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透と瑠奈 デート編

清廉高校の寮では、瑠奈が朝からベットに沢山の服を出していた。今日は透と初めてのデートである。初めてと言っていいのか、少し疑問になるところであるが、誘ってきたのは透だった。金曜日、学校が近いために、会うことも意外と簡単で、透は部活のあとに連絡を入れてくれる。週に二回だけ、会う時間がある。金曜日は、楓と湊も交えて、お好み焼きを食べにいった。


「へー、明後日で付き合って三ヶ月になるのか。てかそれまでデートしてないって」


湊は大きい口でお好み焼きにかぶりつく。瑠奈は気にしていないが、透は大切にしているようだった。


「そうなんだよ。なんかこうやって会えるし、二人でどこかいくってなかなかしてなくて」


「気にしてなかったなぁ。でも、透くん練習じゃないの?」


「そうだよ。午前中はコーチ来るぞ」


透は忘れていたようだった。湊は烏龍茶を思いきり飲んでいた。


「でも、日曜は午前だけだし、午後1時に僕の部活終わってから会おう?」


そんな会話が一昨日あり、今日に至る。服は結局赤いニットに白のフレアスカートにした。ショートブーツを履いて髪の毛はおろしていた。朝の練習を終えて、聖和の体育館に向かうと、練習をしている湊の姿があった。普段とは違う透の真剣な姿が見られた。圧倒されるやら、ときめくやらで、回りに沢山の女子がいることに気がついたのはその後だった。観客席にいる私服の女の子達がとても華やかに見えた。透のことを見ている子もいる。瑠奈は少し後ろめたい気持ちになり体育館から離れて校舎の回りを歩いていた。広い敷地で、野球場もサッカー場もある。瑠奈はぼーっと歩いていると、サッカー部の男子に話しかけられた。


「もしかして、神埼怜奈ちゃん?」


「え?」


瑠奈は腕を捕まれていた。まじまじと顔を見つめられる。


「怜奈ちゃんでしょ?やっぱり可愛い」


微笑みかけられるが瑠奈は対応に困っていた。昔から間違えられることは多い。


「ちょっと、木谷、やめろ」


透が割って入ってきた。腕を掴んでいる手を離させると、瑠奈の腕を引っ張って、胸元に寄せていた。


「あれ?秋月の彼女?」


「瑠奈だよ。神埼姉妹は有名な双子だったろ?」


木谷はかなり驚いていた。


「えー、この子瑠奈の方なの?あれ、お前乗り換えたってこと?うわ、お前の趣味疑うわー」


瑠奈は心につっかえるものがあった。自分の評判が悪いことくらい心得ているが、透の評価にも関わってくるのだ。文化祭を終えて舞台であんな風に恥ずかしい魔法使い役をしたのに、まだ怜奈と間違えられてしまうのか。


「怜奈と間違えてたくせに何いってんだよ。

文化祭にもいただろ。乗り換えたんじゃないし。瑠奈、放っといて行こう」


そういうと、透はそのまま瑠奈の手を引っ張っていく。


「あいつ、中学一緒だったんだ。ごめんね。瑠奈、やな思いさせたね」


「ううんそんなことないよ。なんか、透くんの評価まで下げちゃってるみたいで申し訳ない」


「下げてなんてないよ。ほら、いこいこ」


透は優しく笑って見せた。自然に繋がれた手はそのままで歩いていた。繁華街を抜けて、駅まで向かった。その間にすれ違う人は、透を見ていた。瑠奈は洞察力もよく客観的でもある。だから、透が見られているのがわかった。それに自分が値をつけられているような感覚もした。今まで高校の友達や、狭い地域でしか透にあってこなかったので、世間一般の目があまりにも違うのにギャップを覚える。噂話のように話している女の子達もいた。瑠奈はたまらず、ばっと手を離した。


「どうしたの?瑠奈」


「あ、汗が気になったの。私緊張すると手汗かいちゃうから。大丈夫だよ。はぐれないように歩けるよ。」


瑠奈はそういって微笑んだ。


「なにいってんの?今まで気にしたりしなかっただろ」


そういって、がっしり手を繋がれていた。電車のホームについた。瑠奈と透の地元である街に向かう線路だった。瑠奈は尋ねた。


「勢いで来ちゃったけど、どこで何するの?」


「プラネタリウム見ようかとおもって。地元にあるの知らない?」


「知ってるよ」


瑠奈はあまり地元に戻りたくなかった。知り合いに会いたくないというのが一番の理由だ。会っても自分も相手もいい思いはしない。酷評なのは知っているし、冷たくて地味で可愛くないと言われ続けてきたのだからトラウマ寸前でもある。しかし、折角透が考えてくれたのだから楽しもう。プラネタリウムはいったことがなかった。


「瑠奈、僕の行ってた中学の近くの中学だったんだよね?俺の中学教えたっけ?」


「錦第2中学校?」


「そうそう、その近くにあるんだよ」


「知らなかった」


電車が来て乗り込んだ。繁華街に向かう電車なので人も多い。透は隣になってつり革に捕まっていた。瑠奈は捕まらず姿勢をただしてバランスをとっている。


「瑠奈、今日見に来てたよね?なんでいなくなっちゃってたの?」


「あ、凄いなぁって圧倒されちゃったからさ。バスケって勢いあるんだね。」


瑠奈は苦笑いを浮かべていた。透はそっかと言うと瑠奈の顔を見た。景色を眺めている瑠奈は、少し寂しげだった。双子の噂はかなり地区全体に広がっていた。瑠奈は冷徹、暗く地味で誰に対しても態度が厳しいと言われていた。中学が隣と言うことで透もそれを知っていたし、怜奈に惚れていたので瑠奈のことが厄介者だったことも確かだ。怜奈と付き合うことになったときに、瑠奈と最初にあったときの冷たそう彼女のことも覚えているが、試練だとおもって乗り越えた。ただ、それは瑠奈が緊張して強ばってしまってそうなってしまっていたのだと今ならわかる。瑠奈は心を開くまでは誤解されやすいだけなのだ。


「……行くのやだ?」


「なんで?行くよ」


瑠奈は優しい笑顔をしていた。電車を降りて改札からでる。瑠奈は鞄をギュっと抱きしめながら歩いていた。透との距離も隣だがいつもより遠い。三ヶ月付き合ってきて、透は瑠奈がどれだけ中学のときのトラウマがあるのかを理解してきた。防衛本能なのかギュッと抱きしめている手は少し震えていた。デートの場所は選択ミスだったかもしれない。しかし、三ヶ月たったんだから、透を味方だと思ってほしい気持ちもあった。文化祭の事件も乗り越えたのに、、、。すこし不貞腐れて  瑠奈告げる。


「距離遠くない?」


「私は怜奈じゃないから、デートとかわかんなくて、ほらこれまで楓とか湊くんいたり、二人であうことって全然なかったでしょ?文化祭のときくらいじゃない?その前は勉強するのに近くの図書館とかで、こういうのはないからわかんなくて。透くん、怜奈とどうだったの?」


瑠奈は流暢にいいわけしていた。顔は赤くなっていた。二人きりのデートといえば音楽の観賞会で怜奈に成り済ましていたときだ。あのときは、一生懸命保っていたのだろう。本当にかわいい。透はクスッと笑っていた。


「瑠奈は普通にしてたらいいんだよ。それに、怜奈の話出さないでよ。瑠奈とのデートなんだから」


透は瑠奈の手を取って歩いていく。公園や商店街はあまり変わっていない。瑠奈は知っている人がいませんように、と願いながら透の横を歩いていた。たぶん、怜奈から彼氏を奪ったことになっているかもしれない。また変な噂を流されてしまうかも。足が震えた。神様にどうにか合わないようにと願っていた。しかし、そう簡単にはいかない。クレープを買おうという話になり、お店にいったときである。透の知り合いがいたのだ。頼み終わると同時に気づいていた。


「あれ、透じゃん!!!久しぶりー」


女の子だった。レジをしている。とても仲良さそうな雰囲気だった。


「ふゆか、久しぶり」


透も旧友に会えて嬉しそうであった。瑠奈は俯いておじぎをした。


「何、デート?あ有名だよ。あの、神埼怜奈と付き合ってるって、すごいじゃーん。」


勘違いされている。ふゆかと呼ばれた女の子は、瑠奈を見て笑顔になった。


「やっぱ可愛いね。透、最難関を通過して、あのサイボーグと仲良くなったって聞いたんだけど、凄いね!あいつ超冷徹で恋愛できないからって妹の彼氏をこきおろすって噂だけど大丈夫だった?」


透はムッとして言い換えそうとしたが、瑠奈が先に話した。


「透は瑠奈と仲良しでよく相談してるって言ってるんだよ〜。ね、透」


瑠奈は怜奈になりすまして明るく振る舞っていた。透は言い返さず俯いた。クレープがくると瑠奈は受け取った。すぐにそこからいなくなった。瑠奈はおしとやかに食べている。透がむすっとしたまま、瑠奈にいった。


「瑠奈、なんで怒んないの?」


「怒るもなにも、私の評判の悪さは私が一番知ってるからさ。あそこで神崎瑠奈とばれたら透くんの名に傷がつくよ。それよりは怜奈のほうがいいでしょ?」


瑠奈はへこたれていないようにみえるが、透は心配だった。瑠奈があんなことを言われても平気でいられるわけがない。本当は傷ついているはずなのに、見せないで笑ってしまう。強張った顔をしていたのか、瑠奈は透の顔を伺っていた。沈黙のまプラネタリウムにいった。


「………透くん、怒ってる?」


「怒ってるないよ。でも、瑠奈が偽る必要なんてないじゃん。」


「あんなのしょっちゅうだから、気にしてたら切りないよ。」


「……」


彼女の立場を知らない訳じゃない透はしゅんとしていた。


「プラネタリウム終わったら、まだきっと3時だね。カフェに行こうよ。わたし、好きなお店あるの」


瑠奈はそういって微笑んだ。透はその笑顔で怒りが吹き飛んでいた。プラネタリウムでの夜空や星の説明などで、瑠奈はかなり楽しんでいた。透はそれが満足だった。月のことが好きなのは知っていたが普通の人の好きと少し違うのだと伝わった。プラネタリウムもおわりカフェにつくと、二人でケーキを頼む。待っている間も楽しそうに瑠奈は話していた。


「ルナって月って意味なんだね。あー、もう一回行きたいなぁ。ありがとう!透くんのお陰だね」


瑠奈は思いっきり笑顔を見せていた。


「よかった。そこまで喜んでくれるなんて思わなかったから、僕が嬉しいよ」


透はそういって、外を眺めていると、知り合いと目があった。はっとあちらも気がついたようで、カフェに入ってきていた。瑠奈ははっとして、うつ向いていた。透は瑠奈の曇る顔に?を浮かべていた。


「おー!!!透じゃん」


「信也久しぶりだね」


瑠奈は顔をうつ向かせていた。信也は瑠奈の顔を見ていた。あまり瑠奈は顔は合わせなかった。信也は透の隣に座っていた。


「お前、凄いなぁ。怜奈と付き合ってんだろ?俺さ、近づきたくて瑠奈に取り入ろうとしたことあんだけど、瑠奈に告白されてさ、まぁ、あんなサイボーグ死んでも嫌だからふったけどね。ちょっと優しくしてやっただけなんだけど、それで調子に乗られてさぁ」


瑠奈は表情を消していた。透はいらだちが収まりきれなかった。透の様子を察し、信也は戸惑う。


「………どうしたんだよ?お前だって、中学のとき、サイボーグはやだって話してたじゃん。あんな冷徹女が怜奈ちゃんの姉なんておかしいって、あれじゃ怜奈ちゃんが汚されるっていってたじゃん」


瑠奈は立ち上がり、涙を溜めてそのまま走っていった。


「瑠奈!」


「え?瑠奈って言った?お前、サイボーグと付き合ってたの?」


「サイボーグとか呼ぶな!!!僕は瑠奈と付き合ってるんだ。瑠奈のよさは僕だけが知ってればいいんだ」


透は走っていく瑠奈を追いかけようとしたが、出来なかった。お会計もしていないし、瑠奈の脚はとても早かった。そういえば、楓が瑠奈は足が速く自分もおいつけないと話していたのを思い出した。やるせない気持ちだけが膨らんだ。地元が同じだからと連れてこなければよかったと後悔した。



瑠奈は夕方泣きながら寮に入った。ぐちゃぐちゃの顔のまま、部屋にはいる前に、楓がすれ違った。


「瑠奈?!」


ぎょっとして、楓は瑠奈の部屋に入った。


「どうしたの?!」


「…………うっ、うー」


瑠奈の携帯はバイブ音がなり続けていた。透からの電話だった。瑠奈は楓にしがみついて泣いている。せっかくのデートだったのに喧嘩でもしたのだろうか。落ち着くまで楓は瑠奈を抱き寄せていた。瑠奈は落ち着くと、ごめんと一言だけ呟いた。


「瑠奈、どうしたの?」


「…………大丈夫!透くんが悪いわけじゃなくて、私がいけないから」


瑠奈は涙をふきて笑って見せた。楓は何も言わず瑠奈の顔をじっと見ていた。恥ずかしくなり瑠奈は顔を洗ってくると伝え、部屋から出ていった。楓は自分の携帯から、透に電話を掛けた。


「もしもし、透?」


「なんだ、楓か」


「酷い!心配してかけたのに!」


「ごめん、ごめん」


瑠奈はなかなか戻らず、楓はキョロキョロしながら電話をしている。


「瑠奈と喧嘩した?」


「僕が悪いかな」


「なに?なんかした?」


楓は少し怒気のある声を出していた。


「間接的に………?」


「よくわかんないけど、瑠奈が泣くなんてあんた意外に理由ないからさ。今どこにいるの?」


「寮の前だよ」


瑠奈はもどってきて、目の下が真っ赤に腫れていた。楓は電話をつないだまま瑠奈に声をかけた。


「瑠奈、窓見てみなよ」


瑠奈は立ち上がり、窓の外を見た。門の前で透が立っている。


「瑠奈!そこから聞こえてるんだろ?話をさせてよ」


楓の携帯からも声が聞こえてくる。


「行ったら?透と何があったかとか知らないけどさ、たぶんずっといるよ」


「やだ、行きたくない」


瑠奈はそういうが、しばらく考えた。透の性格上、あの場に居続けることはあり得ることでそれは困る。一息深呼吸してからマスクをつけて部屋から出ていった。瑠奈が寮の前まで来ると、透はほっとした顔をしていた。


「瑠奈、会ってくれないと思った」


「ほんとは会いたくないよ…でもずっといちゃいそうだから…」


瑠奈は困った顔をしていた。マスクと眼鏡で顔を隠していた。


「場所移そう」


「…わかった」


透は瑠奈の手握ってあるきだした。透の寮の前には、男子が集まっていた。日曜日の部活の帰りだろう。


「あれ、透じゃん。瑠奈ちゃんとどっかいくの?」


斗真が部活帰りのすれ違いで声をかけてきた。


「公園!」


そういうと、透は早歩きになった。瑠奈は引っ張られながらついていく。公園につくとベンチに座り透はすぐに話し始めた。


「ごめんね、嫌な思いさせて」


瑠奈は首をふる。マスクで隠れて表情が見えない。


「地元なら共通点あるかなって思ったんだけど、浅はかな考えだったね」


「………いいよ。透くん悪くないし、友達だって悪くないよ。言われて当然な態度とってたのは私だから」


瑠奈はそういって、マスク越しに笑って見せた。しかし、透は悲しそうな顔をしたままだった。瑠奈は透の顔を見て首をかしげた。


「………思ってること言ってくれなくちゃ、付き合ってる意味ないよ」


透はそういうと、瑠奈はうるっと目に涙を溜めていた。持ってきたタオルで眼鏡をとって拭いている。しばらく瑠奈が泣いており落ち着くまで透は待っていた。冬の夕方はもう日も落ちだしている。落ち着くと瑠奈は話し始めた。


「透くんも私のことサイボーグって言って嘲笑ってたんだね。わかってたけど、やっぱりそれが悲しくて。私だって非はいっぱいあるし、透くんもそう思っていて当たり前だよね。」


透は俯いた。確かに中学のときは噂だけで瑠奈のことを判断していた。たまにすれ違う彼女は一人でいることが多く、誰も寄せ付けないような雰囲気だった。だから、噂を信じていた。しかし、高校で出会ったときは全く違う姿だった。


「過去のことは何を言っても取り返しなんかつかないけど、なにも知ろうとしなかった中学の僕はバカだと今は思うよ。本人と会わなくちゃわかんないことなんか沢山あるのに、噂を信じこんでた。ごめんね」


透は深く反省していた。瑠奈は首を横に降った。そのまま困った顔をしてどうしていいのかわからない顔をしていた。


「わたしこそ、なんか、、、」


「瑠奈は友達思いで、世話好きで可愛い。数学が苦手なのも可愛い。わかんないって困ってる姿も可愛い。勉強してるときに髪を耳にかける姿も可愛い。弓道部してるときの真剣な顔も可愛い。お好み焼きをひっくり返すのが上手なのも可愛い。ご飯を食べる姿も可愛い。美味しいねって言ってくれるのも可愛い。抱きしめたときに甘い香りがするのも可愛い。キスするときの戸惑った顔も俯いた顔も可愛い。」


透が勢いで言い切った。瑠奈は、困った顔をして戸惑う。透は瑠奈を抱き寄せた。


「もっとあるよ。聞く?」


「いえ、十分です。もう恥ずかしいです」


透の顔が近くなり一気に胸が高鳴る。マスクを外されキスされた。長いキスは初めてでドキドキすると同時に心地よい気持ちになる。離れると瑠奈は恥ずかしすぎて顔を隠した。透は瑠奈の手を掴んで隠していた顔をみていた。


「泣いてる顔だって可愛いから見せてよ。ぜんぶ僕だけのものなんだから」


透は微笑んだ。青い瞳で見られると、瑠奈はやはり顔を手で覆いたくなる気分だった。


「やっぱり恥ずかしいよ」


真っ赤な顔で視線をそらし困った顔をしていた。離れようとしても、透は瑠奈の肩に手を回したままがっちり力をこめてきた。


「っていうか、すんごく気になってるんだけど、信也が瑠奈の初恋?」


透は思い出して不機嫌な顔をしていた。瑠奈は黙って気まずそうに頷いた。


「それムカつく。僕だと思ってたのに」


「若気の至りみたいなものだから」


そう言い訳すると瑠奈の携帯のバイブが鳴った。優衣からの電話だ。瑠奈は立ち上がって電話にでる。


「もしもし」


『瑠奈ちゃん!どこにいるの?皆泣いてたって心配してるよ?喧嘩したの?』


「あ、大丈……」


透がまた瑠奈にキスをした。瑠奈は携帯を落として驚く。


「瑠奈ちゃん?瑠奈ちゃん?」


優衣が何回も瑠奈の名前をよんでいた。クラスのほとんどが大広間に集まっている。


「大丈夫でしょ。話し合えたんじゃないの?」


楓はそういうと、頬杖をついていた。


瑠奈は不意をつれた。キスは透から会うたびにされるが、不意打ちは初めてだった。思考回路が一旦停止する。


「透くんて、慣れてるよね。こういうの」


「慣れてないよ?」


「嘘だよー。女の子の扱い上手だもん」


瑠奈は顔をあげた。やっと、視線が会う。透はくすっと笑っていた。


「父さんにそうやって叩き込まれてきたからだよ、キスだって瑠奈は嫌がらないかなって思いながらしてるよ」


「絶対嘘だよ。だってそんなこと考える前にしてるじゃない」


透はくしゃっと笑っていた。


「そうだけど、それより初恋奪われてショックだからわがまま聞いてよ」


「何?」


「瑠奈からキスして」


瑠奈はうっと困った顔をしたが、意を決して、透の両頬にてを当てる。目を閉じていた。ぐいっと顔を引っ張り、キスをするが、唇が合わない。透はいつも的確で凄いと感心してしまった。瑠奈の下唇は透の上唇に当たっていた。透はいきなりの瑠奈の行動に驚いたが、顔をずらして口を合わせていた。

ちょうど、そこに心配して探しに来た優衣と楓がきて、鉢合わせた。瑠奈は透から離れると、二人の方に振り返った。


「!!」


言葉にならない叫びを挙げていた。


「へー、瑠奈、だいたん」


楓は冷やかすようにそう言った。


「瑠奈からのキス初めてだ」


透は感動してじーんと鑑賞に浸っていた。優衣は寮に帰ろうと声をかけた。公園から出ていくときに、楓は呆れたように言った。


「透、感動しすぎじゃない?」


「瑠奈からしてくれることないから」


「じゃあ、次は一年後か」


「そっか。一年後ね」


瑠奈は納得したようにそういった。


「え、やだよ。せめてイベントごとにしてよ。もうすぐクリスマスなんだから」


透は軽くショックを受けていた。瑠奈はくすっと笑ったまま透と自然にてを繋いでいた。




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