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楓と湊 2話



練習試合で湊と友達になった楓だったが、この2カ月でだいぶ仲良くなった。

趣味が同じで、お互いがさばさばしているので話しやすい。

聖輪が体育館を貸してくれるとき、週に1度だけ半分ずつを使うことがある。

そのときも、よく休憩中や部活の終わりに話していた。

同級生、先輩、後輩、クラスメイト、みんなに問い詰められたが、

『ただの友達』でしかないときっぱり言っていた。



「楓ちゃん、本当に友達なの?」


お昼、食堂で優衣と一緒にお昼を食べていると、いきなり質問された。

優衣からのその質問はもう何百回目なんだろうか。

楓は飽き飽きしていた。皆おんなじことをいう。湊に近づきたい、興味がある、そんなのごまんといる。

確かに皆が近づけるような人じゃない。

どんなに人に紛れていてもすぐに見つけられる綺麗な雰囲気だし部活のあとも、男の汗臭さはない。

それに、性格も男らしい。優しさも持っている。

楓がどんどん仲良くなるのを見ていて、楓は皆に注目されていた。

しかし、妬まれることはなかった。さばさばした性格とこの顔なら大丈夫だと思われているんだろう。

そりゃ、この学校の皆は顔が良い子ばっかりだ。なんでこんなに美人が多いんだ?!と思うくらいに、多い。

湊には美人が良く似合うだろうし、納得する。楓は、同じ言葉に我慢が爆発した。


「もー!!本当に友達!奥出くんの好きなタイプ知ってる?

今までの元カノの顔知ってる?みーんな綺麗で可愛いし、綺麗好きが好みですよ!」


楓は、そう言いながらコロッケを頬張った。

トレイの中は、ぐちゃぐちゃで、なぜこうなるのか優衣には理解できないくらいだ。

制服もだらしなくシャツが出ていることもあるし、面倒なことは嫌いで、タオルももたず、シャツもかえるのは1か月に1回。

部屋も汚く、どこに何があるのかわからない。虫がわくと言って、同室の小春にいつも説教される。

でも、そんな楓だから、たとえゴキブリがでても、自分の持っている雑誌を丸めて叩いて、排除している。

男らしい性格をしているのだ。身長も高いほうなので、頼りにされるのだ。

優衣はとなりでちまちまと食べている。楓はもう食べ終わるころだ。


「でも、楓ちゃんは奥出くん好きじゃないの?

練習試合だってずっと奥出くんばっかり見てたし、気になってたんじゃないの?」


「そんな恋愛漫画的乙女な発想はあたしにはないよ!!あの『気になった』はバスケットマンとしてだ。」


楓は絶対に嘘をいわない。優衣は、がっかりしていた。

湊がどう思っているかも自分にはわからないが、楓は絶対に好きだと思っていた。

しかし、この楓を見ていると、とてもとても、恋をしている女の子には見えない。

やさぐれているというのが一番合っているだろう。


「他の子にとられちゃうよ?」


優衣はあきれ顔でそういうが、楓は平気な顔をする。

優衣が全部食べ終わると、楓は自分のトレイに優衣のぶんの器を移した。


「とれとれ!とっちまえ!争奪戦だー!」


楓はそういう言いながら立ち上がり、返却口にトレイを返した。

言い方はいかにも楓らしい。優衣は困った顔をしていた。



今日は、会う約束をしている。友達になってから、ずぼらな楓はメールや電話にも基本的に出ないので、たまにメールをするくらいだった。

部活で週に1回必ずあうのでそれで話して会う約束をしたり、一緒に話したりしていた。

湊も楓と同じように凄くずぼらで、部屋は破壊級の汚さらしい。片せないんじゃなく、片す気がしなくなると言っていた。

女の子が知りたがるようなことは知らない。でも、バスケの上手さもしっている。本当に上手なのだ。あんな風に動きたいとあこがれる。

一緒に対戦することが、一番楽しかった。楓にとって湊は、バスケの出来る男の友達の一人なのだ。

放課後になり、楓は聖輪高校の前で湊を待っていた。いろんな男の子目当てで他の学校からも自分の学校からも女子が集まる。

そういえば、もう1つ知っていることがあった。清蓮に彼女がいたといっていた。


「うーん、やっぱ多いなぁ」


楓は圧倒されるというよりも、関心していた。みんなよくやるなぁと

。わざわざこんなに集ってまで男をみたいんだろうか。

カッコイイだろうけれど、そこまでしたいとは思わなかった。

湊もカッコイイけれど、バスケの上手さが際立っていたから、それがうらやましかっただけだった。

でも、本当に綺麗な顔だし、良い香りがしてくるし、おかしいとおもった。この人は男の子なんだろうかと、本当に考える。

自分はもっと男らしい人が好きだ。湊はただの友達だ。

きっと湊も自分のことを友達くらいにしか思ってないはずだ。

女子の黄色い声が聞こえてきて、湊を見つける。


「あ、楓」


先に湊が楓に声をかけた。湊はにこっと爽やかに笑って、楓のもとに向かった。

本当にカッコイイ人だなと楓は思った。だいたい、こんなにカッコイイ人いていいんだろうか。

これでナルシストじゃないし、サバサバしてるしそりゃモテないわけない。

女子のブーイングが聞こえてくる。


「えー、誰あの女!!」


「顔ふつーじゃん」


「うわっ、シャツがスカートから出てる!だっさー」


「っつか、うちらの湊くんにつきまとってるだけじゃん?」


楓は、怒った顔をしなかった。自然な顔をしていた。


「あんたらも、つきまとってんじゃん。奥出くんが嫌がるよーなことするのはやめなよ?

ちょこっとだけあたしが走馬灯を見せちゃうかもしんないよ?!ま、あたしがウザいならいくらでも言え!」


楓はそういうと、すっきりした顔をして歩きだした。湊は、くすっと笑いだした。

楓は、はっと気がついて、スカートの中にシャツを入れた。そして振り返った。


「シャツ指摘してくれた人だけ、ありがとねー!」


楓の隣を歩きながら、湊は笑っていた。


「ははっ、楓ってホントに面白いヤツだよな」


楓は湊の顔を見ずに答えた。顔を見ながら答えると、首が疲れるのだ。


「そうかな?普通だよ。人よりちょっとずぼらなだけだよ」


「だいぶの間違いだろ?でも、ありがとう。そろそろウザいっていうとこだったし」


「で、今日呼び出した用件は?」


「あ、中学のやつらにお前のこと話したら、会いたいって言われたんだよ」


にこっと、湊は笑った。こういう笑い方をするのが、湊の癖だ。

こんな人と友達になったのは、とんでもないことだ。自慢すべきことだろう。


「おにいさん、それ今日が初耳ですよ」


楓はそういうと、湊はあははと笑いながら、どんどん進んでいく。いつも集まる場所があるらしい。


「だって、言ってねーもん」


湊はお好み焼きの店の前につくと立ち止まった。中に入ると、男女5人がいた。

どこ人も、オーラが輝いている。眩しい。流石湊の友達だ。


「あ、来た!」


湊は「よう!」と挨拶しながら、みんなが座ってる隣りに座った。


「この子誰?」


髪の長い女の子が、湊に話しかける。


「前話した。楓」


「あ!面白い子か!」


「どーも、神山楓です」


楓は湊の向かい側に座った。湊が頼んで、来るのを待つ。友達はそのテーブルで盛り上がっていて、湊も入っている

。紹介するって連れて来たくせに、初対面でそこまで話すことも出来ないのに、と少しイライラしていた。

『この仲良し6人に自分だけ入るわけないだろう。こんな頭もよく、顔も良いみたいな人達に!!』と心のなかで叫んでいた。

注文したものが来たので、黙ってもくもくと焼く。

焼き終わると、さりげなく湊のさらによそった。湊は前に出されたものを自然に食べる。豪快なのに綺麗に見える。

あー、本当に友達なんだなと思う瞬間だった。気を使われてない。気を使っていたら、話に加えさせるだろう。

楓は話に加われないので、いろいろ考えていた。

あの人だったら、こういうときいつも輪に入れてくれたな。

あの人だったら、いつも自分を女の子として見てくれた。

あの人だったら、湊なんかよりバスケだって上手で、

あの人だったら、どんな男の子より男らしい

ただのバカじゃないか。こんなこと考えていると心が痛くなる。

それに恋愛なんて面倒くさい。恋愛なんて切ないだけだ。

もう恋はしないって決めたのだ。あの日から…

メール毎日?電話毎日?週に1回デート?ありえなさすぎる。そんなに会いたいと思うような相手、もういない。

そうこう考えていると、2枚目を焼き終わっていた。

女の子の中で1人だけ見たことがある顔の子がいた。楓は、自分で大きく口を開けて食べながら考えて、思い出した。


「あっ、奥出くんの彼女だ!!」


皆の視線を集めた。楓は1口を大きく食す。


「ショートカットの子、プリクラにいたよね」


飲み込んでからそう言った。今までの彼女とのプリクラを見せてもらったときにいた。

あのときの衝撃は凄かった。なんだ、こいつら、こんな美少女いてたまるか!というところばっかりだった。


「あ、理恵?」


湊も1口が大きい。食べながらそう言った。ショートカットの女の子は、いかにも特Aランクの美女だ。


「あ、もう友達だよ!」


その子は取り繕った。楓はほーと言った。理解した感じだった。2口目を頬張る。


「楓ちゃんて、もしかして湊が好きなんじゃない?」


その子に言われて、楓はふっと笑った。もう嫌だ。我慢も限界だ。ほっとかれたあげくにこの仕打ちか。

好きなんて…、好きなんて…


「…ふっ…ふふふふふ…」


楓は不気味に笑いだした。そして、両手をバーンと勢いよくついて立ち上がる。


「あり得ない!!!なんで湊を好きにならなくちゃいけないの?!なんで皆、勝手にきめつけるの?

湊は特Aレベルの超良い男だろうけど、私はただの友達なのよ!!私だって湊はただの友達なの!!

特AとCレベルで釣り合おうなんて思ってない!!っつーか、ほんと、意味分かんない!!

湊とあたしよ?!」


楓は湊を指差した。溜め込むなんて気持ち悪い。全部吐きだしてしまいたい。


「常識的にありえないでしょ!?っつーか、あたしの辞書に恋愛って文字はないんだよ!!

少女マンガのキャラみたいに、『奥出くんいま何してるのかなー?』 『今日も会えるかなー?』

なんつー1日それしか考えられねーのか!?みたいな馬鹿馬鹿しいことするより、友達と遊んで、バスケする普通の生活のが何十倍もマシだ!!

恋なんてするもんじゃないの!!したくないの!!!もうしないって決めたのよ!!」


楓は全部言い切ると涙をためていた。しかし、空気はだんだん悪くなった。湊は楓の顔をみていた。切なそうな顔をしている。

なんでそんな顔をするのだろう?湊の気持ちだって、代弁したはずなのに…。楓は居づらくなり、1000円を置いてお店から出て行く。


「…わー、やっちゃった…。ヤバい」


しかし、イライラした。特に湊にだ。紹介すると言ってたった一言だったし、後は放っておくだけだった。

そんなの、友達のすることじゃない。特Aなんて称号だけで、大した男じゃない。

でも、久しぶりにあった友達と話の花を咲かせるのなんて、当たり前なのだから、湊がわるいわけじゃない。


「楓!」


スタスタ歩いているはずだったのに、あっという間に追いつかれていた。

ちょうどお好み焼きから寮まで半分くらいのところだ。

住宅地でちょこちょこお店がある。その1角だった。


「あれ、奥出くん?」


楓は、もう気分が晴れていた。どうでも良くなった。湊はごめんと頭を下げた。楓は、驚いた。わざわざくることもないのに…。


「ごめん、俺、昔から気ぃきかないんだ。皆初対面なのにそうそう話せないよな」


申し訳なさそうにそう言われて、くすっと笑ってしまった。気が利かないけど、しっかりしてるとこはしっかりしてるのは、湊の長所だ。


「いや、あたしこそ…なんか失礼なことばっかいってごめん…」


「そんなことねーよ。でもムカついた。友達友達って」


湊は怒ったように言った。友達を友達といって、何が悪いのだろう?


「だって友達じゃん?」


「ま、いっか。それでいいよ」


楓は嬉しそうににこっと笑った。湊は不貞腐れた顔をしていた。

悪いことを言っただろうか?楓は思い当たる節もなかった。


「違う!いや…いいや」


湊は自分でそう言って赤くなった。楓はきょとんとしていた。

湊は顔を赤くしてる、その顔もかっこいい。


「あたし、奥出くんは友達として好きだよ。ね、奥出くんもそうでしょ?」


楓は自分の思ったことを口に出していた。湊は、曖昧な顔をしていた。

楓はえっ?と思うような表情だった。自分を見る顔が、いつもと違う。


「今はいいよ…それでいい。」


楓は、はてなマークを浮かべ、首をかしげる。


「っつか、口にソースついてるし」


湊は笑ってみせ、右手の親指で楓にソースがついている口を拭った。楓は顔を赤くしながらありがとうと言った。

腕で、口をこする。湊は、そんな楓を見て、頭をなでていた。



「じゃあな」


湊は先に帰って行ってしまった。楓は頭をかしげる。


「……奥出くん、どうしたのかな?」


湊の表情が、頭に焼きつく。あんなに切ない顔、なんでしたのだろう。

あんなに格好良い湊は、またすぐに綺麗な彼女が出来るはずだ。

見た表情はたぶん違う。大丈夫。それに、自分には忘れられない人がいる。

楓は、首をふってすぐに顔つきをきっと戻し、寮に帰って行った。


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