にくっついて隠れてた。そんなんじゃつまんないよなぁ。あんなの絶対につくりものだし、脅かすのも人間なんだから楽しまないと」


湊はそういって笑っていた。その話をきくと、今更怖いなんて言えなくなる。楓は震えそうな手を組んで隠していた。


「だよね〜あんなのつくりものだよね!」


平気そうに笑ってみせる。順番が来た。湊が先を歩いていくなか、楓は真っ暗で怖くて手を組んだまま歩いていく。目も瞑るくらい細めていた。暗いのも怖い。湊が楓の様子に気づいた。


「…楓?」


後ろに気配を感じなかったので振り返る。暗さになれた目で楓を確認すると、しゃがんで震えていた。


「大丈夫だからちょっと待って、、、昔からちょっとだけ苦手なの」


楓は目を開けて湊に苦笑いをしてみせる。湊は楓の頭を優しく撫でた。


「無理させてごめんな。歩けるか?」


「歩ける」


「目瞑ってていいから、俺の横に絶対いろよ。」


そういって肩を持たれていた。脅かす声も、音も怖くてたまらない。お化け屋敷が終わるまでは、楓はおとなしく湊に従っていた。出口から外に出ると楓はまた座り込んだ。湊は隣でしゃがんでいる。


「無理すんなよ。てか、言えよ」


「だって、お化け屋敷が怖いなんてなんか可愛こぶってる感じじゃん」


湊は楓にデコピンした。


「いったーいっっ」


「ばーか、もしぶりっこしてたらこっちはすぐわかるんだよ。」


「……昔みた怖い番組がトラウマで見てたら停電までおきて、そこから駄目なの。ごめん、湊楽しみにしてたから邪魔したくなくて行けるかなって思ってたんだけど」


「そんなとこで気を使ってどうするんだよ。てか、楽しみだったけど楓と行くことが目的であって、ここに行くのが目的なわけじゃない」


湊は楓を立ち上がらせる。手を握ったままあるき出した。


「俺にも気ぃ使ってどうすんだよ」


「湊は大事は友達だから、楽しんでほしいんだよ。楽しみにしてたじゃん」


湊は振り返り楓に大きな声で反論した。


「俺はお前のとここれっぽっちも友だちなんて思ってねーよ。好きだって何回告ればいいだよ。どうしたら響くんだよ」


湊は勢いよく迫る。顔が近づくとと、楓は困った顔をする。周りの視線が痛い。湊はお構いなしにどんどん近づいていく。


「お前はいつ初恋から解放されるんだよ。俺、何がだめなの?」


「湊に駄目なところなんて一個もない。好きの気持ちも否定しないし嬉しいよ。でも、あたしはわかんないの。確かめなくちゃと思ってきたの。湊があたしを好きな理由と、あたしのあんたへの正直な気持ちを」


「…………じゃあ、"大事な友達"が答え?」


「違う。夕方まで待って。考えさせてください」


楓は頭をさげた。湊は勢いが止まり、楓の手を繋いだ。


「わかったよ。もし友達でも俺は諦めないからな」


「ありがとう」


「ほら、次いくぞ。話してる時間ほんとはないんだから」


「わかった」


そういって湊は手をひいて歩いていく。いろいろなアトラクションを楽しみながら、楓は考えていた。湊のことは雑誌で中学生の頃に知っていた。そのときは、明俊よりも騒がれているのが不服だった。高校に入りたまたま見かけた彼のプレーを見て忘れられなくなった。明俊にすぐ連絡をして、彼のプレイが大好きになった。そして、高校二年生で対面した。プレイヤーとして尊敬していた彼は普通の男子高校生だった。雑誌の好青年な笑顔もするけど、おちゃらけた顔やちょっと幼い笑顔も友達だから見えるけんかっぱやさも全部湊の魅力だとわかった。驚くほど気があって仲良くなっていた。ずっと友達でいてほしいと思っていたときに湊は自分を好きだと言った。普通に接してるくせに、たまに必死な顔をしてみてくる。楓がぼーっと考えに馳せていると湊から声がかかった。


「おい、楓。前と後ろどっちがいい?」


「え?」


いま待っているアトラクションは前後で乗るためは湊が決めようとしてくれていた。


「後ろにする」


「わかった。てか、顔ちょっと赤いけど大丈夫?」


「あ、うん。もう夕方近いね。乗ったらパレードの場所確保して待たなくちゃね」


楓は笑って見せた。午後は手を繋いだまま歩いているが、楓は嫌がることもなくむしろ受け入れている。今日の楓はなんだか可愛い。すっぴんの顔でも可愛いのにメイクしたらもっと可愛い。そんな顔をしておきながら、男子の視線を全く気にしないのが玉に瑕だ。楓を好きになる男性が多いのも納得がいく。隣にいる楓を見ると、楓はぼーっと前を向いていた。服も女の子らしい。いつもはカジュアルで少しボーイッシュな感じだがフェミニンで瑠奈が着ていそうな服装だ。


「その服誰が決めたんだよ」


「え、クラスの子たちが決めたんだよ。湊と行くって話たらなんかこうなってた。かわいいでしょー?」

楓はニットをつまんで見せつける。


「楓はいつだって可愛い」


湊が真面目に返すので、楓はどうじてしまった。


「な、なにそれ。服の話してるんだけど」


「いや、本来お前ってそう見せないだけですんごい可愛いやつなんだよな。」


「やめてよ、拍子抜けする」


楓は真っ赤な顔をしていた。それに気づいた湊は本気で楓に言う。


「可愛いよ」


「やめてよ」


過去のことが浮かんでくる。明俊も可愛いと言ってくれていた。其れは恋愛ではなく兄妹みたいなもので、楓はしばらく本気にしていたが、中学生のときにお姉ちゃんには勝てないし、明俊の心はお姉ちゃんのものだと気づいた。可愛いの違いがあるということ、男の人は好きじゃなくても可愛いと言えること、それをわかってしまい、身長もすくすく延びていくと、女らしさを捨ててしまった。 目の前にいる湊は驚くほどかっこいいくせに、かわいい彼女しかいなかったくせに、自分に気があると言い出している。それは冗談だと思っていたけれど、もう本気だと思えるようになった。だから、本気で困ってしまう。自分は彼を好きなのかわからないからだ。雰囲気に耐えられず、楓は話を変えた。


「それより湊は大学決めてるの?」


「ん?あー悩んでる。大学はアメリカにいくか、スポーツ留学するか。推薦で大学行くのもありだけど、あんまりしたくないし、プロになりたいって思ってるから明俊さんにも相談してるかな。どこにいますかーください」


「凄い、よく考えてるんだね。あたし全然駄目だなぁ。夢とかわかんないし、プロになりたいわけじゃないもん。お姉ちゃんは大学行かないで明兄についていっちゃったし我が家で大学進学するのはあたしが初めてなの」


「それが普通の高校生で、大学は好きなもので学部決めるだろうし、やりたいことも大学で見つけるだろ。この時期そろそろ決めるくらいなんだからもうちょい吟味してもいいと思うけど」


「ありがとう」


順番がまわってきた。2人乗りのジェットコースターで、湊が先に乗り込んだ。楓は湊の後ろ姿をぼーっと眺めていた。乗り終わり、二人で出ると夕方になりかけていた。パレードを待つことにして、楓はチラシの上に座っていた。湊は食べ物を買いに行きいない、楓は体育座りをしてしばらくぼーっとしていた。自分の気持ちは一体どこにあるんだろう。


「おーい、楓、おーい!」


湊の声に楓は反応しなかった。ぼーっとしたまま一点を見つめていた。湊は隣に座って買ってきたホットドッグを食べていた。楓が美味しい匂いに気づいて隣を見ると、湊が自然と座っていた。


「湊?!いつからいるの??」


「声かけても反応しなかったじゃん」


「え、ごめん。てかもうこんな時間?!」


スマホを見て驚いていた。


「何考えてたんだよ。」


「えっ?」


楓は顔を真っ赤にして明らかに動揺していた。隣の手が触れて、湊は楓の手を握った。


「なにその動揺、、、」


湊が詰めよろうとするが周りが賑わってきて、パレードが始まろうとしていた。楓は立ち上がりパレードが開始する。湊は背があるため後ろの方に下がっていった。光が七色になり、ダンサーたちが楽しそうに踊っている。楓はしばらく世界に浸っていた。湊はそんな楓の後ろ姿を見ていた。冬の夜でも人混みで寒さが緩和される。パレードの終わりに、楓は湊のところにすぐにもどる。帰る人もいるなかで、時間は19:00を指していた。


「帰らないとだよな」


楓は首を横にふった。


「あたし、いろいろ考えたんだ。だから話を聞いてほしい。梓に先に帰ってって連絡しておくから、一時間だけ付き合って」


「いいけど、門限大丈夫か?」


「わかんない、でもいま話したい。今日は湊と向き合うって決めたから」


楓は梓に連絡して、湊とベンチに座った。温かい飲み物をもって、楓と湊は少し距離をとっていた。


「湊のこと考えてみた。湊は顔と頭がいいけどそれを鼻にかけないで優しくて頭が良くて、でも配慮できないしがさつだし、すぐ喧嘩売ってくるし、でも仲直りもすぐできて、何でも話せて楽しいやつ。隣にいるの当たり前になってる。でも、湊がもしいなくなったらって考えてみたの。あたし、きっといま湊がいるのは当たり前になってる。でももし彼女ができたり、海外に行っちゃったら隣にはいられない。それは純粋に嫌だと思ったの。」


「俺に彼女できたら嫌なんだよな?」


「嫌だよ」


「なら、俺が他のやつとキスしてたら?」


「いやだよ!!」


楓は即答する。湊は、思わぬ返答の速さに笑ってしまった。楓は恥ずかしくなって湊の胸をこづき、そっぽを向いた。わりと強い力できたため、湊は咳払いした。


「それってもう、俺のこと好きじゃないの?」


落ち着いてまたきりだした。


「え、そうなの?」


楓は本当にその発想はなかったようで驚いていた。


「他のやつにキスするの嫌なのにすきじゃないのかよ」


「確かに、そっかそれは好きってことなんだ」


楓は感心すると同時にはずかしくなっていった。立ち上がって後退る。


「待って、あたし、湊のこと好きなんだ。湊が好きなんだね」


目の前にいる湊の顔を確かめるようにみるが恥ずかしくなってしまった。しかし、湊が抱き締めてきた。


「ごめん、嬉しすぎて叫びそう」


「それは困る」


「だろ、だからもうちょっとこのままでいさせて」


湊のはやくなった心拍が聞こえてきた。ふわっと香る湊の香りで楓は落ち着いた。



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